第204話 ……人間、良く今まで死ななかったね?

 私達三人の【破極】がグロスへと打ち込まれ、仰向けの状態に倒れてくる。……つまりは私の方だ。


 えっ? マジ!


 私はそれを認識すると急いで回り込み澪達の方へと避難する。すると、バキバギン! ズドン! と、足元の氷が割れる音と共に、グロスが仰向けに氷の中に倒れていく。


 ふう。危うく潰される所だったぜ。


 だが、私達は未だに警戒しつつ戦闘体勢を維持する。

 何故警戒しているにも関わらず追撃を掛けないのか? それは、【破極】で確かに魔石の砕ける手応えを感じた事と、何よりも今の私達が立っているのもやっとだからと言うのもある。


 正直ここから先は戦えないよ? 私もう右手も最後ので完ぺきに駄目になったから両手とも潰れてるし。いや、まあ、死にたくは無いからやるだけやるけどさ。


 そしてもう一つの理由としては、現在進行形で倒れたグロスが澪の氷で覆われていっているからだ。

 澪の氷は相手の力を奪う。戦っていたグロスならばそれを理解している筈なのに全く抵抗しないのは、グロスの方も動けないからだろうという判断だった。


 更に言えば下手に今のコンディションで近づいて、奇襲されたら簡単にやられるのがオチなのだ。ハッキリ言って相手が動いてからの方が対処が楽。その為、動く事の無いグロスを見ていたが不意に澪が喋りだす。


「こんな言い方はしたくないが……やったか?」

「みーちゃんそれは駄目だと思いますよ?」

「殺って無いフラグ立てんなや。責任取らすぞこら」

「だから言いたく無いが。と言っただろう!」

「クカカ! 安心……しな、お前等の、勝ち……ダ。魔石を半分、砕かれてる……もう、長くはもたねぇ」


 私達がそんな会話をしているとグロスがいきなり会話に混ざってくる。

 しかもその体は二メートルを越える黒い肌、筋骨隆々を遥かに越えた、人の形をした筋肉の塊の様だったグロスの体は、煙の様な物をシュウシュウと上げながらどんどん小さくなっている。


 丸太の様だった手足は今はもう普通の人間と変わらない。いや、むしろ細い程になり体も成人男性の平均位になっていた。


 え~と、誰?


「それがお前の本当の姿か?」


 澪はこう言っているが私の中のグロスのイメージは、筋骨隆々のマッチョアニキな筋肉の塊なのでどうにも結び付かない。


「アア、そう、だ。それより……ハクア、お前、何時からダ? ……どこから、あの展開を狙って……やがっタ?」


 えっ? 何そのちょっと知性を感じる質問、ここに来て新たなキャラ付けとか要らないんだよ。

 あ~、でも、こいつ意外と脳筋な癖に理性的に戦ってた……か? 自分の体一つで何とかなるなら、そうした方が早いし楽だもんね?


「いや、どこからとか言われても困るけど、強いて言うなら瑠璃の行動以外は全部だよ?」


 そう全部なのだ。


 瑠璃が追い詰められてるのを見てぶちギレた以外は全部。

 最初に交代で前衛と後衛をして、今のグロスの動きを確認したのも、その後二人で接近戦に切り替えて澪が脱落する展開も、私が白雷装や鬼炎雷装を切り札に見せたのも、澪の特大の氷柱も……。

 その全部全てが最後の【破極】を確実に当てる為のダミー、昨日の時点である程度澪と煮詰めていた作戦だ。

 勿論細かい修正は戦いながらしたし、最後の【破極】はグロスの強さから二人の予定を三人に切り替えたりしたけど概ね予想通りの展開だ。


 予想外だったのは瑠璃の行動、グロスの強さ、私の怪我くらいだ。


 超イタイ。マジ泣きそうです。


 私がそう言うとグロスは少し驚いた顔をして、何時もの様に「クハハ」と、酷く楽しそうに笑った。


「なら、しょうが……ねぇカ。まあ、俺にもプライド、は、あるから、な。お前らが……言った。「地べた這いつくばらせて、地面舐めさせる」っテェのは、実現しなかったな? クハハ」


