第371話 それ最初に私等が散々言ったよなぁ!?

 翌日、昼過ぎには早くも目的地に到着した。

 元々二日程の道程の予定だったが、それはモンスターや盗賊などに襲われる可能性も含めての予定だ。

 そんな中、一刻も早くアベルとの依頼を終わらせたい私が、ヌルをボディーガードとして召喚して、竜車と並走して邪魔なモンスターを取り除いていた事、そして竜が疲れないように常に回復魔法を掛けて体力を保っていたのが原因だったりもする。


 まあ、その事を知らない御者のおっちゃんは、モンスターに一度も出くわさないのは珍しい。竜もスピードを一度も落とさず休憩も要求しないなんて初めてだ。と、喜んだり驚いたりしてたけどね。閑話休題。


 そんな私達はこのまま一時間程先にある村に向かうと言うおっちゃんと別れ、依頼を出した村へと向かう。


 さて、まずは村長と話して挨拶と詳しい内容聞かないとな。──と、思っていた時期が私にもありました。


 そう、そんな私達は村長と大して話す事も無く何故か……何・故・か! 広大な森の中を闇雲に歩き回る羽目になっていた。


 それと言うのも村の入口で村民を見付け、話を聞く為に村長を呼んで貰おうと声を掛けたら「依頼を受けてゴブリン退治に来た冒険者だ。これからこの村を苦しめるゴブリンを退治しに行くと村長に伝えておいてくれ」と、話も聞かずに出て来てしまったのだ。


 一応私達も、最初は依頼主に挨拶するのがマナーだ。依頼内容をちゃんと確認するべきだ。と、言ったのだが「たかがゴブリンにそこまで過敏になる事無い」とか「これだから傭兵は嫌なのよ…… 」などと言ってうるさかったので仕方が無く従う事にした。


 これ以上揉めるのは私達の依頼の方に差し障るからね。


 因みにだが、ダリアが言ったように傭兵は新人冒険者の間では評判がすこぶる悪い。

 なんでも自由に冒険する冒険者と違い、金に汚く金の為になんでもする傭兵は軽蔑の対象なのだとか。


 まあ、根無し草の冒険者と違って傭兵の方が、評判が仕事に直結してる分ちゃんとしてるんだけどね。冒険者の方が余程アウトローだと新人は知らないらしい。

 その分、高位の冒険者は最初はからある程度の経験がある傭兵を有用だと認めている。まっ、同じ新人なら傭兵を取るからやっかみもあるんだろう。

 しかもありえない事に、色々と言った私達を置いて行こうとか、ダグラスを軽く自分達の盾になる人間だとか言いやがった。

 コイツら本当にダメだと思うの……。


 そんな訳で現在、私とダグラスは最高潮に苛立ちながら森を散策していた。


「あっ、見て下さいアベルさんあれ薬草ですよ」



「本当かいヒストリア。俺は全然見分けがつかないからいつも助かるよ」


「これぐらいは当然です」


「あっ、アベル。向こうに実がなってるわ」


 ””ピクニックかよ!””


 現在の隊列はアベル、ダリア、ヒストリアが先頭でアベルを真ん中に二人が左右から腕を組んでいる。

 中央には後衛のエイラと非戦闘員のカイル君、その後ろに私で最後尾がダグラスだ。


 お分かりいただけただろうか……。


 もうね。本当に事ある毎に評価を下方修正させてくれるよこのメンバー。あの手この手を使って評価を無自覚に下げてくるとか才能なのかな?

 まずダリア。お前スカウトで索敵役なのになんでそんな所で腕組んでピクニック気分よ。

 斥候らしく周囲に気を張れよ。動物の気配にすら気が付けないスカウトとは一体……。


 次にヒストリア。お前もエイラと一緒に中央で護られるべき後衛だろ。しかもほぼ攻撃能力無い自衛専門だろがよ。

 しかもふらふらと薬草取りに行く為隊列から離れるとか……。マジかよこの神官。


 んで、最後にアベル。お前、曲がりなりにも自分が最高戦力って自覚でここまでやって来てんだから、その両腕にまとわりついてる奴ら引き剥がせよ。

 いざと言う時に咄嗟に動けない状況作る最高戦力……。お前らマジでなんなの?

