第370話もう剣士なんて辞めちまえよ
皆の元に帰った私は早速料理に取り掛かる。
地味にアベル達と別々に料理の下準備をしていたダグラスは超グッジョブ。
解体されてお肉になったももに塩コショウを軽く振り、その内の半分を先程拾った野草と持ってきていたハーブを一緒に蒸し焼きにする。
その間に鶏ガラから出汁を取りスープを同時進行で作る。蒸し焼きにしなかった残りの半分に鉄ぐしを刺して直接火で炙り焼きに、その頃にはスープも良い感じになって来たので、適当に野菜を小さく切りドバっと投入してほぼ完成だ。
狩りたてで旨味も強いから素材の味を生かす方向で行く事こそジビエの醍醐味!
そうこうしていると匂いに釣られたダグラスが近寄って来たので、炙り焼きしている小さめの肉を半分に切って分けてお互いに味見する。
「おお~、流石美味いな」
「ありがとうございますダグラス。もうすぐ出来るので待ってて下さい」
「了解」
何やらアベルも物欲しそうな顔をしているが無視。
向こうは向こうで作ってんだからこっち来んなし。
しかし、ふと用意されている品を見ると豪華さが無いのは良いとして、どう見ても四人分しか無いように見える。
そしてアベル達から離れた所、荷物が置いてある所で、食料を取り出す為に荒らされた荷物を整理しながら、固くて不味いと評判の黒パンを食べてるカイル君が居た。
”……ダグラス”
”異議なし”
一応ダグラスの了解も取った私は、固いパンに苦労しながら荷物を整理しているカイル君に近づいて行く。
「カイル君。狩りの手伝いをしてくれたお礼にこっちで一緒に食べましょう」
「えっ、でも……僕はネロさんが射落とした獲物を拾ってただけですよ。それなのに分けてもらうなんて……」
「私はそれで助かりましたよ。焚き木もこちらの分まで集めてくれたし、食べられる山菜を見つけてくれたのもカイル君じゃないですか」
「でも……」
それでも固辞し続けるカイル君の手を取りダグラスの元へと連れて行き無理矢理座らせると、何か言いたげな視線を無視してさっさと料理の仕上げに入る。
”そういやお前さん。さっきから妙に気に掛けてるが好みなのか?”
”頭湧いてんのかジジイ。……私にだって年下が不当に扱われていれば擁護する感覚位は多少ある。何よりも正当な働きに対して正当な対価を得ていなければ尚更な”
”まっ、その通りだわな。つっても、お前の所の小さいのとかは大分しごいてないか? やっぱ扱い違くね?”
”鍛えてやってる身内は違う”
”さいで”
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
食事はかなり好評なようで、ついお代わりと言って顔を赤くしていたカイル君が印象的だった。
ダグラス、カイル君共にお代わりをしていたので結果は上々だろう。
作った物を褒められるのは悪い気はしないね。
その間、アベルがこちらをチラチラ見ていたが安定の無視。
食事を終えた後は少し早いが交代で就寝する事になった。
またこの時に、火の番を含めた警戒をカイル君一人にやらせようとしたり、それを却下したら今度は私を含めた女は免除などと巫山戯た事を言い始めたので、全て却下して無理矢理話を通した。
その際取り巻きからは盛大に睨まれたがそんなもんは知らん。
アベルも男の俺達がどうたらこうたらと言っていたが、仮にも最高戦力と自覚しているなら睡眠時間削って戦力低下させようとしてんじゃねぇよ。
まあ、ダグラスの方が戦力としては上だからただただ滑稽なだけだけどね。
そんな訳で一番手はダグラスになったのだが──。
「うむ。寝られん」
自分の幌竜車の中で眠る御者と違い、少し離れた位置に簡易テントを張ったのは良いがとにかくうるさい。
何がとは言わないが! 何がとは言わないがとにかくうるさい!! 夜とはいえ仕事中なんだよ! 休めよ! 何疲れる事してんだよ!!
