第551話なんか危ない所に連れ込まれてた!?
「ふわぁ〜高っけぇなぁ」
現在私は新エリア───ではなく、なにやら特殊なルートを通った先にある山の麓に来ていた。
特殊なルートとは、最初に里に来た時に龍神と謁見した場所の地下にある扉、その先を幾度も曲がり方向が分からなくなってきたくらいに着いたからだ。
普通なら曲がったり、分からないほどの緩いカーブくらいならなんでもないが、途中一部記憶の欠落がある。
恐らく道を知っている先導者、もしくは資格のある者以外は思考に干渉があるのだろう。
そんな道を通った先にあったのがこの山。
絶対に地下にあるはずの場所に、空の見える見上げる程高い山。
うん。ファンタジーである。
ファンタジー物とか異世界物はこの一言で片付くから楽だよね。
「ここが例の場所。初めて来たの」
「トリスと姉さんはもう来たことあるんっすよね?」
「うん。……出来れば来たくなかった」
「……全くだな」
この場所は龍王候補の修行場所としても有名らしい。
現在ここには私とミコトだけではなく、いつものメンバー+おばあちゃんの修行を受けてる全員が来ている。
本来なら試練を受ける私とミコトだけのはずだったが、おばあちゃんの一存(ゴリ押し)で、記念受験のように全員の参加が決まったのだった。
因みに既にここでの修行を何度か経験してるトリスとシフィーも、ついでに鍛えるという事で強制的に修行が決定した。
シフィーは龍王だがまだまだ若輩故、こうして時たま修行を受けているらしい。
「さあ、それじゃあまずはこの
「はい!」
「どうしたのハクアちゃん?」
「えーと、その名前、お猿の神様とか関係あったりしますの?」
もしそうなら危なそうだから是非とも逃げ出したい。
「猿? そんなものは関係ないけどどうして?」
「ああ、ないなら良いや」
「安心してください白亜さん。ここはそれとは全くの別物です」
「うんうん。それならなんの問題も───」
「その代わり龍神縁の修行場ですが」
「それもダメなやつだと思うの!?」
「大丈夫です。龍神縁の場所なのでそれなりの場所なだけですよ。それなりの」
くっ、それなりを強調してくる辺り、怪しさしか感じねぇ。なんでこの世界可能性を一つ潰すと横から別の可能性が体当たりしてくるんだ。
しかも強打性で当たりが強いんだよ!
「にしても、これを登るの?」
視線の先は見上げる程高い山そして……それに付随する数千段はありそうな───いや、ある階段。
うん。登りたくねぇ……。
地球にいた頃の体力のなかった私ならダメだったろうが、今の私なら問題なく登れるだろう。
でもやれるのとやるのは大違いなんだよ!
と、言う訳でダメ元で交渉である。交渉こそ人類の力、交渉があれば争わずに済む賢者の行いである。
「はい。おばあちゃん」
「何かしらハクアちゃん?」
「私、長らく階段登ってると、やる気とか集中力とかもろっと落ちる病なのです!」
うん。しっかり言えばやる気ねぇ症候群です。
「あら、それは大変ね?」
あれ? てっきり否定されるかと思ったら呑み込んだ? これはまさか、行ける……のか?
「でもそれならおばあちゃん、治療法知ってるから大丈夫よ?」
「えっ?」
なんですと? 治療法とかあるの?
「ええ、ちょっと強めに叩くとすぐに治るらしいわ」
「WOW……」
昭和のテレビの直し方!
そう言って腕まくりしたおばあちゃんの右拳には、ちょっと強めにとか言いつつ、普通の山一つなら平気で消し飛びそうな力が集中している。
あれで殴られれば私など、跡形もなく消し飛ぶこと必至である。
「おばあちゃんありがとう。おばあちゃんのおかげで私無事に完治した。もう大丈夫。行ける行ける」
「あらそう? でも、また発症したらいつでも言ってくれて良いわよ。ハクアちゃんの為ならおばあちゃん頑張るから」
「わーい。ありがとう」
これあれですね。途中で泣き入れたらいつでも殴り飛ばしてやるという事ですね。交渉なんてクソだな。余計悪化したわ。
(流石ハクアなの。ムーはあんな事怖くて言えないの)
(私もっすよ。でもあれも少しは見習うべきなんっすかね?)
