第70話「はっ! のけ者にされてる予感。ゴブ」

 騎士国フレイス


 人間界の守護を担う国であり魔族が最も攻めやすい場所に位置する人界の要の国。前方の魔族領近くには砦を構え常に人員を配置し魔族の進入を防いでいる。国の後方の少し離れた場所には騎士学校を設立し、建前上様々な種族の子供に門戸を開き、騎士になる為の訓練と授業を行っている。


 そんな騎士国フレイスの一室。


「……その話は本当か?」

「はい。ウィルドの部下が動いているそうです。先日もアリスベルの近くに在るユルグ村のスケルトン祭りに現れたそうで」

「あのスケルトン祭りにか?」

「はい」

「被害は?」

「死者が数名、とはいえガダルにその部下までいてこの程度なら……まぁ、全員が結界を抜ける為ステータスを下げ、そのまま潜伏する為にステータスを下げた状態でしたからでしょうが……」

「確かにな……他には?」

「対処に当たったのは祭りに参加していた冒険者だそうです。ライアスと言う冒険者が中心に戦っていたらしいのですが、同じく数名の少女が共に戦ったとの事です」

「少女?」


 報告を受けた騎士は、何故そんな一緒に戦っただけの少女の事を報告するのか首を傾げながら聞き返す。


「はい人数は五名。種族が判明しているのはその内の三名、それぞれエルフ、ドワーフ、それとデイウォーカーの吸血鬼だそうです。それにエルフに似た少女と恐らくリーダーと思われる白い少女です」

「ふむ、随分とバラバラだな。それに白い少女とは何だ?」

「報告では髪も肌も白く美しい少女だったそうで、それ以外形容しがたい……と」

「そうか、何が起こるか分からん。そいつらには監視を付けておけ」

「はっ、失礼します!」


 報告をしていた男は礼をして部屋を退出していく、それを見送りながら報告を受けていた男は、報告書に目を通しながら一人溜め息を吐く。


「全く、何がどうなっているんだ? 各国の勇者召喚にここ数年目立った動きが無かった魔族の暗躍。それに……この白い少女……か、一体何者なんだ。願わくば敵ではない事を祈るのみか……」


 一人の騎士の言葉は誰が聞くわけでもなく、再び報告書の書類を捲る音だけが聞こえていた。

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 王都ロークラ


 かつて自らの命を使い、魔族領に結界を張った勇者の末裔が王を務める国であり、貴族を中心とした人間が住み、魔族領から離れた後衛であるが故、貴族の平民に対する扱いが特に酷い国でもある。また、地方の王族、貴族、領主にとっては王都に別荘や居を構える事がステータスにもなっている。


 ロークラ王城謁見の間。


「召喚した勇者達の方はどうだ?」

「はっ、勇者達は現在女神様から授かったスキルを使いこなす訓練に励んでいます。ですがその……、一人一人のステータスはあまり高くありませんのであまり急ぐと全滅の可能性も……」

「構わん! 全滅すればまた連れて来れば良いだけの事、一通りの教練が終わり次第送り出せ」

「しかし──」

「勇者に関しては以上だ。下がれ!」

「はっ!」


 兵士の報告を受けていた王は兵士の報告を最後まで聞く事無く兵士を謁見の間から下がらせる。

 そして兵士を下がらせた王は先程の話を再び始める。


「それで先程の話だが、魔族が動き出したとはまことか?」

「はい、我国の諜報部隊ハチが運んで来た情報です。まず間違いは無いでしょう」

「くっ! 聖国などと触れ回っているカリグが勇者召喚をしたと聞いてこちらも召喚したが、どうやら良いタイミングだったようだな」

「はい、王の慧眼恐れ入ります」

「世辞は良い! して、ラジアターズよ。お前の言う通り勇者は召喚したが次はどうすれば良い」

「魔王を討伐に、と言いたい所ですがここは地盤を固めるべき時です」

「この余に小動物のように巣に籠れ……と?」


 ラジアターズと呼ばれた男の言葉に静かに怒気を漲らせ、今にも爆発しそうな声音で聞き返す。


「いえ、御身は誇り高き血族、ですが下賎な者共は自らも王を名乗りロークラに対抗せんとする始末、魔王を……引いては魔族を駆逐し! この世に恒久的な平和をもたらし、魔族領を人間いや! ロークラ盟主ログレス様のものとする為、周辺諸国を統一するべきです」

「おお! なるほど! そうか、その手があったか」

「はい、知識ばかりのエルフ、野蛮な獣人、鉄を弄るしか能の無いドワーフ、その他の種族にも今こそログレス様の偉大なるお力を見せ付ける時です」

「しかし、どうやって周辺諸国を取り入れるのだ?」


 ラジアターズの返答を聞き、満足そうに頷きながらログレス王は具体的な方法を訪ねる。


「勇者を使います」

「何、勇者を?」

「はい。まずは周辺諸国にロークラに協力するよう触れを出します。それで従えばよし、従わなければ攻めれば良い。勇者はこの世界の事を知りません。なればこそ、余計な事を教えず魔族に加担する国として断ずれば良い。力があったとしても所詮は子供、こちらに都合のいい情報を厳選すれば容易にコントロール出来ましょう」

