第135話どうしたの二人共? 目と手が恐いんだけど?

 現在アリシア達は瑠璃とカーラの説明の元、竜車の中で今回の騒動の流れを伝えられていた。


「じゃあ今回の事は私達の為だったの」

「はい。殆どはその為ですね。何時、誰が、どんな状況で襲われるか分かりませんでしたから。それと、ハーちゃんからの伝言で、結衣ちゃん以外は来たければ来て良いと」

「私は駄目なんですか先輩?」

「ええ。ハーちゃん曰く、中がどうなってるか分からないから。って、最悪人を殺さないといけないかも……って事も言ってましたから」

「……そう、ですよね」

「そんな顔しなくても良いんですよ。前にも言ったけど、別にそれは悪い事じゃ無いです。むしろそれが普通ですし。その感覚から言えば私達の方が逸脱しているだけなんですから」

「はい……」

「でもハクアもよくこんなの思い付いたよね? 王様まで騙して十商を捕まえようとか」

「この作戦自体は前にも同じような事したらしいわよ」

「そうなの?」

「ハーちゃんと、みーちゃんが揃うと大変ですから……」


 そう言って笑う瑠璃を見て、その場の全員が、やっぱりハクアの友達だ。と、感想を抱いたのは言うまでもない。


「でも何が起こるか分からないですし、早く助けに行かないとですね!」

「うむ。そうじゃな」

「ゴブ」

「皆様、目的地が見えました」


 そんな事を話していると竜車を運転していたデミグスから報せが入る。そして、竜車が止まると共にカーラを除く全員が竜車から飛び出す。

 すると、タイミングを計ったのように屋敷の中から数人の男がこちらに駆け寄ってきたのだった。


「た、助けてくれ!」

「化け物だ!」

「あんなの勝てるわけねぇ!」


 その言葉を聞くなり、瑠璃とアリシアが弾かれたように屋敷の中へと駆け出して行く。


「アリシア! ルリ! もう。行くよ皆」

「わかったかな」

「ゴブ!」

「ああもう! カーラお主はそこの男共を頼む。結衣はフロストと待っておれ」

「わかったわ」

「は、はい」


 クーは簡単な指示をだし、急いで先行した面子を追い掛ける。そして、その場に残ったカーラは男達に問い掛ける。


「さて、中で何があったのか話して貰おうかしら?」


 しかし、カーラの声は男達には届かず、男達はうわ言のように何かを呟いている。


「無理だ勝てるわけねぇ……。あんな……あんな馬鹿みたいに強い女共に……」

「「「えっ?」」」


 男達の言葉にその場に全員の声が重なった。


 その頃、屋敷の中へと入った二人を追い掛け、エレオノ達は二階へと上がっていた。


「二人はどこじゃ」

「今下を探してる」


 クーがエレオノと合流すると、下を探し終えたのか二人が物凄い勢いで階段を掛け上がり「あそこの奥の方から音が聴こえました!」と、だけ言ってエレオノ達を抜き去る。

 あまりの勢いに反応が遅れるがエレオノ達はそのあとを慌てて追う。


「ご主人様!」

「ハーちゃん!」

「「……グッフッ!」」


 音の聞こえたらしい部屋をアリシアと瑠璃が急いでバンッと、開ける。すると数秒止り二人揃って顔面に攻撃を受けたかのように、顔を押さえて屈み込んでしまう。


(血が!? まさか攻撃なの?!)


「エレオノ今の……見えたかな?」

「見えなかった!」


(私達じゃ見る事も出来ない攻撃なんて)


「先に私が行く」

「「「了解」」」


(二人共動かない。そんなにダメージが?!)


 エレオノが指示を出すと皆は少しスピードを落として移動する。

 そしてエレオノは考えていてもしょうがない。という結論に至り迷わずドアの前へと躍り出る。


「ハクア! …………って、何て格好してるの!?」

「エレオノお疲れ!」


 中に居たハクアは男物のYシャツ一枚の姿で、何故か髪が濡れており、Yシャツの裾からは艶かしく白い太ももまで大胆に出ていた。

 しかも濡れているせいで普段とは違い髪を上げていた為、普段隠れている顔を出し、Yシャツまでもが肌に貼り付き、正直エレオノですらエロい格好だ―――と、思って不覚にもドキドキしてしまった。


 そして、そこに思い至ったエレオノは冷めた目で下に屈み込んでいる二人を見る。

 改めて見ると二人は顔を赤くしながらも、とても……とても幸せそうに顔を弛緩させハクアの事を凝視し、顔を押さえているように見えていたのも、実は鼻を押え鼻血を出していただけだった。


 そんな呆れた様な弛緩した空気を察したのか、他の面々もドアの前までやって来ると中に入ってハクアの元へと行く。


(全く。ハクアもハクアだけど、この二人もハクアの事になると同じだなぁ。そりゃ確かに、色っぽいし、濡れた髪の毛掻き上げてるのも新鮮だし、あの格好も、肌に貼り付いてるのも、正直私だって…………!?)


