第276話「……私は無実だ。弁護士を要求する!」

 アイギス達が訪れる予定日、朝に来ないと思ったら昼少し前にアイギス達が大勢引き連れてやって来た。


「すいません。いきなり来られても飯の用意は出来ません」

「なんでそんなに他人行儀なのよ?」

「安心しろ、飯は食って来たから私達の分は必要無い」


 なら良いや。


「なんだ。取り分減るから威嚇されていただけなのね」


 アイギス達一行は私の仲間全員にアレクトラ、フーリィー、ギルドからエグゼリアまでが一緒に来ていた。恐らくギルドからの監査役だろう。


 そんなアイギス達一行を余所に私は昼飯の味付けを整えるとユエ達に声を掛ける。


 ゴブリンといえど流石モンスター、たった一週間で最初程疲れなくなってきたようだ。その証拠に足取りが初日よりも軽い。


 流石に期間が短い為大きな変化は無いが、数日前 ジュピが物防を下げて敏捷を上げたい。と言って来たのでステータスの割り振りを変えてあげた。

 ユエは平均的に上げつつ少し敏捷を高めにオールラウンダーを目指すようだ。スイ、コン、サンの三匹は魔法いかんで身の振りならぬステータスの振りを考える。と言っていた。


 アスは斧と大盾を使っていたが、斧を使うのを止め大盾を鈍器として武器のようにも使えないか? と相談を受けた。

 普段は大きな手甲のように両手にそれぞれ着けて、防御する時は二つを合わせるようにすると大盾になるとか面白いかも知れない。今回のゴブリン狩りが終わったらコロと色々と考えてあげようと思う。


 うん。面白武器は大好物です!


 そしてユエはなんでも私のようになりたい。と少し照れてしまうような事を言っていた。ちょっと嬉しい。


 自分達で自分の方向性を模索するのは良い事だ。


 因みに変わった事も一つ、何故か途中からユエ達も語尾にアクアのような「ゴブ」が付いたのだ。


 あまりにも突然語尾が付いたからアクアに聞いたら最初からだと真顔で言われた。ユエ達にも聞いたら気のせいだと目を泳がせながら言われた。心とヘルさんを見たら思いっきり顔を逸らされた。


 きっと私が聞こえていなかっただけなのだろう。そうだろう。うん。そうに違いない。アクア以外の皆が滝のようにダラダラと汗を垂らしていたがきっと気の所為なのだろう。

 私がユエ達は語尾に付かないんだ? と言った次の日に突然語尾が付いた気がするが気のせいだ。その前の日の夜にアクアが集合掛けて話していたのも見間違いだろう。ユエ達がたまに語尾を付け忘れて周りが慌てて訂正しているのもきっと気のせいに違いない。


「最初に比べると見れる位にはなったな。……何をやったんだか」とは、澪の言である。


 失礼な奴め。


 エグゼリアを含めた初見のメンバーは皆「肌の色以外は人間と変わらないわね?」と、ユエ達を興味深そうに見ていた。


 さて、そんな彼女達の今後がどうなったのかと思ったら、なんとモデルケースとしてフープに滞在出来る事が決まった。肌が緑色ときうだけなら亜人の一括りで行けるだろうとの判断らしい。


 予定とは違うけどそれも良いか。


 そんなこんなで昼食後、現在私とアクアはユエ達と共にゴブリンの巣の中へと突入、皆はゴブリンの巣の入り口で討ち漏らしがあった場合の時の為に待機して貰った。そんな私の前ではユエ達による最終試験の真っ只中だった。


「フレイ、ジュピは出過ぎ。常に周りの動きを気にして動きな。スイは戦闘の時、慎重過ぎて判断が一瞬遅れてる。ユエは遠慮し過ぎだ。周りの動きは見えてるからもっと動ける筈だよ。アスはフォローのタイミングが遅い。盾で仲間を守りながら動くなら敵と味方全体の動きを予測して攻撃に割り込め。コンとサンは全体が良く見えてるけど、もっと声を出して指示を出せ。この狭い空間での遠距離攻撃は連携が一番の肝だ」


 と、このように度々指示を出しながら捜索している。


 私は口を出すだけなのでスゲー楽です。


 さてさて。そんな探索なんだけど実は結構苦戦中です。何故ならこの巣、ここ最近潰した中ではレベルが高く、ソルジャー等のクラスが度々襲ってくる。その上、ここのボスはホブゴブリンらしいのだ。


