第372話ちくしょう。反論出来ねぇ
「ギギャァーー!」
「さて、これで最後か?」
「あー、ちょい待ち今調べる」
二手に別れた私達はアベルが取り逃した方のゴブリンを追いかけた。
その先にはやはりと言うべきか、大量のゴブリンが追跡者である私達を待ち構えていた。
まあ、あの分かれ道の段階で罠っぽかったしね。
そんな大量のゴブリンを見たエイラは戦意喪失してしまった為、エイラを守りながら私とダグラスの二人で戦闘を開始。
最初に遠距離攻撃の手段を持つゴブリンを、ダグラスの後ろに隠れた私がアースニードルで地面から奇襲。
それなりの経験を積んだ、私の回転による威力向上と、貫通力を増したアースニードルにゴブリンが耐えられる訳も無く、攻撃を食らった全てのゴブリンは自分が死んだ事にも気が付いていないかも知れない。
そのついでに全てのゴブリンを取り囲むようにアースニードルを配置して、遠距離攻撃手段の無いゴブリンの退路を絶った。
その時点で三分の二程の戦力を失っていたゴブリン達は、一気に統率力を無くし恐慌状態に陥りバラバラにこちらへ攻撃を仕掛けてくる。
まあ、そんながむしゃらな突撃が私の支援魔法でバフ盛り状態のダグラスに勝てる訳も無く、大剣の一振で一気に屠られて行く。
おー、ホームラン。
そんなこんなで目に見える範囲の最後のゴブリンを倒した所で周囲一キロの索敵を行った。
戦闘前にも一応確かめていたので当たり前だが結果は反応無し。恐らく残りはアベル達の方に全ているのだろう。
「大丈夫。この辺りにはもういない」
まあ、向こうに行きながらも索敵しないと討漏らす可能性あるから面倒だけど……。
「そうか。じゃあ残りは小僧の方だな」
「だねー。とりあえず索敵しながら進むぞ」
残存する敵が残っていない事を確認した私達は、エイラが着いて来れるスピードを維持しながらアベル達の方へと向かう。
「あの……一つ聞いてもいい?」
「何?」
「それ、最初にゴブリン見付けた時も今のやっていたわよね。どうやってるの?」
「ああ、魔力を無加工で放出して感知してるんだよ。興味あるなら後で教えるけど?」
「本当!?」
「ああ、でもこう言うのは個人の技術だから聞く時は人を見極めてからにしないとだよ。問題起きる時もあるから気を付けた方が良い」
「そうなのね。気を付けるわ」
「しかし良いのか? 結構な技術だろ。それ」
「別に良いよ。私は自分の技術を教えるのに抵抗無いからな。むしろそれでギルド全体の戦力がアップするなら良い事だろ」
そう、私は別に英雄思考でもないし、お金を稼ぐ手段も別にある。だから、戦力アップしてくれれば私に危ない依頼が回って来なくなるはず! むしろどんどん強くなってくれい。
「そんな事まで考えるなんて貴女どういう立場なの?」
「どうなんだろ?」
「いや、知らねえよ。ただまあ、姐さんに使われてるイメージだな」
ちくしょう。反論出来ねぇ。
「まっ、とにかく使える新人が増えるのは私としてもプラスだから良いんだよ。本当ならもっと広く拡げても良いんだけど、全員の面倒なんて見れないし面倒いからやらんけどね」
「教えて貰える私は運が良いのね」
「さて、それはどうだろう。厳しいらしいよ私の教え方」
全く。私がやらされてる事の半分位の優しいメニューなのに。
「が、頑張るわ」
「期待してる」
「それよりもこのペースで向こうは平気か?」
「もう少し早く移動したいけどそれで巣を見落とせば逆に遅くなる」
「確かにな……ちっ、無理矢理にでも言う事を聞かせるべきだったか」
「しょうがない。あの数は流石にこっちも予想外だ」
「無事だと良いけど……」
「心配は心配なんだ?」
「一応ね。色々あったけど短い間とは言え仲間な訳だし」
「そうか……。とりあえず、陽動の私達の方にさえあれだけのゴブリンを配置出来るんだから、向こうにはこっち以上のゴブリンが居るだろうね」
「っ!? そんな……」
「ステータス的にはホブゴブリンクラスなら何匹でもどうにかなる。でも……」
「でも?」
「油断した時、身体に力が入っていない時に襲われれば、ゴブリンが相手でも簡単に殺される。それにゴブリンが使う武器には自分達の糞尿混ぜた悪趣味な毒がよく塗られてるからね。それに侵されれば中級者でも簡単に死ねる。ステータスだけなら優秀だが、それで戦闘まで完璧にこなせる訳じゃない」
「ああ、油断して小物に殺される冒険者なんてザラだからな」
「とにかく出来る限り急──」
「どうした?」
「向こうだ! すまん。先に行く!」
言うが早いかダグラス達を置いて感知に引っ掛かった場所へと急ぐ。
向こうも私に気が向いているのか真っ直ぐこちらを目指しているのが分かる。
そして──。
「カイル君!」
私の視線の先の茂みから、猪の背に覆いかぶさった血塗れのカイル君が現れた。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
ハクア達と別れたアベル達一行は、獣道のようになっている道の先に洞窟を見付けていた。
「きっとあれがゴブリン共の巣だな」
「ええ、入り口の所に小型の足跡が沢山あるし間違いないわ」
