第114話「……ハーちゃん、口から魂が出てるよ」

 私、事エレオノは今現在物凄く困っていた。その理由が私の目の前にいる大切な仲間であり友達でもあるこのハクアだ。


 それは少し前の事。

 ハクア達と別れもう一方の戦闘場所に行った私達は、そこで敵と戦闘になりその敵を逃がしてしまった。そして、その後を追ってハクア達の元に辿り着いた時に事件は起こった。起こってしまった。

 ボロボロになった皆を見付け、それでも誰も大事には至っていなかった事に安堵した瞬間、ハクアの側に居たユイと私達と一緒に居たフロストが互いに駆け寄り抱き締め合う。


 そして──。


 おぉ、大胆。……そしてハクアが固まってる。やっぱりショック大きかったのかな?


 私がそう思いながらハクアの顔を覗いてみると──。


 うわっ! 完全に目が死んでる!? だ、ダメかも知れない。


 私が顔を覗いているのに気が付いたのか、ハクアは私の方に向き直り語り掛けてくる。


「え、エレオノ? な、何が、どうなってる……の?」


 えっ? 泣くの!? まだ泣いてはいないけど、目に涙が溜まってて今にも泣きそうなんですけど!? しかも何か足にも来てる!? 生まれたての動物みたいになってるよ!? そこまでショック大きかったの。って言うか、ハクアって魔族と戦って死にそうな怪我とかしても泣いた事無いよね!?


 そして私は抱き合う二人を他所に、近付いて来たアリシア達と一緒にハクアを慰めながら、別れてからの事を話し始めるのだった。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 ハクア達と別れたエレオノ達は、ヘルが確認した結衣がいる場所とは離れた地点で起こっている戦闘場所へと急いでいた。


「音が……」

「これは……金属がぶつかり合う音……かな?」

「うむ、近いのじゃ。ここからは気配を消して行くのじゃ」


 ハクアの指示で暫定的に自分達のリーダーになったクーに従い、気配を消して戦闘場所へと急ぐ。


「──」

「──だ!」

「────」

「──い!」


 近付くにつれ複数人の言い合いが聞こえてくる。


「あれは、ユイと一緒に居た男達じゃな?」

「仲間割れゴブ?」

「それ以外にも何人か居るみたいかな」

「うん。何よりフロスト一人を大勢で囲ってる」


(状況がよくわからないな? ハクアだったら分かるかも知れないけど、私じゃ分かんないや)


 エレオノ達は小声で話しながら、気付かれずに済むギリギリまで近付いて会話を盗み聞こうとする。その時フロストが周りの人間に向い声を荒らげる。


「何故だ! 何故こんな事を!?」

「まだ分からないか? 此れこそがカリグの意思だ」

「まさか……初めからそのつもりだったのか?」

「そうだ。あの娘を殺す事が我等の本当の任務」


 フロストを取り囲む人間達の一人がそう言葉を発した瞬間、全員が飛び出しそうになる所をクーが止める。


「クー! 何で!?」

「あまり声を荒らげるな。気付かれる。少し落ち着くのじゃ」

「待ってたら殺られるゴブ」

「確かにそうじゃが、ここで奴が裏切らんとも言えんじゃろ? 飛び出すのは返事を聞いてからじゃ。それに我達は光属性の攻撃に弱い。そして奴等は教会側の人間、光属性は得意じゃろ」


 クーの言葉を聞き全員しぶしぶ納得する。そしてその間も言い合いは続き──。


「フロスト。お前も此方側に着け。今ならばまだ間に合う」


 ──と、結衣やフロストと共にパーティーを組んでいた神経質そうな男セイムがフロストを改めて仲間に誘う。するとフロストは全く考える素振りさえも見せずに──。


「ふざけるな! 私の使命は勇者を……いや、ユイを助ける事だ!」

「くっ! あの小娘に絆されたか!!」

「何とでも、言うが良い! だが私は例えこの命を失う事になろうともユイの事を守ってみせる!」

「なら良い。お前達もうこいつに用は無いころっ──ゴポっ!」


 殺せ! そう言おうとしたセイムがその言葉を発する事は無かった。

 何故ならフロスト達の会話を聞きながら、タイミングを計っていたクーがダークパイルを遠隔で地面から突き出させ、セイムの心臓を一突きにした為だ。

 クーの攻撃魔法は普通ならセイムに対してダメージはさほど通らないが、ハクアの様にダークパイルの形態を変化させ、螺旋状にする事で貫通力を高めた。そしてセイムも全く無警戒のだった為に心臓を貫かれる結果となったのだった。


