第152話「そ、そそそ、そんな事無いんだからね!」

「……ふう、厳しい戦いだった」


 現在私は長く続いた作戦会議という名の戦いに何とか耐えきり、ヘルさんと共に皆の元に帰る途中だった。


 危ない所だったぜ!


「……マスター寝ていましたよね?」

「いやいや、まさかそんな事……バレてた?」

「始まって五分もしない内に寝ましたよね? と、言うよりは初めから寝るつもりだから私を連れて来たんですよね?」


 おふっ! バレてーら。


「そ、そそそ、そんな事無いんだからね!」

「また盛大に分かりやすく……先ほど寝ていた時の様に分からない様にすれば、まだ分かりにくいものを……」

「な、何の事かな~?」

「座りながら足を組んで、姿勢を正したまま、顔を真っ直ぐ前に向け、あたかも真面目に話しを聞いているかの様にしていましたからね。正直隣で無ければ分からなかったかも知れません」

「ふふ、私の数少ない特技の一つだからね! って、あぁ、そんな呆れた目で見ないで!」

「呆れてなどいませんから大丈夫です。どちらかと言えば、この辺りで一度軽蔑するべきかと悩んでいるだけです」


 状況はもっと悪かった。


「え~と、何と申しますか……すいません! 見捨てないで下さい!?」

「まあ、冗談なので別に良いのですが、マスターは何を考えているんです?」


 その聞き方だと正気を疑われてる様なんだけど?


「いえ、この手の作戦会議はマスターならちゃんと聞くと思っていたので」

「おっさんの声はどうも眠気を誘う」

「マスター」

「すいません冗談ですごめんなさい…………う~ん、本音を言うと私個人は、この作戦失敗すると思うんだよね?」

「っ! 何故です?」

「一つはこの世界の騎士が殆んど貴族だという事、そして騎士も冒険者も互いに良い印象が無い事、かな?」

「確かにそうですが、それでも作戦が失敗するほどとは──」

「まあね。だからこれは私とヘルさんが心に留めて置けば良い」

「そうですね。ですが、詳しく聞いても良いですか?」

「別に良いけど、殆んど憶測だよ。まず貴族の出身者が多いと、どうしても平民出身の多い冒険者は下に見がちに為る。それは多分騎士国なら尚更ね。まあ、中にはそう思わないのも居るだろうけど、大多数の中なら埋没する意見だろうしね」

「確かにそうですね」

「しかもそのせいで冒険者との衝突も多いそうだからね。お互いに出し抜こうと考えていてもおかしくない。騎士なら全体的に、冒険者は個の群れだから尚更ね」

「確かに、そう考えればその可能性は低くは無いですね」


 流石ヘルさん。そう、低くは無いんだよね。ある訳でも、無い訳でも無い。警戒しすぎれば反応が後れ、警戒してなければ痛烈な一撃を食らう、そんな面倒な物だからこそ私はヘルさんにだけ話している。


 そもそも私がそう考えたのは、コルクルの件でアリスベルの城に行った時、騎士の反応を見たからだ。

 そこにあったのは明らかな嘲笑と、差別の目、そして国王と一緒に甘い汁を吸っていたのだろう。余計な事をしてくれたな、という視線だった。恐らく前者の二つは、プライドと出自から来る物だろう事は少し調べればすぐに分かった。


 だからこそ私は今回の作戦が決まってから、騎士と冒険者の確執に付いてもいろいろ調べた。

 そしたら出るわ出るわで大した手間にもならなかったからね。

 それに今回は勇者も絡んでるみたいだからね。あいつらはどう動くのか予測が立てにくくて困る。


「では、それが起こるとして警戒すべきはモンスターの襲来ですか」

「だね」


 有り得るのはモンスターをこちらに押し付け、自分達で最上級の手柄である魔族を討ち取ること。とはいえそれはこちら側にも言える事だ。

 まあ、警戒に越した事は無いって事だね。それよりも……。


「私としては、アレクトラの所に居た勇者の動きが気になる」

「勇者ですか?」

「うん。私なら合流する前の少ない状態か、もしくは……」

「合流直後のこのタイミングですね」

「うん。急激に人が増えて多少なりとも浮き足立ってるからね。私ならこのタイミングが一番嫌かな?」

「索敵範囲はなるべく広めに取っておきます」

「うん。頼りにしてます」

「はい。お任せを」


 こうして二人だけで作戦を立てながら私達は自分達の陣に戻るのだった。

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