第354話色々と面白い物が見れた
「ふっ!」
短い呼気を吐きながら澪が腕を振るうと、その軌跡を追うように空中に氷柱が生まれ、モンスターへと発射される。
「ガァァアァ!」
その隙を突き背後から迫った熊のモンスターが、その何者をも両断する剛爪で澪の背を狙う。
しかし、それを確りと察知していた澪は、その場で後ろへと跳躍してモンスターの頭上を飛び越えながら、巨大な氷塊を作り真上からモンスターを叩き潰す。
更に着地と同時に地面に手を付き自分を中心に、円形に外に向かって鋭く尖る氷柱を生み出し、着地の隙を狙っていたモンスターの群れを一気に殲滅した。
急所を狙い非情に命を刈り取る事を目的とした攻撃は、多少のレベル、ステータスの差を覆して一撃でモンスターを駆逐する。
(さて、向こうも粗方片付いたようだな)
澪の見る先では先程まで続いていたそれぞれの強敵との戦いが終わり、溢れ出て来たモンスターの掃討に移っている。
油断出来るレベルの相手ではないが、逆に言えば何事も無く、油断さえしなければ問題無く掃討は完了するだろうというのが澪の見立てだった。
(しかし……色々と面白い物が見れた)
戦いながらも全員の戦闘を観察していた澪は、思った以上の収穫に満足しながら戦闘を続ける。
アリシアの魔法攻撃力、新しい力に目覚めたエレオノの物理攻撃力、前回はじっくりと観察出来なかったコロの魔剣や、シィー、ミルリル、リコリス、リリーネの戦闘力にエルザの指揮能力。
目を見張る物は数多くあったがその中でもヘル、アクア、そして何よりクーの力は澪の予想を超えたものだった。
「ハッ!」
ゴリラのようなモンスターの一撃を避けると同時に、攻撃直後の伸び切った腕を肘で狙い叩き折ると、続け様に側頭部ヘ回し蹴りを叩き込み首の骨を折る。
(ヘルとアクア。この二人は攻撃力の問題があったが二人とも白亜の作った物で補えている)
澪の考える通り、アクア自体に攻撃力はあまり無いが、弓が光属性に特化している為に対モンスターへの攻撃力は跳ね上がっている。
ヘルにしても、ジェット式の飛行機具から翼型へと変わった事で、旋回性能、加速等は驚く程に上がっていた。
更に前回の戦闘で一度大破したパイルバンカーは、ハクアの執念でその性能をより高め復活し、威力を軽減する事で隙を減らして戦闘継続能力を増やし、近接戦闘におけるヘルの攻撃力を飛躍的に高めている。
(前回のように一度の使用で壊れる事も無いようだし、ネタ武器だと思っていたが、確かに実現可能な武器になったのならあの攻撃力は有用だな)
そして何よりもクーの不死の王としての力だ。
アイギス達に聞いた不死の王の話。
それに登場する黒い液体。
──曰くそれは全てを侵食する悪意。
──曰く無限の軍勢を生み出す絶望。
──曰くそれこそが不死の王たらしめる力の根源。
その力を一端とはいえ見れたのは大きな収穫だったと澪は考えている。
無限……ではないがあの液体に侵食された死体は、液体で強化され黒い姿になって現れる。
更に言えばあの液体は、下位アンデットの作成でも同じように強化個体を生み出せると推測していた。
(まあ、詳しい検証は白亜を煽ってやらせればいいか。ある程度満足するまで好きにやらせてから結果だけを吐き出させれば、その辺の奴にやらせるよりも精度の高い情報をまとめて吐き出してくるだろうからな)
「……どうした瑠璃?」
(まあ、どうしたも何もこの状況で私に言いたい事なんて白亜関連だろうがな)
考え事をしながら戦い続けていた澪は、いつの間にか近付き不満気な顔で自分を見詰める瑠璃に、原因が分かっていながら素知らぬ顔で問い掛ける。
「む~、みーちゃん。私早くハーちゃん迎えに行きたいんですけど……」
「分かってるぞ。だからこうして急いでるんだろ?」
とぼけてそんな事を言うと瑠璃は更に頬を膨らませジトーと睨んでくる。
瑠璃の言いたい事はもちろん澪も理解している。それは澪がこの戦闘全体をコントロールしているからだ。
エレオノには斬撃の効きにくいスケルトン。
アリシアには炎攻撃が有効だが、全てを魔法で片付ければMPが無くなる程のゾンビ。
ヘルとアクアには過去に苦戦したガーゴイルと、それぞれ一筋縄では行かないように楽に勝てない相手をぶつけている。
もちろんクー達他のメンバーも同様に、訓練になるよう敵の種別、量を調整してモンスターを流していた。
「……気が付いてないと思ってるんですか?」
「いや、ここまで露骨でお前が分からない筈は無いな」
「もう!」
その愛らしい顔でプクーと頬を膨らませながら文句を言う瑠璃は、襲ってきたゴーレムの攻撃を避けながら懐に入り込み、胸の中央に自身の手を添え思い切り踏み込む。
すると、どこからそんなパワーが出たのかと思うほどの轟音を立て、ゴーレムはたった一撃で胸の中央を吹き飛ばされた。
瑠璃は続けて、隙を突き襲おうとして来たヒュージスライムへと、何の変哲もない掌打を放つ。
しかしそれを受けたヒュージスライムは、打撃が効かない筈にもかかわらず、核を破壊され溶けたアイスのようにその形を崩された。
(ふむ。やはりこの程度ではコイツの訓練相手にならんな)
ゴーレムとスライム。
本来なら打撃の通じにくいモンスターを瑠璃にぶつけてはいるが、気を使った柔拳を得意とする瑠璃には全くと言っていい程相手にならない。
硬い身体や、軟体の外皮を抜けて気を打ち込み、身体を一切傷付ける事無く核を破壊している。
(元々気の扱いは天才的だったが、レベルやスキルのお陰で更に磨きががかったな)
「まあそう怒るな。元々数は多いしそんなに時間は変わらないだろっ、と!」
「それはそうですけど……。私は一秒でも早くハーちゃん迎えに行きたいんっ、です!」
襲い来るモンスターをものともせず、世間話でもするように会話をしながら次々にモンスターを倒していく二人。
一見すると無防備に見えるが、その実常に周りの事を完璧に把握している二人に、モンスターは襲いかかる端から倒されていく。
「っと、そら。やっと客が来たぞ」
「むっ、みーちゃんあの人私に任せるつもりですか」
二人が見る先には、端正な顔を真っ赤に染め、今にも怒りが爆発しそうな顔で二人を睨む執事風の男。ガダルの従者をしているグリヒストが立っていた。
「ああ、私がやっても良いが、お前もこっちでの戦いに早く慣れたいだろ。それに……」
「それに?」
「あれは白亜を拐った奴らの一味だぞ」
「……みーちゃん。私、ヤル気出てきました♪」
(……それ、殺る気の間違いじゃないか?)
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