第208話む? ゆったりしてる服だから分かりにくいがなかなか……

 おふっ、またここか。


 私は気が付いたらまたもや駄女神空間に居た事に思わず溜め息を溢す。


『シルフィン:またここか。とは、随分な言い草ですね』


 外はどうなってるの?


『シルフィン:今まさに気を失って地面に向かってる最中です』


 アレ? それって、ここから出たら地面に顔面激突コース?


『シルフィン:そうですね』


 駄女神の一言に頭を抱えながら対抗策を必死に練る私。だが、駄女神はそんな私をいつもとは違い、探るような目で見ていた。


『シルフィン:何処まで分かっているのですか?』


 それは余りにも抽象的で漠然とした質問だった。

 何が? とも、どれに対して? とも取れる質問に、私は溜め息を吐きつつシルフィンの目を正面に捉え、ゆっくりと近付き目の前で止まる。


 何処までとは、随分曖昧な聞き方だね? それは、転生する前からモンスターだと分かってた事? それとも【喰吸】のスキルの説明を誤魔化して本来の使い方をさせなかった事? それとも【喰吸】の能力を制限した事?


 私は人差し指でシルフィンの胸をプニプニつつきつつ尋ねて行く。


 む? ゆったりしてる服だから分かりにくいがなかなか……。


『シルフィン:はぁ、グロスのあの話しから良くもまぁそこまで……責めないんですか? 貴女には権利が在ると思いますが?』


 別に、必要だったんでしょ?


 そう、私はグロスの話を聞いて今言った可能性に気が付いた。だが、その事で目の前の女を責める気も私には無かった。


 そもそも何故グロスの話を聞いてこんな予測になったのか?

 今までの皆の話し振りからして、転生者がモンスターに転生するのは稀なのだと分かる。そしてこのスキル、何時の間にか増えていたり、何故か最初から在るものだと言っていた。

 更に勇者側のシステムに邪神が介入した為にエラーが起きたとも言っていた。

 そしてグロスの話を聞いて思った事は、魔物同士がお互いの魔石を食らう事で能力を上げる。と、言うのは私のスキルと似ているのでは? と、思ったのだ。


 そして同時にこのスキルは元々魔物側が得るスキルなのでは? とも考えた。そう考えれば勇者のギフトを取り込んだ事で、私の具合が悪くなったのも自然な事だと解釈出来る。


 モンスターが勇者の力なんぞゲットしたら具合も悪くなるよね。


 更に言えばそんな魔物側が得るスキルなのだとすれば、転生前に私がモンスターになる事は分かると思う。


 まあ、ここは勘何だけどね? はずれては無さそうだ。


 スキルの説明にしても、グロスの話では魔物同士が血肉を食らい合い魔石も食らうと言っていた事から、本来このスキルは魔物の魔石を得る事でその真価を発揮する物。

 そうだと考えれば、恐らくスキルを獲るのは副次的効果で、経験値の取得効率アップが本来の能力なのだろう。


 相手の魔力を奪って自分の物にする。それは一番最初にこのスキルを見付けた時に私が思い描いた能力その物だった。


 そして能力の制限。これもその考えが正しいのなら簡単な事だ。

 通常とは違うスキルの進化。全てを把握している訳では無いので絶対とは言わないが、元々が私が扱い切れないスキルなのだとすれば、能力の制限を限定解除したのが今の形なのだと思う。


 私はそんな自分の考えを話しながらシルフィンの胸をつつきプニプニしていると『いつまでやってるんですか!』と、言いながら指をバシッと叩き落とされた。


 地味に痛い。アレ? 思った以上にジンジンする!?


『シルフィン:穴だらけでは在りますが概ね正解ですよ』


 まあ、能力の制限はさっきも言った通り私が扱い切れないからでしょ?


『シルフィン:概ね。と、言ったのはその部分ですね。扱うだけならば今の貴女。いえ、転生した段階から十全に使えたでしょう』


 ……じゃあ何で?


『シルフィン:他の生物の魔力を取り入れる。言葉にするのは簡単ですが実際そこまで簡単な物ではありません。移植した他人の臓器に拒絶反応を起こす様に、他人の魔力もまた同じ事です』


 シルフィンが言うには、このスキルの能力はほぼ私の推測通りらしい。そしてこのスキルを制限した理由が多少違った様だ。


 このスキル。元々は魔石、つまりは相手の魔力の源を取り込む事で、経験値やスキルの熟練度を通常よりも多く奪い取る物なのだ。だが、そこには一つ問題がある。


 それが人間としての自我だ。


 弱い魔物は自我が薄く。強く、そして何よりも生き抜くという本能に従って他者を襲う。

 だからこそ相手の魔力を奪い、自身体が変質する事に対して忌避感が無く。また、自我が薄い事で他者の魔力と混ざり合い、体だけで無く自我までも変質したとしても何も感じない。


 シルフィンによれば、グロスの言っていた急速に理解した。

 これは、今まで獲てきた様々な魔物の力や意思、知識等が混ざりあった結果グロスという自我が新しく生まれたらしい。

 つまり、いろいろなモンスターを取り込んだ結果グロスという新しい生命として生まれ変わった様な物なのだとか。


 そして、自我を獲たモンスターは、ある意味で様々な複数の意思を束ねた強固な存在になるため、それ以降は滅多な事では自我の変質は起きないらしい。


 私には魔力を受け取る身体も魔力に抗いきれる程の強固な意思も無かった訳だね。下手したらゴブリン位なら何とかなっても、ホブゴブリン食った段階で身も心もモンスターになってた可能性すらある……と。


 だからこそシルフィンはスキルの能力を制限する事で、私の自我を保ちながらスキルを扱えるように説明を書き換え。その結果、私はモンスターの魔力の上澄みを取り込んでいたのだそうだ。


 魔石やドロップアイテムだと残った魔力が多いが、死んだモンスターの体の一部なら残った魔力が少ないそうだ。


『シルフィン:それなのに今回は、グロスが片腕に全ての魔力をかき集め、それを貴女が取り込んだ事で、貴女の中でグロスの魔力が暴れる結果になり、一瞬で意識を失ったんですよ。このまま貴女の意志が、グロスの魔力に負けることになれば、ハクアという個人の自我は消失します』


 なるほどね。


『シルフィン:冷静ですね』


 そうでも無いよ。でも、ここに呼ばれたって事は、まだ何とかする方法が在るんでしょ?


『シルフィン:ええ。あのまま意識を失えば、一気に魔力に侵食され貴女は消えたでしょうが、それは私がここに引き込んだ事で阻止しました』


 だよね。ありがと。


『シルフィン:礼はまだ早いですね。これから貴女の精神を元の世界に戻します。そうすれば貴女の身体を別の魔力が蝕み、魂を引き裂くような痛みとなって貴女の身体や精神を襲い、全てを変質させようとするでしょう。なのでその魔力をコントロールして体の中心に貴女の魔力で包み支配しなさい』


 また、無茶言うね? それが難しいからこんなになってるのに。


『シルフィン:出来なければ貴女が消え。貴女の体が仲間を傷付けるだけですよ。貴女はそれを許容出来ないでしょ?』


 確かに。


『シルフィン:こんな所で終わらないで下さいね。まだまだ貴女の見る世界を私も見たいので』


 頑張るよ。


『シルフィン:はい。それでは貴女を戻します。自分を忘れないで』

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