第134話(信用度ゼロ!?)

「二日振りかしらククス?」


 ハクアのその言葉にククスは驚き、声が出なかった。


(バカな俺は目の前で話までしたんだぞ!?)


「そうだ。火傷、お前の顔には大きな火傷があった筈だろ!!」

「あぁ、あれね。あんな物、自分で焼いただけよ? 幸い、回復魔法の使い手もその程度の傷を治す薬も買えるもの。殊更白を印象付けしてある相手に髪を染め、更に特徴的な火傷まであれば、顔への印象何て殆ど残っていないでしょ? 今の貴方のように……ね?」

「そんな事の為に自分で……」

「そんな事、何て言うこと無いでしょ? 私は貴方達の事を最大限警戒して、印象操作と私自身の実力の誤認をさせ、ここまでの事をしたのだから? そこの雇い主だけならここまでしなかったわよ?」


 そう説明しながら、元の白い姿に戻って行くハクアを見て、ククスは震えが止まらなくなっていた。


(自分の印象操作の為に顔を焼いて、その上で自分の情報を自分で伝えて来ただと……)


「あー、喋りにくい。もういいよね? それにしても、あんたらがちゃんと私を拐ってくれて良かったよ。他の子拐われたら厄介だったからね。まあ、その為に私の情報と似顔絵まで渡したんだけど。でもさ、あんたら少しナメプし過ぎだよ? 屋敷の大きさからはバックに居る人間の力が見て取れる。拐い方は良かったけど……ホラ、ロープの結び方もなってないよ。少しの細工ですぐ取れる。そのうえ……」


 元の姿と口調に戻りハクアが喋っていると、ハクアを押さえ付けていたもう一人が、立上がり攻撃を仕掛けようとする。


(良し。これで)


 しかしハクアに攻撃を加えようとしたククスの部下は、バスンっ! と、いう音と共にどこからか攻撃を受け、壁まで吹き飛び失神してしまう。


「な……にが?」


 ククスが突然の事に驚きながら窓の外を見ると、いつの間にか部屋から見える木の上に、月明かりで青白く見える銀髪を風でたなびかせた、作り物の人形のように精緻な顔の作りをした少女が、こちらに砲のような物を構えて立っていた。


「そのうえ、こんな大きな窓の部屋に連れ込んだら、こうやって外から攻撃されるでしょ? まあ、私の仲間は優秀だから、窓なんか無くても狙撃くらい出来るけどね」

「マスター油断し過ぎでは?」

「ヘルさんが居るから良いかな〜。と?」


 ハクアは普段通りを装いながら、必要以上に饒舌にククス達の思い上がりを語り、敗北感を味あわせる。


(まあこれで心が折れるとは思わないけど)


「マスターこれで傷を治して下さい」

「これぐらいすぐに治るから良いよ。スキルでも治るしね」


 ヘルが差し出したポーションを勿体無いからと拒否するハクア。しかし……。


「もうすぐアリシア達が来る筈ですが? その腫れた頬で良いんですか?」

「ありがとうヘルさん! すぐ使わせて貰うよ!!」


 ヘルの言葉を聞き、ハクアは冷や汗を垂らしながらポーションを受け取ると、急いで腫れた頬へとポーションを掛ける。


「マスターの現場を見たら彼等が無事だとは思えませんからね」


(いやいや、大丈夫だよ! アリシア達はそんな事しないから! これはあれだよ! あれ! あくまでも余計な心配掛けないためだよ!?)


 〈そうですね〉


(信用度ゼロ!?)


「な、何が目的だ!」

「あん?」

「こんな事をして何が目的だと聞いているんだ!」


(何だろう? 誘拐した側とされた側が逆転してね?)


「別に、あんたが私達にちょっかい掛けて来そうだから、先に手を打っただけだよ。とはいえ、人身売買から何から手広くやってそうだから、その内潰しただろうけど」

「何だと!」

「私さ、自分に出来ない事をやれる人間は尊敬してんだよね? 商人なんかその類いだしね。でもさ、あんたは私の仲間に手を出そうとした。そしてコルクル。あんたは商人でありながら商売の駆け引きや情報、アイデア以外を武器にした。だから私はあんたを商人とは思わない。盤面から降りろよ。あんたのゲームはここで終わりだ」

「くっ、くくく、くっはははは!」

「気でも触れたか?」

「笑わずにいられるか。儂に手を出して無事に済むと思うなよ! この事が知られれば、お前はこの国の王を敵に回すんだ。そうすればこの国自体がお前の敵だ!」

「はぁ、そんな事か……ねえ、なんで私があんたのバックに気が付いていないなんて勘違いをしているんだ? それに、あんたはその自分を庇護してくれる王に今回の事を話していたのかな?」

