第210話何故にエレオノさん赤くなるの?

「ちくしょうっ!」


 ……まさか、こんな事になるなんて。


 今私は四つん這いになり、後悔や哀しみ、ままならない現実に憤りながら地面に拳を叩き付けている。

 しかも若干、目が潤んでいる気がするのも気のせいでは無いだろう。そう思っていると、ポタポタと地面を湿らせる水滴が私の瞳から、頬を伝って流れ落ちて行く。


「マスター……」

「ご主人様……」


 何故私がこんな風になっているのか、それは少し前の時間に遡る。


 じっくりコトコト魔力を煮込み強くなった私は、懇切丁寧に自身に起こった事を皆に説明した。だが、何故か皆からのリアクションは薄く、むしろ何を言っているのか解らない。と、言われてしまった。解せん。


 そんな状況をみかねて、当初の予定通り小休憩を挟みつつ、現状の情報共有をヘルさんが勧めたのだった。そして、ヘルさんは私の記憶を探り、女神空間でシルフィンと私が話した事を皆に説明した。


 しかし、私は言いたい! 


 ちょっと説明の仕方が違っただけで、私とヘルさんの言った事は全く同じなのに何故皆ヘルさんの言葉だとあっさり理解するのかと!


 〈マスターの説明は簡略化され過ぎた上に、擬音が多く自己完結している節があるので説明になっていませんから〉


 素で反省点述べられた!? すいません! でも、反省はしない! きっとまたやるから!


 〈そこは反省しなくても良いので学習してください〉


 あっ、はい。すいません。それにしてもヘルさんって、まだ私の記憶探れるんだね? 身体から離れたから無理だと思った。


 〈私のパーソナリティーはマスターとチュートリアルの記憶ですから。しかも、マスターとは永らく繋がっていた為、魂が結び付いています〉


 だから分かるの?


 〈はい。パスを辿れば記憶を探れます〉


 なるほど。


 まあ、そんなこんなで私に起こった事は激しく納得はいかないがヘルさんによって皆に説明された。その後、それぞれが戦った戦闘に付いて軽く報告する事になったのだ。




 そこで私は聞いてしまった。聞いてしまったのだ!!




 ヘルさんが……ヘルさんが戦いの最中にパイルバンカーを使い華麗に敵を倒した事を!! しかもそのパイルバンカー自体は壊れて仕舞い、今回の戦いではもう見られないと言う事を……聞いて、聞いてしまったのだ……。


 そして私は膝から崩れ落ち、冒頭の様になっていた。


「「マスター(ご主人様)そろそろ話を進めますよ」」

「あっ、はい」


 その言葉に返事してそそくさと正座する私。


「……お前の仲間がお前の事を分かっているようで何よりだ」


 何だその言い草は! まるで私がめんどくさい奴みたいじゃないか! しかし、はぁ……。


「パイルバンカー見たかったなぁ」

「あっ、まだ引き摺るんだ」

「はぁ、マスター。一度使った事である程度の有用生は分かりました。戦いが終わったら改善点も見付けたのでそれを踏まえてもう一度作りましょう」

「ヘルさん……うん!」


 ヤバい! ヘルさんが男前でドキドキする! 惚れそう!


「あぁ、ハーちゃんが乙女な顔に!」

「ヘルさんまで! うぅ、私も魔道具の作り方を学んでご主人様のお役に立ちたいです」

「でも、内容は兵器の話し何だけどね。じゃあ、次はボク達の話しかな?」


 そしてそのままコロ達の話を聞いたけど。


 何そのクーの大人モードって! しかも超絶美人だと! 見たい! 超見たい!


