第272話本当に何これ!?!?

 う~ん。どうしてこうなった?


 こっちの世界に来てから私こればっかじゃね?


 現在私は眼前に広がる多数の後頭部を見せる座り方。つまりはジャパニーズDO・GE・ZAを前に、珍しく険しい顔をして腰に両手を当て仁王立ちしているアクアさんを見ていた。


「主様? ここで現実逃避はどうかと思うのじゃ。原因というか、元凶として事態を収拾して欲しいのじゃが」


 そんなクーの言葉に仕方がなくこのカオスな状況になる前の事を思い出していた。

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 心との戦闘から数日、私は当初の予定通りギルドにて人気が無くずっと残っている依頼の処理を行っていたのだが、そんな風に厄介な依頼をこなしていた私は今ギルド職員の間で結構人気になっていた。


 そんな私は今日も今日とてギルドへと足を運ぶ。


 因みに今日のメンバーは私とアクアとクー、フーリィーとマト、パッセ、スーナの土魔法建設の社員達三人。


 前半の三人は私の付き添いだ。


 フーリィーも付き添いだよ? 決して私が何かやらかしたりしないか監視する人員じゃないよ? 本当だよ?


 後半の三人は冒険者をやらせていくつもりは無いが、自衛する事が出来るに越した事は無いからここ最近暇な時に連れて行って、戦闘や魔法のレクチャーを教えながらレベルを上げていた。


 新規事業は恨まれる可能性もあるからね。用心に越した事は無い。


「あっ、ハクアさんいらっしゃい♪」


 私に親しげに話し掛けてくるこの受付嬢、名前ははココット17歳。なんでも彼女、何度も試験を受け今年ようやく就職したばかりの新人にも拘わらず、就職直後国が魔族に占領されたりと色々とツイてない子らしい。


 憐れな。しかし何故か親近感も湧くのは何故だろう?


 そんなだからこの国が魔族から解放された一因である私への好感度は最初から高く、加えてずっと売れ残っていた依頼を片してくれるという事からかなり仲良くなった。

 そんな彼女だが、持ち前の明るさと人懐っこい笑みのお陰で冒険者の中で人気急上昇中の女の子で、今も仲良く話す私の背中へと冒険者の視線が突き刺さっている。


 ふっふっふっ、羨ましいか!


「この間のお菓子とっても美味しかったです。他の受付嬢からも御礼を言っておいてくれって頼まれたんですよ。それとこれ。頼まれていた感想のレポートです」

「おっ、ありがと。そうだな今度材料教えるからそれを用意すれば又作ってくるよ。採取した方が良いものも結構あるし」

「本当ですか!? 皆と相談しておきます!!」

「うん」


 何故こんな事を言うか? それにはちゃんとした訳がある。


 受付嬢という職業は顔が広い。その事から彼女達が噂や雑談として話をすればかなりの人間の耳に入るのだ。だからこそ私は女子受けが良さそうな甘いお菓子系統を何度か味見という名目で持ってきたのだ。


 勿論味覚に違いがあっても困るから、それぞれに種族と年齢を明記してもらった感想も貰ってはいる。これによってタダで市場調査も出来るのだから先行投資としても悪くない。


 しかもこの世界は何気にお菓子系統の食べ物は少ない。その事からも一度お菓子の味を知った受付嬢達はこれからも良いリピーターになってくれる事だろう。


 なら何故今度はわざわざお金を取るのか? と思うかも知れないがこの世界で受付嬢は結構な高給取りの職業なのだ。貴族程お金は無いが平民程お金が無い訳ではない。そんな彼女達で大体の平均の値段を決めるのが目的だ。


 そして何故彼女達の給料が高いのか? それは識字率の低いこの世界で受付嬢はまず文字を読み書き出来ないといけない。

 その上で接客、問題の解決、苦情処理などもしなければいけないのだ。更にいえば受付嬢は冒険者から素材を買い取り査定も出来なければいけない。これにより計算も必須スキルとなっているのだ。


