第146話せめて私が殺すさ
その勇者に最初に会ったのは彼女らしい。領内の森を移動している最中モンスターに襲われ、それを助けられたのが出逢いだったそうだ。そしてその勇者は行き場が無いという事で、彼女とその姉が保護する流れになった。
勇者の話しを聞くと、その勇者はどうやらオームから逃げて来たらしかった。そしてその道中でアレクトラを助けたそうだ。最初は何もおかしな所は無かった。
だが──段々と何かがおかしくなっていった。姉が周囲の反対を押切り軍備を整え、周りの国や貴族達を刺激する様になっていった。
そしてあの日、事件が起こった。
勇者が魔族を率いれ、城の兵士達は魔族によって洗脳されてしまったのだ。アレクトラは早い段階から勇者の事を疑っていたクシュラによって、何とか脱出する事が出来たが、姉は捕まり洗脳され、今は勇者や兵士と共にこれから攻めいる予定のエルマン渓谷の砦に居るらしい。
「…………これが、私の話せる全てです」
話しが終わったアレクトラは肩を震わせ嗚咽を噛み殺す。そしてその肩をクシュラが抱き締めると、限界が来たのかクシュラの胸で泣き始めた。
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「お見苦しい所をお見せしました」
「別に良いよ。それよりも先の話では、君が私の名前を知っている理由が無かった様に思うのだけど?」
「すいません。貴女の事は勇者から聞いたのです」
「勇者からですか?」
「はい。彼女は貴女の事をとても警戒していたので」
「私を? それに彼女?」
「はい、我が国に来た勇者は女性です。そして私は固有スキルで【占い】というスキルを持っています。私は彼女に頼まれスキルを使い、貴女やそこのルリさんの事を何度か占ったんです」
「私達の事を頼まれて……ですか? ……ハーちゃんそれって」
私は瑠璃の事を手で制止し続きを促す。
「続けて」
「貴女達の事を占った私は、彼女がギルドで働いている事、貴女が魔物として転生した事、貴女が魔族と戦った事もスキルで知りました。そして、それを伝える度、お姉様と一緒に興味深そうに聞いていました」
ヘルさんその【占い】って?
〈【占い】のスキルはスキル保持者以外の人間や物に付いて有効なスキルです。特定の人物や物を指定して使う事で、所在や行動が分かります〉
精度は?
〈そこまで高くはありません。所在は大体の方角、行動も詳細な事は分からない筈です〉
なるほど。
「あ、あの、その勇者さんってどんな方ですか!?」
「瑠璃落ち着け」
「だってハーちゃん!? もしかしたら! ……っ、ごめんなさい」
瑠璃は自分の剣幕に怯えているアレクトラを見て謝る。
「それで、その勇者の特徴を教えて貰えるかな?」
「は、はい。一番の特徴は髪です」
「髪?」
「それって! 綺麗な黒髪って事ですか?!」
「い、いえ、彼女の髪は私と同じ水色です」
「水色、そんな……」
「アリシア。瑠璃頼む」
「分かりました。ルリ向こうに行きましょう」
「すみませんハーちゃん。アリシアちゃん」
私は一度瑠璃を抱き締め、頭を撫でた後にアリシアに任せる。
「あの、彼女は?」
「大丈夫。もしかしたら私達の知り合いもこっちにって思っただけ、でも本当にその女は水色の髪なの?」
「間違いありません。私よりも多少色素の薄い色では有りますが、彼女の髪は水色でした。それは少ない時とはいえ、共に過ごしたのですから間違いありません」
「……そうか」
地球から来てるのに水色? そんな事在るのか? チッ! 今ここで考えても分かんないか。
「あ、あの」
「あぁ、ごめん」
私も瑠璃の事は言えないか。
「それでその勇者、次の戦いには?」
「出て来ると思います」
「そうか」
「あの、ご迷惑だとは思いますが、どうか私のお姉様を助けて下さいませんか!?」
「約束はしない」
「──っ、すみません。都合が良すぎました」
「貴様!」
「でも、出来る限りの協力はする」
「あ、ありがとうございます。今はその言葉だけで十分です。それでもう一つ、私も一緒に連れて行って貰いたいのです」
「何故?」
「洗脳されたお姉様も私の声なら届くかも知れない……と、クシュラが」
「ええ、妹君であらせるアレクトラ様の声ならきっと」
その言葉に私は横に居るヘルさんを見る。
「可能性はあると思います」
「分かった。ギルド長、遠征時、彼女は私達で預かるんで良いかな?」
「あぁ、アレクトラ様が良いのなら」
「よろしくお願いいたしますハクア様」
こうして私達は魔族との戦いにアレクトラ達を連れて行き、再び勇者と戦う事になった。
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エルマン渓谷の砦。
その砦の中に幾人かの姿が見える。
「もうすぐ人間共がここに攻めて来る。その時はお前達の出番だ」
「クはははは、わかってンよ。それよりも……なあオイカーチスカよぉ。アイツの方から俺らに向かってくるんなら、約束を破ることには、ナンネぇよな?」
「そうね。こちらかは仕掛けないというのが約束だもの」
「クかか、クソつまらねエ仕事だと思ったら、まさかこんな褒美が在るとはなァ!」
グロスは一人機嫌が良さそうに嗤う。しかし、そのグロスの嗤いを止める声があった。
「悪いが、アレは私が殺す」
「あぁ!? 何だと人間が!」
「ふん、何とでも言え」
「グロス仲間割れは止せ」
「あぁ!? 誰と誰が仲間ダア!!」
「ねえ、あの小娘、元は貴女の友人なのでしょう? 本当に貴女に殺せるの?」
「愚問だな。私のこれは知っているだろ? なら答えは一つ。やるしか無いさ」
「ハッ! 所詮は人間。結局は我が身かわいさに見捨てるって事ダろ?」
「ふん、放って置いても貴様の様な筋肉馬鹿に殺されるだけだ。なら、せめて友人として私が殺すさ」
そう言うと女はその場から立ち去って行った。
「大丈夫なの?」
「安心しろ首輪は付いてる」
「なら良いけど」
「クク、早く殺りたいぜハクア!!」
こうして、決戦の時は近づいて行った。
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