第294話「……本当に余裕が無いんだな」

「ふむ。まさか君の【鬼珠】がスキル系のあんな能力とはな使いこなす事が出来れば大きな戦力になりそうだ」

「……つ、使いこなせれば……ね?」

「ああ~、なんだ。その、大丈夫か?」

「大丈夫そうに見えるなら眼科を進める。大丈夫に見えないのに言ってるなら病院に行って頭を見て貰うと良いよ」

「……本当に余裕が無いんだな」

「ありそうに見えるのか?」


 心のそんな言葉に怨めしそうな声で答え私は、現在心の足元に息を切らせて這いつくばっていた。


 それというのも心の言った通り私の新スキル【鬼珠】のせいだった。


 事の始まりはそろそろ【鬼珠】を試してみてもいいと言う心の言葉からだった。話を聞いた時から早く使ってみたいと想像を膨らませていた私は、一も二もなくその言葉に飛び付いた。


 そんな結果が今のこの地面に倒れて動けなくなっている状況だった。


 うぅ~、体に力が入らない。これ普通なら絶対筋肉痛になるコースだよ。


 私の【鬼珠】の効果は、武器でも在り防具でも在るスキルだった。それも複数の効果があり、その汎用性も効果も非常に高い私好みのものだったのだが、その反面今の私では発動後はこの体たらく、加えて扱いも慎重にならなければ諸刃の剣になりかねない、本当に私にピッタリなスキルだったのだ。


 私は自分のスキルを考察しながらどうするべきかと考える。そんな私に心が回復薬を手渡してくる。


「強力なスキルだがあれを使いこなすには更に体力と魔力や気力の制御能力が必要だな。一番地味なものだがやはり必要なのは基礎の底上げか」


 う~む。確かにその通りなんだよな。でも……。


「ザッツ面倒」

「まあ、そうは言ってもそれが必要な事なら君は努力を怠らないがな」


 うっ、なんか、全て見透かされてる感じがして悔しい。


「……そんな事ないもん」

「でも、努力の成果がステータスとして出るからゲームみたいで遣り甲斐があるんだろ?」


 ちくしょう! 何も言い返せない!


 そんなやり取りをしていると、アリスベルの外周を走らせていたユエ達トレーニング組と、アイギスと澪の二人が同時に一緒に帰って来た。


「お前、そんな所で寝転んで何遊んでるんだ?」

「遊んで無いもん! 動けないだけだもん!」


 あまりの言い様に起き上がろうとするが、未だに体に力が入らず無様にジタバタして澪を睨み付ける。


「どうだこらぁ!」

「うん。わかったからその体勢で凄むなよ。なんか憐れだ」


 憐れとか言われましたよ!? クソ~。反論したいけどその通りだから反論出来ない。


 しかし、私を抱えた心が何故かご満悦だったのは何故だろう? 解せぬ。


 そんな事を思いながらも、動けなくなった私は心にお姫様抱っこされながら家の中へと連れられ、その日は一日動けずにベッドで寝ていた。無念なり。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 次の日、ようやく動けるまでに回復した私は、澪やアイギス、ミルリルと共に庭でこの間作った魔導銃の試射を行おうとしていた。因みにユエ達は心と一緒に今日も外周です。


 最近では少し余裕が出てきたのか、距離を増やされないように時間を調整して走る奴も出てきたので、優しい私はそんな奴等にはウエイトを増やして走らせてあげている。


 泣いて喜んでたよ? 心も真面目な生徒に教えるのは楽しいようだ。


「そういえば」

「何?」

「お前のその銃。さっきちゃんと見た時思ったが何でマガジンが変えられるようになってんだ? オートマチックでもあるまいに、射ち出す物は魔力なんだから弾薬もいらんだろう?」

「理由はあるけど教えない。この間流されたし」


 褒めてくれたの咲葉とテアだけだったもん。


「……そうか。まあ、言いたくないならいいが、何故か丁度屋台で買った串焼きが在るんだが?」

「そこまで言うなら話してあげよう。何、報酬はその串焼きで構わない。うん。構わないよ」

「掌の返すのが早すぎるでしょ!」

「やるから涎を拭け! 相変わらずどんだけだよ!」

「ちゃんと拭いて下さいハクア様」


 ご飯、大事、とても。


 串焼きを受け取った私はハモハモしながら咀嚼する。このまま説明しようとしたら怒られたからね。


 うん。旨し。中は少しレア気味に表面はしっかりと焼かれた肉の肉汁が、かぶり付く度に口の中に広がって行く。しかも肉自体の味がしっかりしている事で、シンプルに塩コショウされただけだがそれが素材の味を生かしている。


『シルフィン:世界観間違えてますよ! グルメ系じゃありませんからね!?』


 私としては戦いよりも異世界の料理を食べつくしに行きたい。


『シルフィン:……トラブル体質なんだから無理でしょうに』


 な、何て事を……。お前のスキルのせいだろ!


