第297話なんなのかねこの抜群の信頼感?

 薄暗いホールの中、光を発する魔道具に照らされたステージの上には、また新たな商品が運び込まれ熱に浮かされたように参加者が声を張り上げる。


 オークションの流れは簡単。


 まず商品が登場して司会者による商品の説明が入る。その後、参加者の商品に関する質問が始まり、最後に落札基準価格が発表され、値段をつり上げていく方式だ。


「クーの仲間はまだみたいね」

「うむ」


 オークションへのパスを手に入れた私はクー、エルザの二人を連れて来ていた。もちろん私は仮面に黒髪バージョンだ。


 奴隷の売買だけだと思ったら意外に普通の魔道具とかも売り出してるんだな? ほとんどいらないけど。


 チラリと同行者を見るとオークションの経過を見ながらクーはそわそわして、ジッと商品が出てくる舞台袖を注視している。エルザはエルザで純粋にオークションに参加して、コレまでも幾つかの物を競り落としていた。


 まあ、形式上奴隷にしてるとはいえ、エルザの個人資産とかまでは没収した訳ではないからね。しかし、こいつも意外と金持ってるな。金持ちの奴隷ってある意味矛盾してるような?


 何故このメンバーかというと、オークションには参加するものによって独自のルールがある事が多いので他のオークションに参加経験のあるエルザを、そしてクーの仲間を競り落とした時に話をスムーズに進める為にクーを連れてきた。


 私じゃクーの仲間も分からないからね。


 しかし、このメンバーでオークションに行く事が決定した時は色々言われたな。「変な物を買い込む未来しか見えない」とか「止める人間が誰もいない」とか、私達の信頼度が高すぎません?


 エルザはエルザで私と同じ扱いは不服だとか言うしさ。なんなのかねこの抜群の信頼感? 解せぬ。


 そんな皆は現在ヘルさんのスキルを使い、私を通して私が見ているものを城でモニターしている。


 いやはやヘルさんの万能感が留まる所を知らないね。


〈ありがとうございます〉


 いえいえ。


 そんな感じでオークションを眺めていると遂にモンスターや奴隷が商品として出てくるようになった。


 そろそろか。


 まず始めに登場したのは犬型のモンスター。プチドックと呼ばれる魔物で、見た目は完全に小型犬。その為、テイマーや貴族のご令嬢などには無類の人気を誇るらしい。


 もっふもふだぁ~。


 次に出てきたのは虹孔雀と呼ばれるモンスター。性格は温厚、というよりはほとんど動かないらしい。広げた羽は透き通り光に照らされ輝いても見える。抜け落ちた羽根は装飾品として高値で取引されるのだそうだ。


 派手だしキラキラしてて目がチカチカする。なんか紅白が懐かしくなってきた。


 その後も様々なモンスターが登場する。そのほとんどが戦闘力があまりないモンスターで、なかなか出会うことがないような希少な物ばかりだった。


 このラインナップだと一番最初のプチドックが浮くな? 何故登場した? 謎だ。


 モンスターの出品が終わると今度は奴隷や人型モンスターの番になる。


 戦闘奴隷や性奴隷などの奴隷が数多く出品され、その中に混じって気性が荒く戦闘力が高いモンスターも出品される。


 う~む。あのライオンっぽいの格好いいな。さっきの熊っぽいのもなかなかのモフリ感があったし。しかし、野生の動物は意外に毛が固くてモフリが少ないらしい。これはいっちょ、モフリ感を上げる魔道具を作成するべきではないだろうか!?


「何をウンウン唸っとるんじゃ主様?」

「うん。人類の命題に付いて」

「そうか。我は人類ではないので頑張ってくれ」


 早々に諦められた!? エルザはエルザでこっち見ないようにしてるし。

何故だ? モフリ感は人類の命題の筈。あの触った時のフニョン感やフサモフ感! 少し短い毛だけで感じるフサモフに、長い毛を押すと体に沈むフニョン感、そうフニョンであってプニでもプヨでもないのだよ!


 私が一人熱く語っても二人とも理解してくれない。何故理解して貰えない解せぬ。しかしどうせなら牛……じゃないミノタウロスとかも出品されれば良いのに。


「ハクア様は奴隷は買わないので?」

「えっ? なんで?」

「真面目に言えばハクア様は奴隷などに忌避があると思ったので、戦闘奴隷や性奴隷とはいえ無理矢理にでも買い取るかと思いました」

「それは確かに我も思ったのじゃ」

「……そうでもないよ。まっ、人によりかな?」


 今出てるのは自分の境遇を受け入れてる奴ばっかだしね。そんなのまで助けてなんていられんよ。


 しばらく見ていると今度は月兎族の青年が運ばれて来る。するとヘルさんからミミの知り合いだと連絡が入り、私はその青年を競り落とす。その後も何人か月兎族が出てきたので競り落とした。


 次に出てきたのはエルフの少女だった。


 まあ、エルフだから私よりも年上だろうけど司会者の話では少女らしい。


 らしい。というのはその少女が全身を余すところ無く金属鎧で覆っていたからだ。しかしこれは非常に珍しい。通常エルフは戦士だとしても、ああいった全身鎧は着ないものだ。

何故なら自然と共にあるエルフにとっては、あまりの重装甲はステータス的にもマイナスの補正が掛かるからだ。その為、アリシアのようなレザー系の装備か厚手のローブ、胸当て、手甲、すね当て等を金属性の鎧で覆うのが、エルフにとっての重装甲なのだ。


 なのになんであんな格好? 動きを制限する為か? でも奴隷として売られるエルフの最大のウリは容姿と魔力だ。それなのに奴隷商が容姿を隠すか?