 しかも神官ふらふら離れて行くのを微笑ましそうに見守るなよ。


 しかも索敵はカイル君が仮契約した動物に任せ切りとか……この団、カイル君が居なくなったら空中分解……いや、とっくの昔に死んだりしてるんじゃねぇの?


 ゲームオーバーで死なない筈の初心者ネトゲプレーヤーでももうちょいマシだぞ。


 そんな感じでエイラを見ると、目が合った瞬間に顔を逸らされた。


 お前も苦労してたんだな……。


 そのまま一時間程歩き回った頃、こんな状況を作り出した張本人から「疲れた」だの「全然見付からない」だのと言う文句が出始めた。しかも言うに事欠いて「こんな広い森を闇雲に探すなんて無理だ」とか言いやがった。


 それ最初に私等が散々言ったよなぁ!?


 その言葉に若干……若干の苛立ちをダグラスと二人で抱きながら視線を合わせる。

 言葉が無くても通じる意思。やってられっか! と、言う事で私が索敵を開始。

 魔領と【脳内座標】のコンボスキルでゴブリンを索敵すると、前方斜め左方向の百メートル先の地点に三匹程のモンスター発見。魔力量からしてもゴブリンだろう。一匹少し魔力量が多いけど……。


 早速獲物を見付けた私は素知らぬ顔で「前の方で何かが動きました」と、誘導を開始する。

 その際ダリアに、私の仕事を取るなみたいな感じで睨まれたが、最初から仕事してない奴に睨まれる筋合いは無いので無視した。

 最初こそ見間違いではないのか? みたいな空気があったが、十五メートル程先に弓を持った二体のゴブリンと、一体のゴブリンメイジを発見して気を引き締めたようだ。


 うん。はっきり言って遅い。特にアベルとダリアは気配察知系のスキルを持っている筈なのに、視認するまで発見出来ないとか舐めてるとしか言えない。


 それでも素人ならしょうがない。と、無理矢理言葉を飲み込み、茂みに身を隠しながら作戦を立てようとするアベルの言葉に耳を傾ける事にする。


「ゴブリンとメイジか……。うん。あれくらいなら俺とダグラスで正面から行っても勝てるな」


 いやまあ、確かにそうだけど。せっかく奇襲出来る状況で何故正面から挑もうとするの?


「それなら……光よ 彼の者を守る鎧と成れ ディフェンダ これで大丈夫です」


「ありがとうヒストリア。良しそれじゃあ俺とダグラスで仕掛ける。皆は援護を頼むよ。ネロちゃんの弓は期待してるからよろしく」


「「はい」」


「ちょっとまて。俺は防御魔法掛かってねぇんだが……」


「済まないダグラス。魔法は貴重だからそうホイホイと何度も使えない。守りの為だけに二回も使う程余裕は無いんだ」


 うん。その内の一回今簡単に使ったよな?


「そうよ。アンタのその無駄に大きい大剣を盾にすれば大丈夫よ」


「……分かった」


「はぁ、ダグラスこっちへ。光よ 彼の者を守る鎧と成れ ディフェンダ」


「助かる」


「ネロちゃん」


「なんですかアベルさん?」


「君が魔法を使えるなんて聞いてない」


「……最初に言おうとしたら遮った挙句終わらせたのは貴方達ですよね? 私は補助魔法なら使えますよ四回程」


 まあ嘘だけど。この程度なら何回でも行けます。


「うっ……、ま、まあ、あれだ。魔法は貴重なんだこれからはオレが指示した時にだけ頼むよ。余計な所では使わないようにしてくれ。その一回が必要になるほど時もあるからね」


「……余計な所……ですか。わかりました」


 ”これはあれだな”


 ”うむ。魔法を俺以外の奴に使うなよ勿体無い。ですな”


 ”……そろそろキレていいか?”