 ゴッ! と、そこまで考えたエレオノは突然頭を壁に叩き付け思考を引き戻す。


「な、何? どうしたのエレオノ?」

「ううん。何でもないよ!」

「そ、そうですか」


(ふう、危ない、危ない何が危ないのかよく分からなかったけど、あのまま考えるのは何かダメだったよね?)


 高ぶった様な気持ちを落ち着け、深呼吸したエレオノは、場の空気を変える様にハクアに事情を聞くことにする。


「それよりどうしたのその格好?

「実は、切り札としてモンスターをけしかけられたのですが、そのモンスターというのがまたミノタウロスでして……」


 その言葉だけでそこで何が起り、こうなったのか全員が瞬時に理解した。

 因みにハクアの着ている服は、床に転がってるい上半身裸の男の物だとも検討が付いた。


「それはそうとご主人様!」


(あれ? こんな所でもう説教するの!?)


「こ、今度から寝る時はその格好で寝てはどうですか?」

「そ、そうだねハーちゃん! よく似合ってるもんね!」


 と、二人揃ってハクアの肩をガシッとしっかり掴み、有無を言わさず交渉を始める瑠璃とアリシア。


「えっ? どうしたの二人共? 目と手が恐いんだけど? しかも瞳孔開きまくってるよ!?」

「それでこの後はどうしますかマスター?」

「コレに関してはスルーですか!? ま、まあ取り合えずカーラと合流しよう」


(何か分かんないけど、このままのアリシアなら怒られないだろうし)


「待って下さいご主人様!」


(バレた!?)


「そんな格好で外に行かないで下さい! 見るのは私達だけで十分です!」

「お、おう。さよか……」


 アリシアに諭され、用意された服に着替えてから外に出るハクア達、外に出るとこの屋敷にいたであろうククスの部下達がカーラに捕縛されていた。


「先輩! 無事で良かったです」

「上手く行ったようね」

「まあね。結衣ちゃんも心配掛けてごめんね」

「取り合えず、今私の部下に屋敷を捜索させてるわ」

「まあ、何かしらありそうだしね」

「モンスターはもういないので大丈夫でしょう」

「それとコレお土産物」


 そう言ってハクアは、引き摺っていたコルクルをカーラの方に放り投げる。


「……コレ、どうしようかしら? 何か案はある?」

「ふむ、取り合えず。ククスあんたはどうしてコレの下に?」

「今更そんな事か……金の為だ。俺達は皆働く事さえ赦されなかった。だからこんな事をやる代わりに仕事も貰ってたのさ」

「じゃあ、コレ自体に恩義とかは無いんだ?」

「恩……自体は無い事は無かったな。だが、その為の代償も含めて正直わりにあってなかった」

「な、この、折角儂が目をボォぅ!」

「うるさいから黙ってて」

「ご主人様足が汚れますよ?」

「アリシアも容赦無いかな」

「じゃ、あんたら全員引き抜くよ。その代わり、コルクルのやって来た事全部教えて?」

「な、何を言っボォぅオ!」

「だからうるさい」

「信用して良いんだな?」

「それは自由だよ。しいて言えばあんたに聞かなくても、こいつはもうどうとでもできる」

「分かった」


 そこからの話はスムーズだった。ククスは自分が関わった物から、そうでない物まで私達に話し、実に色々教えてくれた。

 ハクア以外の者は人身売買からモンスターの違法取引、非合法の品物の密輸までやっていた事に大いに驚いていた。


(そんなに驚く事かな? てっとり早く金を稼ぐならコレくらいやる。特に性根の腐った屑なら尚更、それでこいつは屑だった。だからやった。それだけの事……そして私は屑にまで容赦してやるほど優しくない)


 そんな事を思っていると、屋敷の中からカーラの部下らしき人間が数名の人を連れて出てくる。そしてそれを見て、皆が息を飲んだ。その理由はハクアには分からなかったが、問題は最後の一人だったらしい。


「……卯族? いえ、月兎族げっとぞくね?」


(何それ?)


