第295話私の稼いだお金なのに。解せん

「はぁ~。やっと終ったわ」


 アリスベルとの会議を終えた私達は約一ヶ月ぶりにフープへと帰る事となった。


 まあちょこちょことは帰ってたけど……。


 そんな中、上位の国との会議をようやく全て終わらせたアイギスは、私のスキルで帰る事が決まるなり、気が抜けたのか溜め息を吐きながらへたれこんだ。


「そんなに緊張しなくてもよかったのに。どうせ元からお互いの利益を考えればここに着地するんだから。まあ、今回の事が無ければ多少どっちかに傾くか分かんなかったけど」

「貴女と一緒にしないでくれるかしら」


 アイギスよ。その台詞は酷くないかね?


「いや、その通りだろ」


 心の声にツッコミいれるのはやめてちょうだい!


 結果としてはあれから更に話を詰める事で、学校への融資が本格的に決まり、今までは着手出来なかった初等部などの設立にも目処がたった。

 更に銀行の仕組みを教えた事で、個人向けの融資なども本格的に行えるようになったらしい。アリスベルではやはり商売で財をなそうとする人間が多いため有用なのだとか。


 その他にも農作物の研究への出資、研究結果の販売ルートなども整う形となった。


 まあ、今回女王は常にこちら側だったからそこまで心配はしてなかったけど、やっぱり決まるまではドキドキするよね。一応私としてもアリスベルに来てすぐに色々と協力はしたけどさ。

 上位者なんて下位の者をいつ裏切るか分からないからね。


 おおむね予想通りの展開とはいえ、実際に決まるまでは気が抜けなかったのも事実なので、私も密かに胸を撫で下ろす。


 さて……その他についてだが、アリスベルのギルドでも遂に土魔法の時代がやって来た。元々私の土魔法を見て教えてやって欲しい。と、打診は受けていたがそれはギルド職員に対してのもの。


 しかし今回、しばらくフープで一緒に居た刻炎や暁のメンバーが、私に教わって普通に使うようになっていたのを見て、アリスベルギルドに通う冒険者からも要請が多く寄せられたのだ。


 あまりにも多かった為、土魔法しか使えなかった新人魔法使いに優先して教えた事で、今後彼等彼女等もパーティーに入れてもらったり、技術指導を行う事でやっていけるだろう。


 このまま土魔法の偉大さをこの世界に広めてきたいものだ。


『シルフィン:何が貴女をそこまで駆り立てるのか疑問ですね』


 お前、腐っても女神なのに土魔法様になんて事を……。


『シルフィン:言葉の内容に疑問を持ってもらえません!? 他者が聞いたら明らかにおかしいですからね。それ!?』


 何を言っているのか分からない。


 後、ユエ達やリンク、リンナはこの一ヶ月でだいぶスタミナが付いた。二十分全力で動ければ実際の戦闘ではその半分、緊張状態なら更に半分と考えていい。それだけ体力は重要なのだ。


 加えて魔力制御や気力制御、模擬戦などもみっちりと行った今回の修行はなかなかの出来だろう。特に未だ実戦経験の無いリンクとリンナの二人には尚更だ。後はいつものように訓練しながら、色んなモンスターとの実戦経験を高める感じかな。


 でも、帰ったらそろそろアレを考えさせるべきかもな。そう、必殺技を!


 必殺技と言うからハッ? みたいな感じになるけど、要は危機的状況や不利な状況を覆せる自分の得意なものだ。

 それがあるとないとでは生存率に大きく関わってくる。最初から一発逆転に賭けるなんていうのは逃げもいい所であるが、事、戦闘においてはそれは必要な場面が必ず出てくる。


 基本的な底上げと戦闘技術、加えて自分の決まり手を作れば、そこを主軸にした自分なりの戦闘方法も見付けやすい。

 まあ、考えついたら、それが絶対のものじゃないって解らせるために破ってみせるんだけどね。

 ……あんまり凄いのじゃないといいな。私下手したら死んじゃうから。


 そして私の方も何とか【鬼珠】のスキルを五分ほど維持出来るようになった。因みに十分超えると次の日もダウンします。まだまだ使いこなすには時間が必要なようだ。無念。


 それと初めてスキル専門店に行きました!

 いや~。楽しかった。マジ楽しかったよ!