 まあ、今の状態だとギリギリかな? 本当に危なくなったら手を出すけどそれまでは口を出すだけで静観する積もりだ。


 因みに私も個人的な検体にゴブリンを五匹程糸で拘束して確保してある。彼らには私の研究の礎になって戴く予定だ。


 そんな探索もようやく終わりを告げた。


 一番奥に辿り着いた私達の前に、過去私達が相手したよりも強いホブゴブリンとソルジャー、ナイトが一匹ずつの計三匹。


 最初にユエとアスの二匹がホブゴブリンの注意を惹き付け相手取る。その間にナイトにスイとサンで戦いを仕掛け、ソルジャーにはフレイ、ジュピ、コンの三人が襲い掛かり一気に倒す。


 その後は五人でナイトを倒し、全員でホブゴブリンを相手にする。ユエが全体的な指示と方針を出し、サンが敵の動きを見ながら細かな指示をその都度与え味方をコントロールする。


 流石にステータスの違いはあれど七人の練度は通常のゴブリンのそれではない。かなりの苦戦を強いられたが、それでもなんとかホブゴブリンの討伐に成功するのだった。

 結果だけを見れば、多数の進化個体とホブゴブリンを相手に誰一人欠ける事無く勝利出来たのだから大成功と言えるものだった。


 アクアがユエ達を治療している所を見ながら一人満足していると、入り口で待機していた皆がやって来る。恐らくヘルさんが終わった事を教えてくれたのだろう。


「終わったようだな」

「うん。ちょうどね」


 治療の終わった皆もこちらに来たので大成功だったと一応褒めておく。しかし釘を刺すのも忘れない。


「まあ、今回は見逃すけどあのナイト。まだ生きてるから今度からちゃんと止め刺すのを忘れないようにね?」


 私の言葉に驚くユエ達。どうやら死んだ振りをしていたのには気が付かなかったらしい。私としてはちょうど良かったから見逃したんだけどね。


「さて、それじゃあちょうど良い検体も居るし少し治してみようか?」

「治すってあのゴブリンを? とてもじゃないけど治療魔法じゃ治せないでしょ? それにハクア。貴女外科治療なんて出来るの?」

「それなら大丈夫だ。脳と心臓以外ならアイツは出来るぞ」

「……貴女達、本当に学生だったの?」

「ま、アイギスの言う通り私の治療魔法じゃどう頑張っても治せないね。まあ、私じゃなくてもアクアレベルじゃないと無理かね。けど、これで治せれば有用性は証明出来る。かなりショッキングな場面になるから見たくない人間は止めときなね。エグゼリアには監査役として見て貰うけど」


 私はこの時の為にスキルポイントで取得しておいた。魔法を用いて場を整え始める。


 えっと、まずはコイツを配下にしてっと。


 まず【契約魔術】を使いナイトを配下にする。次にナイトの体を土魔法で拘束して動けなくした後、周りに【結界】を張り私とナイトを閉じ込める。その後、スキルポイントで取得した魔法クリーンを使い結界内と患部の汚れを落とし衛生を保つ。


 魔法クリーンは、術者が汚れと認識する物を綺麗にするだけの魔法だ。しかしこれを使えば傷口に触れずに消毒した状態に出来る上に空間に使えば感染症も防げる。正に魔法のような魔法なのだ。


 私は次に【特殊毒調合】のスキルを使い。神経毒を作ると麻酔の代わりにする。同時に麻痺毒も飲ませ体の自由も完全に奪い去る。


 これで準備は完了。


「さて、それじゃあ始めるよ? 皆も気持ち悪くなったら離れててね?」


 振り返り注意をすると皆が頷くのを確認して目の前の患者に集中する。


「では、術式を開始します。トリアージ。各部裂傷。左大腿骨骨折。右前腕部複雑骨折。胸から腹部胴体断裂。左肩、右下腿に矢による刺突。尚右下腿内部に矢の残留確認」


 私は状態を確認するとウォーターカッター改めウォーターメスを発動。まず一番酷い腹部の傷から取り掛かる。手は動かしながらも説明は淡々と続けて行く。


「生物は基本的に脳。特に脳幹を破壊されない限り死なない。他のダメージによる物も根幹は同じ脳へのダメージによるもの。この世界は魔法がある為、特にそれが顕著である。尚、魔物の場合はこれに魔石の有無が関わる」