『シルフィン:素質のない人間にはサービスで付けられません~』


 そんな馬鹿な……。


 そんな言い合いをしている内に串焼きが無くなってしまう。


 後で買いに行こう。


「さて、食い終わったな。それでなんでなんだ?」

「えっとね。まず最初から、取り敢えずこの双銃の名前は【オルト】それぞれに魔法陣やルーンを組み込んで相互干渉させる事で、本来難しかった所を無理矢理成立させてるんだ」

「つまり、片方だけでは不完全。もしくは使えないのか?」

「うん。そう」


 前にも話した通りこの銃の本質はサポートにある。本来一人でこなす作業を【オルト】を使う事で効率良く集中、圧縮などを行えるようにしたものだ。


 そして、本題はここから。


 私は普通の銃のマガジンに当たる部分を取り出し皆にみせる。


「これは、魔法陣とルーン文字ですか。ずいぶんびっしりですね?」

「うん。因みに銃本体にも内部に組み込んであるよ。んで、そのマガジンにあるのは圧縮、もう一個が無属性だよ」

「ほ~。良くもまあこんな物を理解するものだ。だが、取り替え式という事は消耗品なのか?」

「うんにゃ違うよ。こっち見てみ」


 私は空間魔術で取り出した別のマガジンを澪に投げて確認させる。


「これは……刻んである物が違うのか?」

「そう。この【オルト】は補助が役目だけど私のように何もかも足らないと、そこを補うだけで今の十倍くらい無いと足らない。しかも、それを全部補うために組み込んだとしても、組み合わせ悪かったり複雑過ぎてまともに発動すらしなくなるんだよ。んで、その解決案がコレな訳」


 私は澪から圧縮と無属性のマガジンを受け取り、一発、銃弾サイズの大きさの魔力弾を射つと、放たれた弾丸は的として用意した木の板を綺麗に貫通していく。

 そして今度は、無属性のマガジンを取り出し先ほど取り出した、もう一つのマガジンを入れ替え、再びさっきと同じように銃を射つ。


 すると今度は銃弾サイズの大きさの炎の玉が同じように飛び出し、目標の木の板に当たると貫通するが、その貫通した表面を焼き焦がす。


「全く同じように射ったのに弾種が違う?」

「はい。一度目は普通の魔力の塊でしたが、二発目は火炎弾でした」

「……そうか。つまり、マガジンを取り替える事でサポート内容が変わり、その組み合わせでやれる事が増えるんだな?」


 そう。今のは魔力を炎に変換するマガジンだ。

 素のままの魔力だと威力はそこまで高くない。だからこそ魔法は魔力を属性に変換する事で威力を上げてるわけだしね。でも、その属性に変換するまでには無詠唱でもやっぱり時間が掛かる。だからこうやって変換スピードを上げる物を組み込む訳だ。


 因みに無属性のマガジンは、普通なら属性に変換しないと霧散してしまう魔力を、霧散しないように維持するための物だ。この技術は人には無いモンスターや魔族の技術らしい。


 どっかの漫画みたいな気功弾のような攻撃は出来ない訳だ。そういや確かに、魔族以外が魔力をそのまま攻撃に使ってんのは見た事ないや。


「そして今あるマガジンは魔力の圧縮補助、私の使える八属性の火、水、土、風、闇、光、雷、無の変換、魔力制御、魔力を集め魔法の完成を早くする集中、距離拡張、散弾、貫通、追尾、平行処理の計十六だよ。因みに右の銃に圧縮や集中何かの効果のマガジンを左の銃に属性のマガジンだね。これが入れ替わると発動しないし、下手すると暴発する」

「ほう。面白いな」

「そんなに凄い物だったんですね。皆さんが普通に流してましたから、今聞いてビックリです」

「……なんでその才能であんな滅茶苦茶なロクでもない事ばかりするのかしら」


 アイギスさんが最近ちょこちょこ私に嫌味を言う件について。


『シルフィン:しょうがなくないですか?』


 シャラップ! 私ほど真面目に生きてる人間もそうはいないのだよ。たまの息抜きくらい良いじゃないか!


『シルフィン:たまの息抜きで非合法の地下カジノとか建設されたらたまったもんじゃ無いですよ』


 ……そこはほら。愛嬌的な?


『シルフィン:世界一嫌な愛嬌ですね』


「因みに、今は圧縮と炎の属性だがそれしか出来ないのか?」

「いや、制御が複雑なだけで出来なくはないよ? ただ一瞬の隙が命取りの戦いの中で0.1秒の短縮でも大きい。出来ても制御に思考を持っていかれたら戦闘が疎かにもなるしね」

「まっ、確かにそうだな。意識しなくても行えるのと、集中しないと出来ないのでは大きな差になるからな」

「そういう事」

「専用の変換武器に双銃、新しい新スキル使いこなすのが大変そうだな。特にスキルだが」

「うっ」


 皆には【鬼珠】のスキルについては話してある。確かにこのままではまともに使えないのが悩み所だ。あんな面白い物を死にスキルにする気は無いがね。


 そんな事を考えながら今日も訓練に時間を費やすのだった。

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