第151話これだからストーカーは

 陣へと辿り着いた私達は現在その足で陣の中を見て回っていた。


「おい、無視をするな!」


 陣の各所には至る所にテントの様な物が張られ、所狭しと並べられている。


「おい! 聞いているのか!」


 これ、攻められたら一発じゃね?


「陣を張るってこんな物なの?」

「大体はそうですね。但し冒険者の方々はあまり大所帯で、というのは在りませんしここまででは無いですよ」


 私の言葉に騎士出身のフロストが答える。


 そんなもんか?


「無視をするな小娘!」

「いい加減うるさいぞハゲ」

「き、貴様! 誰のせいだと思っているんだ!」

「私のお陰で未練なくハゲられたんでしょ? お礼は?」

「ぐっ、くっ、この」

「そもそも、役に立ちそうにも無い癖に何でこんな前線に居るの? 邪魔だよ」

「この私が自ら指揮を取ってやろうというのに何と言う言いぐさだ!」

「必要ない。その頭の毛根の様に消えてくれ」

「貴様ー!」

「そもそも何で私達に着いてくるのさ」

「ふん、貴様の様な危険人物を野放しに出来るか!」

「ウザ!」


 これだからストーカーは困る。

 きっとまだ瑠璃に対して「ルーリンさんは自分が守ってあげなければ」とか頭悪い事考えてんだろうな~? それよりもっと。


 私達は陣の中を突っ切り外れの方にやって来る。そして、天幕の無い所まで来ると立ち止まり、ヘルさんに確認を取り始める。


「まあ、ハゲはどうでも良いや。この辺なら大丈夫でしょ?」

「そうですね。ここなら天幕も在りませんし良いと思われます。それに遮蔽物も在りませんから、私が感知出来ます」

「なら決まりだね? ミルリルも手伝ってくれるんだっけ?」

「はい! コロ様に教えて戴いたので頑張ります」


 私はその返事を聞くと、木の棒を拾い地面に線を書き始める。


「う~ん、この位あればゆったり出来るかな?」

「もうちょい広い方が良くない?」

「こんくらい?」

「それだけあれば大丈夫だと思いますよご主人様」

「んじゃ後は、厚さをこれくらいで……と、完成。じゃあ、アリシア、コロ、ミルリルお願い」

「「はい」」

「了解かな」

「貴様ら何をするつもりだ! ハッ!? まさか破壊工作を」

「ウルセー、ハゲは黙ってろ」


 ハッ!? じゃねえんだよ。ハッ!? じゃ。


 私はうるさいハゲの膝裏を蹴り、膝カックンする。

 そうして黙らせると、アリシア達の作業が始まったので見守る。

 アリシア達は私が地面に書いた線に沿って、土魔法で壁を作り、更にそれをコロが石で補強する。そして高さ二メートル程の壁を作り終えると、今度はその壁に天井を取り付け、あっという間に長方形の四角い部屋が出来上がった。

 私は入り口から中に入り、部屋の中ほどの位置から壁に向かって、部屋の半分を一段高くし、その部分をコロにまた石で補強して貰う。ミルリルはその間に、一段下の所に土魔法で窯等を作り料理する場所を整え、アリシアはテーブルや椅子を作り出す。


「こんな物ですかね?」

「二人ともお疲れ様」

「お役にたてて良かったです」

「な、何だこれは?」

「オイコラハゲ! 勝手に入ってくるなよ」

「これは何だと聞いているんだ!」

「別に、天幕が嫌だから部屋作っただけ、さあ説明はくれてやったんだから出てけ」

「マスター、ギルド長とアレクトラが来ました」


 ヘルさんに言われ私が外に出ると、入り口の所で二人揃って驚いていた。


「どうしたの?」

「凄いな。まさか土魔法でこんな物を作るとは」

「驚きました。こんな使い道が有ったのですね」

「皆頭固すぎ」


 全く、土魔法様に向かって何言ってやがる。


「それで何の用?」

「アレクトラ様をお連れしたんだ。まさか護衛が居るとはいえ、送らないわけにはいかんだろう?」


 そりゃそうか。


「中入る? お茶位出すよ?」

「良いのか?」

「客にはそれ位するよ」


 そして私達は中に入り、全員でお茶を飲む。その間もアレクトラ達は興味深そうに中を見回している。


 さして大した物もあるまいに。今回は訓練の意味も含めてアリシア達に手伝って貰ったけど本気を出せばもっと行ける! なんなら家具にも拘りを見せたい所だ。閑話休題。


「ふむ。もし良かったら今度ギルドで講習をやって貰えんか?」

「講習? なんの?」

「ああ、この土魔法の建物のだ。防御面においても安全性、快適さにおいても比較にならんからな。これが出来ると出来ないでは大違いだろう」

「それならコロに聞いてよ。私よりも説明上手だから、とはいえこのレベルで土系統の魔法を使えないとめんどいぞ」

「問題はそこか。いやしかしそれでも頼めないか」

「あの、え~と、ボクで良いのなら」

「本当か?!」

「は、はいかな」

「値段は応相談」

「うぐ、わ、わかった」

「貴様また金か! 少しは技術力を人々に分け与えようという気は……」

「無い。嫌なら交渉は決裂。そもそもお前は早く帰れうるさい」

「ゲイル少し黙っていてくれ。それではコロ君、帰ったら日程を調整しよう」

「分かったかな」


 ふむ。交渉は済んだみたいだな。なら──。


「一つ聞きたい」

「なんだい?」

「ここに陣を構えてから、一度でも襲撃は?」

「いや来ていないな。ここから砦まではまだ幾分距離がある。その為だろう」

「……そうか」


 気が付いていない? 本当にそうか?


「何故だい?」

「私なら合流する前に叩く。何より陣の位置を見れば挟撃されるのは明白、その前に叩くのは定石だと思うけど?」

「確かにな。一応警戒はしているんだがな」

「なら良い。余計な事を聞いた」

「いや、それよりも君はこのまま私と共に来てくれるか? このまま主要な人物を集め、作戦を伝えたいのだが」

「分かった」


 そして私とヘルさんの二人で、ギルド長と共にギルドの天幕へ赴き、退屈な作戦会議に参加するのだった。

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