 話しながらも体内に溢れた血を水魔法で安全に取り出し、内蔵の出血箇所を治療魔法で回復。他に傷が無いかを確認した後、新しく取得したスキル【解析】で調べる。


【解析】は【鑑定士】と違い、触れた物の成分や状態を教えてくれるスキルだ。【鑑定士】はレベルやステータス調べたり、名称や使い方を調べるものだからね。


 その後も患部を切開しながら中から治したり、異物の除去、患部の消毒を行いながら手術を進めていく。


「ふう、オペ終了。こんな感じだけどどうだった?」

「本当にあの怪我が治療魔法で治ったのね……これは、本格的に学ばせるべきね。助かる人間が劇的に増えるわよ」

「ええ、アイギス王女の言う通りですね。私は帰り次第ギルド長に報告して治療ギルドと連携を取ります」


 うんうん。概ね良い反応だな。


「ゴブリンはどの個体も人間の子供程の大きさだから、ゴブリンで技術を高めれば成功率は劇的に上がると思うよ」

「それも伝えさせて貰うわ」

「相変わらずハーちゃんの手術は早くて正確ですね」


 まあ、生前VRの手術をやりまくったからね。


「個人的にはその内、四肢欠損した人間の為に移植手術とかも考えたい所だね」

「あてはあるのか?」

「う~ん。取り敢えず今考えてるのは……防腐処理したアンデットの移植かな? クーの話だとアンデットは死体をアンデット化する時に疑似神経を魔力で作って、それを元の神経と繋げる事で動けるようになるらしいから、それを生きてる人間の神経系と繋げれば、感覚は無いけど動かせる義足みたいな物が出来るかも? しかも痛みや感覚は無いから色々便利! やべっ! 少し楽しい♪」

「さらっとマッドな事を話すな!! お前たまに無邪気に残酷だよな!?」

「わ、我の話しだけでなんでそんな事を思い付くのじゃ!?」

「ハーちゃんですからね」

「「「「「あ~~」」」」」


 何だその反応は!? チッ! まあ良い。取り敢えずコイツを起こすか。


 今度は【解毒薬調合】を使い毒の効果を取り除きナイトを起こす。するとナイトは私に向かい急に跪いてきて「ガガギギ」喋り始める。


 うむ。わからん。


「アクア通訳お願い」「ゴブ」


「ググッ! ギキギー! ガガギー」

「お前、強い、従う」


 さて、アクアの通訳で分かった事だがこの巣に居たホブゴブリンはここら一帯の統括のような事をしていたらしい。

 なんでも最近私が潰して回っていた巣のゴブリン達は、私が予想したような溢れた者達ではなく意図してここに拠点を築いたのだそうだ。そしてその情報は普通のゴブリンには伝えられていなかったらしい。

 そして本体には少なくともホブゴブリンを使える立場の奴が複数居るとの事だ。


 流石にナイトではそれ以上の事は知る事が出来る立場ではなかったようだけど、この情報は結構デカイな。


「ガガギー、ガカガ、キギグ、ケゲ」

「従う、力貸す、同族、倒す」

「ガガ、キギギキ、カガガクグー、ギッギッギー」

「でも、報酬、女欲しい、出来るだけ沢山」

「ガガカ、キギギ、ガガ、ガッグギ!?」

「そこのでも、良い、でも、この貧にゅ──」


 アクアによる同時通訳の最中、アクア様の華麗なボディーブローがナイトの腹に炸裂して沈み込む。


「えーと。あ、アクアさん?」

「ごめん。久し振りだから一部分からなかったゴブ」


 とても良い笑みだ。


「き、気にすんない」


 アクアに貧乳言うのはNG。よし覚えておこう。忘れる、ダメ、絶対!!


 さて、やっぱりナイトも性欲が強い事が分かったので確保した五匹を連れてきて、ナイトを含めた六匹の内の五匹だけ能力を弄ってみる。


 確かこの辺のステータスとは違う所に……あっ、あった。あった。


 おっとぉ。なかなか最悪だなこれ?


