第296話底が知れないぜエルザ様
フープに戻って早々、皆と別れた私は灰色のローブを着込みフードを被った状態で一人狭い路地を歩く。
勿論こういった所に出入りする時は更に、髪を黒くした上にいつもの仮面も被っている。
"ハクア様、聴こえますか?"
そんな私の頭の中に直接語り掛けるように声が響く。
相手は勿論手伝いを頼んだエルザだ。
メイド組はその利便性から全員が【念話】のスキルを取得してそのスキルを使い連絡してきた。
"何かわかった?"
"はい。やはりハクア様の予想通り会員かもしくはその紹介でなければ参加出来ないようですね"
チッ、やっぱそうか。
"客層は?"
"ほとんどが貴族ですね。後は大店の店主などが多いようです。紹介は一人に付き一人まで、信用が高くなればその限りではないようです。こちらもツテを辿ってなんとか会員証を入手出来るよう動いてみます"
"うん。よろしく。私の方も潜り込めるか色々探ってみる"
"ご期待に添えるよう努力します"
エルザとの【念話】を終えた私は途中で買った焼き鳥のような物を食べながら目的地に向かって急ぐ。
オークションは思った通り会員制か。流石にエルザの方もキツそうかな? こりゃ私の方も空振る可能性が高いか?
エルザとはフープに来てから一緒に色々とやっているので、今となっては表も裏も顔が利くエルザなら最大限の働きをしてくれるだろう。
逆に言えばエルザと私で用意出来ないなら実力行使になる……か。
しかし、エルザは私と一緒にカジノ経営やら地下都市計画やらにも一枚噛んでる筈なのに、何故か最後は私だけが怒られてエルザは怒られず、組んでた証拠まで出ないのはなんでだろね? う~む。謎だ。方法教えて欲しい。
私はここ最近の事を思い返し首を傾げながらも道を進むと、壁に囲まれた一枚のドアの前に辿り着く。
「あぁ? 誰だテメェ!」
ドアを開けるとガラの悪い世紀末的な男が絡んでくる。うるさいな~と、思いながら男の事を退けようとすると、それに反応した男の腕が私の持っていた焼き鳥に当たり地面へと落ちてしまう。
あ、あと一個肉が残ってたのに……。
「何勝手に入ろうとしてんだ! ここはテメェのようなガキが来るところじゃねぇんだよ!」
そう言って私に掴み掛かろうとする男の手を払い、胸に手の平を当てながらニコッと、笑い掛けると発勁を撃ち込み邪魔な男を吹き飛ばし中に入る。
しかしそんな私は何故か四方八方から武器を突き付けられてしまった。
邪魔だな。焼き鳥の恨みは一発では終わらないのに。
「止めろお前ら!」
私が邪魔をする奴等をどう処理しようか考えていると、奥から一人の男が進み出て来る。
「オイ! これで外行って露店の串焼き買えるだけ買ってこい!」
男から金を渡された手下は突然の事に意味が分からず固まる。
「いいから早く行け!」
「は、はい」
手下が駆け足で出て行くのを見送った男は、私に向き直ると頭を下げる。
「姉さんスイマセン! コイツらはまだ姉さんの事を知らなかったんだ。ちゃんと教育しとくんで今日の所は赦してやってくれ」
「まあ、別に良いよ。それよりもお前、頭なのにこんな小娘に平然と頭下げるなよ。ハイド」
私の目の前で頭を下げるこの男の名前はハイド。
ここら一帯を取り仕切る元締めで、私もカジノを運営したり、露店を開く際に色々と手を組んでいる相手だ。因みにハイドにも私が転生者でモンスターでもある事は話してある。
「いや、姉さんの不興なんざ買いたくないからな」
私そんな恐くないよ?