 確かに言ったけどよく覚えてたな。

 私は忘れてました! 何かすいません。


 そうやって喋っていると、グロスはいきなり私が炭化させた方の腕に魔力を溜め始める。


「貴様! 何をやって!」

「安心……しろ。こうする為だ」


 言うなりグロスは逆の手で手刀を作り、魔力を溜めた腕を自分で切り落とす。ボトッ! と、音を立て落ちた腕を見つめながら、私達の胸の中は何故? と、言う言葉で溢れていた。

 意味不明な行動に困惑しているとグロスは自分の切り落とした腕を掴み、私にズイッと差し出してくる。


「クカカ……随分、不思議そうだナ? ……お前、他の奴を喰って、強くなんだロ? 喰えよ。残った魔力、は、全部入れておいた」

「何で?」

「魔族は、強ぇ奴に従う。俺は、もうすぐ死ぬからな……やれるもんはこんくれぇダ。お前も、魔物なら他の奴を喰って……そこまで、なったんだろ?」

「どう言うこと?」


 私がそう言うとグロスは不思議そうな顔をして語り出した。

 曰く、魔物は他者を殺してレベルを上げるだけでは無く、魔物を殺し魔石を喰らいその内に在る魔力を取り込む事で、急激なパワーアップも出来るらしい。

 その事から私のパワーアップをその方法に依る物だと思った行動だった様だ。


 私の情報が漏れてた訳じゃ無いのか? 良かった。


 因みに魔石じゃなく腕なのは、自分の魔石が既に砕ける寸前な為、今在るだけ全ての魔力を籠めた物なら、少しは足しになるだろうと言う事だ。

 そこから私はこの際だから前から気になっていた事をダメもとで色々聞いてみた。


 情報は幾ら在っても良いからね?


 ガダルの事、魔族の計画等々、ほとんどの事は流石に話して貰えなかったが幾つか興味深い物が聞けた。


 それは私がグロスの今の状態に付いて聞いた物だ。あんなマッチョな感じだったのが何故急にこんなに萎んだのか? と、聞いた時「魔族にも色々な奴が居る」と、語ってくれた。


 何と驚く事にグロスの姿はこちらの方が本当だったらしい。


 元々力の弱かったグロスは魔力で無理矢理体を作り替え筋肉を作っていたらしく、どちらかと言うと魔力を扱う方が得意なのだそうだ。


 こいつ……術者タイプの脳筋だったのか!?


 更にグロスは興味深い事も話してくれた。

 魔物は進化していくと魔獣と言う大型の物に成る。ほとんどのモンスターはその様に強くなる度に体も比例して大きくなるのだそうだ。そして……。


「「「いたる?」」」

「ああ、そうダ。ある時不意に、、その領域に至るんダ。すると体に満ちていた、魔力が……魔石に凝縮され、人に近い形になったりする」

「それが魔族と言う事か?」

「ああ。……人間や他の種族の、中にもたまに居るダろ? 様はその種族の、、限界を超えた奴が……上の存在になる」


 そして、そうやって生まれた者はその時必要だと思った力を手に入れるらしい。グロスにとってはそれが圧倒的な力だった。

 その為に魔力で筋力を作り出し、魔力いかんによっては何処までも力を上げられる。と言う能力を得たらしい。

 更に魔族には、魔族同士が子を成す事で生まれた純魔族と呼ばれる者達が居て、それらは総じて絶大なパワーと知性を持っているのだとか。


 ……人間、良く今まで死ななかったね?


 更に興味深いのは名前に付いてだ。


 魔物は力在るものに名前を贈られると、その贈った相手の力次第で能力や力だけで無く、眷属として進化までする事が在るらしい。


 なるほど、だから名前持ちのモンスターは全部強かったのか。

 冒険者が勝手に付けて名乗ってるだけとか、生まれた時に何か付いてんのかと思った。

 アレ? だとしたら何で私とアクアには付いてたんだ? 駄女神はランダムだとか言って無かったか? これも後で説明在るのか?


 私がそんな事を考えていると不意にグロスが「そろそろか」と、呟く声が聞こえた。私がその言葉にグロスの方を見ると体が足先から崩れだしているのが見えた。

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