第552話自分の適応能力が憎い

 今回の目的的はハード肉体よりもソフトを鍛える事。


 とはいえ肉体的な訓練がないかと言うとそんなことはないらしい。


「私はどっちか一つに絞るべきだと思うよ。ほら、どっちもとか中途半端になるし?」


「あら、大丈夫よハクアちゃん。おばあちゃん、そんなことには絶対にしないから」


「……さいですか」


 地獄は常にアップデートされるらしい。ぐすん。


「ハクちゃん。大変」


「多分同じこと思ってるけどどしたのソウ?」


「私もやる気とか集中力とかもろっと落ちる病に掛かったかも」


「うん、まあ。私も大分前から発病してるが」


 だからこそトークで気を紛らわせている訳でして。


「うん。わかってるけど、それでも言いたくなったから」


「わかるわぁ」


 現在、階段も大分後半に差し掛かってきたが、ずっと登りっぱなしなのだ。体力は持つがやはり精神的にツラい……いや、暇である。


「あらあら大変。やっぱりおばあちゃんの治療が必要かしら。二人とも」


「へいへい。ソウもうへばったのかい? 私はまだまだ大丈夫だぜ」


「あはは、やだなぁハクちゃん。あんなの冗談に決まってるじゃん。さあ、じゃんじゃか登ろう」


「あら、残念ね」


 危ない。さっきよりも逃げ場のない場所で不用意な発言をするべきではなかった。


 ソウと視線を合わせお互いに頷くと黙って登ることに専念する。


「全く、貴女達はどこの世界でも変わりませんね」


「ふっ、私は死んでも変わらなかった筋金入りだぜ」


「私も同じく、死んでるし何百年経っても変わらないね」


「褒めてませんよ」


「「え〜」」


 芯があるとかそんな感じの褒め言葉として受け止めたのにガッカリである。


「ハ、ハクア。全然平気なの?」


「えっ、うん。全くだが? いや、飽きては来てる」


「どうなってんっすかハクアは」


「どうと言われてもねえ?」


 なんと言われても全く変化がないのだから、こればっかりはしょうがない。


「あるじ凄い」


 結構前に脱落したユエの言葉に全員が頷いている。


 そんなもんかねぇ?


 終盤まで来たことで脱落者はだいぶ増え、今や残っているのは経験者を除けば、私とミコト、シーナ、ムニの四人だけだ。


 まあ、トリスはどっちかと言えば龍王側だから当然だが、シーナとムニも脱落せずに着いてきている。


 最初に入ってすぐ脱落したナイルとクーシー。そこからさらに百段登った辺りでフィードとアルムの二人が脱落した。


 その後はしばらく脱落者は出なかったが、二千段辺りでアトゥイとレリウスの二人が脱落した。


 そして意外や意外、脱落者の中で一番健闘したのがユエだった。


 その記録なんと三千段。


 ドラゴンでもない初参加者でこの記録は相当凄いらしい。


 そんなユエがどうして一番の好記録を打ち出せたか、それにはしっかりとした理由もある。


 どうやらユエに限らず、私の配下になった全員が私の影響で精神防御はかなり高く、魂の強度も普通に比べて大きく影響を受けているのだとか。


 そしてユエに至っては刀刃前鬼として私の【護法鬼】となったのもでかい。その影響で、ドラゴンですら屈する程の魂の重圧を耐えることが出来た。

 

