第136話高らかに宣言してみました

 コルクルの全てを奪う事に決めた私は、まず最初に仲間に向い「終わったら全部話すから、これから私がする事を信じて口を出さないでくれる?」と、聞き皆の了解を取る。

 その後ククス達の仲間でコルクルの指示に従い、好んで悪事を働いていた者を選出し、そいつ等を誘拐犯として捕まえた。


「カーラ頼んで置いた物の準備は?」

「出来てるわ。はいこれ、これで話が出来るわ」


 おお、こんな電話みたいな道具が!


 私は魔道具を受け取り相手に指示を出す。

 実は私は、紙の製造が軌道に乗った所でカーラに頼み、ある物を作ってここ最近配っていた。


 その在る物とはチラシや号外である。


 チラシはカーラ経営の店の品物のや、広告料を支払った店の情報を、号外はモンスターの出没情報、またはアリスベルで起こった事件、事故等の情報を載せる物だ。


 これには理由があり、都市の人間に新しい紙を浸透させ、この都市の情報等を理解させる為だ。

 何故理解させるか、それは所詮自分には関係無い。と思っている市民に、当事者である事を理解させ迅速に行動させたりする為だ。


 人の噂話しはバカに出来ない宣伝&流布材料だからね。


 今回はこれを大いに利用する事にした。

 方法は簡単。私が拐われた事、その黒幕がコルクルである事、コルクルが様々な悪事に手を染めていた事、そして私の事を国王を説得しカーラが助け出した。と、余計な情報を交えず簡潔に分かりやすく伝える。


 これによりコルクルの土壇場での言い逃れを潰し、更には国王からの許可を得た正式な行いで在る事を示す。

 更に色々とやらかし、民衆の不満を買っているコルクルを捕えたカーラをヒーローに据え、民衆の支持もついでに頂く。


 コルクルは王の後ろ楯が在るのを良い事に、街に出て好みの女を見付けては無理矢理関係を迫ってたらしいからね。


 因みにこれ、貴族ではわりと普通にやられている行為らしい。

 ロクでも無いなこの世界の権力者!!


 そしてこの号外がある程度配られた頃に、コルクルを縄で縛りゆっくりとカーラに凱旋させ、まずはコルクルの屋敷を目指して貰う。

 私達はその間、一足先にコルクルの屋敷へと向い。仲間と共に先んじてある事をする。

 私達が屋敷に到着すると、予めカーラに人をやってもらい話しが通っていたのでスムーズに事が進む。

 しかし、コルクルの秘書を始め、コルクルと共に甘い汁を吸っていた何人かの人間は、最初から許す積りも無いので、皆に制圧してもらい不正の証拠等も押収してもらう。


 皆に仕事をしてもらっていた間に、私は目的の人物に会いに行き、計画に多少の変更があった事を伝え、その後の事を打ち合わせした後、到着したカーラと合流し今度は王城へと向かう。


 そこには国王を始め、この場にはいないがカーラとコルクルを除く十商も集まっていた。

 これも凱旋中に使いを出した為だ。十商とは国王との謁見の後に会議を開くので、ついでに呼び寄せておいた。


「さて、これはどう言う事だカラバス・マーン。私は賊を捕らえよとは申したが、我が友を捕らえよとは一言も申しておらぬぞ!」


 しかしこれにはカーラではなく私が答える。


「お初にお目にかかります国王様。私はカラバス・マーンの友人ハクアと申します。今回の当事者として、発言の許可を戴きたいのですがよろしいですか?」

「無礼だぞ小娘!」

「よい。して、ハクアよ此度の件については、そなたが弁明をするのだろうな?」

「はい。と、言いたい所なのですが、弁明の必要性は感じませんね。巷で噂になっている通り、今回私を拐ったのがコルクルである事、そして彼が様々な悪事に手を染めていた事は、証拠として上がっています。それに此度の件、族を捕らえよとは国王様、御自身がお命じになった事と聞いております。黒幕であるコルクルを捕らえ、余罪を明らかにするのは当然の流れかと?」