周囲に気を配りながら入り口に近付いたダリアが、地面を確かめそう推察する。
「カイル。仮契約してる動物達で中の様子を探れるか?」
「すいません。鳥も猪も洞窟の中みたいな暗い所だと……」
「ちっ、しょうがないな。静かにゆっくり行くぞ。順番は俺、ヒストリア、カイル、ダリアだ。ダリア後方は任せた」
「任せて」
「ヒストリアは俺から離れない様に」
「わかりました」
簡単に指示を出して隊列を組んだアベルがゆっくりと洞窟の中へと入って行く。
通常ならば非戦闘員を巣の中へと連れて行くなど言語道断だが、今はそれを窘める者は誰もいない。
「やっぱり暗いな」
「そうですね。少し待ってください。光よ 我が行先を照らす灯火となれ ライト」
「良く見えるありがとうヒストリア。これで奇襲されないで済むよ」
「アベルさんを手助けするのが私の仕事ですから」
(もう二回も魔法を……そんなに使って大丈夫なのかな? いや、アベルさん達のやり方に間違いは無いから大丈夫だ)
カイルは残しておくべきだと自分で言っていた魔法を、明かりを確保する為だけに使った事に疑問を持つが何も言えない。
ダリアとて同じ事を思ったが、ヒストリアがアベルの為と言い、お礼を言っているのを見てしまえば反論する事も出来ない。
こうして熟練の冒険者が見れば呆れるような行為を重ねながら、アベル達は慎重に歩を進め洞窟の奥へ奥へと入って行く。
「ストップ」
耳を澄ませるような仕草をしたアベルが全員の歩を止める。
スキルによる気配察知でゴブリンを見付けた為だ。
「明かりも見えるしこの奥で間違い無いな」
「うん」
「皆、準備は良いな」
向こうの明かりが見えると言う事は、こちらの明かりも見えると言う事でもあるのだが、誰もその事に気が付かず話が進んで行く。
ハクア達がこの場に居たらそろそろキレている頃だろう。
そんな事を考え付かずにアベル達はゴブリンがいる広間へと突入する。
(ホブゴブリンまで!? でも……関係無い!)
「ウォォォォオ! ゴブリン共め! 覚悟しろ!」
本人達にとっては奇襲のつもりの突撃も、自らそのアドバンテージをかき消すような雄叫びを上げ台無しにするアベル。
本人の中では物語の主人公のように華々しい場面が描写されているに違いない。
──しかし、現実というものはやはりそうそう甘くはない。
ゴブリンへ向かい駆け寄るアベルが半ばまで到達した辺りで何かに躓き、顔面からスライディングする形になり顔面を強打する。
(あ……れ……? 何が……?)
突然自身の身に起こった出来事に思考が止まる。
それでも懸命に頭を動かせば、自分が地面スレスレに張られたロープに引っ掛かったのだと理解出来た。
(こんな……子供騙しな罠に……)
注意深く観察していれば容易に発見出来た簡易な罠。そんな物に引っ掛かった自分への羞恥で更に視野が狭くなる。
「アベル!」
「アベルさん!」
アベルが目の前で突然倒れた。
その事で思考が止まるのは何も本人だけに限った事ではない。
案の定、今までアベルだけで圧勝するという戦闘を繰り返して来たダリアとヒストリアは、アベルが倒れた事で取り乱し脇目も振らず駆け寄ろうとした。
「二人とも駄目で──あぐっ!?」
駆け寄ろうとする二人を止めようとしたカイルが、ホブゴブリンが放つ投石に吹き飛ばされる。
冒険者でもない、レベルも低いカイルが受けるにはあまりにも致命的な一撃だ。
「カイルさん!?」
「!?」
「避けろ!!」
「えっ? きゃっ!」
「ぎっあぁ!」
「ヒストリア! ダリア! グッアァ! あぁあああああああぁああああああああああああああああああああぁぁぁ……!」
突然起きる数々の出来事に翻弄され完全に冷静さを失ったダリア達は、声に反応してかろうじて視界に映していたゴブリンからも目を逸らしてしまう。
その結果、駆け寄ってきたゴブリン達の攻撃に為す術なく倒され覆いかぶさられていく。
その間、アベルとて何もしようとしなかった訳ではない。
二人が駆け寄って来た事を視界に捉えた瞬間から、起き上がり体勢を整えようとした。──だが、立ち上がり掛けた時には自分を越えて二人に向かうゴブリン達の姿、そしてカイルへと放たれたのと同じ投石による次なる一撃が、アベルの頭に当たり脳を揺らす。
そして畳み掛けるようにボロボロの武器を持ったゴブリン達から次々に攻撃を受けたのだった。
本来であればゴブリン程度のステータスによる攻撃などアベルには通用しないはずだった。
しかし、次々に起こる事態に混乱した頭、投石による攻撃はで揺れる脳。そして──ゴブリンの糞尿を混ぜた特性の毒を塗られた武器の攻撃の前には、せっかくのステータスも役に立つ事は無かった。
──それはまさに、ハクア達が危惧していた経験の無さと、ゴブリンを相手するが故の油断が最悪の形で現実の物となった瞬間だった。
何を間違えた? こんな筈では……組み敷かれ、ボロボロになりながら奥へと連れ去られて行くダリアとヒストリアの二人。
そんな二人を霞む視界に捉えながらアベルの頭の中ではそんな言葉だけが何度も繰り返されていた。
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