第282話知らない事は良い事だ。私的に。

 見送りから四日、私はその間ユエ達を鍛えるついでに訓練兵や今回の作戦からあぶれた新兵も一緒に鍛えたり、魔法についての研究等に時間を費やしていた。


 勿論その合間には私の訓練も敢行されていたけどな!


 そんな中、昨日いきなり駄女神空間に呼び出されたと思ったら、呼び出した張本人がドャアという顔で私を待っていた。


 どうしたんだ? と、聞くと駄女神は『遂にギフトを解析し終えて、吸収したギフトに対応する能力を取得出来るようになりました!』と、褒めて褒めてという空気を撒き散らしながら言ってきたのだ。


 私も一瞬、おお! と思ったが、そこでそういえばギフトはステータス上昇ポイントに変換されてんじゃなかったっけ? と、聞くとあからさまに冷や汗を垂らし顔を背けながら、手をもじもじさせて『いや、だって、体調不良まで出たのにまだ出来てません。とか言ったら絶対怒るじゃないですか?』とか言って来やがった。


 失礼な奴め! まあ、キレるけど。


 そんな訳で私はえっと、柏~~~何だっけ? ……うん。勇者から手に入れた【愚者の領域】から、私専用のスキル【愚者】を手に入れた。


 名前だけ見るとあまり良いイメージも無く、マイナス系のスキルじゃね? という感じだが、その効果はかなり高い物だった。


 その効果は全バットステータスの無効化。


 攻撃力等のステータスを下げる物から、状態異常系、精神攻撃等も含めた全てを無効に出来るという物だった。


 その為元から持っていたスキル【異常無効(極)】【痛覚無効(極)】【恐怖耐性LV.2】は全て【愚者】に吸収された。


 まあ【痛覚無効】まで範囲に入ったのには驚いたけど。状態異常だけじゃなく、ステータスダウンも防げるのは大きいね。只でさえステータス少ない訳だし。


 しかし、本当にスキルだけは立派になっていくな私。


 さて、そんな私は今土魔法建設にやって来ていた。


 それというのもここ最近の土魔法建設の需要はうなぎ登り、業績もかなり上がってきているため、私としても会計報告を読んだ結果、これはボーナスの一つも出さなきゃかな? と、思ったのだ。


 そんな訳で私は、元々の用事もあったがついでにわが社の社員にボーナスの支給にやって来たのです。


 因みにこの世界に給料以外の概念は無く、臨時ボーナスも初めて聞いたらしく全員大層喜んでいた。


 そして今日のボーナスをなんと全員が私への借金返済に使うらしく、めでたく全員が借金の返済を終えたのだった。


「改めて、本当にありがとうございましたハクアさん」

「ハクアさんに助けて貰えなかったら今頃ひどい事になってましたよ」

「あの時ハクアさん襲って本当に良かったです!」


 オイ、そこの赤いの。


「マ~ト~」

「あっ、いや、違くて、えっと……あははは?」

「はあ、すいませんハクアさん」 

「まっ、別に良いよ。それよりもちゃんと用意は出来てる?」

「はい。建築組合の代表がそろそろ。ギルドはその後に両方とも時間は多目に取ってあります」

「ん、OK。じゃあ、予定通りにお仕事しようかね」


 何故この二組に時間を取るのか? それは私の土魔法建設の人気にヒミツがある。


 まあ、建築組合に関しては早い話がこちらに需要が高まりすぎて向こうの仕事量が減ってしまった事で、こちらへと苦情が山程来たのだ。


 最初は何も言わないどころか、やりたきゃやってみれば? 的な雰囲気だったのにここまで人気が出るとは思わなかったんだろうね。いきなり苦情来まくったからさ。ざまあ。


 そんな訳で今回、大変面倒ではあるが場を設けてお互いの住み分けを提案する事にしたのだ。


 と、そんな風に始まった話し合いなのだが、いい年した親父がネチネチネチネチとまあうるさい。少しは抑えてみせろよ? 何最初からケンカ腰で来てる訳? こっちがこんだけ譲歩してやってんのに立場分かれよ。潰すぞクソ親父!


 などと私までケンカ腰でいくわけにもいかず笑って受け流す。


 しかし、やはりムカつく物はムカつくのでどうしても自分自身笑みが深くなっていく自覚はある。コラコラ三人とも? そんな恐ろしい物を見る顔で私を見るなよ?


