第309話ダメだな腹を壊す

「ふっ、ふぁ~」


 まだ日の昇らない部屋の中目覚めた私はいつものようにトレーニングウェアに着替え外に出る。


 私、安形澪の朝は早い。


 まあ、これは元の世界の時からの日課だがな。


 この世界に召喚されアイギス達の好意に甘え、ここフープの王城の一室を与えられた私は、毎朝のトレーニングとして城の周りをランニングしている。


 流石に魔族と共にいる時はやらなかったが、それも私の愛すべき馬鹿のお陰ですっかり元の日課をこなせるまでになった。


「あっ、ミオ! おはよー」

「みーちゃん。おはようございます」

「おはようございます。ミオさん」

「ああ、おはよう三人とも」


 瑠璃とエレオノ。白亜達と合流を果たして城に帰ってから、この二人は毎朝私と共にトレーニングを行っている。


 最近ではそれに加えてミュリスも参加するようになっていた。


 たまに増減してアリシアやコロ、結衣も参加するが毎度参加しているのはこの三人だった。


「さて、それじゃあ行くか」


 ・・・・・


 ・・・・


 ・・


 ・


「はぁ、やっぱり皆さん凄いですね。まだまだついて行くのがやっとです」

「あはは、私だって最近ようやく二人のペースに付いてけるようになったくらいだよ」


 魔力負荷を施した状態のランニングは堪えるらしく、エレオノとミュリスは座り込みながら会話を続ける。


 そんな二人を尻目に私と瑠璃は水転流の型稽古を一通り終え、今は軽い模擬戦闘を行っていた。


 最近ますます磨きが掛かってきたな。


 気力や魔力に依る身体強化に馴れてきた瑠璃は、私の攻撃を捌く一瞬に力を集中させたり、相手の力と自分の力を同質にする事で相手の力をより完璧にコントロールする術を身に付けていた。


 元々後の先を取るのは得意だったが、相手の魔力や気を一時的にコントロールするようになって、ますます強くなったな。


 朝の訓練を終えて戻ると丁度朝食のタイミングになる。席に着くとほとんどの人間は揃っているがやはり一人足らない。


 また遅くまで研究したな。


 しばらくするとヘルに引き摺られハクアがやってくる。その頃には食べ終わった面々はそれぞれの仕事や訓練に向かい始める。


 私もハクアと軽く会話してアイギスの手伝いへ向かう。


「……ねぇ澪?」

「……なんだ?」

「私はね。この国の運営を始めてから日は浅いけどそれなりに色々な報告書を見てきたつもりよ?」

「どうした急に?」

「それなのに……、それなのになんで国の運営の報告書のほとんどにハクアの名前が載ってるのよー!!」

「確かにな」


 私達が行っている書類整理の内容は様々だ。近くの国との取り決めや、国内の情勢、近隣の情勢、国庫に様々な産業に至るまで色々な情報が載っている。


 だが問題なのはそのほとんどにハクアの名前が載ってる事なのだ。


 研究成果の報告から、ハクアの実験の被害等々、良いことから悪いことまでそれこそ同一人物か? と言いたくなるほど色々とやらかしてくれている。


 大半は未然に防いでいるとはいえ、やはりあいつを放置していると厄介事も引き起こすな。


 あいつの作った土魔法建設の事務所に嫌がらせをした貴族が恐怖に引き吊った顔で発見されたり。

 冒険者ギルドでは、突っ掛かって来た冒険者をズタボロにした挙げ句「襲って来た段階でモンスターと変わらんし。ドロップアイテムは私の物だよね?」と、金品から装備、衣服まで剥ぎ取り地面に両手を固定して帰ったりと色々とやらかしているらしい。


 タチが悪いのがそれと同じくらいに国にも貢献しているせいで、あまりアイギスも強く出られないのが困った所のようだった。


 そんなものは気にせず殴って止めても良いんだがな。


 どうやら王女という立場ではそうも出来ないらしい。


 少しはあいつのように肩の力を抜けば良いのだがそうも行かないのだろう。あいつの爪の垢でも飲ませてみるか? ダメだな腹を壊す。


 そんなアイギスの頭を常日頃から悩ませているハクアは、なにやら研究の為の素材を取りに行くのだと近くの森へと出掛けて行った。


 誰かを見張りに付けようとしたがどうやら全員が撒かれてしまったらしいと報告があがって来た。


 まあ、あそこの森はすでにヨドム達があらかたモンスターを駆除してあるから危険も無いし良いだろう。


 私のそんな考えは、夜になってもハクアが帰って来ないと言う報告で後悔に変わるのだった。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 ハクアが姿を消してから3日。


 私達の懸命の捜索にも拘わらずハクアの居所は依然として掴めずにいた。


 苛立ちと焦燥の募る中、私達は部屋に集まり各自の情報を整理していた。


「し、失礼します!」


 そんな中、私達の居る部屋へと一人の兵士がやって来た。


 苛立ちから睨んでしまった兵士が言葉を詰まらせながら私に手紙を渡してくる。


 なんでも気が付いたら兵士の詰め所に置いてあり、それと一緒にハクアが頭に着けていたバンダナのような布が置いてあったと私達に見せてきた。


 それを見た私は兵士から引ったくるように手紙を受け取ると全員で中身を確かめる。


 そしてそこには──


【結婚式招待状】


 と、書かれていた。


「ひぃぃい!」


 それを見た瞬間、私達から漏れでた殺気で兵士は悲鳴を上げて気絶した。

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