 ただ惜しむらくはあまり買い物が出来なかった事だね。


 クソ~。皆して止めやがって! ちょっと……ちょっと人が金色のコインを何十枚か使おうとしただけで説教されましたよ。私の稼いだお金なのに。解せん。


 なので今回手に入れられたのは【錬金】と【合成】のスキル。


【錬金】は【鍛治士】や【彫金】などと違い道具を作るスキルだ。最近色々とやっている私としては、道具も自分で作りたいと思っていたので丁度いい。


 そしてもう一つ【合成】とは【付与】とは違い、装備類に強化を施したり、道具類の効果を合わせたり出来るスキルだ。

 因みに【付与】は効果を付けるスキルだよ。武器や防具の強化は【鍛治士】にも出来るスキルだけど【合成】はその分出来る幅が大きいのが特徴。


 これでもっと色んな物が作れるようになるぜ!


 そんな事を考えながら帰り支度が終わるのを待っていると、全てのチェックを終えたミルリルが荷物を持ってやってくる。


「ハクア様、全てのチェック終わりました」

「大丈夫?」

「完璧です」

「んじゃ、帰るか」


 待っている間に用意していた座標転移を発動すると、体の中からズズズッ! と、凄い勢いで魔力が急速に抜けていく。そして急速に減少していた魔力の奔流がストップすると、私達の足元の地面に光で描いたような円が現れ、その円から光が立ち上る。


「うし。完成。さっ、帰ろうか」

「ふーむ。何度みても便利だな。普通この手のスキルはこんな外道じゃなく、勇者の為のスキルじゃないか?」

「なんちゃって勇者だから無いんじゃね?」


「「……あぁ?」」


「やめないか。ほら、帰るぞ」


「「はーい」」


「仲が良いんだが悪いんだか」

「マスターも澪も基本的には同種の存在なのでは?」


「「失礼な! 一緒にしないで(するな)!」」


「息ぴったりだな」


 ぐぬぬ。


 言い返してもカウンターを食らいそうな気がした私は仕方がなくスキルを使いフープと唱える。


【座標転移】を使うときは、移動場所に指定した場所の名前を指定する事で発動する。これも戦闘では使えない理由の一つだね。


 場所を指定すると景色は一瞬で切り替わり転移は無事成功する。この部屋はアイギスが王城に用意した一室で、城の端っこ辺りにある。


 うむ。一瞬で移動するのは良いのだが、なんというか情緒というか余韻が無いんだよな。こう、感動が薄いしリアクションしにくいよね?


 そんな私の内心はさておき無事移動を終えた面々は部屋から出ていく。が、何故か先に部屋を出た面々は出入口の所で全員止まっている。


 なんだ?


