第541話……やっぱあのエフェクトカッコよくてずるい

「あっ……うぐ……」


 土煙の中に立ち、道化一号の首を片手で釣り上げるアカルフェル。その瞳に憤怒を宿し今にも殺しそうだ。


「なん……で」


「何故? だと……まだわからんか、貴様はまがい物だけならいざ知らず、同胞である者達まで死に晒したのだ。しかも……無様に言い訳だと? 恥を知れ!」


 おい、私はいいんかい。まあ、私も逆ならアカルフェルなんざどうでもいいから同じ事言うが。


「ひっ……ち、違っ……」


「違う……だと? もういい死ね───」


 カキンッ!


「なんのつもりだ」


「いやー、その辺にしとかね」


 全く。ただのクナイを投げただけとはいえ、避けもせずに体の硬度だけで弾くとか、ドラゴンはやっぱ存在自体がずりぃなぁ。


 道化一号を貫く瞬間、クナイを投げて邪魔をした私は、アカルフェルの殺気を一身に受けて対峙する。


 さて、実はさっきの避けてアトゥイ助けただけで体がバッキバキな訳だが、今のコンディションでどこまで出来るか。


「貴様とてコレが死ぬ分には構わん筈だが?」


「確かにね。私はそいつがどうなろうが知ったこっちゃない」


「ならば───」


「だけど……だけどな。そいつのくだらない死や、てめぇの気晴らしのために、あの戦いを、あの死を汚すのなら相手が誰であろうが潰す」


 ピリッと空気が張り詰め、辺りに緊張が走る。


「ほう。今はこのゲスを処理する方が先だと思い見逃せば、ずいぶんと調子に乗ることだな羽虫」


「はっ、私からすればどっちも変わらないゲスだけどな爬虫類」


 瞬間、アカルフェルの体が揺れ、次の一瞬で既に私の前で攻撃態勢に入っていた。


「死ね」


 速い。


「……そこまで」


 アカルフェルと私の間に割って入る……どころか、私を抱えたまま10メートルは離れているシフィー。

 観客席というさらに遠くから、アカルフェルよりも速く移動するその超スピードに、目の前のアカルフェルも忘れて見入ってしまった。


 まあ、見てたところで反応は出来るけど、その反応に体が全くついていってくれなかったのだが。


 しかしシフィーは速かった。

 これ、全体的なスピードは血戦鬼よりも上かな? あいつも私と同じで、攻撃のスピードが極端に速いから速く感じるけど、全体的なスピードでいえばそうでもなかったし。


「御前だ。控えろ」


「まだやるなら俺が相手になるぜ」


「ッ!?」


 抱えられたままアカルフェルに視線を移せば、シフィー程の速さではないが、同時に動いていた地龍王と火龍王に抑えられている。


 もちろんこの二人もアカルフェルよりは速い。


 うーむ。龍王こえー。


 三龍王の空気感とおばあちゃんの纏う雰囲気からして、あの全く動いてないおばあちゃんも、あそこからアカルフェルをヤっちゃうすべがあるのだろう。


 だって三人とも凄みながら、どこかホッとした空気出してるもん。


「引きなさい。この場は貴方の出る幕ではないわ」


「……わかりました」


 短いやり取りをして不服そうに帰るアカルフェルがこちらを睨む。そんなアカルフェルにニヤリと返した後、改めてシフィーに礼を言う。


「シ……風龍王ありがとう」


「気にしなくていい。それよりも今は万全じゃないのに挑発し過ぎ」


「ふわっぷ。すまん」


 かるーいデコピンをされながらの注意。


 そう、そうだよ。これがデコピンだよ! あんな首が消し飛ぶかと思うデコピンなんて、デコピンとは言わないんだよ。


 なんて感動を密かにしてたら呆れられた。何故に?


