第115話「別に睨んで何か無いやい!」

 ハクアとの勝負に敗れ、危うい所でカリグの人間に助けられた柏木 政人は、現在「カリグに連絡を取る」と言っていた男達と離れ、一人森の中で怨嗟の言葉を吐き出していた。


「ハァハァハァ……クッ! 畜生……畜生!! ふざけやがってあの女ども! クソっ! クソっ! あの女……良くも俺の腕……絶対に……絶対に許さなねー。士道……白亜……あの女だけは殺してくれと言われても殺さずに、一生俺の物として犯してやる!」


 無くなった腕の肩口を押え力を込める政人。当然体は痛みを訴えるがその痛みが更に政人のハクアに対する怒りを燃え上がらせる。


「クソっ! そうだ。あいつらだ! あの士道 白亜と一緒に居た女共。そうだ。あいつらと神城 結衣をあいつの目の前で……そうだ。それが良い! 俺を馬鹿にした罪を償わせて、その上、士道 白亜のプライドもへし折れる! しかも、俺も楽しめれば一石二鳥じゃん。ははっ! そうだ。そうだよ。それが良い! あははははは!」


 ガサッ!


 後ろからの物音に全身を強ばらせ振り返る政人、そこに居たのは名は知らないが自分を助け出した内の一人の男だった。


「チッ……お前かよ。連絡はついたんだろうな! そもそもがお前達が俺をこんな所まで連れて来なければ、こんな……こんな事にはならなかったんだ! その事を理解しておけよ」


 政人はそう言い放ち男に背を向ける。


 そもそも今回この男達に政人を連れて行く予定は無かった。

 しかし、政人は何処から聞き付けたのか、結衣の討伐に自ら同行を申し出た。それを許可して同行を認めたのは、カリグ側にもメリットは有ったからと言うだけの事だった。


 しかし政人はカリグを出ると「わざわざ着いて来てやった」「お前達が俺に頼んだ」等と言って、行く先々の町などで問題を起こした。それは、聖国を謳うカリグとしては面倒以上の厄介な事だった。


「チッ本当に使えねぇな。そもそもお前達がもっと早く来れば、今頃あの女どもは全員俺の物になってた。それに、この腕だってこんな事にはならなかったんだ。あぁ、そうだ。全部お前達のせいだ! 分かってんのかよ! 良いか、次は俺の考えの通りに動けよ。そしたら、俺が飽きた女くらい気が向いたら回してやるよ。分かったかグズども」


 男に背を向けたまま男達やハクア達に延々怨嗟の言葉を吐き出し続ける政人。しかし、罵倒されなじられる男は何も言わず、ゆっくりと音をたてる事無く政人に近付いて行く。


 ──そして、政人が自身に覆い被さる影に気が付き、後ろを振り返る寸前。


「……安心しろ。お前にはもう次は無い」

「あぁ……? グッ! ガァッ! なっ、なにしやがっ! アガッアッ! な……ん……で……なんで……だよ……」

「……お前の役目は終わった。あの小娘を殺せなかった時点でお前はこうなる事が決まっていた」

「お、おでは、ゆうじゃ……だぞ。フザゲッ! やめ、ヤメッ──謝どぅ……謝るがらぁイギャア!」


 政人に声を掛けた男は政人が振り返る前にその背へ向かって短刀を降り下ろす。

 自分が手下だと思っていた人間から攻撃される等とは露ほども思っていなかった政人は、何も抵抗する事も出来ず短刀に貫かれてしまう。

 それでも勇者として召喚され、一方的な戦闘で上がったレベルが政人に安らかな死を許す事ない。

 そんな事を仕出かした男に自分が何をした。と、問い質し掴み掛かろうとしたその時、更に周りから別の手下が政人に襲い掛かり次々に短刀に貫かれる。


 ──そして、目の前の男の目が何の感情も映す事無く自分を殺す。そう感じた政人が許しを乞うた瞬間、目の前の男が大振りの剣を構え政人の頭に向かって剣を無情にも降り下ろした。


「任務完了。標的Aはしくじったが、代わりの勇者は始末した」


 降りだした雨を気にする事も無く目の前の鏡の様な物に淡々と政人の殺害を報告する男。

 マジックアイテム天竜の瞳、天龍から採集出来るアイテムで対になる瞳を使い通信機の様に会話が出来るアイテム。

 それを使い、男は当然の事の様に政人の死体を眺めながら言った。


「ご苦労、死体を回収し直ちに帰還しろ。もう一人の方は今は必要ない。一つ在れば十分との事だ」

「はっ! それともう一つ報告が……」

「……手短に話せ」

「また、例の白い少女が現れました。今回標的Aの処理に失敗したのは、その白い少女が横槍を入れこの勇者に手傷を負わせた為です」

「……またか。分かった。詳しい報告は帰還後に聞く」

「了解しました」


 会話を終え天竜の瞳を仕舞う。その頃には政人の死体は他の仲間により、何の痕跡も無く片付けられていた。


「行くぞ」


 男達はそのまま暗い森の中へと姿を消した。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 その頃ハクア達は結衣とフロストと共に自分達の家へと帰って来ていた。


「グヌヌヌヌ」

「あの? 何故私は彼女に睨まれているのですか?」

「白亜先輩?」

「別に睨んで何か無いやい!」

「すいません。ただの病気です。ハーちゃんちょっと向こう行ってよ?」


 そう言って瑠璃とアリシア、エレオノに部屋の隅まで連れて行かれるハクア。代わりにフロスト達へはコロとクーが対応する。


「ほーらハーちゃん落ち着いて、どーどー」

「そうですよご主人様。大丈夫ですから落ち着いて下さい」

「と、言うかもうどうにもならないんだから」

「私は至って正常だい!」

「「「全然」」」


 その後もハクアの機嫌はなかなか治らず、結局まともな話しは夜まで出来なかった。


「私は怒っても無いし不貞腐れても無いやい!」

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