第219話(腹の中は黒いけどな……)

 さて、気合いを入れたは良いがどうするかな? 正直あんまりビジョンは見えてない。いや、だってデカイしさ? しかも何か皆して私を見てるし。皆も考えようよ……。


 私がそんな風に思いつつも頭の中で必死に考えていると、アイギスの騎獣が近付いて来るのが見えた。


「皆!」


 騎獣を着地させると同時に先程のメンバーが駆け寄ってくる。


「アイギス様! アレクトラ様も! 何故ここに来たのですか! ここは戦場ですよご自愛下さい」

「あんな物が見えたらそうも言っていられないでしょう? アレはマハドルだもの。貴女達は戦うのでしょう? なら、誰であろうとも駒は多いに越した事は無いわ」

「それはそうですが……」

「無駄だフーリィー。アイギスが決めたのならな」


 澪の言葉に渋々ながらもフーリィーは引き下がる。


「しかし……こんな展開になるなんてね。困ったら巨大化なんてB級展開も良い所ね。元ラノベ作家としては受け入れがたいわ。担当に白い目で見られそう……」

「まあ確かにそうっちゃそうだな。戦隊物みたいだし」

「良かったな白亜。好きだろ戦隊物?」

「ふっ、私はライダー派だ!」

「罪を数えろって奴ですか?」

「まあ、宇宙には行けないしね?」


 行ったらどうなるんだこの世界? 止めてよ。月にラスボスとか裏ボスとか絶対駄目だからな!?


「あら? 今の状況ならノーコンテニューでクリアしてやるぜ! の方が近くないかしら?」

「最近は対戦も在るからライダーでも良いんじゃ無いか?」

「バカ野郎! 耳の無いネコ型ロボットのアニメでも、ガキ大将は別人の様になるんだから映画は別枠だろ?」

「あ~、確かにそうね」

「それにどちらかと言うとロボは無いしメンバー的には女児向けアニメの方じゃね?」

「それもそうだなホワイト」

「無印?! しかも誰がホワイトか?! って、そう言や私リアルにホワイトサンダー撃てるんだったよ……」

「私がブラック要素在れば二人はパートナーなのに……残念です」


(腹の中は黒いけどな……)


「何か言いましたかみーちゃん?」

「いや?」

「うぅ、ハクア達余裕在るね。こんな時までボケるなんて」

「まあね」


 実際はそんなに余裕も無いんだけどね? 日本ではこんな命のやり取り何て経験無いし。……うん。無いよ。きっと無いよ。無かったよ。無かったんだよ。拳銃や|本刀(ぽんとう)なんて知らないんだよ。閑話休題。


 まあ、こうやって無理矢理にでもこんな事言ってるのは結構大事。


 ボケの一つも無いと正気で居られなそう。何て言ったら皆心配するだろうから言わないけどね?

 でも実際、こんな命のやり取りしながら、私が私として居る為には必要な事だとも結構思ってる。特に皆が居る時は……ね?


 一通りボケて心の安定を保ちつつ、改めて巨大化したマハドルを観察する。それを見たクーが話の切れ間に私に質問してくる。


「しかし主様よ。やるのは良いとしても最低限勝機は在るのか?」


 と、クーが確かめて来る。皆もそれは気になったのか私の返事を待っていた。


「在るよ。いくら澪が大切だからと言って勝機も無いのに誘わないよ。無かったとしたら二人で行ってる」

「ふふっ、だろうな」


 何に満足したのか澪はやたらと嬉しそうな笑顔で私の言葉に同意する。


「まあ、この世界の人間にとっては当たり前過ぎて変に聞こえるかもだけどね? この世界にはHPが存在する。それが私達が勝てると言う確証だ」

「どう言うことですかハクア様? 何故そんな当たり前の事が勝機なのです?」

「エルザの疑問は最もだけどね。簡単に言えばHPさえ削り切れれば、どんなに些細なダメージの積み重ねでも倒せるんだよ。例え致命傷にならない様な物でもね? ダメージが1でも入れば、細い糸だけど私達にも勝機は在る」

「なるほどね。HPの概念がなければあんなの相手に致命傷を負わせなければならないけど、このHPの概念が在る世界ならばネトゲのレイドボスの様に狩れるのね」

「アイギスの言うとおりだよ。問題は時間だ。ここに居るメンバーだけじゃアレを削りきれるとは思えない。途中で集中切れて終わるのがオチだ……」


 だからこそ焦ってるんだけどね。


「なら、俺達が協力すれば何とかなるのか嬢ちゃん?」


 いきなりの乱入に少し驚きそちらを見ると、ジャックとメル、カークス、ギルド長とそれぞれの手勢が集まってきた。


「皆無事そうだね? 何が起こったか分かる奴は居る?」

「あぁ、俺らはそれぞれの勢力毎に魔族の相手をしてたんだがそいつ等がいきなり逃げ出してな、それを追い掛けて行ったら、アイツがその魔族を殺して……恐らくだが取り込んだ」