 それに受付嬢は指名と斡旋で更にお金を稼げる。


 指名というのはギルド内で専属のように仕事のやり取りが出来る事で、中には相談やアドバイスを貰う者も居る。更に買い取り時に受付嬢を指名して査定して貰うと、その受付嬢は買い取り金額の何%かが月に一度手当てとして貰う事が出来る。


 更に斡旋とはギルドからお願いされる依頼の事で、人気が無く処理されないものや緊急の依頼を冒険者に紹介してこなして貰うとそれも手当てとして貰えるのだ。


 そんな訳で受付嬢はこういう時にもってこいの存在なのだ。


 因みに私は普段はココットを指名して査定等のやり取りをしているが、居ない場合はエグゼリアという女の人とやり取りしている。


 このエグゼリアは元冒険者らしく。冒険者を辞める際に親交のあったギルド長に誘われ受付嬢として働き始めたのだそうだ。今ではギルドの影のボスと呼ばれギルド長並みに力があるらしい(ココット談)


「それで、えっと、今日もゴブリンの依頼で良いんですか?」

「うん。でも、無くならないね~。ゴブリンの依頼」

「う~ん。そうは言ってもかなり少なくなって来ましたよ。他の支部の依頼はもっと余ってるのが普通ですから」


 ほうほう。と、頷きながら話をしていると、ココットの後ろからエグゼリアが顔を出して来る。


「来ていたのねハクア。ちょっと用事があるんだけど良いかしら?」

「良いよ」


 私がそう答えると奥の部屋に呼ばれたので、スーナに依頼を受けて貰うように頼むと私はエグゼリアの後ろを付いて行く。


「それで? どったの?」


 私は出されたお茶を飲みながら話を聞くと、なんの事は無い学校についての事だった。


 なんでもギルドの職員の何人かを通わせたりしたいという話が、ギルドの上層部から出て来ているのだとエグゼリアは話してくれた。


 そこで私が指名していて立場もあるエグゼリアが交渉役として白羽の矢がたったのだそうだ。


「まあ、それは良いけどそこまでするならギルドの方にも少し協力して貰うよ?」

「ええ、分かったわ。それはこっちでも話を通しておくから今度話し合いましょう。……それでなんだけど、最近の依頼に変わった事は無いかしら?」

「なんの事?」


 意味がわからん


「う~ん。……特に何って事は無いんだけど、ちょっと気になるのよね? だからこそ最近ゴブリン関連の依頼をこなしてる貴女は何か気になる事とか無いかなと思って」

「ふむ。……気になるとしたら女が居ない事かな?」

「どう言う事?」

「なんつったら良いかな。エグゼリアも言った通りここ最近私達はゴブリンの依頼をこなしてるのは知ってるよね? だからこそ思うんだが、幾つも巣を潰したけどそこは死体や骨も含めて女が居なかったんだよね。普通なら近くの村からも娘が拐われたとか、村の女が居なくなったとかある筈だけどそれも無い。それなのにあの規模の巣でゴブリンも居て増える要因が無いってのはおかしいと思ってね。……だから私は個人的には何処かデカイ所から溢れたのが個別に新たな巣を作っているんだと思ってるんだよね?」

「……調査隊を出すべきかしら?」

「悪いがそれはそっちで決めて」

「そうよね~。あ~、ゴブリンじゃなく他のモンスターなら簡単なのに~!」


 まあ、気持ちは分かる。


 ゴブリンは一般人でも倒せる。倒せてしまうからこそやりにくい。何故ならそんな相手に高い金を出したくないし、常にいつ現れるとも知れない相手に度々高い金は払えないからね。これがもっと違うのなら……せめてホブゴブリンなら危ないからと調査隊を組織しやすいんだけどね。


「……いっその事ゴブリン強くして新種のゴブリンだから強いんだ! とか言ってみるとか?」

「ああ、良いわね。それ。相手が新種で強いなら調査隊も出せるし討伐依頼を出し易いわ」

「まっ、あては無いけどね」


 それだけ話すと私はココットに挨拶をして請け負った依頼の処理に向かった。


 それから順調に依頼の処理を行ってゴブリンの巣を二つ破壊した。ここ最近では小規模な方でゴブリン自体は合わせて20匹程だったが、このメンバーなら大した事の無い数だった。