「それで今日はどんな用件で? また面白い事でもやらかすんですか?」
「あぁ、それなんだけどさ……」
そこで私は奴隷商にオークションの商品として持ち込まれた人物を競り落としたい事を伝える。
「……なるほど。アガロフの店か」
「どんな感じなんだ?」
「店は一応合法のものだな。取り扱う商品の多くが異種族だが、たまに敗戦国や借金の形になった奴隷落ちも扱ってる。訳ありなんかも仕入れて別口にも売ったり使ったりしてるらしいな。貴族や富豪相手の商売だからかほとんどが高価な性奴隷や戦闘奴隷達だが、中には非合法な裏奴隷も居るらしい」
裏奴隷か。ウ~ム、道理で厳重な訳だ。
通常どんな奴隷にも一定の保証があるものだ。
その保証は奴隷の種別によっても違うが、最低限故意に命を奪う行為は禁止されている。因みに死亡確率の多い所で仕事をさせるのは可。その場合はただの事故扱いになる。
そんな中、何のくびきも無く売られるのが裏奴隷なのだ。
まっ、そのほとんどはアリシアのように奴隷商に無理矢理捕まったり、騙された人間、もしくは人種以外の亜人なんだけどね。
特に獣人なんかが人気らしい。獣人は数が多く捕まえやすい、そして魔法が使えない分、人より頑丈だから色々と楽しめる時間が長いんだとさ。
どこにでもクズは居るもんだ。
さて、それはいいがどうするかな?
ちょっとおいたしてる貴族の家に手当たり次第突撃訪問してみるか?
ん~、でも当たり引くまで時間掛かるか。それにスゲー面倒い。下手するとオークションに間に合わなくなるし上手くはないな。
一人、ぬぐぐと悩んでいると何故かハイドが私の顔をニヨニヨと眺めている事に気が付いた。
「ふふふ、実は前に仕事をした時にパスを貰っててな、いくらで……」
「ほらよ」
「ブッ! マジか! 正直半額でも大丈夫だぞ!?」
元締めなだけあり、私と組む前から色々とやっているとは思っていたが、どうやら奴隷商とも繋がりがあったようだ。
そんなハイドに軽い感じで金貨が五十枚ほど入った袋を渡すと、驚きに目を丸くして少しビビりながらそんな事を言ってきた。
まあ、稼ぎの良い下級貴族の年収並の金額だからね。
「いいよ。必要な物に相応の対価は払うさ。それに、金払いの良い人間は切りたくないし切られたくもないだろ?」
「ははっ、確かにな。それならありがたく戴いておくぜ。それと、金払いの良いパートナーにもう一つオマケだ。あそこの奴隷館の元締めは貴族のカートライアらしい。まっ、確証は無いし、噂レベルだけどな」
「ほう」
カートライアはフープの上級貴族だ。
古くからフープに仕え、数多くの騎士を輩出している家系。しかし近年はその勢いも衰えなかなか優秀な騎士は出て来ていないようだ。
そして今代の当主はアイギスの治世に不満を抱き、アレクトラを押し上げようとする一派の先頭に立っているらしい。因みにクシュラの件で一番に逃げたしたのも、一番に帰って来てデカイ顔したのもこいつだ。
もともと私が来る前から改革を推し進めていたアイギスは、平民はおろか人種以外の亜人も能力があれば登用しようとしていた。どうやらそれが根っからの貴族のカートライアには受け入れがたかったようだ。
まっ、私が来てからそれも一気に進んだからね。しかしまぁ、そんな奴が裏奴隷も扱う奴隷館の元締めね。
私はハイドに礼を言って城へ帰路へつく。その途中にパスを手に入れた事を合流したエルザ達に伝えると、どうやら二人もパスを幾つか入手出来たらしい。
それを聞いた私は凄いじゃん! と褒め、同時に誰からどうやって手に入れたの? と聞いたら、ミルリルはサッと顔を背け、エルザは惚れ惚れするような笑みでニッコリと笑顔を向けてそれ以上は何も言わなかった。
うん。それ以上は聞きませんでしたよ? 世の中には知らない方が良い事もあるんだよ。
それに、エルザに関しては私もまだ掴み切れない部分があるしね。底が知れないぜエルザ様。
そんなこんなでオークションの参加資格を得た私達は城へと帰るのだった。
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