「クー! 私も見たい!」

「あ~。主様? あれはかなり制限の在るもので、やった後も後遺症が酷いのじゃが?」

「安心して良いよ。オールフルヒールは何回でも掛けるから!」

「何回も!? 一体何度やらせる積もり何じゃ!?」

「気が済むまで?」

「そんな小首を傾げて可愛く言っても無理なのじゃ!?」


 ちっ! ケチ臭い。


「そんな顔してもしょうがないのじゃ。あれは禁じ手に近い。下手したら我も主様の様に精神が破壊される可能性も有ったのじゃ」

「はぁ、ならしょうがないかぁ。クーが進化するのを待つしかないかぁ。良いなぁ~、コロばっか」

「アレ? ここでボクに来るの?!」


 だって、見たかったんだもん。黒髪美女。うぅ、気になる。


「次はアリシア達の戦いだね?」


 私がそう言って二人に顔を向けると、何故か二人がお互いの顔を見て苦笑する。


 何があったと?


 二人の態度に内心首を傾げながらも話しを促すと、二人はそれぞれに自分に起こった事を話し始めた。そして、それは私だけで無く皆にとっても驚くべき内容だった。


「じゃあ、エレオノは剣の力を使って完全な吸血鬼になった、と?」

「え~と、はい」


 うわっ、マジだよ。ステータスの種族が吸血鬼になってる。

 う~ん。仮にも親御さんから預かった娘をモンスターに片足突っ込んだ状態から、モンスター枠にして返すってどうなの? 私なら殴ってるなぁ。


「で、でも、ハクアは気にしなくて良いからね? だって私が勝手にやった事だし! ハクア?」

「そうは言ってもなぁ。親からも頼まれてた訳だし責任取るべき?」

「「「えっ?」」」

「せ、せせせ、責任って何ですかご主人様?!」

「ハーちゃん! それプロポーズですか!? 私が居るのに!?」

「ええっ!そ、そうなのハクア?!」


 何故こうなった? 解せぬ?


「何でプロポーズになんてなるよ? ただ単に、親御さんから預かった娘を、モンスター枠にしちゃったから面倒とかみた方がって思っただけだよ」

「あぅ、う~」


 何故にエレオノさん赤くなるの?


「マスター、元々半吸血鬼でも余計な騒動を避けるため、ステータス隠蔽する道具を使っていた訳ですし。私達は総じて周りから見れば怪しい集まりです。何よりも元々全員で暮らしているので、今までとたいして変わりません」


 確かに、私達は色んな種族が集まってるからね。見た目で分かるのがアリシアだけでも結構注目浴びるからなぁ。美人だしな!


「そっかぁ。確かにたいして変わらないかも?」

「そ、そうだよハクア! 何も変わらないって!」

「あぁ、でも、さっきエレオノがハクアにしたのはその影響なのかな?」

「恐らくそうだと思うのじゃ」

「そうなのエレオノ?」

「えっ? その、さっきのはハクアの血の匂い嗅いだらボーッとしちゃって、声掛けられるまで気が付かなかったんだ」

「うむ。我の知り合いにも吸血鬼が居ったが同じ感じじゃったな。まぁ、主様にと言うのは驚いたが」

「どういう事だ?」

「吸血行為は異性間に置ける衝動。つまり、気になる、自分の物にしたいと言う愛情への征服欲求や求愛行動の一種です。吸血中は敏感になりエクスタシーを感じます」

「ほう。つまりはそうなのか?」


 へ~。そうなんだ。ん? それって?


「エレオノは私が好きとか?」


 ボッ! と音が出そうな位いきなり真っ赤になったエレオノが「やっ、その」とか「違くて」とか言っている。可愛い。


「す、好きだけど、そうじゃなくて、あぅ」

「はぁ、ついにエレオノまで」

「……ハーちゃんの女たらし」

「まあ、何だ? 相変わらずだな」


 アリシア達は何か非難がましい目でこっちを見ながら話してるし、澪は呆れてる。解せん。私が何をした。


「吸血鬼になってしまったならこれからは定期的に血が必要でしょう。責任と言うならマスターが血を提供しては?」

「えっ? そんなんダメだよ!」

「血ぐらい良いよ。私が良いって言ってんだから飲んで良い! 強制」

「う~、強制、なの?」

「うん。そう」

「えっと、それじゃあ。これからもよろしくお願いします」

「うん」


 内心物凄く可愛くてスゲードキドキしています。何故に?

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