「ち、違います! 私はこの者達に騙されただけだ!」

「ほう、コルクルはこう申しておるが、まさかそなた等は犯罪者の言葉を信じ、我が友の言葉を信じなかった……と?」


 その言葉には重みがあり、場の空気は一気に緊迫する。


 腐っても国王か、でもそれでも甘いんだよ。


 私は【念話】スキルを使い国王に話し掛ける。


 "聞こえる国王様? ああ、反応はしないでね? 私は目の前にいるハクア、今【念話】のスキルを使って話し掛けてる。因みに頭の中で喋れば会話出来るよ"


 無事に聞こえたのか国王の顔が不愉快そうに歪む。


「国王様の友と名乗るこの男が何をしていたのかは、この証拠の品が物語っております。これらは、ここに居るコルクルが違法に取引した数々の証拠を裏付ける物で御座います」


 私はコルクルの屋敷から持ってきた。書類や手形、サイン等を取り出し、国王の傍に居る人間に手渡す。そして同時に……。


 "勿論この中にはあんたがコルクルに頼んで調達させた、非合法の品物や揉み消した悪事の証拠何かもあるよ♪ まあ、今渡した物の中からは抜いてあるけどね"


 私の【念話】の声に国王の顔はかわり、睨み付けてくる。


 "何が望みだ"

 "望み何て無いよ。ただ普通に処罰をしろって事、幾ら国王でもこれがバレれば民意を失い、十商に取って食われる。だから正しく裁いて誠意を見せてよ。私があんたを必要な物だと思える様に……な"

 "そんな脅しに……"

 "まだ分からないか? これは交渉じゃ無いよ。それにあんたが死んでも息子がいるから大丈夫だよね?"


「証拠の品を見せよ」


 私が手渡した証拠を受け取った宰相の様な人間が、言う通り国王に慌てて証拠を手渡す。そしてそれを読んだ国王は、顔色を変え私をキツく睨む。


 "それはここに来る前に書き写した物、本物は他の所にある"


「コルクル=レイグナント。残念だがそなたの罪は明らかだ。よって貴公の爵位を返上、更に後日処刑とする」


 国王はそれだけ言うと、悔しそうに私を睨み付けてくる。


「な、何だと! ライナス貴様! 今までどれ程儂がおまグボォォ! ゲハッ!」


 そう、そう来るよねあんたは、けどさ……。


「おっとっと、王に無礼な発言はイカンよ? 犯罪者君?」


 "貸し二つ目だ"


「くっ! その者を捕らえよ!」


 私の言葉に思わず反応しながら、コルクルを取り抑えるように命じた国王。


「今回、私事で皆様にご迷惑をお掛けしたお詫びにコルクルの財産の半分は国に寄付させていただきます。ですが、商業に関しては残りの十商それぞれに権利を渡し、それぞれで管理して貰おうと思っています。それでよろしいですよね?」

「な、何を勝手な事を!」


 "逆らえばバラす。あんたよりも王妃の方が力がある事は調べが付いているんだ。そして、あんたがしていた事を王妃は許さない。首は何時でもすげ替える事が出来るのを忘れるなよ"


「……くっ、分かった」

「国王様!?」

「良い。コルクルを牢へと連れて行け!」

「ああ、その前に会わせておきたいのがいたんだ。入ってきて良いよ」


 私はドアに向いそう言って、ある人物を中へと招き入れる。

 その人物はデミグスと共に現れ、その姿を見たコルクルの顔は怒りと困惑に歪む。


「な、何故、エ、エルザ!? き、貴様! エルザに、儂の娘に何をする気だ!?」


 そう、私が呼び込んだのはコルクルの娘にエルザ=レイグナントだった。


「ふう、あれだけ色んな女を壊しておいて、自分の娘だけは大切か……」

「お、お父様! 放しなさい無礼者! お父様! 何故! 何故そんなお姿に……」

「ああ、エルザ。エルザ! 貴様! 娘に何かしてみろ必ず殺してやる」

「私は特に何もする気は無いよ。でも」


 私はエルザに近付き、そのまま服を引き千切り背中を露出させる。


「きゃあ!」

「な、何故! 何故エルザに奴隷印が!?」

「当たり前でしょ。あんたの家は取り潰し、あんただって散々人の家を潰しては、奴隷として売ってきただろ?」

「ふ、ふざけるな! か、金なら幾らでもやる! だ、だから、だから娘だけは……」

「無理だよ。あんたにはこの先、死しかない。買い戻す金も私が没収する。それでお前のどこに金なんてある? 何よりこの子の買い手はもう決まってるんだよ」

「な……!」

「あんたのお友だちのハーベルマン伯爵が買ってくれるってさ」


 その瞬間、コルクルの顔が今度こそ絶望的な物に変わる。

 このハーベルマン伯爵とは、コルクルの知人で奴隷の娘を買っては弄び、精神を壊して楽しむ屑である。そしてそれは共に同じ趣味を持ち、何人もの女を売ってきたコルクルも知っていた。