そんな当たり前の突っ込みを口に出す訳にもいかず、しょうがないので焚き火の所に居るダグラスの元へと暇つぶしに行く。
「寝ないのか?」
「はっはっはっ。寝れると思うか畜生め」
「まっ、そうだな。お盛んな事で……」
「……冒険者って皆あんな感じなのか?」
「いや、俺も普段はソロだから知らんが、もう少し分別はあるだろ。自分達だけのパーティーなら分からんがな。今まで何回か野良で混ざった事はあるがこんな事は無かったしな。ましてやこういった乗り合いに冒険者や、心得のある人間が乗る時は警護するのは暗黙の了解だ。それなのにってのは中々ないだろ」
「ですよねー」
「まあ、なんだ」
「うん」
「「どうすればここからプラスに出来るんだ?」」
本当、普通に依頼さえやってくれればなんの問題も無かったんだけど。
「もう落として良いんじゃないか?」
「うむ。本当にそうしたい。そうしたいんだけど、正直エグゼリアの言う通りあのレベルをいつまでも最低ランクで遊ばせとくのは良くないんだよなー」
ギルド的にも上に行ってもらいたいだろうし、実力あるのが分かってるのに上げなければ、ギルド自身の評判にも関わってくる。
あんなのの為にそれは出来れば避けたい。
「なぁ、アイツ自信満々だが本当に強いのか? よく居る口だけのタイプとかじゃないのか?」
「あー、いや、Gランクにしてはって前置きはあるけど普通に強いぞ」
「そうなのか?」
「うむ」
どこか納得していないダグラスの為に、あまりよろしい行為ではないが地面へとアベルのステータスを書き写して見せる。
名前:アベル
レベル:6
性別:男
種族:人種
HP:850
MP:5800
気力:500
物攻:300
物防:200
魔攻:1210
魔防:970
敏捷:450
知恵:800
器用:240
運 :80
「……これは、中々」
「だろ。それに特筆するスキルは無いが軒並み高かったぞ」
「これならあの自信も頷けるか……しかし、魔力系が数値おかしくないか?」
「まあ……想像はつく」
ヒント……転生者。
恐らくは転生者で前世の記憶保持、そんでもって赤子の頃から意識がハッキリしてたから、動かせない身体の代わりに魔力を使って遊んでいたんだろう。
そして子供の頃から文字を読み、身体が動かせる子供になったら魔力で身体強化して修行。
更にはそれを周囲に隠しながら動物でも狩っていたんだろう。
そしてある時村にモンスターがやって来て子供の自分が撃破。こうして英雄とモテ囃されてここまで来たんだろうな。
もうね。これね。テンプレにも程がある。
唯一小説と違うのがラノベ読んで自分ならこれだけ好き勝手するのに! みたいな馬鹿な感想持ってる奴みたいな事を素でしてる事くらいとか……。
力手に入れて俺すげーやってるラノベ好きって感じだよ。
地球組として少し恥ずかしい。最初ちょっと似た考えをしてた自分を今は殴りたい。まあ、ゴブリンに生まれた段階で調子に乗る事も無く全てへし折られたけどな!!
