第281話食は大事だよね?

 会議から帰って来た私達は諸々の事をアイギス達に丸っと投げ、その間訓練と研究に時間を費やしていた。


 協議の結果、今回の討伐には各国の新兵を使う軍事演習を兼ねる事になった。とはいえ新兵ばかりではどうしようも無いので、アリスベルからそれなりの地位の人間が指揮役として来るらしい。

 だが、何故そんな面倒な事をするかと言えば、ゴブリン如きに各国が総出で兵を差し向けるのは貴族のプライドが許さないのだそうだ。


 それなら冒険者にでも任せてしまえば良いとも思うが、このレベルの災害を冒険者に任せると、今後政治的に冒険者ギルド発言権を持つ可能性があって駄目らしい。


 面倒な事で。


 そして三日後、私はゴブリン討伐に出掛ける兵達を見送りに来ていた。


 一週間後とはいえ軍団で動くには時間がいる。その為ここから二日で移動した後、二日掛けてフォーメーションを考えるらしい。


 さて、そして何故私が見送りに来ているか? それというのも前に貴族のサン……サン? ……何とかの事を叩きのめしてからというもの、何故かたまに新兵から稽古等を付けてくれと頼まれ、稽古を付けていたからだ。


 まあ、新兵とは言っても平民とあまり壁の無い下級貴族や、平民、獣人からだが。


 ここで話しておくべきだが、本来人間の国に使える兵に平民は少ないし、獣人はほぼ居ないと言っても良いだろう。


 それは騎士とは貴族のなる物というのがこの世界の常識だからだ。ましてや自分の種族でもない国に仕えるのはもっと少ない。


 唯一の例外は騎士国だ。

 あそこは実力主義で、平民でも力さえあれば上に行けるという話だ。しかし上官ともなるとやはり貴族が多い。閑話休題。


 しかしアイギスは自分が国政を担うようになり貴族、平民、性別、年齢、種族すら問わず広く兵を募集した為、フープには他国とは違い多様な兵が居るのだ。


 更にアイギスは、本来なら兵役に付く事の出来ない7歳の子供からも素質さえ在れば訓練兵として雇い入れた。これにより訓練と教育とを同時に施し僅かながらも給金を渡す事で、各家庭の生活水準を少し上げ買い物をさせる事で経済を回す事にも成功した。


 ブラック! 年端も行かない子供を働かせるなんてブラックだ! 地球なら国際刑事裁判で戦争犯罪になったりジュネーブ条約に引っ掛かる案件だよ! まっ、提案は私なんだけど。

 こうすれば学校に行く金の無い人間も教育を受け、同時に訓練も出来るから次の世代は知識も力も多少は上がる筈。

 この世界は12歳から働き始める。兵士は更に15歳からだからその間に兵を続けるか他の職に就くかを決めれば良い。アイギスとも話したけど今はまだ全員にとは出来ないけど、いずれはシステムと予算を作りたい物だ。


 まあ、流石に中級以上の貴族の反発は凄まじいけどね。


 そんな経緯で集められた新兵達だがそこに来て私がやらかした為に、何かと私に絡んで来るようになったのだ。しかも最近はユエ達に交ざって訓練する奴も居るしな。


 ユエ達が仲良くやってるから良いけど。


 まあ、そんな訳で獣人も多数いるフープは特に近接の人員を多く割く事になった。貴族の多いアリスベルは魔法部隊を、オーブはその両方をという運びらしい。


 まっ、力のある貴族の少ないフープにはしょうがない事だけどね。


「それではハクア様行って来るぜ」

「ああ、ま、油断せず気を付けてね。それなりの規模になればゴブリンだって賢いのが居るから」

「良いな~。私達もお兄ぃと行きたかったよ」

「兄ちゃん! 活躍して来いよ!」


 この三人は特に私に絡んで来る兄弟だ。とはいえ血の繋がりがある訳ではない。


 兄のガームは獣人で、弟と妹のリンクとリンナは人族だ。この兄弟はフープの孤児院で共に育った捨て子らしく、リンクとリンナは同じ時期に捨てられていた為に名前が似ているのだそうだ。


