第273話アカン。目から何かが垂れてきそう

 途方に暮れていてもしょうがないと思い直した私は、唯一この状況を理解しているとおぼしきアクア様に事情を聞いてみる事にした。


「えっと、結局何が起こったのでしょうか?」

「何故敬語なんじゃ主様?」


 なんとなくだよ!


「む~。コイツらおねちゃんの配下になりたいって言ってるゴブ」

「へっ? 配下?」


 そのまま話を聞いてみると幾つかの事実が判明した。まず一つ目がなんとこのゴブリン達は珍しい事に七匹全員メスだったらしい。


 そしてヘルさんですら言葉と認識出来なかったゴブリンのガガギギというのは、実はゴブリン同士ならちゃんと伝わる言葉だったのだ。更にはゴブリン同士には何故だかどれだけ進化して変わっても元々がゴブリンだったと分かるらしい。


 私全然分からなかったんだけど!?


 その事から分かった事それは……私はゴブリンとしても落ちこぼれだったらしい。


 な、なんてこった……私、常識無くてゴブリンとしても落ちこぼれだったなんて……アカン。目から何かが垂れてきそう。グスン。


 そしてこれも初めて分かった事なのだがメスのゴブリンは、通常のゴブリンと違い生殖能力が無い代わりに、個体差はあるが知能が発達しやすいようだ。


 その証拠に最初にガガギギ言っていたゴブリンはカタコトではあるが人間と同じ言葉も話していた。


 う~む。素のゴブリンだと男と女の見分けは胸にも布があるかどうかぐらいだからね? それだってどの個体でも胸が無いからオスと大差無いし。つーか、そもそも胸の布無いのも居るしね。


 ハッ! だからアクアはロリ枠なのか!? ←多分違う


 まあそれ以外だと多少頭良くても気のせいか? レベルの違いだろうな。実際私達もアクアがいなければ分からなかったし。私は落ちこぼれだから言葉も同族かもわからないからな! 悲しくない! 哀しくなんかないぞ!?


 それにメスのゴブリンは奴隷よりも身分が低く一番槍にされるのが多い。ミニゴブリンよりも寿命は長くても進化は出来ないだろう。


 ヘルさんも進化個体は居ないって言ってたし。進化しても私の予想した通りだとどっちみちオスゴブリンに殺されるし。


 う~む。メスゴブリンってあらゆる意味で詰んでね?


 今回はたまたま狩りから帰って来たばかりで、オスゴブリンも自分達だけで対処は十分だと判断したから生き残ってるだけだからね。


 因みにこの集団土下座はアクア様の指示によるものらしい。


 アクア、恐ろしい子!?


「おねちゃんどうするゴブ? 要らないなら始末するゴブ」


(い、何時に無くアクアが好戦的なのじゃ。どうしたんじゃ?)


 私もわかんない。


「ん~。取り敢えず私の配下になるなら許可無く人間は襲わないってのは守って貰うよ?」

「大丈夫ゴブ……分からせる」


 お、おう。さよか。


 その後私は外に待つフーリィー達の元まで全員連れて行き、何が起こったのかを説明する。


「そんな事が……それでハクア様はどうなさるのですか?」

「……取り敢えず、本人達の希望通り配下にしてみようと思う」

「わかりました。ハクア様がそうお決めになったのなら異はございません」

「ふ~む。我としてはゴブリンなんぞどうするじゃ? という感じじゃが。主様がやりたいなら良いのではないか?」

「……ダメなら処分。ゴブ」


 本当に厳しいですねアクア様!? ゴブリン同士には他には分からないヒエラルキーが存在するのか?

 そ、その内私もこんな扱いにならないよね? 大丈夫だよね? ね? わ、私、良いおねちゃんになれるように頑張るよ!? 超~頑張るから冷たくしないで!?


 その後私は全メスゴブリンを配下にした後、適当に名前を付け土魔法で入り口を塞いだ洞窟に一日待機するように命じその場を後にした。


 そしてギルドに行くと二件の報告を済ませ三件目について、ココットとエグゼリアの二人に別室で報告を行った。


「そんな事に……え、えっと、エグゼリアさんこの場合依頼はどうなるんでしょう?」

「う~ん。依頼は巣の破壊とゴブリンの排除だから残りのゴブリンを全部テイムしたのなら達成でも平気よ。その代わりハクアはテイムしたモンスターが人間や家畜を襲ったら罰を受けるわ」

