第137話はぁ、口疲れた。

「はい、只今ご紹介に預かりました黒幕です」


 ノリ良いなコイツ?!


「えっ? な、何で貴女がここに居るんですか!? だってさっきデミグスさんに……」

「ええ、ハクア様のご依頼通り内密にここまでエルザ様をお連れ致しました。それより皆様、こんな所で立ち話も何なのでこちらにどうぞ。お飲み物も用意が整っておりますよ」


 私達が帰って来た事を察したデミグスが、そう言って食堂の方へと促す。


 客間にこの人数はキツいからね。


 そして私は本当の黒幕。事、エルザと共に今回の裏話をし始める。


「まずは自己紹介をさせて戴きます。私はエルザ=レイグナント。ご存じの通り今回の騒動の原因コルクル=レイグナントの娘です。そして本日よりハクア様の元、皆様の御世話をさせていただくメイドとしてお世話になります」

「「「いやいやいや!」」」


 いや~、皆息ピッタリだな~。


「ご主人様! 和んでないでちゃんと説明してください!!」

「はいっ!」


 そして私はエルザと初めて会った時の事を話し始める。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 それは私がコルクルに呼び出された時、コルクルを煽るだけ煽って帰ろうとした所を、彼女エルザ=レイグナントに呼び止められた所から始まった。


「少しよろしいですか?」

「あんたは?」

「すみません。私はエルザ、エルザ=レイグナントと申します。申し訳有りませんが……」

「分かった。どこに行けば?」

「ありがとうございます。ではこちらへ」


 そして私はエルザの私室へと連れられ、そこでエルザからある提案を持ち掛けられた。

 驚くべき事にその提案とは父親であるコルクルを貶める事だった。


 私は驚きと共に「何故そんな事を私に?」と、聞くと彼女は静かにその理由を語り始めた。


 エルザは何不自由無く生きてきた。それは彼女がコルクルに取って一番大切存在だったからだ。


 コルクルはエルザにだけ愛情を注いだ。


 だがそれはエルザだけに向けられる物だった。


 エルザの母親も物のように捨てられ、逆らう者は誰もいなかった。


 彼女の友人は父を恐れて近付かないか、彼女を利用し父に近付こうとする者だけ。


 自らの幸福の為に、沢山の人間が不幸になっている事も知っていた。


 幼い頃はそれに手を差し伸べようともした。──だが、その度に父の企みによりともすればより酷い結果になった。


 そんな事が続きいつしかそれは彼女に取って当たり前の事で、何の不思議も哀しみも無い事なってしまった。


 それがどんなに歪でおかしくとも、エルザには受け入れるしか無かったからだ。


 しかしそれは彼女に会い変わった。

 彼女はエルザに意見する唯一の人間だった。最初こそ仲が悪かったが、同じ父一人、子一人と言う事もあり、次第にエルザと彼女は打ち解けていった。


 エルザにとって彼女は唯一対等に話せる存在であり、かけがえの無い友でもあった。しかし彼女はハーフエルフを親に持つ、クォーターだった。


 他種族を排他的に捉えるのは人間も同じ。

 特に貴族や権力者にはその傾向が強く、コルクルも例に漏れず、その考えの持ち主だった。


 だからこそエルザは彼女の事を父にはだけは決してバレない様にしていた。


 しかしその関係も長くは続かなかった。

 それは彼女の家が莫大な借金を背負ってしまったからだ。理由は分からなかった。しかし、父親が借金のせいで奴隷に落ちる事が決り。彼女はその容姿の事もあり、性奴隷として売られる事だけは分かった。

 通常なら借金程度でそんな物にまではならない。しかし彼女の父が金を借りた所が悪かったのだ。


 だからこそ、エルザは初めて父に頭を下げて頼み込んだ「彼女を、彼女の家族を助けて欲しい」と、だがそれに対しての父の答えは「折角お前の為に、あの薄汚い耳長を奴隷にしたんだ、これで助けては意味が無いだろう」と、言う答えだった。


 エルザはバレていないと思っていた。だが──父は彼女の事をいつの間にか調べ上げ。そして、自分から引き離す為だけに、彼女の父親を陥れ莫大な借金を背負わせた。


 それが真実だった。


 そしてエルザは何も出来ずに、性奴隷になる彼女の事を見捨てる事しか出来なかった。


「これが理由です」

「分かった。けど、今更こんな事しても君の友人は帰って来ないよ。それに君が望んだ事じゃ無くても、君の今の生活はその犠牲者の上に在るものだ。それを全て捨てるほどの覚悟はあるのか?」

