第205話解せん。何故にバレるし?

 私は崩れていくグロスの体を見つめながら気になっていた事を最後にもう一度聞く。


「ねぇ? さっきも聞いたけど何で私にこんなの渡すの? 魔族が強いものに従うのは分かった。けど、それは魔族同士の中での話であって、戦って負けた全ての者に対してじゃない。魔族の……ううん、ガダルの不利益になる事を何でする?」


 そう、私はずっとそれが気になっていた。だってどう考えてもおかしいでしょ?


「何だ、そんな事か……、俺はカーチスカとはチゲェからナ」


 そこからグロスが語ったのは自分がガダルに部下になった時の事だった。


 元々魔獣として生まれたグロスは、力を求め様々な魔物や人間を殺して魔石を奪い取い、経験値を稼いでいたらしい。だが、最初はそれを意識しておらず、ただの本能的な行動でしかなかった。

 そう意識したのは生まれてからどれくらいの年月が経ったか分からない頃、何時もの様に魔石を食べた時起こったのだそうだ。

 急速に体が、意識が塗り代わり、今までの行動が、考えが、全て自分が強さを求めていたからこその行動だと理解した。

 そして気が付いたら自分は魔獣と呼ばれる獣から、魔族へと至っていたらしい。


 それからも、いや……それまで以上に強さを求めたグロスは、それまで以上に強者をも求めた。

 そして出会ったのがガダルとカーチスカだった。ガダルを一目見た瞬間本能で敵わないと思い頭を垂れていたと語った。

 それからはガダルを越えいつか降す為に下に付き、ガダルの手足となって働いたのだそうだ。


 そして、その時に聞いた話でカーチスカも元はただの魔獣で、ガダルにその力を見初められ、名を与えられた事で魔族へと至ったらしい。


「そう言う訳デ、俺は……カーチスカとは、、チゲェんだヨ」


 そして笑いながら「それに、俺はマハドルの奴が気に入らねぇ」と言っていた。何でも、コソコソと策を弄するのが気に入らないと、実に脳筋な理由も述べてる辺りグロスらしいと思ってしまった。


 しかしアレだな。初めからスキルは使うつもりだったけど、こう、ね? やれって言われると何かやる気削がれるよね?

 言われなくてもやるつもりだったのに……。みたいな? しかもそれが、こんな形見分けみたいな感じだと流石に重いし。


 私がそんな事を考えていると両脇から脇腹を肘打ちされる。何をする! と、横を見ると空気を読めみたいな目で睨まれた。しかも、目の前ではグロスにまで半眼で見られてるし。


 解せん。何故にバレるし?


「クカカ……。まぁ、信じる信じねぇは、お前の自由ダ」

「……はぁ、信じるよ。ありがと」

「……クカカ。やっぱ、お前はおもしれぇ、ミオは縛られたままだろ? イラつくが……マハドルは、強ェゼ、使えるもんは使え……よ」

「グロス……」


 遂に限界が来たのか言い終わると同時にグロスの体は完全に崩れ去った。


 終わった……か。


 スケルトン祭りとここで戦って、それくらいしか接点は無いが私はスッキリしない気分でグロスの腕を見つめていた。


 ▶ハクアのレベルが……


 そして私は同時にある重大な事に気が付いてしまい、グロスを倒しレベルアップしているにも関わらず、その声が聞こえないほど愕然とするのだった。


 アレ? もしかして私、男から物貰ったの初めてじゃね?! ……マジか!? えっ? マジで!?

 初めて男から物貰ったのがそいつの腕とか! 何その猟奇的な展開! いやいや、いやいや、待てよ、待てよ、いくら私だって他に在る筈だ! よ~く、思い出せ私! 何か、何か在る筈だ! 頑張れ私!


 私は必死に過去の記憶を探るが一向に何も出てこない。そんな私を澪と瑠璃は訝しげに眺めるが私にはそれを気にする余裕は無い!


 だってこのままだと、初めて男から貰ったプレゼントはその人の腕です♪ 何て事に成ってしまうのだよ! それはいかん! いかんよ!

 いくら私が色んな事を気にしないで流す人間だって守りたい物の一つくらいは在るのだよ!

 頑張れ私の脳ミソ! 何かを探り当てるんだ! ハッ! そうだ! 昔ショウからお菓子貰った事あったっけ? それに学校でも、屋上でたまに一緒になるヤンキーから缶コーヒー貰った様な? 

 ハッ! でも、澪や瑠璃からは「それはただの餌付けであってプレゼントじゃない!」って、言われたよね? アレ? じゃあやっぱ男からの初プレゼントその人の腕です♪ なの?!


『シルフィン:訳が解りませんね?』


 ですよね! 分かりますその気持ち。だって私が一番訳わかんないもん!


 私が知りたくなかった事実に膝から崩れ落ち打ち震えていると、澪が呆れながら私に声を掛けてくるのだった。


「何を項垂れているかは知らんが怪我をしているんだ。早く治療……を? オイ? お前怪我はどうした?」


 私はうちひしがれながらも、何でも無いように「レベルアップすれば自動で治る」と、言うと澪と瑠璃から非難がましい視線を頂戴する。


「お前の方が余程チートじゃないか……」

「……ハーちゃんそれはズルいです」


 いや、そんな目で見られてもしょうがなくね? つか、私としてはもっと大事な事があったんだよ! 主に腕とか! 腕とか!


 こうして私は、皆と合流を果たすまで二人から非難されるのだった。


 じゃあ君らもゴブリンからやってみろよ!!


 私はそう叫びたくなった。グスン。

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