「さて、じゃあ続きいいかしら?」


 と、とりあえず場の収拾がついたので仕切り直し。


 横を見れば道化達は青ざめて震えている。どうやらここに至り、本当にどうにもならないと悟ったらしい。


 いや、遅いって。


 今まで相当好き勝手やってきたのだろう。そして今回も同じようになんとか出来ると考えていた。


 証拠があろうが自分達なら大丈夫。


 そんな根拠のない自信が、自分の首を絞め更に厳しい視線に晒される事になっている。


「それじゃあまず今回の試験結果についてね。嘘の証言をした貴方達は不合格。元より酷い内容で、ハクアちゃんのおかげで及第点だったから当然ね」


 恐らくもう既に映像が流れた時点で覚悟していたのだろう。道化を含めた本人達は粛々と受け入れる。


「証言せず口を閉ざした貴方達は、条件付きの合格とします」


 条件は任意の修行を受ける事、上役の指導者に連携について任意の期間学ぶらしい。


「そして正しい証言をした貴方達は合格よ」


 アトゥイ達を含めて喜ぶメンバー。


 元々合格を捨てる覚悟で私達に与した証言をしたのだ、それが合格となれば嬉しいだろう。


 そしてまあ私としても、合格となれば何かしらつつかれると思っていたところを、すんなり合格出来たのでよしとしよう。


 相手を落として、こっちを合格。今回の件はそれで手打ちにしろということだろう。


「続けて……」


 おや? まだ続くのか?


 これで終わりだろう。そう思った矢先におばあちゃんの声が響く。


「同胞を傷付け、命の危険に晒し、逃亡した貴方達は脱魂の刑に処します」


 ザワりとする私達と、妙に静まった場内。


 今回のこと……これ程だったのか。


 脱魂の刑。


 それは強さを重んじるドラゴンにとって最も重い刑罰だ。脱魂───つまりは力の源たるドラゴンコアの摘出。

 ドラゴンコアを抜き取られれば、そのドラゴンの力は見る影もなくなる。むしろ自らを龍族と名乗る事さえ許されない、そんな生き恥を一生晒す事になる刑なのだ。


 因みにこの情報はもしかしたら自分がその刑を受けるかもしれないと、アトゥイから聞いていた。


 思い詰めた感じで話すアトゥイに、ないだろうなぁと思いつつも言えなかった私は悪くないと思います。


「そ、それは───」


「黙りなさい。これ既に決定した事項よ」


 ようやく再起動した道化一号が声を上げるが、それを食い気味に遮断する。


 誰も同情はしていない。むしろそれが当然のような冷たい目を、会場の至る所から感じる程だ。


「「「ギャァァアァ!!」」」


 もう一度声を上げようと道化一号が顔を上げた瞬間、道化一号を含めた、逃げ出した六人の悲鳴が響き渡る。


 漫画で電撃を受けた時のように発光した体を抱え苦しむ、しばらくすると力が抜け手足をダラりと垂らした体が宙に上がり、体の中央から光る玉が浮き出てくる。


 そしてその玉は六人の体から完全に出ると、私、アトゥイ達、そして後衛で防御と回復に回っていた二人の計六人、それぞれの元に飛んで来て、体の中へと吸い込まれていった。


 ▶個体アイトゥムの【ドラゴンコア】の力を奪い、その力を吸収しました。


 ▶個体ハクアの竜の力が活性化します。

 魔法攻撃に対する耐性が上がりました。

 物理攻撃に対する耐性が少し上がりました。

 竜の力の威力が向上しました。

 竜の力の制御力が向上しました。


 ▶個体ハクアが水竜の知識を獲得しました。


 ▶個体ハクアが水竜の知識を獲得した為【貪食竜】の効果が発動。


【水竜の加護】を獲得。


 横を見れば私以外の五人の体が光っている。


 どうやらアイツらのドラゴンコアを手に入れて、全員がステージを突破したようだ。


 ……やっぱあのエフェクトカッコよくてずるい。

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