「こっちも同じ感じよ。追撃しようにもアレでしょ? 近くに居た皆と合流してどうするか決めかねてたら、騎獣が見えてこっちに来たって訳よ。ハクアちゃん達は?」


 私はメルの質問に答える。勿論時間が経てば弱体化するという事、戦うにしてもちゃんとした勝機は在るという事を含めて……だ。


 後出しだとバレた時、うるさいしね。


「──と、それでも良いなら力を貸してくれ」

「勿論よ。弱体化何て何時するか分からないんだし早く止めなきゃね」

「あぁ、俺ん所はむしろ早く戦わせろって言ってる位だ」

「我らが剣はフープの為に。どうぞ御命令をアイギス様」


 私の話しを聞いて、刻炎、紅月、フープの人間は全員が、ギルド長率いる幾人かとソロまたはパーティーを組んでいる冒険者もなん組か残った。


 全体合わせれば二百ちょいか……。どちらにせよ澪を諦める選択肢が私に無い以上やるしかない。


「で、どうすんだ嬢ちゃん?」

「いや、Aランクや騎士の隊長格居るんだから私じゃ無いだろ?」

「冒険者は我ぁ強ぇ奴が多いからなウチの奴はともかく、俺じゃ暁やフープは付いて来ねぇだろ。その点嬢ちゃんなら任せられる。俺が認めりゃウチの奴は認めるしな」

「そうね。ウチもハクアちゃんなら良いわ。全体を見る目もありそうだしね」

「だとさ。まあ、頑張れよ白」


 クソ、ドイツもコイツもそこまで言うならこき使ってやる。


「で、どうする?」

「まずは隊を分ける。刻炎、暁、フープの三隊に別れて相手の行動パターンが解るまで、一隊が攻撃二隊で防御をローテーションして。切り替えのタイミングは澪に任せる

「「「了解」」」

「更に全体から魔法職並びに回復役は攻撃に加わらず独自に動いて貰う。魔法職はクーが指揮を取ってヘルさんはモニターお願い。アリシア、結衣ちゃん、フロストはここに交ざって!」

「「「はい!」」」

「怪我をした人間は別途待機させている回復役の所に、その内機動力が在る人間は駆け回って回復をアクアもここに、エレオノ、瑠璃が護衛をして。ギルドと他の冒険者は魔法、回復役の護衛をそれぞれで頼む」

「ゴブ」

「「了解」」

「澪とコロは遊撃で、澪! 切り替えのタイミング以外にもやる事は分かるよな?」

「勿論だ」

「頑張るかな」

「アイギスやエルザ達は私と一緒に居て欲しい」

「嬢ちゃんはどうするんだ?」

「私は見学」

「はっ? 何言ってんだ?」

「わかった。白どれくらい稼げば良い?」


 私はアイギスの出していた騎獣に乗り込みながら少し考え。


「最低でも十分、そこより先は分からん。アイギスは出来るだけアレに騎獣を近付けてくれ。アレクトラはアイギス補助を、エルザとミルリルはいざと言う時騎獣を【結界】で守って。張る時はなるべく正面から受けずに斜めに受け流す様にね? ミミは悪いけど私を支えて居て欲しい」

「「「はい」」」

「分かったわ」

「お姉様と頑張ります!」

「最後に全員に……奴は今スキルか固有の能力かのいずれかの理由で暴走状態に在る。理性を飛ばして本能的に動く事から、危険回避や攻撃等の行動にはある程度のパターンが生まれる筈だ。それがある程度対応出来るようになるまでは防御に重きを置いて、出来る限り様々なパターンを炙り出して欲しい!」

「了解した。白! お前が要だそちらも頼む」

「了解。じゃあミミ少しの間頼むね?」

「は、はい」

「皆、悪いけど暫くの間よろしく」


 澪の言葉に苦笑しつつも笑って引き受ける。そして私は、後ろに乗り込んだミミに体を預けながら目の前の物に集中する。


 何かスゲー久し振り。前は良くこうやって集中してたな。


 ……集中しろ、深く、深く、深く、体の感覚も邪魔だ。必要の無い物は切り捨てろ。必要な物だけで良い。見ろ。観ろ。視ろ。全てを瞳に集中して全ての起こりを見極め対処しろ。そこから繋がる未来を予測しろ。


 そして私は全意識をただ目の前の物を暴く事にのみ傾ける為、深く、深く潜って行った。

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