第175話(こいつ本当面倒だな──)

 後から考えればその男の手並みは見事だった。いくら【洗脳】のスキルが使えるとはいえ、手当たり次第にスキルを使えば、簡単に事は露見していただろう。しかし、実際その男がスキルを使ったのは二回だけだった。


 その男は最初、フープの国に古くから仕える家の子息としてやって来た。長らく王国に仕え魔法や知識もあった事から、その男を連れてきた老人は相談役として、時に女王で在るアイギスよりも強い発言力を持っていた。


 そして相談役という地位は貴族寄りの物で、その子息として連れて来られた男は、その相談役のごり押しにより、アレクトラの従者として収まった。勿論これには周囲も反発したが、澪を懐に入れた事により、その事を引き合いに出された周囲は、あまり強く反対する事が出来ずにいた。その上その男は魔法の才能もあり、格闘や剣技も騎士に通用するレベルという事で従者兼護衛役として収まってしまったのだった。


 時を同じくしてロークラも怪しい動きを始め、最初は嫌がっていたアレクトラもクシュラを受け入れ始めた事で、アイギスと澪はロークラへの対応に追われてしまう。


 そしてロークラから発せられた勇者に対する全面的支援。

 これは聞こえだけなら良いが、実際は非協力的な国などは狩り滅ぼし、勇者を支援する力が無い国は、勇者の支援体制を作る名目でロークラの支配下に置く方が本題なのだろうと全員の意見が一致した。


 そしてその対処を行う準備をしている時、事件は起こった。

 その事件とは王城にいきなり魔族が現るという、本来なら有り得ない物だ。

 この時澪とフーリィーは最小の兵を連れ偵察に出ていた為に難を逃れたが、魔族はその隙を狙い城に現れ、先に潜入し予め魔族を招き入れる準備を仕込んでいたクシュラがアレクトラを人質として使い。そのままアイギス、アレクトラを人質とされた城の兵やカークスに抗う事は出来なかった。


 何故こんな回りくどい真似をしたのかは正確に言えば分からない。──だが、アレクトラを人質にしこの計画を指導している魔族は「人間の絶望と恐怖、怒りを集めて要るのだ」と、言っていた。そして、その計画の為に人間を裏切る人間が必要だったのだ。


 当初フープの兵は皆、アレクトラの為とはいえ魔族の側に付き、人間の敵になる事には反対していた。だが、澪やアイギス、フーリィーやカークスがアレクトラの為に裏切る決意をした事でやむを得ず付き従った。

 勿論これは澪の説得があったからだ、いざ助ける場面で【洗脳】されていては、助け出す事が出来なくなる。この状況でまだ諦めていなかった澪に、全員が賭けてみようと一致した結果だった。


 しかし、幾人かの魔族はあっさりと受け入れた澪が気に食わず、裏切るのでは? と、訝しむ結果になった。

 だが、そこに転機が訪れる。

 他の上位魔族からの応援として来た二体の魔族が、自身の友人で在る白亜の事を知っていたのだ。その時澪は白亜と協力する事でこの危機を脱する計画を思いついた。


 そして指導する魔族の前で白亜の事を根掘り葉掘り聞き、あからさまに安堵して見せると、思った以上に簡単に「仲間として人間を裏切るのならば、まずはその人間を殺す事で忠誠を示せ」と、簡単に釣れたのだった。


 澪達の裏切りを防止する為に、アレクトラをクシュラと共に白亜の元に送ったのも、事前に不可能と分かりつつ、アレクトラ奪還の為に動いていた結果でもあり、白亜を誘きだす為の作戦と言っていた結果でもあった。


 こうして、全ての準備を整えこの作戦を決行したのだった。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「と、言う訳だ」


 ここまでの経緯を話した澪は、そう言って話しを締めくくる。


「澪」

「何だ白亜?」

「それ作戦でも何でも無いじゃんか! 行き当たりばったりも良いとこじゃん! しかも私、何の準備も無く即興で巻き込まれてるだけだよねこれ!? 加えて話が長げえよ! 尺考えろ尺、だれるだろ過去回想長いと」

「失礼な。お前なら大丈夫と判断した私の器量だろ。それに話が長いだと、私とアレクトラとフーリィーの、キャッキャウフフな日常シーンを、どれだけカットしたと思ってるんだ! 馬鹿者め!」

「バカはお前だバカ! 何だキャッキャウフフって、美少女と美女とのそんなん羨ましいわ!」

「……ご主人様」

「……澪さま」

「「あっ、すいません」」

「……つくづく主様の友人と分かるのじゃ」

「……あ、あはは、かな」

「この共食いする感じ懐かしいです」

「あぁ、何時もこんな感じ何だ」

「はい、そうなんですよエレオノ。あれがハーちゃんと、みーちゃんの芸風ですので」

「「誰の何が芸風だ!」」

「息ピッタリゴブ」


(全く、こんなのと一緒にしないで欲しいね!)


「まあ良い。とにかく悪いとは思ったがこちらの作戦に組み込ませて貰った、因みにだが、直接的に言えなかったのは、私達にも監視が付いていた事、そして魔族側にはもう一人、勇者が協力しているからだ」

「それは本当なのかい?」


 その言葉に今まで黙っていたローレスが反応する。


「あぁ、だからこそこちらの世界には無く、私達の世界で裏切りや内通者が居ると言う言葉を、あんな回りくどい言い方でしか言えなかったんだ。私の言動はチェックされていたからな」

「それであの方法か」

「そう言う事だ。多少の被害は出たが……まあ許容内だろう」

「巫山戯るな! そんな事で許されると思うなよ!」


 と、ここまで話しを聞いていたゲイルがまた騒ぎ出したのだった。


(こいつ本当面倒だな──)

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