「なるほど。誰か在るか!」

「はっ! お呼びでしょうか!」

「今すぐ戦士長と魔導長それに軍師を連れて参れ」

「はっ! ただいま!」

「ラジアターズよ。お主は下がって良いぞ」

「はっ! 失礼致します!」

「ふう、こちらは上手く行った。しかし報告にあった白い少女、一体何者だ?」


 謁見の間から退出したラジアターズは一人そう呟いた。

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 聖国カリグ


 女神を信仰し聖女を有する国、平和を愛し、人間に希望を与える国。この国には神官を育てる施設があり、幼い頃から預けられ悪しき物を滅し、人々を魔法で癒す訓練に勤しむ少年少女が数多く居る。それがこの国の表向きの顔だ。


「ほう、女神の使徒ですか?」

「はい、如何いたしましょう枢機卿?」

「取り敢えずは放っておきなさい」

「宜しいのですか?」

「ええ、今のところは……ですがね」

「しかし……」

「良いのですよ。しかし、もしもこちらの害になるなら神の名の下に誅を下さねばなりませんがね」

「枢機卿がそう仰られるなら」

「それよりもロークラの方はどうです?」


 未だ納得のいかない顔をしながら渋々納得する男を見て、まだ若いと思いながら次の報告を促す。


「此方の勇者召喚に触発され向こうもかなりの人数の勇者を召喚したようです。それに周辺諸国の動きも中々に……中でもアグラスやシュガー等の国は、同じく勇者を召喚したようです。オームも少し不穏な動きがあるようですね」

「ふう、大変な事は重なりますね」

「はい」

「報告ご苦労様です。下がって結構ですよ」

「はい、詳細は此方の報告書に。では、私は失礼致します」

「イの七番、十二番来なさい」

「お呼びですかぁ、枢機卿」

「……ここに」

「七番いい加減その喋りは直しなさい」

「は~い」

「お前達にはそれぞれロークラと、先程の白い少女を監視してもらう」

「どちらがどちらに行けば?」

「ワタシ、白い少女って興味ありま~す」

「はぁ、良いでしょう。七番貴女が白い少女を担当しなさい」

「は~い」

「十二番貴方はロークラを頼みます」

「了解しました」


 二人は返事をすると闇に溶け込み気配を消す。


「ふう、白い少女。困りますね? 我々以外に神の寵愛を受けられては……もしもの時は──」


 枢機卿は一人そう呟いた。


 ・・・・・

 ・・・

 ・


「ふ~ん、面白い事聞いちゃった♪」


 枢機卿の部屋のドアから音を立てずに離れた少女は呟いた。


「女神の使徒の白い少女か、ふふっ、面白そうな子ね♪」


 少女の呟きは誰も居ない廊下に消え、いつの間にか少女の姿も消えていた。

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 商業都市アリスベル


 王政を敷かれているにも拘わらず実質十人の商人により運営される都市。あらゆる物を金で売り、あらゆる物を金で買う。表の品から、表に出せない品まで金さえあれば殆どの物が売買出来る都市。そして十人の商人は十商と呼ばれ毎年の売り上げ上位十名から選ばれる。


 その一人、若くして十商に名を連ねたカラバス・マーン、通称カーラは自身の執務室で報告を受けていた。


「そう例の白い少女が……」

「ええ、もうすぐこの都市に来るそうです。何でもギルドのゲイル氏をかなり怒らせ、その上でここに来るとか」

「くす、面白い子ね。私の商売の足しになれば良いのだけど」

「どうでしょうね。報告ではあまりこちらの才能があるようには──」

「別に商才は関係ないわ」

「そうなのですか?」

「ええ、それよりその子がこの都市に来たら、他の十商が確保する前に、一番最初にコンタクトを取れるように手配をお願い」

「承りました」

「それと、王都に聖国の周辺諸国もキナ臭いからチェックは欠かさずにね」

「心得ていますよ。では」

「ふふっ、さあ私の勘ではこの白い少女、かなりの商売に繋がる筈、何としても一番最初に会ってみたいわね」

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 ???????


「例の白い少女をいろいろな国が調べているそうです」

「あら、もう見つかってしまったの? 出来れば私がコンタクトを取るまで、待っていて欲しかったわね?」

「それは無理じゃないですか?」

「ふふっ、まあ良いわ。それは後のお楽しみにしましょう。今はそれよりも軍備を整えてこれからの時代に備えましょう。そういえば例の彼女は?」

「はっ! 今の所怪しい動きはありません」

「そう」

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

「ハックション」

「うわ、こっち向いてした!」

「ごめん」

「風邪かな?」

「違うと思う」

「はっ! のけ者にされてる予感。ゴブ」


 えっ! アクアさん電波系に路線変更?


「大丈夫ですかご主人様!?」

「大丈夫大丈夫、きっと誰かに噂されてるだけだよ」

「何それ? と言うかハクア。この世界に私達以外の人に噂される程の知り合い居るの?」

「あぁ、居なかった」


 〈今日も平和ですね〉


「そうだね」


 〈皆さん明日からまたダンジョンに行くんですから、早く寝て体力と気力を回復して下さい〉


「「「はーい」」」


 こうして私達の休日は終わり、いよいよ明日からダンジョン攻略に挑むのだった。

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