「了解」

「それでこんな事してどうするの? ゴブリンじゃテイムしても戦力にはならないでしょ?」

「その事なんだけどさ」


 私は配下にして欲しいとゴブリン達に言われた時から考えていた事をエグゼリア達に話す。するとココットの顔は面白いほど変わり今は真っ青になっていた。


「そ、そんな事! 可能なんですか!? そもそもそれは大丈夫なんですか!?」

「さー?」

「さー? って、そんなぁ~」

「良いわね。今日中にギルド長に相談してみるわ。詳しい事は明日また話しましょ?」

「OK」

「あ、あわわわわ、わ、私、失礼して……って、掴まないで下さい! 巻き込まないで下さい~!」


 こうして私は善意的な協力者二人を仲間にした後、城へと帰ったのだった。


「いや~! 私は関係ないです~」

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「と、言う事があったのだよ」


 私が昼に起きた事を説明すると何故か聞いた皆が頭を抱えて深い、それはもう深い溜め息を吐いた。


 何故だ? 解せぬ?


「で、どうする積もりなのハクアは?」

「そうだな。問題はそこだな」

「うむ。それについてなんだがアイギスに相談があるんだよね」


 私の言葉に何故か大袈裟にビクッ! と、体を震わせたアイギスは、引き吊った笑顔で何かしら? と聞いてきた。


「うん。アイギスはさゴブリンについてどう思う?」

「どう……とは? まあ、人を拐って孕ませて無尽蔵に増えていく厄介なモンスターよね? 一匹だと大した事無いけど数が増えればそれなりに脅威だし、進化個体も加われば何気に手を付けられないし。そう考えると普通に強いモンスターよりもある意味厄介よね」

「だよね? だから私が提案するのはゴブリンという種の改造なんだよ。まだ確かめてないから出来るかどうかは分からないけど」

「「「「か、改造!?」」」」

「また、随分と突飛な事を言い始めたな」

「実際どうする積もりなんですかご主人様?」


 そして私は計画の全容を話し始めた。


 私が考えた方法はいたって簡単、出来る限り進化していないゴブリンをテイムして私のスキル【配下能力構成】を使い、ゴブリンを根本から改造してみようというものだ。


「そんなに上手く行くのかの?」

「わかんないけどアクアのステ変化した時、色々と弄れそうだったから多分出来る。出来なかったとしても管理出来る分のゴブリンを強くして、同族狩りさせれば無償の兵力は確保出来る」


 アクティブスキルとかも無効にしたり有効にしたりなんてのがあったから、幅も結構広いと思うんだよね?


『シルフィン:また貴女は変な事考えましたね』


 出来ないかね?


『シルフィン:いえ。出来なくはないと思いますよ』


「お前、素で改造とか……」

「あ、悪魔がいるわ」

「酷いのじゃ、魔王も驚く悪辣さなのじゃ」


 オイ元魔王! なんて事言いやがる! 信憑性増すからそんな事言うの止めろ!?


「おねちゃん格好いいゴブ。アクアも頑張ってアイツ等管理する!」


 あっ、アクアの言葉に皆が驚いてる。さもありなん。


 さて、取り敢えずは明日ギルドでも同じ話をして、それから今日テイムした奴等の様子見と【配下能力構成】の検証だね。その後は奴等を育てねば。……ちょっと楽しくなってきたぞ。


 皆が言うには、その日私は一日ウキウキだったそうです。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 翌日ギルドに行った私は学校の事も含めゴブリンの改造計画について協議を重ねた。実はこれにはアイギスも急遽参加した事でお偉方は顔を青くしていたが、まあ、どうでも良いよね?


 学校については今回は触りのみで、今後他の協力者も集めた上で深く話す事が決定した。その後、ゴブリンの事も話したが反応としては本当に出来るのか? そんな事をする意味があるのか? 等、概ね予想通りの反応の悪さだったが、エグゼリアとギルド長には結構良い感触だったと思う。


 話し合いの結果、逐一報告を上げつつやってみろって感じに話は決まった為今回は私、ヘルさん、アクア、アリシア、澪、瑠璃、心、テア、アイギス、フーリィーでメスゴブリンの所へと行く事になったのだった。


 この人選に他意は無いよ? 決して私が暴走した時に止められる人選とかそういうんじゃないからね? 違うからね?


「ここがそうなの? ただの崖に見えるんだけど?」

「ああ、一応私が入り口塞いだからね」


 私は自分で塞いだ洞窟の入り口を土魔法で抉じ開ける。すると穴の奥の方から誰かがこちらを覗き込み、私の事を認識すると緑の肌をした中学生位の少女が走って出て来たのだった。


 ……えっ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る