 だがそれでも我慢はする。だって、ここで揉めると嫌がらせは三人に行くからね。そしたら私何するかわかんないし。いや、マジで。


 そんな一幕もあったけど話し合い自体は上手くいった。私達は基本的には平民や下級貴族の依頼を受け、建築組合の方は中級、上級貴族の依頼を専門に受ける高級思考で行く感じになった。


 そして、どうしても。と、貴族からの依頼が断れない時に限り組合に了解を取りウチでも請け負う事にもなった。


 まあ、この三人の今の実力だと魔力が足らないからそんなデカイ屋敷とかは建てられないだけなんだけどね。言わないけど。あくまで譲歩的な案で通しますよ? 知らない事は良い事だ。私的に。


 そんな感じで話し合いを終えた私達は次のギルドに連絡を取り、来て貰う事にした。


 ギルドとの話し合いは前々から私が土魔法不遇の状況を打破する為に動いていた事がようやく実った感じだ。


 今までは土魔法使いなんて、パーティーに入れて貰えない事なんてざら、入れて貰っても荷物持ちや下手をすれば奴隷のような扱いになる事もあった。


 しかし、私が色々な所で竈を作ったりベッドや部屋を作ったりしていたお陰でようやくギルドもその有用性を認め、是非教えて欲しいと言ってきたのだ。

 今回はギルドの職員数名だが、今後はレベルの低い土魔法使いに募集を定期的に掛けながら、会社の手伝いをさせつつ技術を仕込んで行く予定だ。ついでに有望そうなのはスカウト予定。


 ビバ! 土魔法! 遂に時代が付いて来たよ!


 そんな感じでフープのギルド長と話し合いを終えた私達はそのままの流れで食事に行く事になった。


 行く場所はアリスベルで行き付けになった店がフープにチェーン店を出すと言うので個人的に出資した店だ。


 そこには私達が仲良くなったウエイトレスのイーナも出張で働きに来ている。まあ、その子は何処ぞの間者なのだが周りも知らず、本人も知られているとは思ってもみないので、早い内に何処と繋がって入るのか探り当てて効果的な場面で活用したいものだ。


 まあ、多分私的には聖国か騎士国辺りだと思うんだけどね。あのレベルの間者はデカイ所だと思う。そうじゃなかったらその国も要警戒ってね。


 まっ、私以外はそんな実情は知らずイーナとも談笑しつつテラス席で和やかに食事は進む。


「あれは何でしょう?」


 そんな事を聞いてきたパッセの視線の先では一人の兵士が、騎竜に乗り城へと急いでいる姿が映っていた。


「恐らくは作戦開始の報告だろうね」

「それは例のゴブリン退治のかな?」

「ああ、ギルドにも連絡は行ってたんだっけ?」

「ああ、一応来ている。詳細は後になるそうだがね」

「怖いですね。確か村が一つ犠牲になってるんですよね?」


 ふむ。イーナまでこうやって言ってくるという事は情報は割と街にも漏れてんだな?


「ハクアちゃん?」

「ああ、悪い。そうだね。でも斥候の報告では確認出来たのは武装したゴブリン系のモンスターだけらしいし、各国も十分な戦力を調えてるから新兵だけとは言え平気だと思うよ? 指揮官はそれなりに経験ある奴らしいし」

「ゴブリンですか……私達は嫌な思い出しか無いですから頑張って欲しいです」


 スーナの言葉に頷きながら食事を進め、更に細かい事はその都度調整するという事にしてその場は解散する。


 城へと帰るとアイギス達に土魔法建設関連の報告をする。その時アイギスからもゴブリン退治の作戦が予定通り始まったという報告を受けた。


 敵の規模自体は未だ不明だが当初の予定通りに作戦は開始されたとの事だ。


 それなら危険な事は少ない筈だから心配は無いかな?


 その日はそれ以上特に何も無く過ぎて行った。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 次の日は生憎の雨だった。


 明け方から降り続いた雨は昼になり更に激しさを増していく。


 そんな中、街に入る門を守る一人の兵士が城へと駆け込んで来た。


 そして私達はその報告を受けアイギスの駆る騎獣に乗り雨の中、門を目指す。


 辿り着いた時、そこには重苦し雰囲気と誰かの泣き叫ぶ声が聞こえた。


 その声を聞き、案内をしようとした兵士の事を振り切って駆け込んだ部屋の中には、回復術師の懸命な治療にも関わらず血だらけで寝かされているガームと、そのガームに泣きながらすがり付こうとするが兵士に止められているリンクとリンナの姿が私の目に映ったのだった。

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