第474話酷い……酷い攻略法だったの……

「──と、言う訳よ」


「はぁ……そうだったんすね。知らなかったっす……」


「ムーも知らなかったの……」


 どこから取り出したかわからないホワイトボード付きの講義が終わり、それぞれが理解を示す──が、その目は映像に釘付けにされ、ハクアの作り上げた料理映像を今にも涎を垂らしそうな顔をして観ている。


 きっと頭にはほとんど内容が入っていない。


 だがそれもしょうがない。


 今まで大した味付けもせず、基本的には焼くか生の料理しか食べてこなかったシーナ達は、この短い時間でハクアが思った以上に餌付けが完了している。

 なんなら料理に釣られてテイムが出来てしまうレベルである。恐るべき食テロ。


 そんな破壊的な映像を垂れ流していた本人は、やっとの思いで炎から脱出してきた猪のモンスター、ファングボアが襲ってくるのを見て、おっ、これでラードと豚骨モドキが手に入る。

 などという考えしか浮かばない肉食系腹ペコ主人公なのでしょうがない。


 食事を終えたハクアは階段へ向けて歩きながら、焼け野原になった森を酷い光景だぜ。とでも言いたげな表情だ。自分でやったのに他人事である。


 そうして階段を辿り着いたハクアを観て、ようやく再起動したシーナ達は、次の地下三階について思い思いの感想を語る。


「次は確かランダム転移っすよね?」


「そうなの。あそこはモンスターがびっしりで面倒なの」


「流石に狭い場所だとドラゴン化も出来ず妾も苦労したな」


 ハクアは知らないが地下三階、地下四階はこのダンジョンの鬼門となっている場所だ。


 大出力攻撃が得意なドラゴンにとって、狭い場所での乱戦は苦手なのだ。

 ヘタに威力のある攻撃をすればダンジョンが壊れる恐れがあり、元より敵がミッチリと詰まっている部屋では、ドラゴン化すら出来ず人化状態での戦闘を強いられる。

 人化状態での戦闘など、ドラゴンにとってはオマケのようなもの、それを強いられる地下三階はそのような理由で鬼門となっている。


 そして地下四階はモンスターの出ない罠だけの階。

 普段罠になど全く警戒しない大多数のドラゴンは、この罠の階にはめっぽう弱い。

 強固な肉体と、体力が無ければほとんど抜けられる者がいないほどだ。


 要するに力技だけで突破するには難しい場所がドラゴンは苦手だったりする。


「まあ三階、四階は流石に苦戦する筈っすね」


「ん。いくらハクアでもここまでみたいに簡単にはいかないの」


 と、いつの間にやらハクアの失敗を望むような会話になっているが、本人達は全くの無自覚である。

 何故ならそれは変則的な攻略ではあっても、自分達が苦戦した階層を、こうも容易く攻略しているハクアへの嫉妬から来る言葉だからだ。

 アカルフェル一派ほどではないが、シーナ達とてドラゴンとしてのプライドはある。

 本人達は無自覚だが、そのドラゴンとしてのプライドは今かなり傷付いていたりする。


 そんな自分達ですら気が付いていないプライドを痛め付けたハクアが、遂に三階に辿り着いた。


 その姿をプライドが傷付いている年若いドラゴン達が、若干の期待を込めた視線で見詰める。


「なんだここ?」


 三階に降りてすぐ先の無い袋小路の部屋を見てハクアが呟く。その後部屋を隅々まで調べ、魔法陣しか無い事を確認したハクアは、それがどんなものなのかを調べ始めた。


「ハクアは魔法陣も調べられるんすか」


「ああ、奴は妾にもしつこく聞いてきたからな。何度燃やしても煽りながら聞こうとして来てウザかった」


「ドラゴン煽るとか流石すぎるの……」


「というか、聞く為にわざわざ煽るとか何やっとるんじゃあやつは?」


「それが白亜さんのやり方ですから」


 テアの回答にそれで良いのか? と、全員が心を一つにするが誰も口には出さない。


 そうとは知らず煽り系主人公のハクアは、魔法陣を調べ終わると少しだけ何かを考える素振りをすると、何やらゴソゴソと荷物を漁り大きなタルを一つ取り出した。


「ん? なんじゃあれは?」


「あれは……白亜さんが遊びで作った大タル爆弾Hですね」


「大タル爆弾H? 何それなの」


「そうですね。一言で言えば……二重構造のタルの一層目に大量の火薬をいれ、二層目に毒薬、釘などの金属が入っていて爆発と同時にそれらが相手を襲い、少しでも傷がつくと毒が体内へ、そうでなくても気化しやすいので毒に侵されやすくなっている。殺意しかない物ですね」