 位置的に一番後ろの方にいた為移動していなかった私と澪は、何故か出入口で固まる皆を押し退け扉の外を見る。


 そこには何故か知らないがクーが土下座をしながら待っていた。


 流石に予想していなかった事態に私達も一瞬止まるが、互いに一つ頷きあい。


「疲れた疲れた。さっさと休もう」

「おい。その前にちゃんと魔法の研究結果は報告しろよ」


 華麗にスルーする事に決めました。


「って! おぉおい! 久しぶりに会った仲間が土下座までしとるのになんで無視するのじゃ~!?」


 いや、だって面倒な気配しかしなかったし。


 せっかくスルーしたのに私の足にすがり付いてくるクーに仕方がなくで? と、聞いてあげる。


 最近私の優しさは天元突破しているのではないだろうか。


『シルフィン:一度スルーしようとしたくせに何言ってんですか? 仲間の土下座をスルーした時点で外道ですよ』


 そんな会話を知るよしもないクーは、改めて私に向き直ると私の目をしっかりと見てこんな事を言ってきた。


「主様! 我に金を貸しグハッ!」

「悪は滅びた」

「お前……途中でとか」


 しまった。金を貸せなんて言うからついうっかり腹パンしてしまった。


「……せ、せめて最後まで聞いて欲しかった……のじゃ。……ガク」


 あっ、死んだ。南無。


「祈ってないで話を聞いて下さいマスター」


 あっ、スイマセン。


「ほらクー。いつまでもそんな所で寝てないで理由カモン」

「自分で作った惨状に対してなんて言い種! あっ、済まんかったのじゃ! ちゃんと話すのじゃ」


 なかなか本題にいかないのでなんとなくアッパー気味のシャドウをすると、何故かクーが冷や汗を掻きながら慌てはじめる。


 そんな私達に話なら落ち着いて部屋の中で。と、アイギスが言うので私達はそのまま移動して、城に残っていた留守番組と合流してクーの話を改めて聞く事にする。


 ちょろっと留守番組にも聞いたが、何故クーが私に無心に来たのか分からないようだ。


 そんな私達は久しぶりに結構な数で集まると、クーの話に耳を傾ける。


 一週間程前、クーが一人街を散策していた時の事だ。


 昔から人間の作り出す物に興味があったが、立場が立場なだけあって人の住む場所に行く事が出来なかった魔王時代。

 しかし今となっては魔王などという物騒な存在ではなく、私のテイムモンスターとなった。そんなクーはここ最近暇を見付けてはフープの中を散策していた。


 アリスベルとはまた違った物が並び、私達の改革で大きく変わって行く街の様子を見るのは、クーの楽しみの一つになっていたのだそうだ。


 そんな中、ふと気になった細い小道から大通りを離れスラム街に入り込んだ。改革が進み富が分散するようになったとはいえ、まだまだそういった部分をフープも残している。


 スラム街では表通りには出せない品や、非合法な物も多かったがクーにはそれすら人間の面白い部分と感じた。だが、そんなクーの目の前で大きな檻のような物を運ぶ一団がいた。


 気になったクーはその後をつけて行けば、そこは奴隷を扱う奴隷商の店。


 道中までに盗み聞いた内容で、その檻の中身が後日行われるオークションの品物だという事もわかった。そしてその中身も奴隷商に引き渡した事で理解が出来た。


 檻には布が掛けてあった為に中は見えなかったが、自分には関係のない事だとクーの興味は無くなっていた。


 風が吹きその布が捲れるまでは……。


 捲れた布の先に居たのは、封印される前に共にいたクーのかつての仲間。


 駆け寄り助け出したい衝動に駈られながらも、ここで騒ぎを大きくする訳にはいかない。と、必死に体を押さえて耐えたクーは、奴隷商の店の中に連れていかれる仲間を何も出来ずに見送る。

 どれ程の時間がたったか分からないが、ここに居ても何も出来る事は無いと城へと帰る道すがら出した結論が、オークションに出される仲間を正攻法で取り戻すという物だった。


 そうやって話を締め括ったクーは再び私に土下座をする。


「頼むのじゃ主様。我の仲間を助けて欲しいのじゃ」

「そのオークション。何時からかはわかるの?」

「う、うむ。確か明後日じゃ」

「アイギス。その手のオークションは結構開かれてるの?」

「ええ、奴隷の廃止はまだ出来てないのよ。正当な理由のオークションなら廃止は出来ないわね」

「そうか……それならそれでいいよ。それと、無駄な正義感から奴隷制度を無くしたいってだけならそれに代わる政策作ってからにしないと荒れるよ」

「うっ、そうね。わかったわ」

「ぬ、主様? やはり駄目なのか?」

「ご主人様。私からもお願いします」

「私も! ギルドの依頼頑張ってお金稼ぐから!」

「ボクもいっぱい武器作るかな!」

「がんばるゴブ」


 代わる代わるにそう答える皆に良い子達だなぁ。などと考えつつ私は問題を口にする。


「わかってる。行く事に異論はないよ。ただ……」

「何か問題があるのですか?」

「資格……だろ?」


 そう。澪の言う通りそれだけ大規模にやるオークションなら、主催者が招待するかその資格者。または参加者の紹介などが必要になってくる筈だ。


 合法とはいえ危ない橋を渡る商売だから対策はしてる筈。


「……では、主様でも駄目なのか?」

「エルザ。悪いがオークションについて調べてくれ。私は心当たりを探ってくる」

「ええ、 かしこまりました。帰ってすぐに悪いけどミルリルも手伝ってくれる?」

「うん。良いよ」


 私の言葉にイタズラっぽく微笑んだエルザとミルリルは、全員に一礼すると早速調べる為に部屋を後にする。


「主様。ありがとうなのじゃ」

「まっ、滅多にないクーの頼みだからね。それに私も興味はあるし」


 さて、私も行くかな。まずはスラム街に行ってオークションについて調べねば。


 こうして私は一人スラムへと向かった。

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