 と、言うのがテアから聞いたことの真相だったりする。


 まあ、それでもユエに自身の精神力と根気がなければ、ここまでは来れなかった。それだけで評価としては十分だろう。


 めちゃくちゃ褒めたらすごく喜んでた。可愛い。


「「着いたー!」」


 そんなこんなで登り続けて半日越え。


 ユエ以降の脱落者はなく、特に語る程のイベントも起きないままようやく長い階段地獄が終わった。


 いやー、マジでふざけんなレベルの長さだった。


 実際、精神的な疲れであって、皆んなみたいな呼吸もままならない的なものではないんだけどね。


「じゃあ、とりあえず今日はもう休憩にしましょう」


「えっ、いいの!?」


 時刻は夕方よりも前、まだいつもならこれから死ぬほど訓練が待っている程度の時間だ。


 マジか。今までで一番楽やん。


「いえ、ハクアさんだけですよ」


 そう言われて見てみれば、トリスとシフィーはまだだいぶ余裕はあるものの息が上がってるし、他の三人に関しては死屍累々と言った感じだ。


 確かにこれは修行うんぬんではなさそうだ。


 頂上には休憩施設もちゃんと用意されていて、寝泊まりするには問題ない。


 ただ、やはり今までにはなかった文化ゆえ、調理場の概念は全くなく、テア達が下拵えの準備をしている最中、私は一人調理場を造る係をしていた。


 まあ、ぶっちゃけ土魔法でちょちょいなので問題はないのだが。


 ちなみに脱落者組にとってもこの頂上はキツいらしく、アトゥイとレリウスはギリギリ動けるが、それより前に脱落した面々は重力に潰されたかのように、突っ伏していた。


 大したことは何も出来ないだろうが、ここに留まるだけでも修行として成り立つらしいので、是非頑張って頂きたい。南無。


 そうしてつつがなく料理を終えると待ちに待ったお食事タイム。


 頂上に辿り着くまでは、おにぎり三十個程しか食べられなかったのでお腹ペッコりしてる。


 そんな訳でして、ようやくありつけた夕飯に舌鼓を打っていると、おばあちゃんはこれからの事に関して話し始めた。


「とりあえず、ハクアちゃん達はこの環境に慣れてもらうのが一番最初にする事ね」


「ふぁれ、ふぁひぁしも?」


「白亜さん飲み込んでから話しなさい」


「ひゃい」


 仕方なく飲み込んで、次の物も口に入れない。


 私偉い。


「んで、私もなん?」


「ええそうよ。ハクアちゃんもまだここの状態には慣れ切ってないわ」


「ふーん」


 周りを見るとほとんどがわかっていなさそうだったが、トリスとシフィーもおばあちゃんの言葉に納得してる。どうやら魂の重圧以外にも何か隠されているようだ。


「わかった」


「それと白亜ちゃんにはアレの習得もここで目指して貰うわね」


「アレもっすか……」


 アレ……と言うのは、私がマナビーストとの戦いの最後に使った技の事だ。


 名を開闢かいびゃく


 と、言うのは後から聞いた話だ。


 どうやらアレはミコトを含め、龍神、龍王にのみ、口伝で伝わる秘技なのだとか。


 まあ、最近ではおばあちゃんの独断と偏見で次期龍王候補とかも教わってるらしいが。


 使えるのは当然龍神と龍王。


 しかし年若いシフィーは使えはするが十全ではなく、未だ修行段階。


 トリスも同じ程度の習得具合で、ミコトは戦闘に耐えうるレベルではないが、練習ならば多少使える程度、シーナとムニはまだ練習中と言った段階だ。


 そんな中、私は誰に教わることもなくミコトが使っているのを見て、勝手に自己解釈して無理矢理発動したのだが、それがまたもやいけなかった。


 どうやら、結果は同じらしいがそこに至るプロセスが全く違うらしく、下手をすれば怪我どころか消滅していたと言われたのだ。


「消滅とな!?」


「ええ、危ない所でした」


「今回もギリッギリのバトルだったんだよ」


「マジかぁ」


「じゃあその開闢? を、おばあちゃんにちゃんと教われば大丈夫なんだよね?」


「それなのだけど、実はねハクアちゃん。ハクアちゃんが全く違う方法で使ったことで、ハクアちゃんの身体はもう既に通常の方法では開闢を使えないのよ」


 マジで?


「無理矢理発動した結果、白亜さんの身体はあの技に対応する為、適応しました。その結果、特殊なパスが生まれ、通常の方法は使えなくなったようです」


 自分の適応能力が憎い。


 こんな時だけ対応早いとか、なんなんだこのクソ運営みたいな身体。


「しかも鬼と竜、神の力も変な風に混ざって、ハクちゃんの開闢は全く別物になっちゃったんだよね。ほら」


 そう言って見せられたのは私のステータス。


 そしてそこには見覚えのない堂々とした二文字【終焉しゅうえん】という文字が並んでいた。


「なんでここだけ上手い具合に、開闢に対応してんだよ」


 憎い。全体的に軽く馬鹿にされてる感がさらに憎い。


「よし。じゃあ封印すれば良いわけだね」


「いえ。割と真面目にいつなんどき暴発するか分からないので、扱えるようになった方がいいです」


「うん。これは真面目に私もそう思う」


「おばあちゃんも放置は危ないと思うわ」


「う、うう、でも……」


「下手をすれば白亜さんを中心に一キロは確実に跡形も残さず消滅しますが、それでも良いんですか白亜さん?」


 もう爆弾ですら可愛いレベルの厄災やんけ。


 そんな風に聞かれてはもうどうしようもなかった。


「はい。頑張ります」


 少し前にあった会話を思い出しながらそう言うしかない私であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る