第二章冒険者目指してみました

第18話そうだ、冒険者になろう

 無事に進化を果たした私はミランダとレイド、二人の冒険者と会うためエルム村に向かっていた。


「エルムむらって、どんなとこ?」


「私も途中に少し立ち寄っただけなので余り詳しくはありませんが、あの人達が言っていたように温泉が有名な観光地だそうです。でも、自然豊かと言えば聞こえは良いですが、その……実際は温泉以外は何も無く、首都などからは遠いのであまり賑わってはいないみたいですよ」


 〈アリシアの言う通りですね。加えて言えば、この辺りの村の中では一応観光地なので一番大きく、武器や防具、冒険者ギルドなど一通り在るようです〉


「やどたかい?」


「いえ、安い宿なら一人銅20枚で泊まれますよ」


「やすいの?」


 〈観光地では安いようです。因みに、普通の村なら15枚位で泊まれます〉


 大体適正価格だね。一人20枚なら三人で60枚、八日間なら泊まれるか。


 うーむ。微妙。


 〈そうですね。その間にどうするか決めたい所です〉


「はい。八日間なんて直ぐに過ぎてしまいますから、村に滞在するならなんとかお金を稼ぐ方法も考えないと……」


「そのことなんだけど、ぼうけんしゃになれないかな?」


「冒険者……ですか? あの、でも、ご主人様は転生者ですが、モンスターが冒険者になるのは流石に……」


 〈なれるかも知れませんよ〉


「ほんとに?」


「本当ですか?」


 〈はい。冒険者の登録に必要なのは登録料だけで、ステータスやスキル、種族等の個人情報は、登録から公開まで個人の任意ですから〉


「でも、ご主人様は」


 〈今のマスターの見ためは人間とさほど変わりません。見た目が幼いので少し面倒かも知れませんが───後は、額の角さえ隠せば二人共問題ないかと〉


 そう言えば私もアクアも何気に肌の色も緑じゃなくなってるもんな。


「確かにそうかも知れませんが……でも、危険ではないですか?」


 〈冒険者になれれば多少の事なら誤魔化しが効きます。むしろ良いかも知れません〉


「そんなものなんですか?」


 私は二人の言葉に頷きながら歩いていく。


 確かにアリシアが言う事も分かるけどね。


 でもあの二人に冒険者の話を聞いた時に、そうだ、冒険者になろう! とか京都に行こう的なノリで思っちゃたんだよね。


 まぁ、実際に一ヶ所に留まって働く訳にもいかないから、色んな所を回れる冒険者が一番良さそうだしね。


 ヘルさん経由でアリシアに話すと納得してくれる。


 そのまましばらく歩くとアリシアが何かを見付けて指を差す。


「ご主人様、あの丘を越えればエルム村が見えてきますよ」


 その言葉の通り丘を越えるとエルム村らしきものが見えてくる。


 確かにアリシアの言う通り、温泉の湯気のようなものも見えてるけど、観光地と言う割にはそんなに賑わってないような印象だった。


「あれがエルムむら?」


「はい。そうですよ。とりあえずどうしますか? 一応ミランダさん達の泊まっている宿の場所は、聞いていますけど」


「さきにやどをみつけよう」


「それなら、一度私が使った宿にしましょう」


「そこがさきいってたとこ?」


「そうですよ。朝食と夕食も付いてます」


「じゃあそこで」


 アリシアの案内で私達は宿へと向かう。初めての村にキョロキョロと周りを見ながら歩くと、一階が食事処になっている建物にアリシアが入っていく。


「いらっしゃい。おや、あんたこの前のエルフのお嬢ちゃん。又泊まるのかい?」


「はい。お願いします」


「そっちの小さいお嬢ちゃん達もかい?」


「よろしくおねがいします」


「ま、ますゴブ」


「あぁ、わかったよ。子供でも一人銅20枚だけど大丈夫かい? それと何泊する?」


「えっと、何泊にします?」


 アリシアの問い掛けに、とりあえず、さんぱくで。と銀貨2枚を出しながら言うと、女将さんは銀貨を受け取り確認した後、簡単な説明をしてくれる。


「はいよ。食事は朝夕二回だ。適当な時間に来れば出してあげるよ」


 女将さんが銅貨20枚を渡しながら言ってくる。


 アバウト! 時間とか決めないの?