 その攻撃でセイムは死にそれと同時にエレオノ達が一斉に飛び出し奇襲を掛ける。


 まず、コロとエレオノがフロストに近い人間に斬り掛かる。

 しかし流石と言うべきか、完全に虚を突いた攻撃もコロは避けられエレオノは浅く傷付ける程度に留まる。

 ──だが、二人の攻撃を避け後ろに跳んだ男達をクーのダークボールとアクアのゲイルスラッシュが襲い掛かる。


「セイクリッドウォール」


 しかし二人の攻撃は男達の一人の防御魔法で防がれてしまう。──が、その時にはもうクー達はフロストの側に集まり陣形を整えていた。


「君達は?」

「ハクアの仲間じゃ。そして、ハクアの命令でお主を助ける。それと、ユイの方にはハクア達が救援に行っているから安心するのじゃ」

「ユイも無事なのか!?」

「今の所は……じゃがな

「救援に感謝します」

「うむ。こ奴等をさっさと片付けて向こうに合流するのじゃ」

「そうですね」


 そう言って立ち上がるとフロストは音も無く先程コロの攻撃を避けた男に近付き、手に持つ剣で首を切り落とす。


(コヤツやはり強い。主様が警戒していたのも分かるのじゃ。この強さでこの辺りの魔物に後れを取るなど怪しまれて当然じゃな)


 クーはそう思いながら、フロストと協力すれば予想より早くハクア達の元に行けると考える。しかし、フロストとエレオノ達が協力して目の前の一団を相手にしようとした時、猛烈な寒気と共に辺りの空気が変わった。


「な、何これ!?」

「わからんのじゃ! 全員警戒を怠るな!」

「アレ何? ゴブ」


 アクアの言葉にそこに居た全員がアクアの見ている物を見る。そこには、ハクア達が向かった方角に先程まで無かった筈の巨大なドーム状の黒い半球体が現れていた。


(アレは何じゃ? 我も見た事が無い物じゃ。術式と言うにはあまりにも異質過ぎる)


「アレはまさか」

「知ってるのフロスト?」


 と、何かを知っていそうなフロストにエレオノが語りかけた瞬間、全員の注意が散漫になった隙を突き、男達がドームに向かって走り去る。


「しまった。全員警戒をしながら追い掛けるのじゃ!」


 こうして、エレオノ達は不本意な結果でハクア達の元に向かう事になったのだった。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「と、言うことがあって此処に来たのじゃ。それと道中にアレが勇者のギフトだとも聞いたのじゃ」

「……そうか~」

「主様? ちゃんと聞いとるか?」

「聞いてる。聞いてる」

「クー、駄目だよ。ハクア完全に魂抜けてる」


 だってそんなん、皆が無事で此処に居るならどうでも良いんだもん。それよりもアレだよ! 未だに向こうで二人の世界作ってる奴等だよ!? 何なの? 世界の中心なの? 愛とか叫んじゃうの!? 誰か混乱してる私を助けて下さい!


「ハクア、見てたって何も変わらないよ。それにほら、ハクアにはルリちゃんやアリシアも居るし……ね?」

「それはそれ! これはこれ! なのですよ!!」

「ハーちゃん?」

「ご主人様?」

「はっ!」


 しまった。ああ、笑顔が、笑顔が凄く怖い!? クソ~、それもこれも全部フロストのせいだ! あのロリコンめ! でも確か結衣ちゃんが二十二歳とか言ってたからそんなでもないのか? うう~、それでも納得いかん!


 私はやりきれない思いを抱えつつ、それでも納得する事は幾つか有った。


 一つは最初結衣ちゃんと会った時に結衣ちゃんがはぐれる切っ掛けとなった依頼の事だ。

 やはり私が思った通りフロストの実力があれば苦でも無かっただろう。

 だが恐らくは他の二人が意図的にフロストの邪魔をしたとなれば話しは別だ。


 そして二つ目は二人の行動だ。

 フロストが最初私達を紹介された時、こちらを睨んでいるように見えたのは私達が教会の手の者だと思ったのだろう。そしてその後の警戒も恐らく同じ理由から何だろう。

 更に言えば、私がフロスト達の事を結衣ちゃんにそれと無く警戒する様に促した時に、結衣ちゃんがわりと強目に反発したのは……認めたくない。認めたくないはが、あんな恋人状態の人間を悪く言われたからなのだろう。


「……ハーちゃん、口から魂が出てるよ」


 おっと、認めたくない現実につい意識が。って言うか、思い出したけどこの間「心配?」って聞いた時に「少し寂しいです」って返したのは、アレだよね? 意味深な事じゃ無いよね? 一人寝がとかじゃ無いですよね!? そこまでは流石に許しませんよ!?


 そんな事を思いながら、何時までも此処に居るわけにもいかずとりあえず私達の家へと全員で帰るのだった。


 チクショー。

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