 ”強く生きろ”


「じゃあ、気を取り直して3・2・1行くぞ!」


 ””高らかに叫んで行くなよ!!””


 ああ、案の定ゴブリンがこっちに気が付いた。

 うわっ、しかもダグラスと違ってほとんど射掛けられてる矢を落とせてねぇし。うん。防御魔法無かったらあいつ死んでるわ。しゃあねぇ。


 突っ込む二人目掛けて矢の雨が降る中、十五メートルの距離はやはり遠い。

 それだけの距離があれば当たり前だがメイジの魔法は完成してしまう。

 だが、流石にそんな物を打たせる気が無い私の一矢が、注目を浴びている中央突破中の二人とは別の位置から放たれ、メイジの頭に吸い込まれるように突き刺さり絶命させる。


 うむ。これぐらいで十分だろ。


 ”ナイス”


 ダグラスの感謝の言葉を聞きながら眺める先では、ダグラスの大剣による一撃でゴブリンは見事に一刀両断される。

 そしてらもう片方アベルの攻撃はと言うと……。


 浅っせぇなぁー。


 案の定浅かった攻撃はゴブリンを吹き飛ばした。

 そのまま追撃を仕掛けようとするアベル。しかしそれは前から飛んできた矢に邪魔されそのまま逃走を許す羽目になる。

 逃げた先には、先程アベルへと矢を放った別のゴブリンも加わっているのが見えた。


 まあ、私とダグラスは最初から三匹だけじゃないって気が付いてたけどね。近寄った段階で更に離れた所に二匹程居た。

 言っても良かったが、注意深く観察すれば誰でも気が付けるレベルだったからなにも言わなかった。


「くそ! 逃がすか!」


「深追いはしない方が良いと思いますよ」


「何を言ってるんだネロちゃん! 俺達の依頼はゴブリン退治。こうして手掛かりを見付けた以上巣穴を潰さなければ依頼達成にならない筈だ」


「アベルの言う通りよ。こんな時まででしゃばって輪を乱さないで傭兵!」


 いやいや、今回の依頼は威力偵察でもいいんだが……気が付いてないよね。


「行こう!」


「ええ」


「はい」


「……行っちゃった」


「あ、あの、行かないんですかネロさん?」


「ん、ああ、行きますよ?」


「あら、行くの?」


「放っておく訳にも行きませんからね」


「しょうがねぇな」


 こうして私達は先行するアベル達を追い掛ける。


 流石に今度はちゃんとした隊列で歩くようだ。


 しばらく進むと獣道のような分かれ道があり立ち止まる。


「両方に足跡……片方には血痕もあるわね。どっちもまだ付いたばかりみたいだけど……どうやら二手に別れたみたいね。どうする?」


 ”あからさまな罠だなぁ”


 ”だな”


「良し。俺達も二手に別れよう。手負いの方はダグラスとカイルで、残りは俺とだ」


「流石にバランスが悪すぎます」


 馬鹿なの?


「あんたまた!」


「なんと言われようが変わりません。私とダグラス──」


「それと私が付けばバランスは良いわね」


 私の言葉を引き継ぐ様にエイラが立候補する。


「……分かった。ダリア、ヒストリアは俺とだ。カイル遅れずに付いて来い」


「は、はい!」


 苛立ちを隠そうともせずアベルがずんずんと進んでいく。

 その後をカイル君が走って追い掛け、ダリア、ヒストリアもこちらをキッと一睨みだけして着いて行った。


「うーむ。危なそうだからカイル君も引き取るつもりだったが……」


「連れて行かれちまったな」


「しゃあない。さっさと倒して合流しよう」


「ああ」


「そうね」


「それにしてもエイラはこっちで良かったのか?」


「命が幾つ有っても足りないもの」


「正論だな」


「全くだね」


 こうして私達は二手に別れゴブリンをそれぞれ追う事になったのだった。

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