 〈村規模の大きさの場所は大体こんなものです。街や都市レベルになれば違いますが〉


「部屋は全員一緒で良いんだろ?」


「はい」


「じゃあ二階に登って一番左の部屋がそうだよ。直ぐ飯にするかい?」


「ひととあう、よていがあるから、かえってからで」


「あいよ。行ってらっしゃい」


 宿屋の女将さんに見送られ、私達はアリシアが聞いたミランダ達の宿に行く。


「あれ? アリシアじゃない」


 宿に着くといきなり誰かが話し掛けて来た。


 声のする方へと視線を向けるとミランダとレイドが食事をしていた。


「本当に来たのか?」


「ええ、こちらとしても色々話したい事があったので」


「まぁ座りなさいよ。と言うかそっちのお嬢ちゃん達はどうしたの? それに……あの子達は村の外に居るの?」


 キョロキョロと辺りを見回しながら、アリシアに小声で私達の存在を聞いてくるミランダ。


「ええーと……」


「ちがう、わたしたちがほんにん」


「「ええムグッ!?」」


 私の言葉に驚き大声をあげる前に二人の口を手で塞ぐ。


 そのネタはもう良いよ。それにしてもこの二人良く叫ぶな。


 〈まぁ、実際しょうがないと思いますよ。それだけ衝撃的ですからマスター達は───〉


 おぉう! ヘルさんからの鋭いツッコミが。


「……本当に本人なのか?」


「そう」


「確かに声も喋り方もあの子と一緒ね。でも、とても信じられないわ」


「えっとですね」


 アリシアがゴブリンの♀に関する事を二人に告げると更に驚き、私とアクアの事を観察するように眺める。


「まさか、ゴブリンにそんな秘密があっただなんて……」


「こりゃ、凄い情報だな」


「モチロンこのことはだまっていてもらう」


「この情報は金になるのにか?」


 私は頷き続きを喋る。


「あなたたちは、わたしと、とりひきした」


「その条件にこの事は無かった筈だが?」


わたしたちモンスターと、とりひきした、じじつがだいじ」


 私の言葉の裏を理解した二人の雰囲気が剣呑なものに変わる。


「……どういう事かしら?」


「わたしと、とりひきしたことがばれれば、ふたりはじんるいのてき」


「───っ!? 貴女……最初からそれを見越して取引したの」


 そう、とか言えたら格好いいんだけどな~。


 私もお人好しではないのでニコリと笑って返す。


「ちがう、けど、いまのじょうきょうなら、これがいちばんゆうこう」


「確かにそうだな」


「レイド!?」


「こいつは取引と言ったんだ。なら俺達が約束を守る限り損はない」


「わかってくれてうれしい」


 意外にもミランダよりも先に、レイドの方が私達への警戒を解き理解を示す。


「それで、聞きたい事があるんですけど」


「まった。できればふたりのへやではなしがしたい」


「そうね。どんな話しだとしても、こんな所でするものじゃないわよね」


「付いてきな」


 そう言って席を立ち歩き出す。


 二人の後を追い、階段の目の前の部屋へ入っていくので私達も一緒に入る。


「それで聞きたい事って何かしら?」


「ぼうけんしゃのなりかたを、おしえてほしい」


「「ぶっ!?」」


「じっ、自分の言っている事の意味分かっているのか?」


 私は頷きながら自分の考えをアリシアに代弁して話してもらう。


 私の言葉は変な間があって聞取りづらいからね。


「なるほど、確かに言われてみればそれしか無いかもな」


「ええ、人と全く関わらず生きるのは難しいものね。それに冒険者として名を上げれば、いざモンスターとバレた時も人の役に立つ味方だって証明にもなる。称号を公開すれば転生者って事も分かるしね」


「流石ご主人様。そこまで考えて言っていたんですね。私はてっきり、ノリで冒険者になろうとして、後から辻褄を合わせただけだと思いました」


 そっ、そんな事無いんだからね! そんな事、あっ、あるわけ無いじゃないか。


 〈図星ですね〉


「とにかく、とうろくのしかたと、おもにどんなしごとがあるのか、おしえて、それさえわかればもうあなたたちには、かかわらないとちかう」


「別に関わる位良いだろう? これからは同業者になる訳だしな。それと、冒険者登録の仕方なら簡単だぞ」


 手順はこうだ。


 冒険者ギルドに行って、登録料を支払って、幾つかの質問に答えて、最後にステータス神と交信出来るアイテムに触って、ステータスの総合的な数値からランクを付けて貰って終わりらしい。


「───だが問題は最後のステータス神との交信だな」


 なぬ? ステータス神? 何それ初耳なんだけど? というか神にステータス見られたら、速攻でモンスターってバレるよね?