 そんな私達は三つ目の巣に向かう最中、丁度良い感じに三匹のゴブリンが行動していたので、わが社の社員達に狩りのレクチャーをする為の教材になって貰う事にした。


「それじゃあ三人共良く見ててね? まず君達は魔法使いなんだから何よりも距離を取って安全を確保する事が一番大事。次は周囲の警戒ね? 他に仲間は居ないか、駆け付けてくる位置に何も無いかを良く確認して後を付ける事、そして安全の確認が出来たら次は狙撃の為に環境を見る。狙い易い位置やポイント、得意な所で勝負する。君達は一番得意なのが土魔法だから狙撃するならストーンブレットが良いよ。それをこうやってっと」


 私はレクチャーしながらストーンブレットを円錐形に作り出し三人に見せる。


「例えば同じストーンブレットでもこうやって形を変えれば威力が上がる。更にここに回転を加えたり、物に溝を掘って空気の抵抗を少なくする事でもスピードが上がり命中率も上がり易くなる。魔法は魔力を注いで威力を上げるだけじゃなくちょっとした工夫で色々と出来る。特に皆は威力よりも命中精度を上げる方が良いね。ゴブリンや弱いモンスターなら致命傷の傷にならなくても、怪我をするだけで動きが鈍くなるから」


 私は更に二つ同じようにストーンブレットを作り出し、計三つのストーンブレットをゴブリンに向けて適当に放つ。


 すると飛んでいったストーンブレットは一つ目がゴブリンの頭に当たり絶命させ、二つ目はゴブリンの腕に当たり吹き飛ばす、そして三つ目は予定通り地面に当たり外れる。そこまで見た私は三人にレクチャーの続きをする。


「こうやって狙撃した場合、今のように外れる可能性はどんなに万全でも存在する。その場合相手の取る行動は大きく三つに別れる。その内の一つが隠れたり次の狙撃に備えて防御する事、二つ目が狙撃ポイントを割り出し攻撃に移る事、この場合相手に遠距離の攻撃手段があるかどうかが重要になるからこれも事前になるべく調べる事、そして最後が──」


 私のレクチャーの途中に腕を吹き飛ばされていたゴブリンが、私達に背中を向けて逃げ始める。


 うん。良い教材だ。タイミング完璧。


 私は逃げるゴブリン目掛けストーンブレットを撃ち込み背中から心臓を貫く。するとゴブリンはそのまま倒れ動かなくなる。


「ああやって逃げるかだね。逃げる場合は仲間を呼ばれる可能性もあるからね早めに処理する。もしくは逃げられた場合はこっちも状況を判断して逃げる事、これは防御してる奴にも言える事だよ。叫び声や遠吠え、スキルで仲間を呼ぶ場合もあるからね」

「ハ、ハクアさん来てる! 凄い勢いで来てますよ!?」

「そうやって慌てない。慌てると正常な判断が出来なくて勝てるもんも勝てなくなるよ? こういった場合の対処はまず始めに妨害する事、逃げるにしても迎撃するにしても、時間が稼げるに越した事は無いからね。個人的に土魔法は凄く妨害にも向いてると思うよ。例えば進行方向に壁を作り出す。すると迂回するにも、壊すにも、飛び越えたりするにも無駄な動きになる。こうやってね?」


 レクチャーしながら進行方向に壁を作り出し進路を妨害する。更に迂回してきたゴブリンの足元に足首が埋まるサイズの穴を多数設置すると、そこに足を取られたゴブリンが盛大に転ける。

 そんなゴブリンの下の土を泥のようにして動きを阻害すると、更に深さを出し沼のようにしてゴブリンをそのまま沈める。


「ほら。こうやって地面に小さい穴を作るのは簡単なのに、壁に注意を逸らされてたから簡単に掛かるでしょ。他にもぬかるみにすれば足を取られる。更に深さを出して底無し沼みたいにすればそのまま沈める事も出来る。後は窒息した頃合いでソウルテイカーを使えば掘り出さなくても良いからね。もし不安ならそのまま上からこうやって攻撃を撃ち込んでも良い」


 再び沼にストーンブレットを撃ち込み実演して後ろを見ると何故か皆が引いていた。


 何故に?