 因みにこの二人はユエ達と特に仲が良い。


 通常孤児院とはいえ他種族を引き取る所は少ない。だがフープにあるコイツ等出身の孤児院では、種族の如何に拘わらず子供ならば誰でも受け入れた。私も何度か連れられて行った事があるが、孤児院を運営しているシスターは人格者だった。


 経営困難だ。とも話していたので、簡単な会計処理を教え込み月々の金の流れを明確に、今後も同じように別け隔てなく子供を受け入れる。という条件でお金を融資する事も決めた。


 それもあってこの三人とは特に交流を持つ事になったのだ。


 しかし今回10歳のリンクとリンナは訓練兵の為、ゴブリン討伐には参加出来ず留守番となった。その為にこの言葉だった。


「二人共、ハクア様の言う事を良く聞いて訓練頑張れよ」


 おいコラ! 勝手に私の預かりにするんじゃねぇよ!


「勿論、ハクア様にバンバン魔法教わって帰って来たらお兄ぃをやっつけるよ」

「俺だって兄ちゃんを倒せるくらい強くなってやる!」


 うわっ! やる気だよ。子供のやる気とか無下にしにくいから煽るの止めてくれません?


 そんな私の思いも知らず盛り上がる三人にまあしょうがないかぁ。とか思いながら兵の出立を見送った。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 そして次の日。私はやっと完成した物を携え、工房から急いで皆が朝食を摂っているであろう食堂に向かい飛び込んだ。


「ど、どうなさったんですかご主人様?」

「何かあったのハクア?」

「ああ、あれは何時ものニャ」

「その何時ものと言う言葉に不安しか感じないのだけど。あ、胃が……」

「大丈夫アイギス? 拾い食いか? 駄目だぞ王女」

「失礼ね! 貴女の起こすトラブルが多いからよ!」


 むう。そっちこそ失礼な。


「それで、工房に籠って作っていた物が出来たのか?」

「そう! そうなんだよ澪! 見てこれ遂に完成したの」


 私がそう言って二つの物をテーブルに置くと、咲葉が興味深そうに「手に取って良いか?」と聞くので私は勿論と頷く。


 そして……。


「ねぇ、ハクア? ……何この芸術作品」

「どう言う事だ咲葉?」

「これ、とんでもないわよ」


 咲葉の一言に専門家から認められた。と少し嬉しくなる。


「そんなに凄いのか?」

「ええ、既存の魔法陣と魔法構築システムを私が教えたルーン魔術で補強、強化する事で今までなら実現しえなかった事を可能にしてるわ。まあ、その分性能がピーキーだから完全に個人仕様だけど。それでも並の魔術具を遥かに凌駕してるわよ」

「……お前と言う奴は。他には何も作ってないだろうな! あるなら全部出せ! と、言うか何を研究してたのか洗いざらい吐け!」

「失礼な。今回作ったのはその二つだけだい! 後の研究は魔法についてちょこちょこ、これは後でレポート出すよ。後は目玉焼きにするならどの卵が一番かと、マヨネーズ作る時の材料研究、調味料やソースの研究に、醤油作りぐらいだよ!」

「……なんでこれとその研究が同列なのよ」


 何で皆呆れてるの? 食は大事だよね?


「それでハクア、これはどういう物なのかな?」

「えっとね。こっちのが私専用の魔導銃だよ。弾丸は無しでコンセプトは魔法の補助。内部に魔法陣とルーンを刻んで圧縮、制御、魔力効率を上げてあるの。魔力をそのまま打ち出す事も出来るし、これ自体が杖の代わりになって魔法の補助をするから、今まで通りに魔法も使える。それにオリジナルのアインツ、ツヴァイ、ドライも仕込んであってルーンも常設した事で、デメリット無しで連射を可能にしてあるのだよ」


 そう杖は本来攻撃力が無い代わりに、どんな物でも最低限魔力との親和性の高い物を使う事で魔法を扱いやすくしている。そこで私は魔法陣とルーンを刻む事で擬似的にその機構を再現して、武器としても使える杖を目指した。


 それがこの魔導銃なのだ。


 しかも銃と言っても銃口から発射させるだけでなく、普通に魔法補助の道具としても使える為、わざわざ銃口を相手に向ける必要も無い。しかしまあ、色々と私好みに詰め込んだ為、多分私以外に使えなくなっているのはご愛敬だよね?


