第475話ちくしょう! なんでスマホねぇんだ!
「連続して酷いものを見せられた気分なの……」
「わし……ダンジョン攻略ってこんなものだと思わなかったのじゃ」
「いやいやいやいや。違うっすよ? これはハクアが特殊……異常? おかしいだけで私らは普通に攻略したっすよ」
「その通りですミコト様。あれはただの異常者なので気にしないでください」
四階層の罠を無断でアップデートした挙句、続く五階層でケルベロスを仲違いさせるという、世にも奇妙な光景も観る羽目になったシーナ達。
まだこのダンジョンに潜った事のないミコトは、これがダンジョン攻略なのかと愕然とし、罠を仕掛ける場面は全部観たが、到底あの罠を掻い潜る事など出来ないとガクブルしている。
今はそんなミコトを正気に戻す為、全員で奮闘している最中だ。
そんな軽い精神崩壊を起こさせた本人はといえば、現在は地下六階を悠々と歩いてる最中だった。
地下六階は多数の虫型モンスターが群れを成して襲ってくる場所。一体一体なら取るに足らないが、これが時に何十何百と襲ってくると話は別だ。
ただまあそれも本来ならの話だ。
速攻で殺虫剤にやられた虫型モンスターは既に瀕死の状態。ハクアのスキルによって呼び出された【貪食竜】ノクスの餌場と化していた。無情である。
その後の料理でまたも涎を垂らしそうになるのを必死に我慢しながら見守っていると、ハクアは早くも無傷のまま地下七階に到達した。
「ここはどんな階層なんじゃ?」
「ここは一番簡単な所っすね」
「強くて厄介なモンスターは多いけど、ドラゴン化して暴れれば良いだけだから簡単なの」
「ほう」
「この階は人間の使う武術というものを使う動物型モンスターが居ます。それらをどう攻略するかが鍵ですね」
アクアスウィードの言葉に全員がそうなのかと頷く。
それもそのはず、何故ならこの階層を攻略した者は、ムニが言ったようにドラゴン化する事で全てのモンスターを蹴散らしてしまうからだ。
よってほとんどの攻略者が、この階層のモンスターがどんな戦い方をするのかを知らないのだった。
なので当然ハクアの攻略を観た面々は驚く事になる。
まあもっとも、その驚きはこの階層で初めて真面目に戦うハクアに対するツッコミの方が凌駕するのだが。
「なんで今までまともに戦おうとしなかった癖に、ここだけこんな熱いバトル展開になってるんすか!?」
「ふおおぉぉ……。なんで拳だけで戦ってるのか分からないけど、なんか観てて応援したくなるの」
「確かに、こう……手に汗握って応援したくなるのじゃ」
と、初めて見るボクシング風な戦いに大興奮だ。完全にスポーツ観戦の構えである。
そして展開される最後の攻防。
「……くっ、まさかあそこで耳を使ったかち上げ攻撃なんてよく避けられたっすね!!」
「かち上げと言うよりもアッパーね」
「なるほどうさ耳アッパー。とても興奮した戦いだったの」
興奮した様子で戦いについて語る面々。
更にその後出て来たクロオビベアーとの戦闘で、ハクアの力の一端を観て更に驚く。
それはアクアスウィードも同様だった。
ハクアが最後に放った一撃。あれは普通なら気や魔力という力を纏った状態で放つ攻撃を、わざわざインパクトの瞬間に打撃に乗せる攻撃だ。
あれは簡単に例えれば、普通の状態での攻撃力を100とした時、力を纏った状態で攻撃すれば200となる。
そして先程ハクアがみせたインパクトの瞬間に乗せる技、あれはコンマ数秒でも狂えば、纏った状態よりも攻撃力が落ちる。だが、先程のハクアのように成功すればその威力は三倍にも四倍にも膨れ上がるのだ。
ハクアは成功だと思っていたがあれでもまだタイミングはズレている。本来完全にタイミングが合えば閃光はより激しいものになる。
あの程度の閃光ではまだまだ甘いのだ。
しかしあの程度の閃光でもそれが出来る者は一握り。それほどにハクアのやった事はとんでもない事だった。
そしてそれはアクアスウィードとテア、この二人だけが正確に理解し、その計り知れない才能に身体がぶるりと震えた。
だがそんな事をここに居る他の年若いドラゴン達は分からない。それどころかそれもその後に起こった、モンスターに盛大な喝采と共に見送られる。というインパクトに薄れる事になる。
「えっ? モンスターにこんな風に見送られるってなんっすか!?」
「本当にハクアは規格外過ぎるの」
そんなムニの呆れるような一言を聞きながら、ハクアが階段を降りる姿を見守った。
続く地下八階層は一面が水に満たされた階層だった。そして常にハクアのテンションがうなぎ登りの階層になった。
この階層は三体の大型モンスターを倒すのが目的の階層だ。
そしてそのモンスターは人一人が歩ける程度の、枝分かれする足場の下、つまり水中から奇襲する形で襲ってくる。端的に言えば地下二階のフィールドが水場に変わり、敵を強力にしたバージョンだ。
そしてハクアのテンションがうなぎ登りだった原因は、ここに現れる三体の強力なモンスターが原因だった。
そのモンスターとはサメである。
だが、もちろんサメとは言っても普通のサメではなかった。そんなサメを見たハクアの反応はこんな感じだ。
一体目