「何それ怖い」


「……本当に殺意しか感じないの」


 テアの説明に震え上がる。

 ミコトなどあまりの殺意の高さにのじゃロリ口調を忘れ、ムニは絶句するほどだ。

 シーナも無理矢理笑っているがその顔は若干引きつっている。


 そうこうしている内にハクアは取り出したタル爆弾を抱える。その光景を観た面々はハクアはあの爆弾を持って転移し、転移した先で爆発させるのだと考えた。

 いくら爆弾といえど【結界】で守れば大したダメージにはならない。それに引替え敵にはかなりのダメージが期待出来る。


 あんな物を使うのは反則じみているとはいえど、ここまでに比べれば非常識と言うほどでもない。とあれば、確かにそれは有効なのかもしれない。


 だが、そんなシーナ達の考えは脆くも崩れ去る。何故ならそれは常人の常識は逸脱していない思考だからだ。


 その証拠にハクアは抱えたタル爆弾を、見たこともない華麗な投球フォームで転がした。

 地球のボーリングを知っている者からすれば普通の投球フォームだが、それらを知らない世界の人間からすれば、異質なフォームにも拘わらず洗練されているという、世にも不可思議な光景だ。


 転がされたタル爆弾は転移陣を通って別の部屋に転送される。その直後ハクアは壁に耳を付け意識を集中する。


 瞬間、どこからか遠くの方で爆音が響く。


 それを確認したハクアは満足そうに笑うと……いや、邪悪な顔で嗤い、次々と転移陣にタル爆弾を放り投げ続けた。


 若干引きつった表情をしていたシーナの顔は今や完全に引きつっている。というか完全に引いてる。


「酷い……酷い攻略法だったの……」


 ムニの一言がこの場に居る全員の気持ちを代弁した。


「まあ、次はダメっすね次は」


「そうなの。ここの罠はどれも巧妙だからきっと苦戦するの」


 続く地下四階に降りたハクアを観て、もう言い逃れが出来ないほどに本音が漏れ出てた。


 それもそうだろう。


 だって自分達ですらこの階層を含めて何度も失敗しているのだ。それに比べてハクアは未だに傷一つ負っていない。なんならまともな戦闘すらする事無くここまで辿り着いているのだ。


 この頃になれば自分達の中にある感情に気が付き、もう表面上を取り繕う気持ちもなくなっていた。


「って! なんでハクアはあんなに簡単に避けてんっすかぁぁ!!」


「凄いの。一個も罠を発動させずに辿り着いちゃったの……」


「あやつには罠が全て見えているのか?」


 だが、そんな願いも虚しく続く罠だらけの階層は、一つも罠を発動すらさせずに、五階層まで続く階段まで辿り着かれてしまった。


「まあ、白亜さん自体が罠のエキスパートですからね。なんなら見た目と行動が伴わない事を考えれば、白亜さん自体が罠みたいなものですし。ドラゴン用に調整してある罠程度なら簡単に見破れますよ」


 事実この階層の罠は、仕掛けの分かりにくさよりも、ドラゴン用に罠の威力を重視した物になっている。

 それでも初見、しかもこんな速さで一つも起動させずに進めるものではないが、そこはハクア。

 罠に嵌める為の狡猾、巧妙さよりも、威力に全振りされた罠など、あくびが出るほど刺激が足らない階層だった。ぶっちゃけつまらん。


 だがシーナ達の絶望はここで終わらない。


 なんとハクアは、何を思ったのか今来た道を走って上り階段の入口まで戻ったのだ。しかも罠は発動させない、流石のクオリティである。


 更には何を思ったのか色々な道具をその場に取り出し始めた。


「えっ、あやつ何するつもりじゃ?」


「なんかすっごい嫌な予感がするんっすけど」


「ムーもなの」


 かくして、その予感が正しいものだったと証明するかのように、ハクアによる地下四階罠大改造が始まったのだった。

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