第209話じっくりコトコト気を抜かず

 何時もの女神空間から出た私の目に一番最初に映ったのは、迫り来る地面だった。


 ズザァッ! という音と共に地面へと落ちて行く私。だが、今の私には倒れて汚れた服も、打ち付けた顔の痛みも、気にしている余裕は全くと言って良い程無かった。


 何……だ。これ? 身体中が痛い。しかも、身体の中で熱の塊が暴れてる!?


「くっぁあ!」


 苦しむ私の周りで皆が私に呼び掛けてはいるが、あまりの痛みと苦しみに皆の声は言葉となって聞こえない。


 あ~。これがシルフィンが言ってたのか~。確かに、こんなの不意討ちでいきなり来たら気を失ってたかも……。


 私は身体中を支配する痛みと熱に侵されながら他人事の様に考える。


『シルフィン:しっかりしなさい! 言った事は覚えていますか!?』


 大丈夫だよ。


 身体を支配する痛みに歯を食い縛り、今にも身体を突き破りそうな熱を、自身の魔力で覆いながら中心に集めていく。


 くっ! キツ! それに、溢れる!


 私は身体中の至る所で暴れる、私の物では無い魔力を一ヶ所に集めて泥ダンゴの様に丸め、私の魔力でコーティングするイメージで封じ込め、支配しようとしたがそれではイメージが貧相過ぎたらしい。


 自分のイメージした玉が勝手に割れるとは思わなかったよ! あっ、くっ! 一回圧縮した分、さっきよりも痛みがぁぁ~。ダメだこれ! 次で成功させないと、私内側から弾けてピチュン! しそう。


 自分が汚ねぇ花火だぜ……。状態になるという最悪な未来要素図を描きながら、痛みと熱でイマイチまともに働いていない脳ミソを集中しろ! と、激励しつつ何とかイメージを考える。


 集めた物をコーティングする位のイメージじゃ、魔力を支配しようと圧縮しても壊れる。じゃあどうすれば良い?


 今までの私の中の魔力圧縮のイメージはさっきのと同じ、集めて、固めて、小さくする。これが、私の貧弱な魔法の威力を底上げして来たイメージだった。


 でも今そのイメージでは、圧力を掛けるべき私の魔力が集めた玉よりも貧弱過ぎて、圧縮が終わる前に周りを固める私の魔力が壊れて破裂してしまう。

 イメージの中での事とは言え、自分で抑え切れるイメージを持てなければ、結局は崩壊してしまう。だからこそ、今私にはコーティングして小さくする以外のイメージで、圧縮支配するイメージが必要なのだ。


 因みに何故支配する為に圧縮が必要なのか? それは実は単純な話だ。

 今の私は簡単に言えば、自分の許容量を越えた魔力を獲た事で、破裂寸前まで膨れている様な状態なのだ。だからそれを小さく圧縮する事で、中身を減らそうとしている訳だ。


 圧縮して量が減れば、膨張して破裂しそうな物が元に戻る。

 量が減っても魔力は圧縮して在るから濃度が濃くなり、扱える量自体は増えると言うわけだ。そして、それが出来ると言う事は完全に体内の魔力を自分の物として支配出来ている。と、言うことなのだとか。


 うん。正直今はどうでも良い!


 集中により加速する思考の中、必死に考えを巡らせるが一向に改善案は思い付かず、身体の中を魔力が今にも突き破ろうと暴れ回る。


 どちらにしても早い所イメージを固めなきゃ、挑戦する前に膨れて弾けるよね。このままだと?!

 圧縮、う~ん。この方向性が悪いのか? 言葉のイメージに流されてる? あぁ、クソ、痛い。熱い。なら別の言葉に置き換える?

 熱い。痛い。痛い。熱い。別の言葉。別の言葉。熱い。痛い。熱い。圧縮。別の言葉。

 収縮。凝縮。濃縮。濃縮? 濃度。熱? ……もしかしたら、いける……か? 料理でも煮詰めればその分味が濃くなる。だったら、真ん中に魔力を全て集めて煮詰めるイメージを──。


 私は迫り来る限界に急き立てられる様に思い付いた事を即座に実行に移す。


 頼むよ~。これ以上は思い付かないし、体力も精神力も限界だ!


 霧散していく集中力を何とか掻き集めながら必死にイメージを固める。

 魔力と言う名の水を中心に集め、それを集めて更に煮詰める。グツグツと集めた魔力が泡を放ち、だんだんとその中身が凝縮され嵩を減らし濃度を増していく。


 もっと、もっと、イメージを……音や色、匂いまでイメージして、正確に、鮮明に、形の無い魔力に形を与えて……ゆっくりと、慎重に、グツグツと……。

 最初は少なく……慣れてきたら少しずつ量を増やして煮込んで濃度を上げていく──。


 集中、集中、少しずつ楽になってきた。

 でもここで制御を手放せば一気に持っていかれる。じっくりコトコト気を抜かず、出来る限り急いで、ケアレスミスが私の真骨頂だからね! 最後の最後で転けないように──。


 魔力の支配の成功を感じながらゆっくりと呼吸を整える。

 そして、更に集中していく。すると……ドクンッ! と、私の中の中核が一際大きく跳ね、私の身体もビグンッ! と跳ねる。


 ▶【喰吸.魂】のスキルが発動しました。

【破壊LV.8→LV.MAX】に上がりました。

【HP自動回復LV.3→LV.6】に上がりしました。

【魔力装甲LV.1】を習得しました。

【剛力LV.8→LV.MAX】が【剛力2LV.1(新)】に変化しました。

【堅牢LV.7→LV.MAX】が【堅牢2LV.1(新)】に変化しました。

【鈍重の邪眼】と【呪いの邪眼】【麻痺の邪眼】【減魔の邪眼】が統合され【怠惰の邪眼】に変化しました。

 ハクアのHPが6000に上がりました。


 何か最後に凄いのキター!! マジか! 何で?!


『シルフィン:グロスの魔力を取り込み貴女の器が無理矢理拡張されたからですね。とは言え、同じ事をしても同じ結果になるとも限りませんし。次こそ貴女が壊れる可能性もあるので注意しなさい。とりあえず同じ状況になったら私に相談です。報・連・相を、しっかりとわかりましたか?』


 は~い。先生。


『シルフィン:よろしい』


 じゃあ、次に出てくる時は女教師コスで。


『シルフィン:何故そうなった!?』


 はい。決定で。


 私は早々に話を切り上げさっさと起き上がる。


「ハーちゃん!」

「ご主人様! もう大丈夫何ですか?」

「大体はヘル経由で女神に聞いたが何が起きた?」

「え~と……腕を取り込んだらグロスの力がヒャッハーして、内側からピチュンしそうだから、丸めて固めたら失敗して、じっくりコトコト、グツグツするまで煮込んだら何とか勝てた? 的な?」

「うむ。全く解らんのじゃ」

「取り敢えずもう大丈夫何だよねハクア?」

「うん。そっちが重要かな」


 皆が頷いてるけど解りにくかった? 私的にはめっちゃ分かりやすく説明したんだが? これ、絶対皆、私の言葉の理解を放棄してるよね? 解せん。


 私はそんな皆の反応を見ながら答えつつ、何処の説明が解りにくかったのか一人頭を傾げるのだった。

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