「はい、都合の良い事だとはわかってます。けど、もうこれ以上父による被害者を出したく無いんです。だからどうか協力して下さい」

「何で私なの?」

「この都市で父に逆らおうと思うものはいません。でも私は何とか協力して下さる方を探していました。そんな中貴女の事を聞きました。マーン女史と共に新たな商売を始めた方だと。そして、一部では白い少女と呼ばれ、魔族と戦っていることも。今日貴女が父に呼び出さたと聞いて、貴女も父の言いなりになってしまうのかと思っていました。でもアナタは違った。父にあんな口を聞いたのは、貴女が初めてです。だから私に力を貸して下さい。お願いします。代わりに私の事は好きにしてくださって結構です」

「どういう事?」

「そのままの意味です。この依頼の報酬は私自身。それが私の覚悟と出来ることです」

「具体的な方法は?」

「それは、まだ……でも、父はあれでも商人です。その資金を断てば何も出来ない筈です」


 ノープランか。でも、あの豚よりはよっぽどこの子の方が商人だ。


「君も全てを失うよ」

「……必要な事ならば」

「分かった。なら、こんな案はどうかな?」


 まさかさっきの言葉が伏線に出来るとは、私の伏線回収率優秀じゃね?


 その後、私とエルザは二人で詳細を詰めていき、最終的にコルクルの私財を全て奪い、今までの悪事を公に晒す事にした。


 そして、コルクルを捕まえた後はコルクルの市場は十商にそれぞれ分け与え管理する方向性だ。この時、エルザからコルクルには公にしていない、部隊が在るとも聞いたので、それもおおいに利用させて貰う事にする。


 エルザに中から情報をリークさせ、私が外からククス達を操る。そして私の誘拐は予定通り起こったのだった。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 誘拐の後、私達がコルクル邸に一足先に乗り込んだ時、私は若干の計画の変更を告げる。


「そんな事を! ……分かりました。ではどうするんですか?」

「奴から全ての物を奪う。その為に利用出来る物は利用する」

「そうですね。……確かハクア様は【奴隷術】が使えましたよね?」

「使えるけど?」

「父にとっては私に何かされるのが、一番赦せない事です。だから私を上手く使えば……そう私を、私をハクア様の奴隷にしてください」

「待て、私はエルザにそんな事する気は──」

「私が始めた事です。それに背中に奴隷印は付いていなくても、私の身体はハクア様の物。売られるにしろ何にしろ変わりません」

「……後悔は?」

「しません。もう眺めるだけなのは嫌なんです」


 そして私はエルザに奴隷印を施し奴隷にした。

 その後の打ち合わせで、皆の前にエルザを引きずり出し、公衆の面前で背中の奴隷印を服を引き裂き見せ付ける。と、言う提案を更にエルザからされた。


「いや、本当にそこまでは……」


 うん。私が普通にしたくない。


「やるならとことんやりましょう!」


 アカン。テンション上がって目が座っとるやん。これ逆らったらダメなやつですね。分かります。


 そして先程の王の間での展開になる。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「これが今回の裏話だよ」

「そ、そんな事が……」

「全然知らなかったかな」

「と言うか、私もその子の事は聞いて無かったわ」

「まあ、作戦の性質上ね?」

「ご迷惑おかけしました」

「あ~、主様らしく無かったからの、聞いたら逆にいろいろと納得じゃ」


 いや、私だってさっきのエルザの演技は驚きましたよ? 無駄に演技力高いから、冷や汗止まんなかったし。一瞬違う人間との打ち合わせだったっけ? って思ったよ。や~、女って恐いわ~。


 〈だから、マスターも女性でしょうに〉


 そうだけどね!? 正直あれの後に、しれっとした顔でここに居るのを見ると、そう思っちゃうんだよ!?


「ご主人様、だらけてるだけだと思ったらちゃんと仕事していたんですね!」

「えっ? 仕事……? あ、ああ、そうそう、いやー、大変だったよ」


(ねぇ、ルリ? 何、あのハクアの反応?)

(ハーちゃんって実務能力高い上に、今回みたいな悪巧み大好きだから、これくらいの事なら労力使って無いんですよ)

(((ああ~)))


 何だろう? 不穏な空気を感じるぞ?


「ともあれ、これからよろしくお願いいたします」


 話しが終わりエルザが再び挨拶した事で、皆が次々に返事を返す。


 そして。


「ミミさん、父がした事は許される事ではありません。しかし、それでも謝らせて下さい」

「良いです。貴女のせいじゃ無いもの。これから一緒に頑張ろ」

「はい」

「ああ、そう言えばまだ紹介したい人間居たんだった」

「なるほど、ここに繋がるのね?」

「どういう事ですご主人様?」

「もうそろそろ来る頃だと……」


 私がそう言うとタイミングよく家のチャイムが鳴る。


 まあ、こっちは偶然と運の産物なんだけど、それでも事が済むまで言えなかったからな。

 後ちょっと喋りを頑張ろう。はぁ、口疲れた。

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