スキルのレベルが高いのは女神からのってのと、後は普通に鍛えた物の違いだろうな。
それを聞いたダグラスは本当に残念そうに「これでもう少し常識的に振る舞えばな……」と、言っていた。
本当にその通りだと思う。
そしてもう一つ……。このステータス、ビルド的には魔術師タイプだろ! 完全に剣士と畑違いの育ち方してんじゃねぇかよ! もう剣士なんて辞めちまえよ。
「まあ、これならゴブリンは楽勝って言うのも分からなくはねぇな」
「まあね。でも、ゴブリン程度のステータスでも気を抜いた時に頭を攻撃されれば、それだけで動けなくなる時はある。毒や罠、想定外の事にも対処出来なければ尚更な」
「確かにな。そうやって気を抜いてゴブリン程度に殺られた中位のランクの奴は嫌って程見てきたからな……」
そんな話を二人でしていると後ろから近付く一つの気配。そこに居たのはやはりと言うかなんと言うか魔術師のエイラだった。
「どうしたんですかエイラさん?」
「率直に聞くわ。貴方達……今回のランクアップの試験官よね?」
「何を言ってるんだ? 俺達は──」
「いや、良いよダグラス。彼女はもう確信持ってる。と、言う訳でエイラの言う通り私達はあんた等の合否を図る試験官だ。用件はアベルの力の防ぎ方って所か?」
「!?」
「何を驚いているかは分からんが、エイラだって最初に私が弾いたのを見て何か方法があると思ったんだろ?」
「あれを気が付いてたのか!?」
「ああ、ついでに言えばエイラだけはアベルの力に抵抗出来てたみたいだぞ。だからカイル君にもエイラだけはなにも言わなかっただろ。まあ、庇いもしてないし、実際、七割くらいは掛かってたけど」
「そこまでお見通しなのね。あの子に関しては私も悪いとは思っているわよ。でも……自分の事だけで精一杯なのよ」
「まっ、確かにそうだろうな」
エイラ程度では一瞬でも気を抜けば一気に持っていかれる。内心でどう思っていようがそこまでの余裕は無いだろう。
「それで、何か方法はあるの」
「あるよ。一時的に私の魔眼の支配下に置く事であいつの魅了の力を受け付けなくすれば良い。エイラが私を信じられればだけどな。もちろん、魔術契約の契約書も持ってるから使っても良いぞ。内容は依頼終了時の契約破棄、エイラの束縛は一切しないって条件で……だ」
「契約書は良いわ。そんな物を使われても払えないもの」
「わかった」
それだけ言うと私は【怠惰の邪眼】の能力の一つ、支配の瞳を使いエイラを支配下におく。
これは自分よりも格下の存在を一時的に支配下におく事が出来る能力だ。
もちろん約束通り束縛はなにも無しだ。
「もう……終わったの?」
「ああ、一応これで大丈夫なはずだ。試した事は無いから絶対とは言わないけどね」
一応、昨日の段階で駄女神に聞いた事だから大丈夫なはず。しかし、いかんせん駄女神だから絶対ではない!
『シルフィン:人から無理矢理聞き出しておいて……』
「それでも十分よ。ありがとう」
「どういたしまして」
「それよりも良いのか? 試験官だっての簡単にバラしちまって」
「良いんだよ。それも踏まえての査定だ。そもそもギルドで昇格試験を受けるのに呼ばれた段階で、先に話を受けてるのも状況からしておかしいだろ」
「ああ、確かに」
「そういった細かな部分から推察するのも試験の内なんだろうよ」
「なるほどな」
「それが貴女の素なのね?」
「ああ、あいつ等の前ではアレで行くからよろしく」
「分かったわ。それでもう一つ聞いても良いかしら?」
「何?」
「貴方達のランクってなんなの? 魔眼なんて持っているから気になって」
「あー、次でBランクだよ」
「なるほど、それならそれなら納得ね」
うん。私はまだまだランク下だけど嘘は言ってない。嘘は。だからそんな目で見るんじゃねぇよダグラス。
「あれ? 皆さん起きてたんですか?」
「もう交代の時間か」
「はい。ここからは僕が変わりますから皆さんはゆっくり寝て下さい」
「あー、カイル君? 私はこのまま起きてるので眠たいなら寝ててもいいですよ」
「あら。そうなの?」
「ええ、サカリのついた動物がうるさいので。何よりもそんなのに自分の命を預ける気には一切なりませんしね」
「同感だな」
「あー、そういう事ね」
「?」
一人だけテントを離されていたカイル君には、なんの事か分からないようだがそれで良し。
その後は四人で話をして、将来冒険者になりたいと言うカイル君に、護身術程度の回避の仕方、攻撃の方法を教えて朝まで過ごしたのだった。
追記、カイル君は中々筋が良く、どこかの馬鹿共は起きて来なかった。
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