「おいマジかよ! どんなん出てくるかと思ったら頭二つあるサメとか、ダブルヘッドシャークだと!? すげーまさか異世界で本物見れるとか! ちくしょう! なんでスマホねぇんだ!」
二体目
「おおお!! ダブルが来たから来るかもとか思ってたけど本当にトリプルヘッドシャークキターーー!! 何コレボーナスタイム? B級映画大好きっ子へのご褒美タイム? やべー、異世界来て一番興奮してるモンスターかも!」
三体目
「次が予想出来なかったがここで来ますかシャークトパス!! うわ、マジで攻撃方法同じだ! サメ部分マジ意味ねぇwww こいつ見た目サメのインパクト強いのに、本体はまじでタコ部分だwww」
と、終始大いにテンションMAXだった。
元の世界で映画に出て来たモノを実物で見れてテンション上がってたのだが、異世界の住人で映画なんてものを知らないドラゴン達には、何故ハクアがここまでテンション上がってたのかは謎である。
因みに密かにハクアの映像を観ながら、いつもの表情を全く崩さずにテアも興奮していた。
そしてここでもハクアの作った大タル爆弾Hが大活躍。
一体目、二体目と普通に戦えばもっと簡単に倒せるはずのモンスターを、何故か爆弾を口に放り込み爆発させる方法にハクアが拘った為だ。
正直、シーナ達は何故ハクアがそんな事を必死にやっているのか意味が分からなかったが、テアだけは内心で拍手喝采な映像に仕上がった。ハクア同様B級映画が大好きなテアであった。
そんな興奮冷めやらぬ内に到達した地下九階。
そこはドラゴン達には不評の階層だった。
何故ならこの階に出現するモンスターは、数百にも及ぶワイバーンなのだが、他の種族からは同種とされているワイバーンは、ドラゴンからしたらただの鳥、もしくは空飛ぶトカゲでしかないのだ。
何故ならドラゴンとは、強靭な肉体と圧倒的な魔力があってこそなのだ。他の竜種もそのどちらかは持っている。
だが、ワイバーンはそのどちらもない。
攻撃力はそこそこ高いが魔法も使えず、飛ぶために羽ばたくしかないワイバーンは、ドラゴンからしたら同種とは認め難い。
なので実はドラゴンはワイバーンを酷く嫌っているのだ。
「「「「……うわ〜」」」」
そんな地下九階。
本来なら数百にも及ぶワイバーンを相手に、ドラゴンですら飛ぶ事が出来ない展開になる。
そしてそんなワイバーン相手に、下から魔法で撃ち落とすのがこの階層の定石だ。
いくら強靭な肉体を持ち、強力な魔法が使えても、数百のワイバーンに360°全てから襲われれば、ドラゴンとてたまったものではない。
その程度にはワイバーンの攻撃力が高いのだ。
だが、今目の前で展開される光景は、シーナ達に生まれて初めてワイバーンへの同情心を芽生えさせる光景だった。
「あはははは。ほらほら逃げろ逃げろー♪」
本来なら制空権はワイバーンにある筈、だがそんなものは関係無いとばかりに、ハクアとノクスだけが空から一方的に魔法で攻撃している。
最初は通常通りワイバーンも空からハクアを狙っていた。
だが、この階層を把握したハクアが、オリジナルの魔法エアーマインを仕掛けた事で状況が変わった。
エアーマインは空中に見えない風の爆弾を設置する。魔法が使える者なら少し集中すれば簡単に見えるが、魔法が全く使えないワイバーンではそうはいかない。
元々そう広くない階層はドラゴンの飛ぶスペースを奪う目的だったが、今や不可視の爆弾のせいで、少し動いただけで数百居るワイバーンは面白いように墜落していった。
そして更に不運は続く。
ワイバーンに考える頭が無ければ、ただ全軍をもって突撃すれば良かった。如何にハクアといえど、全てを落とす程の爆弾は仕掛けられないのだから。
しかし次々に不可視の爆弾に触れ墜落する仲間を見て、ワイバーンは空の戦いは不利とみて大地に降りてしまった。
そこからはもう一方的だ。
遠距離攻撃の方法が無いワイバーンは、制空権を手放した事でハクアとノクスから一方的に攻撃を受けるだけになってしまったのだ。
そしてこの一方的な殲滅は僅か三十分で終了した。
▼▼▼▼▼▼
「ふふっ」
ここまでの攻略を思い出したアクアスウィードは小さく笑う。
ハクアの攻略を観て取り乱す若者を見て、その思った以上の戦果、そして自分の高揚に自然と出た笑いだった。
でも……と、アクアスウィードは小さく口の中で呟く。
恐らくはここまでだろう──と。
このダンジョンのボスはベヒーモスだ。
通常に比べて弱い個体とはいえ、若いドラゴンでも苦戦する相手。
強靭な肉体から繰り出される攻撃に、鋼のような皮膚の防御力、そして強力な魔法耐性はハクアとは相性がすこぶる悪い。
ここまでの攻略でハクアの事を理解している面々は、今までのようにハクアのドロップアウトを予想しない。
皆正確にハクアはここで終わるだろうと考えているからだ。
そんなハクアは最後の休憩を終え、ベヒーモスが待つ扉に手を掛け中に入る。
「えっ?」
それはこの場の誰かが発したものか、はたまたハクアの発した言葉だったのか。
部屋に入ったハクアと共に観たものは、既に何者かによって倒されているベヒーモスの姿だった。
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