 繁殖10

 性欲10

 生命8

 免疫5

 知能2

 成長2

 変異2

 特殊能力

【異種強姦】【精力増強】【快楽up】


 繁殖は子孫の残し易さ。性欲はそのまま。生命はしぶとさだね。HPあってもショック死とかもあるし。免疫は高いほど病気やステータス異常に掛かり難くなる。知能もそのまま。成長は高いほどレベルup時のステータスに補正が掛かる。変異は高いほど特殊なスキルや進化をするようになる。


 因みに特殊能力の説明がこちら。


【異種強姦】他種族であろうが孕ませる事が出来る。


【精力増強】衰える事が無く、同時に種は栄養源にもなる。


【快楽up】相手の性感を高める。


「正にゴブリンと言う感じですね」

「……うん」


 アリシアさん、エレオノさん顔怖いっす。


 取り敢えずこのスキルを全部オフにして、え~と。全部十段階だから性欲と繁殖が十か。これを全部一にしてその分を知能と成長にでも振っておくか。コイツ等も一応私の戦力にする積もりだし。


 さて、能力の変更が終わった私はゴブリン達全員にスキルポイントで覚えた幻覚魔法を見せる。内容は多種多様な人間の女の子から女性までが裸で立っている幻だ。ついでなので他の皆にも同じ物が見えるようにしておく。


 同じ物が見えないと何が起きてるか分からんからね?


 幻覚を見たゴブリンの内、五匹は全く反応しなかったが、能力を弄っていない一匹が幻の女性に向かって突進していく。しかしそれは幻なので飛び付いたゴブリンは女性をすり抜け壁へと激突して気絶してしまった。


 うん。成功だね。


「こんな感じだけどどうかな?」

「差が顕著で分かり易かったわ。あれが能力を弄っていない方よね?」

「そうだよ」


 ふむ。取り敢えずはコイツ等に指令を与えておくか。っと、その前に気絶してるのも同じ物が設定にして、後は配下の設定で主人の命令に逆らえないように……逆らった場合は痛みが行くようにしよう。


 ……ん。OKこれくらいかな? 後で不都合があったらその都度変えよう。


「さて、お前達六匹にはナイトをリーダーとしてこの辺りに居るゴブリンの巣を破壊して貰う。倒すのはゴブリン又は進化個体のみ。人間へ危害を加えるのは厳禁。人里に行くのも厳禁だ。巣の中で人間を見付けた場合は保護しろ。三日後にもう一度ここに来るからその時に成果の報告を」

「「「キギギ!」」」

「了解」


 私の言葉に頷いたゴブリン達にユエ達の様に武器を渡し、そのまま洞窟を出ていく後ろ姿を見送った私は、満足して頷きながら頭の中で成果を纏める。


 思った以上に効果は高いな。後は子供が生まれた際に遺伝的に継承されるのか。放逐した場合元に戻らないか。放逐ではなくゴブリンの巣へと返した場合の影響かな。メスゴブリンが居たら本人の希望次第でって感じかな? 人並みレベルで本人達が互いに了承すれば私としても特に異は無いし。


 でも研究としてやるならそれは避けては通れないからな~。実際私はそこまで興味無いし他にこのスキル持ってる奴が居ないか調べて研究投げるかな? そもそもこれは・・・・・・・本命への足掛かり・・・・・・・・だしね。


「ところで白。お前、他にも何か考えてないか?」

「はっ? 何の事だよ。変な言い掛かりは止めて貰おうか」


 コイツ何か感付いてやがるのか?


「今回の計画。ちゃんと考えている事は全部喋ったんだろうな? 他にも何か企んでないか?」

「ふっ、愚問だな。ちゃんと計画の全容は話したぞ? 他には何も隠してない!」


 ゴブリンについてはな!


「……そうか。なら良いが。ただ、私も思うところがあってな? 例えば何処かの誰かが最近フープ近くの小さな村に家畜を育てる気は無いかと聞いて回っているとかいう噂があってな?」

「……私は無実だ。弁護士を要求する!」


 大丈夫まだギリギリバレてない!!


「それもう確定だろ!?」


 なんの事か分からない。私は何も知らないのだ。


「そうかそうか。じゃあギルドでゴブリン退治をしつつミノタウロスの情報を集めてる奴も居るらしいのは知ってるか?」


 ……まさか、ここまでバレているとは! くっ! それでも私は諦めないぞ!? まだだまだいける!


「知らない。私にやましい所等微塵も無い!」

「まあ、なんだ。後でじっくりと聞くからな?」


 こうして私達はユエ達を連れてフープへと戻りギルドにて今回の成果報告を行った。その後、一晩中保護者や監督者達の前で本命のミノタウロス保管育成計画や、モンスター食肉計画を洗いざらい喋らされ、そのまま正座で一晩中説教をさせられるのだった。

 

 だって牛肉も猪肉も鶏肉も豚肉もお肉はみんな好きなんだもん!!

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