「な……にを?」

「あんたの事はちゃんと調べたよ。あんたと王の関係性も大体ね? その上でこんな事してる訳だが、本当に何もしていないとでも? 今回私を拐ったのはどこの誰? あんたが周りに存在を隠してた部隊。違うよね? 私を拐ってくれたのはあんたとは何の関係性も無い人間。そして……ここにあんたが居るだなんて事、こんな後ろ暗い事してて誰かに言ってあるのかな?」

「な、な、なな」


 ハクアの言わんとする事を察したコルクルの顔は、だんだんと青ざめて行くがハクアはそれでも尚、語るのを辞めない。


「私の仲間は拐われた時点で、私とあんたが会っていた事すら知らない。きっと私が連れ去られた時点でギルドに行く。そして私が正体不明の輩に拐われた事を伝え捜索を要請。でも、この都市をくまなく探すには、ギルドが抱えてる冒険者だけじゃ全く足らない。そこにカラバス・マーンが話を聞き付け、自らの私兵を使うように申し出る。これはギルドも受けるしか無くなり、王に兵を出す許可を貰えるよう取り計らうしか無くなる。何も言わずに大規模に兵を動かす訳にもいかないしね? そこで王にまで私がどこの誰かに拐われた事になり、出兵を許可した国にここで何があろうと私達を非難する事は出来なくなる。どうかな? これが今回の流れなんだけど」

「大体今の流れで進んでいますね」

「だってさ」

「バ、バカな! この儂がこんなガキの手の上で踊らされていただと……」

「現状の確認は出来たようですね?」

「だね」

「──とえ……」

「何?」

「例え、そう進んでいたとしても。誰がお前のような小娘の話を、儂の話しより信じると言うんだ。バカめ! それはカラバスの小娘も同じ事、お前ら全員娼館に売って死ぬまで使って、儂を虚仮にした代償を払わせてやる!」

「はぁ、それはあんたが生きていればの話だろ?」

「……は?」

「私と一緒に捕まっていたでも良い。仲間割れでも良い。助けが来る前、助け出す騒動の最中不慮の事故でも良い。あんたを殺す状況何て幾らでも作れるんだけど?」


 ハクアのその回答を予想していなかったコルクルは明らかな狼狽をみせてハクアに掴み掛かる。


「わ、儂を殺すと言うのかこの人殺しめ!」

「それをあんたが言うか? でもまあ良いか。あんたが出来るのは私に従うか、ここで死ぬかのどちらかだ。好きな方を選べば良い」

「どこまでも、どこまでも儂を虚仮にしおって!」

「コルクル様それは!?」

「もういい! 儂以外全員死んでしまえ! どうなろうが知った事か! 儂だ! 儂さえ生きていれば何とでもなるんだ!」

「あれは服従の指輪ですね。かなり高ランクの」

「何それ?」

「モンスターをテイム出来る物です。しかし、通常のテイムと違い、モンスターの凶暴性はそのままなので、取引は禁止の筈ですが……」

「なるほど、罪状にモンスターの違法取引も追加だね」

「ですね」


 ハクアとヘルが話をしていると、部屋の壁が壊されそこからゆっくりとモンスターが現れる。


「なっ! あ、あれは!?」

「間違い無く本物ですね」

「お、終わりだ。滅多に出ない亜種を相手にするなんて。こんな所で、くそっ!」

「フッハハハハハ。どうだ! これが儂の切り札! 狂暴で知られる中の更に亜種だ! 恐怖で声も出まい。行け! 全員殺してしまえ! ミノタウロス!」

「ブモゥオォァォ!」


【鑑定士】スキル成功

 ミノタウロス(亜種黒毛)

 名前:カクナス

 レベル:10

 HP:1000/1000

 MP:150/150

 気力:400/400

 物攻:400

 物防:300

 魔攻:100

 魔防:100

 敏捷:150

 知恵:50

 器用:30

 運 :50

 スキル:【本気】【頑強】【突進】【変化】【噛み付き】【連打】【ホーンスラスト】【咆哮】


(さっきのより弱い癖にさっきよりデカイ牛肉来た~!!)


「マスター今回は私も加わりますよ」

「OKだよ! 【変化】するまでは駄目だからね! 絶対だよ! 絶対! それと頭ね! 頭! タンを傷付けないように気を付けてね! 私、タンも好き!」

「……わかってます」


 再びのミノタウロスとの戦いに、ハクアは興奮を隠しきれず。ヘルは解体手順を先程のハクアの記録を頭で再生しながら確認し、冷静に切り分ける部分の観察に移る。

 その二人の様子を見たミノタウロスは、自分自身さえ分からない恐怖に何故か一匹、密かに震えるのだった。


「ブモォ……」

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