「エルフにあんな物を着せるなんて妙ですね?」


 不思議に思い首を傾げる私にエルザも同意する。そんな私達を他所に司会者の説明は進んで行く。


「この少女、見た目良く戦闘も出来る奴隷でしたが、買い取られた先で色々あり戻って来ました。え~、パニック症を患っている事と、前買い取り主からバビルスの毒を掛ってしまった為の再出品でございます。その代わり未だ処女を保ってはいます」

「パニック症にバビルスの毒?」

「パニック症は過去の強い体験から、類似の体験をするとパニックを起こす症状ですね」


 成る程PTSD、トラウマの事か。


「バビルスは、確か魔性の森におる毒攻撃を操る虫じゃな。強い毒性を持ち肌を溶かす毒を使ってきた筈じゃ」


 硫酸みたいな感じかな?


「とはいえ、死に至るものではないので拷問などにも使われる毒ですね」


 うん。その使い道を知ってる君が怖い。って、ヒィ~、なんでタイミング良くこっち向いてニコッと笑うの!?


 その後の質問で鎧の下を見せろと言う言葉に司会者が兜の前を開ける。

するとその顔にはボロボロの赤黒い包帯を乱雑に巻かれ、鎧の下のスクール水着のようなインナーから覗く手足には、切り傷や打撲、火傷等の怪我が見えた。恐らくあのインナーの下はもっと酷いのだろう。


「酷いですね。悪質な治療師か外法治療の痕ですよ」


 エルザの言った外法治療とは、症状を固定させたまま治療する事である。


 有り体に言えば、治療魔法を使えば殴られて顔の形が変わっても元に戻す事が出来る。しかし、それを意図的に行わず治療する事を指すのだ。

これをやられると症状が固定して元の形には戻らなくなる。分かりやすい例えとしては腕を切り落とされた時だ。落とされた腕を傷口に固定して治療魔法を掛ければ時間は掛かるが元に戻る。

しかしそれをせず腕の傷口だけを治療すれば、傷口は皮膚を再生してしまう為、腕を再びくっつける事が出来なくなってしまうのだ。


 火傷もケロイド状になってるし多分わざとだろうな。


 効果は様々だが、奴隷や犯罪者などに使われる事が多い。誰しも根源的に自分の形が損なわれるというのは恐怖するものらしい。


 私なんて角生えたり、大きさも一日二日で変わってるけどね。まっ、普通はキツイよね?


 基準価格は普通の奴隷の男なら銀貨一枚から、女なら銀貨三枚からが平均だ。年齢や見た目によっても変わるけど、そんな中銀貨十枚からとなった彼女は、女のエルフで戦闘も出来る奴隷にしてはかなり安い。

その理由はさっきの説明に加え、戦闘が可能か確かめてはいない事、バビルスの毒の影響、体の傷等の要因によるものらしい。本当ならもっと安いがエルフの処女なのでこの値段からスタートするようだ。


 それでもあそこまで酷い状態の子を買うのか? と、思っているとエルザが、ああいった壊れかけの奴隷は何をしても許される。と買う人間がいるのだそうだ。


 始まると同時に何人かのバイヤー、デップリ太った貴族や傷を見て興奮していた貴族がどんどん値段をつり上げていく。銀貨が七十枚を越えた辺りからだんだんと声が少なくなっていく。


 どうやらこの辺りで落ち着きそうか。


「七十五枚! 七十五枚以上の方はいらっしゃいませんか!」

「金貨一枚」


 声が静まり決まりそうになった所で私は金額をつり上げる。


「くっ! 更に銀貨十枚だ!」

「金貨二枚」

「なっ!?」

「他にいらっしゃいませんか。では金貨二枚で五十番の方落札です」

「ハクア様。流石に出しすぎでは?」

「主様。金足りるのか? まだ我の仲間もおるんじゃぞ」

「大丈夫だよ」


 話をしている間にもどんどん進むオークション。すると次の商品が出てきた所で、クーが席を立ち上がった。


「ぬ、主様!」


 ……あれがクーの仲間かぁ。


 そこにはコウモリのような羽を持ち、頭から牛やら羊やらの様々な角を生やした。露出の激しい格好をした美少女や美女達が並んでいた。


 チャイナっぽいのや水着っぽいの、ゴスロリチックにその他もろもろ総じて体のラインが出てる服やね!


 うん。サキュバスだね。エロいぜ! でも、予想よりも数多っ!


 そこには総勢十二人のサキュバスが並んでいた。

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