 こいつを調べた時にエルザを狙っていたのは分かってたからね。


「最後の面会は済んだね? じゃあデミグス。ハーベルマン伯爵の元に連れて行って差し上げて」

「分かりましたハクア様」

「いや、いやぁ、お父様! 助けて! お父様~!」


 泣き叫びながら引き摺られ部屋を後にするエルザ。そして後には、取り押さえられ動けずに涙を流すコルクルが残る。


「貴様! 貴様ぁ! 許さん! 絶対に許さんからな!」

「うるさい。そんなに見たく無いのなら何も見なければ良い」

「ぎゃあ!」


 私は喚くコルクルの目と喉を切り裂き、視覚と声を奪い、そのうえで治せないようにわざと中途半端に回復させる。そしてその後、コルクルにも奴隷印を施し、自殺をできないようにする。


「牢に連れて行って良いよ」


 そして、その場には私の仲間と国王、十商が残る。


「国王様、コルクルの処刑は執行しなくて結構です」

「何だと?」

「その代わり処刑しない事も報せないで頂きたい。死んで終るのは生ぬるい。絶望と何時訪れるかわからない死の恐怖を抱えたまま、生き続ければ良い」


 その後、国王との謁見を終らせ十商との会議に向かう。そこで十商には事の顛末を教え。ついでに私が転生者でモンスターだと言う事も伝えた。


 これには全員慌てふためいたが、予め女神どもに話しを付けておいたので、呼出して説明と保証をさせた。


 後になって事が露見しても面倒にしかならないしね?


 それから私は、予めカーラと共に調べていた、コルクルの商業を各十商に割り振り、十商にも恩を売る。


 そして最後にギルドに向い、報告を済ませようとした。

 しかし、ここに何故かあの禿げ未満まで居たから面倒になった。


「もっと詳しく話せ!」

「もうメンドイから二~三日後に話しに来る」

「ふざけるな!」

「え~と、誘拐されて心身疲れ果てました?」

「何だその棒読みは!」

「分かった。君の都合の良い時にきてくれ」

「了解」


 こうして私達はギルドを後にし、竜車に乗り我が家への帰路についた。


 ふう、これで予定通り全てを奪う事に成功したね。

 名声を奪い、富を奪い、自らが得るはずだった物を奪い、信頼を奪い、家族を奪い、自信、夢、希望、視界、声、そして死の自由まで奪った。まあこんな物かな?


 私がそう考えていると、やはり今回の事が気に食わなかったのか、カーラや仲間達が次々に言葉を放つ。まあ、大雑把に言えばやり過ぎでは無いのか。と、言う事だった。


「やり過ぎってコルクルに対して?」

「それはどうでも良いです!」

「うん。あれは自業自得」

「じゃな」

「ゴブ」

「かな」

「ですね」


 自分でやった事とは言え、皆わりと酷くね?


「私が言っているのは娘さんの事です」

「ああ、あれか~」

「あれか~、じゃ有りませんよ!」

「ふむ、それについても帰ったら話すから、カーラも上がって行って。紹介したい仲間がいるから」

「分かったわ」

「仲間って誰の事ですか? ミミはここに居るし、皆知ってる方ですか?」


 アリシアの言葉に全員首を横に振るが、私はあえて口にしない。


 そして家に着き中に入ると、そこにはここに居ない筈の人物が居た。

 私は驚く皆をそのままにその人物の横まで歩き。


「紹介するよ。私の新しい仲間で今回の真の黒幕2号です!」


 高らかに宣言してみました。


「「「え、ええぇぇ~~!! ど、ど、どう言う事!?」」」


 と、全員の絶叫が響いた。


 ヘルさんまでとは珍しい。

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