第206話……何故に?

 二人から非難がましい視線を頂戴している最中、後ろから聞こえてきた仲間の声に振り返る。


 良かった。結衣ちゃんとフロストは居ないけど皆無事みたい。皆が無事ならあの二人も大丈夫だろうしね? 一応フロストはウチで一番強いわけだし。彼には是非とも結衣ちゃんを自分の身を呈して守って欲しいものだ。

 うんうん。ちゃんと仕事しろよフロスト。


 そんな事を考えている間にこちらに向かってきていた皆はどんどん近づいて来きて……、何故かアリシアとエレオノは先行してやって来る。


 何か有ったのかな? でも、二人には取り敢えず目立った外傷は無いみたいだ。良かった良かった。


 やって来る二人を眺めながら怪我が無いかを確かめる。二人とも戦いの激しさを示すように、着ていた衣装はボロボロになり、更には肌に無数の切り傷や土なども付いていたが、大きな怪我は無さそうで私はホッとしていた。

 横を見ると二人も安心したような顔をしていたので、二人も私と同じ様に心配だったのだろう。


 まぁ、結構ギリギリの作戦だったからね。


 なるべく勝率を上げようと画策はしたけど、相手の強さを測る事は出来ず皆に任せるしか無かった。私も皆が無事合流出来そうなのは嬉しかった。


「|ご主人様(ハクア)何かしたんですか(の)?」


 アレ? ちょっと待とうよ! 開口一番それなの!? もっとこう、ね? 色々、色々他に在るよね普通!?

 心配したとか、無事で良かった見たいなさ!? 仮に、仮にそれを後回しにしてこの状況の事を言ったとしても、何で問答無用で私が疑われてるの!? 解せん?


 合流して一番最初にそんな事を言われてしまった私は、愕然としながらも自分の今までの行動を振り返ってみるが、やはりそんな事を言われる筈が無い。


 うん。私の今までの行動を振り返って見てもそんな事を言われる要素は皆無だね。それだけにこの反応は解せん。


「ふむ。白亜との付き合いの長さが測れる一言だな」

「ですよねみーちゃん」


 そんなので測られたくないよ!? ってか何、その斬新な距離感の測り方! 私は納得何かしないからね!!


 私がその反応に納得いかないながらも何とか自分の中で消化しようと頑張っていると、私の腕が血に濡れている事に気が付いたアリシアが慌てたが「レベルアップで治ってるから平気」と、言ってアリシアを落ち着かさせる。


 そんな話をしていると、他の皆も漸く合流するがそんな私の目にヘルさんに背負われ、今まで見えなかったアクアの姿が写る。


「アクア!」


 私は思わずアクアの名を呼びながら駆け寄る。その体は思った以上に酷い状態だったが、ヘルさん曰く命に別状は無いらしい。


「そんな苦戦する相手だったのにアクアはレベルアップ出来なかったの?」


 私の言葉にヘルさん首を振り説明を始める。何でもヘルさん達が戦っていたガーゴイルの攻撃には、カーチスカの改造により傷を塞ぐ事が出来なくなる呪いが付加されていたらしい。


 そして、これまた初めて知ったがレベルアップで回復するのはHPとMP、傷、状態異常だが、一部の呪い等はレベルアップでも解除が出来ないのだそうだ。


「じゃあアクアはどうすれば……」

「マスターとアクアのレゾナンスなら呪いも解ける筈です」

「……分かった。アクア大丈夫?」


 私の言葉にアクアが頷くのを見て、ヘルさんに下ろされ地面に横たわるアクアの手を握りオールフルヒールを使う。


 実は初めて使ったオールフルヒールは、呪文を唱えると私とアクアの繋いだ手の辺りから光の輪が現れ、頭上へと登って行く。

 そして、その上昇が止まると今度はだんだんと光の輪が大きくなり、その輪の内側に光の粉雪が舞っていく。


「キレイ……」


 誰が呟いたか分からない程小さな声が聞こえる。


 確かに、これはキレイだな。


 私が自分で出した物でありながらその光景に暫し見惚れる。

 その光景を見ていると、その場にいる私達全員が入れる程に光の輪が大きくなり、今度はその輪が光の粉雪を散らしながら下降し始める。

 今まで降って来て私達に付いていた光の粉雪が、輪をくぐると一層光を放ち傷を癒していく。そして、光の輪が地面に到着する頃には私達全員の怪我がすっかり治っていた。


 う~ん。確かに綺麗だし、効果も高いけど回復迄に時間が掛かるから戦闘中は使えないな。下手すると光の粉雪を浴びたら敵も回復しそうだし。っと、それよりも……。


「アクア、怪我は大丈夫?」

「大丈夫ゴブ!」


 私は怪我が治りニッコリと笑うアクアの頭を撫でようと手を掲げるが、その腕が汚れている事に気が付く。


「ハクア? その腕の血、落ちて無いから拭いてあげるよ」

「ありがとエレオノ」


 そう言えば、傷は治ったけど大分派手に削られたから出血凄かったしね? 手が血塗れだ。


 私はそう言ってくれたエレオノの好意に甘える事にする。


 自分で腕を拭くのは汚れが残りそうだしね?


 エレオノは私に近付くと、アクアと手を握る為に屈んだ私と目線を合わせる様に屈んで、私の手を取ってくれる。


 ヤバい。私何かお嬢みたい! ちょっとテンション上がるかも!


 私は一人、誰にも悟られ無いように心の中でテンションを上げて、ヒャッホイしながらエレオノが腕を拭いてくれるのを待つ。


 アレ?


 しかし、何故かエレオノは私の手を取ったまま固まってしまう。

 その様子に私だけで無く周りの皆も気が付き、エレオノに視線が集まる。すると、ようやくエレオノは私の手を何故か両手で持ち上げ自分の顔の方まで持ち上げて行き──。


 アレ? 拭いてくれるんじゃ?


 ハムッと咥えられた。


「「「へっ?」」」


 エレオノを除く私達全員の間抜けな声が重なる。そして、その全員の視線の先では、今まで見た事が無いような妖艶な雰囲気を醸し出しながら、恍惚とした表情で私の指を舐めているエレオノがいた。


 ……何故に?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る