『ステータス神のティリスは私の後輩なので言い含めておきますby女神』


 なんか来た! て言うか初めて役立つ事したな。


『そろそろ私の事を敬っても良いんですよ?by女神』


 無理! それより続きを。


「それは、いまなんとかなったからいい、それよりどんなしごとがあるの?」


「仕事は冒険者のランクによって受けられる難易度が変わるの。ランクは上からSSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、Gの順に分かれていて冒険者のランク=依頼のランクになっているわ」


 ほう。この辺はゲームや漫画と似てるな。


「つまり、CランクならG~Cランクの依頼を受けられるんですか?」


「ええそうよ。ただし自分のランクから二つ下のランクを受けると報酬が半分になるわ」


冒険者ランクを上げるにはCランクまでなら、自分の今のランクの依頼をクリアしていけばポイントが入るらしく、目標まで貯めれば昇格試験を受けられるようだ。


「ちなみにBランク以上はギルドからの推薦とかが無いと無理って話しよ」


 ギルドからの推薦かぁ。その辺は面倒だけど仕方が無いか。


「ちなみにいまのランクは?」


「俺達はDランクだ。前にも言った通り、ここには観光に来ただけだからランクが下の緊急依頼を受けたんだ」


「そのきんきゅういらいって?」


「緊急依頼っていうのは普通の依頼が個人やら団体等から来るのに対して、ギルドが直接出す依頼の事だ」


 基本的に手に負えない強敵のモンスターが出た場合や、大規模な作戦、今回のような誰かの不正、もしくは依頼条件を達成していないのに、依頼を完了したものと、受理してしまったものに対して出されるものらしい。


 ふむふむ。


「緊急依頼は普通の依頼に比べて、報酬もポイントも良いのよ」


「そうなんですか?」


「ああ、Gランクでゴブリン数体の討伐か、ギルドの周辺地域にある薬草なんかの素材集めが主だな。Fランクでコボルトや、進化したゴブリン。Eランクでお前らが倒したホブゴブリンクラスの討伐だ」


 あんなに苦戦したホブゴブリンでEランクなのか~。この世界が想像より難易度ナイトメアなのか? それとも私が弱いだけなのか?


『両方ですby女神』


 この駄女神め!


「そういえば、とうばつってどうやってしょうめいするの?」


「なんだ。そんな事も知らなかったのか?」


「私もご主人様と一緒になって、モンスターを倒したのが初めてだったから知りませんね」


「モンスターは体の中に魔石っていう核になる物があるの。それを取り出して、ギルドの鑑定所に持って行って、鑑定してもらえば良いのよ」


  魔石はモンスター毎に違うから、どの種族のなんて名前のモンスターなのかまで分かるらしい。


 わぁ、便利。


「鑑定が終わって依頼を達成すれば、魔石はそのまま買い取って貰える。後、魔石を取り出すとモンスターは灰になって消えるけど、たまにドロップアイテムっていう特別な物も手に入るわ」


 うん。その辺もゲームと一緒だね。


 〈すみません。今までは必要無い情報だと思い伝えていませんでした〉


 大丈夫だよ。確かに今までは必要無かったし。でも普通に剥ぎ取ったらいけないのかな?


 〈ドロップアイテムになると、そのモンスターの魔力が宿りますが、普通に剥ぎ取ったら魔力が宿らず価値は激減します。マスターの【喰吸】のスキルは、腕一本分あれば良いので、切り取った後、魔石を取り出せば大丈夫です〉


「わかったありがと」


「もう行くのか?」


「うん」


「そうか、お前ら登録料は有るのか?」


「えと、後銀貨3枚と銅貨20枚はありますよ?」


「おい。登録料は一人銀貨1枚だから払ったら銅貨20枚しか無くなるぞ」


 銅貨20枚ってそんなに少ないの?


 〈マスターの感覚で言うと2千円位です〉


 分かりやすい! あれ? じゃあ私この二人に二百万位タダであげたの?


 〈あくまで手持ちの分を分かりやすく言っただけです。まぁでも、三人で一食分位の金額ですね〉


 マジで!? 感覚の違いって恐い! アリシアって回復薬で、どれくらい稼いでたんだろう?


「私は、大体一ヶ月で銀貨8~10枚位ですね。それでも二人で暮らして、必要な物を揃えると、貯蓄なんてほとんど出来ませんでしたね」


「分かったろ。転生先がゴブリンでこの世界の常識が無いとはいえ、自分の状況が悪いって事は」


「とはいえ、みちはこれしかない」


「そうね。もし良ければ私達がその分のお金貸してあげるわ」


「えっ、良いんですか?」


 私はアリシアを手で制止しながら問う。


「なにがじょうけん?」


「私としては、貰ったお金に対して少ない位だから、むしろ払っても良いくらいなんだけどね?」


「それはお前が納得しないだろ? だからお前の言う通り条件を出す。俺達は後八日でこの村を出るから、それまでに貸した金に銀貨1枚プラスして銀貨4枚を返してみろ」


「そんな八日で銀貨4枚なんて!?」


 ちなみに現実的な額なの?


 〈努力は必要ですが実現可能です〉


「もし返せなかった場合はそうだな───俺達が受ける依頼の囮でもタダでやって貰おうか?」


「じょうとう!」


「いい返事だな。これが登録料分の銀貨だ」


「頑張ってね」


 レイドからお金を受け取り、私達は宿を後にする。


「さあ、やってみようか」


 私はそんな事を言いながら、内心ワクワク収まらず冒険者ギルドに早足で向かった。

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