(……いや、あれだけは見習うものではないじゃろ)
オーディエンスうるさいよ?
そんなこんなで交渉も失敗した私は、大人しく山登りと言うなの階段登りをする事にする。
いざ入山。
これからこの階段を何千段も登るのかぁ。と思いながら登る。
「うっ……」
「かハッ、ぐうぅう……」
だがその時、後ろから呻き声が聞こえ振り向く。
するとそこにはマナビーストとの戦いの時、私達をバックアップしてくれていた二人、水竜のナイルと風竜のクーシーが、一段目に足を掛けただけで苦しそうにへたり込む姿があった。
何事?
その姿はまるで、空気が薄く呼吸が上手く出来ていないようだった。
「あらあら、やっぱり二人はそこまでしか無理だったわね」
おばあちゃんは最初からその結果がわかっていたかのように言うと、なにやら二人にお守りのような物を渡す。
すると一瞬前までの状態が嘘だったかのようにスクッと立ち上がった。
「ハクアは何も感じないの?」
「いや、特には?」
コソッと耳元に話し掛けてくるミコトにそう返事を返す。
両手を見て、グッパッと開閉するが特に変化はない。
しかしミコトが言うと言うことは、私以外は何かを感じているのだろう。
「ここはある意味で神域なんだよハクちゃん」
「神域?」
私の言葉を聞いたのかソウが疑問の答えを口にする。
「うん。龍神を初めとして神の位に居る者は神威を操れるのは知ってるよね?」
「うん」
神威は神の力を持つ者が放つ威圧のようなものだ。
「ここにはそれが満ちてる。上に行けば行くほど強くなるから、心や魂なんかを鍛え上げるには最適な場所だね」
つまりあの二人は、その圧に屈したから息も出来ずにへたりこんでたと……。
「ほほう。しかしまあ、それならなんで私は変わんないの?」
なんか皆わかってる感じで疎外感があるんですけど。
「それは白亜さんが神威に慣れている事、白亜さん自身に神の力があり、魂がおかしい位に強い事、そして何よりも空間自体に慣れているんですよ」
「前三つ、一つは異議ありとはいえわかるけど空間自体に慣れてるって?」
「白亜さんが言う女神空間。それに鬼神の居る幽世。あれはこことは比べ物にならない程の力が満ちてますから、今更この程度では圧として感じないのでしょう」
「そうなん?」
えっ、あそこってよく連れ込まれてたけどそんなに凄い場所なの?
「そうですよ。普通の人間なら魂が圧に耐えかねて霧散する場所です」
「なんか危ない所に連れ込まれてた!?」
えっ、なんばしよっと!?
「でもそれなら駄女神に会うのに、結衣ちゃんとかフロストとか、澪や瑠璃も連れてってたけどなんともなかったが?」
「フロストと一緒の時は、シルフィンが生成した浅い深度の場所だったのでしょう。そうでなければフロストでは耐えられません」
「結衣は召喚されて来たから、本人に自覚はなくても一度通っているから耐性があったんだね。澪ちゃんや瑠璃ちゃんの場合は、ハクちゃん程じゃないけど、おかしい位には魂強いから」
うむ。私は認めないがあの二人がおかしいのは認める。
しかしそんな場所だったとは驚きである。
「神域の特徴はその濃度が強いほど、魂に負荷が掛かり、時間の進みが遅くなります。だから白亜さんが連れていかれる場所では、どれほど長くいてもそれほど時間が経っていないでしょう?」
「ああ、あれってだからなのか」
てっきり精神だけ引っ張られてるからだと思ってた。
「それも合ってますが根本は違います。あの空間自体、時の流れが違うんですよ」
「へぇー、じゃあここも?」
「ええ、頂上では外の一日がここの十日分よ」
「十分の一っすか。すげーな」
やはり修行と言えば、時間の流れが遅い場所。
その事実に少しだけテンションが上がった私だった。
「ハクちゃんのそういう単純な所私好きだよ」
うっさい!
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