「酷い。酷いのじゃ……」

「私、初めてゴブリンに同情しました」

「流石おねちゃんゴブ。慈悲が欠片も無い」


 酷くね君達!?


「まあ、見本はこんな感じかな? 次に似たようなのが居たらやって貰うから、一応私達が居るから安心して思った通りにやってみな。ただしちゃんと考えてからやる事、外した場合どうするのか? 相手がどんな行動を取るのかを出来る限り幾つも想定して常に考えて役割を決めてみな」

「「「はい」」」

「しかし……私にも為になりますね。ハクア様はいつもこんな風に考えて?」

「時と場合に因るかな。この世界、魔法を日常に転化しない癖に、戦闘ですら考えないでバカスカ使うだけだからイラッとくるんだよね」

「耳が痛いですね」

「まあ、近接と遠距離の考え方は違うから良いけどね。遠距離の場合は想定に想定を重ねて一方的な展開にするのが理想だから。それが魔法だと尚更だね。想像を現象にする魔法は想像で何処までも使い方が変わる。常に最適や効率を考えていれば誰でも強くなれる筈だよ」

「……今度私にも魔法を教えて頂けますか?」

「別にそくらい良いよ?」


 こうしてレクチャーを終えた私は、その後何度か同じような一団を発見して三人に任せながら、巣へと向いようやく最後の巣を発見した。


「よし。それじゃあさっきまでと同じで。私とアクア、クーが中に入るから皆は討ち漏らしや外に居た奴等が帰って来たらよろしく」

「わかりました。護衛はお任せを」


 そして私達は洞窟の中に入って行く。前衛は私とクー、後衛にアクアの布陣だ。


 中に入ると早速何匹かのゴブリンに襲われるが、隠れて居ても殺気も気配も隠そうとしないゴブリン相手に危なげ無く処理していく。その途中にある幾つかの部屋も念入りに調べていく。


 探索中襲って来たゴブリンが持っていたこん棒を手にしたアクアが喜び、こん棒で無双する場面もあったが概ね予想通り探索は進んだ。


 やっぱアクアはこん棒好きなんだね。何が君をそこまで掻き立てるのか私にはわからんよ?


 だがしかし私は知っている。アクアの部屋に数々のこん棒コレクションがあり、新しい町に行く度にお小遣いでこん棒を買っている事を。

 そして実はゴブリン狩りの真の目的がステ変化で物攻を減らしたけどゴブリンならこん棒でも倒せるからだという事を!!


 金髪少女がこん棒でゴブリンを撲殺するシュールな光景を眺めながらホッコリしつつ探索を続ける。そして遂に私達は洞窟の最奥に辿り着く。


「ここが最後の部屋じゃな」

「だね。アクアがやる気だし。私とアクアでフロントやるから後ろをお願い」

「分かったのじゃ」

「行くよアクア」

「ゴブ」


 確認を取った私とアクアは一気に最後の部屋へと踏み込む。そこには七匹程のゴブリンが一塊に集まってこちらを見ていた。


 なんだ? 何かいつもとちがくないか?


 私がなんとも言えない違和感を感じていると、先頭に居たゴブリンが「ガガっ! ギギッ!」と、何やら叫んでくる。


 えっ!? 何、何が起こってるの?


 すると何故かアクアが私を制し、構えていたこん棒を下げながら私の前に出る。するとこれまた何故かアクアまで「ガガギギッ!」と、言い始める。そして、アクアが謎の言葉を話し終え険しい顔で腰に手を当て仁王立ちすると、何故かゴブリンが一斉に私達に向かって土下座したのだった。


 本当に何これ!?!?

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