「月兎族は獣人の一種族ですが、性質、力等は魔族に近いといわれ、その見た目の美しさ等から奴隷として裏取引等もされています。因みに卯族はウサギの獣人種で脚力の強さ以外には特に秀でていません」

「なるほど。で、何で皆こんな反応?」

「ヘルが説明した通り、月兎族は魔族の血が入っているから嫌われているのよ」

「くっ! 放して! ミミに触らないで!」

「こら! 暴れるな!」

「あうっ!」

「取り合えずドーン!」

「グハッ! な、何を!?」


 カーラの部下が月兎族の少女を殴った瞬間、ハクアはその部下に飛び蹴りを食らわせる。

 流石にそれには、部下も月兎族の少女も驚きハクアを見詰める。


「いやいや、女の子に乱暴する方がおかしいでしょ」

「こいつは月兎族なんだぞ!」

「だから何? それはこの子が何かしたのか? あんたがこの子を殴る理由になるの?」

「当たり前だ! こいつは魔族の手先なんだぞ!」

「違う! 私は静かに暮らしてたのに、そこの人間に……うっうう…………」

「この子に何をした?」


 ハクアはコルクルに近付き問い掛ける。


「ふん。薄汚い月兎族が住み着いていると、報告を受けたから儂が自ら化け物共を殺し、その薄汚い月兎族も有効活用してやったヒギャ! わ、儂の腕が~!!!」


 ハクアはコルクルが喋り終わる前にスキルを使い、コルクルの腕を石に変える。そして、暴れているコルクルの事を掴み。


「どうする? 君が殺したいなら殺して良いよ?」


 月兎族の少女は力無く首を振り否定する。


「本当に良いの?」

「こんな男を殺してもミミの家族は帰って来ないもの」

「そっか」


 ハクアは再びコルクルを投げ捨て、ミミと名乗った少女に向かい合う。


「これからどうするの?」

「分からない。行く場所も帰る場所も無いもの。私達月兎族はこの世界に居場所何て何処にも……」

「魔族にも獣人にもなれなかった半端者だから?」

「そうよ! でもミミだって皆だってそんな風になりたかった訳じゃない! 普通に暮らしたかった! 毎日怯えながら生活するなんて嫌だった! でも、だって、しょうがないじゃない」

「そう」

「ミミだって本当はもっと……ただ家族といれれば良かっただけなのに……それだけなのに、この世界はそれすらも許してくれないんだもの……」

「なら、私の所に来る?」

「えっ?」

「ウチは色々と訳ありだから、それに今更魔族の血が入ってるだけの奴くらい何でもないよ。だって私達は──」


 そこまで言ってハクアはミミに近付き小声で話す。


「本当に……そうなの?」

「ご主人様が何を言ったかは分かりませんが、月兎族だからと言って嫌悪はしませんよ。むしろ今はこの男の方がよっぽど醜悪ですし」

「確かにの、主様殺って良いか?」

「簡単に死なせないで地獄に落とすからダメ」

「なら良いんじゃない?」

「ボクもハクアが決めたなら良いかな」

「ゴブ」

「私もです先輩」

「私は……」

「皆良いってさ?」


 フロストの言葉を遮り、手を差し出す。


(フロストお前には聞いていないのだよ!)


「本当に良いの? 月兎族だよ?」

「関係無い。私だって君と似た様な物だし。君が来たいなら受け入れるよ。誰にも文句は言わせない」

「後悔しても知らないからね。私はミミよろしくお願いします」


 そう言ってミミはハクアの手を取り、皆に頭を下げ挨拶をした。


(ウサミミ美少女をgetして後悔とかそんな馬鹿な!)


 〈むしろ後悔するのはミミの方では?〉


(失礼な!?)


「取り合えずミミには家でメイドでもやって貰おうかな?」

「戦わなくて良いの? 月兎族を仲間にしといて」

「戦いたいならそうするけど?」

「私……戦うのは嫌い」

「じゃあメイドで!」


(帰ったら早速衣装を! ああ、生ウサミミメイド! 私は人生の勝ち組路線をひた走ってる!)


「ご主人様?」

「ハーちゃん?」

「「なに考えてるんですか(るの)?」」

「いや特には何も……た、助けられて良かったなぁ。みたいな?」


(だから何でバレるし?!)


「話は纏まったようね。それで何か考えがあるみたいだけどどうするの?」

「それはね?」


 そしてハクアはコルクルの全てを奪う為の作戦を話し始めた。

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