「え~と。難しくて良く分からないんですけど、つまりはまたハーちゃんが凄い物作ったんですよね?」


 ガ~ン。分かって貰えなかった。


「ええ、専用カスタムとはいえ、この世界に来て一年も経っていない人間が作り出せる物ではありませんよ。いえ、違いますね。一生掛けても足掛かりさえ掴めないレベルの物品ですね。流石白亜さんですね」


 やった! テアに褒められた。


「流石ハクちゃん。相変わらず出鱈目だね」


 うるさいよソウ。


「あのご主人様? そちらの銃はヘルさんの武装で見た事があったので分かったのですが、もう一つのこちらは何なんですか?」

「ああ、それ? アリシアの武器だよ」

「わ、私のですか!? でも……どう見ても……武器?」


 アリシアが首を傾げるのも無理はない。何故なら私が銃と一緒に取り出した物は、どう見てもリレーで使うバトンのような物だからだ。


「うん。コロが弓を作るのは専門外って言ってたから。この魔導銃作ってる時に構想を思い付いて作ったんだ」

「あ、ありがとうございます! それでどう使うんですか?」

「えっとね」


 私はそう言って筒状の道具の真ん中を握り魔力を籠める。すると筒の上下から魔力が飛び出し弓が出来上がる。


「わっ! 凄い! 何これ面白い」


 エレオノの素直な反応に少し機嫌が良くなる私。


「ふっふっふっ。そうでしょそうでしょ。これは魔力を籠めると弓状になる武器なんだよ。そんで更に普通に矢を放つ事も出来るけどこうやって……」


 私は更に魔力を籠め何も無い弦を引き絞る。すると魔力で出来た矢がいつの間にか現れ、弦を放すと結構な勢いで飛んで行く。


「この矢は魔力の量によって増減して、威力も魔力を籠める程上がるよ。更に矢を作った後に魔法を使うと作った矢にその魔法が融合して威力が上がるし、特性が受け継がれる。ブラスト系なら爆発したり、アロー系は属性付加したりね」

「……本当に凄いのな。たく、どうやったらこんな物作れるんだか」


 何故に呆れるし? そこはほら? 尊敬するところじゃね? 解せぬ。


 そんな風に思っている私の前でアリシアが武器を受け取り嬉しそうに試している。


 うむ。アリシアが喜んでるから良いか。


「アリシア。因みにそれ半分に分かれるから」

「へっ? そうなんですか?」

「うん。上下に握って逆に回すと取れる。付ける時は逆ね。そんでその状態で魔力流してみ?」


 アリシアが私の指示通りに筒を二つに分けた後魔力を流す。すると今度は分かれた両方から魔力で出来た刃が生まれる。


「へ~。剣にもなるんだ? ちょっとカッコいい」


 実際は某大作映画のようなブオンブオン鳴るライトな剣や、機動戦士が持ってるような感じにしたかったんだけどね。


「魔力量で最大二メートルまで伸ばせるよ。切れ味、固さも魔力依存。刃は魔力で出来た物だから重さもない。まあ、接近された時用だね。重さが無くて勝手が違うから気を付けてね」

「はい。わかりました。ありがとうございますご主人様」


 ウンウン。作った甲斐があったな。


「さて、じゃあ朝飯食うか」

「なんか適当に流された!? もうちょっとなんか無いの!?」

「あぁ、お前がマトモな物しか作ってなくて安心たからもういい」

「何と!?」


 こうして私の作った武器のお披露目は簡単に流されてしまったのだった。


 あっ、朝御飯は美味しかったよ。


 因みに醤油やマヨネーズを出したら皆喜んで使ってました。


 皆呆れてた癖に!!

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