第22話長かった。と言うか長すぎじゃない!?

 エルム村に帰る途中、女の子は自分の事を教えてくれた。


 彼女の名前はエレオノ。年は17歳。

 エルム村冒険者ギルドのギルド長の一人娘で父親と二人暮らし、父には反対されているが彼女も冒険者を目指しているのだとか。

 それから父親とはあまり上手くいっていないらしい。

 なんでもここ数日は、家に帰ったら直ぐ部屋に籠り、ずっと仕事をしていて話す暇さえ無いとの事だ。

 忙しくなる前は、冒険者になる事について話をする約束だったとエレオノは言っていた。


 正直、自分の中にある恐怖を考えない為に、こうやってずっと喋っているんだろうけど、それでもこうして気丈に振る舞う辺り強い子だと思う。


「大分落ち着いたみたいですね」


「はい。あの、改めてありがとうございました」


「きにしないでいい」


「ゴブ!」


「皆さんも冒険者なんですか?」


 その言葉にアリシアは苦笑しながら。


「いえ違いますよ。私達は冒険者の資格を取る為にこうして依頼を受けたんです」


 アリシアは話の流れが読めないエレオノに、冒険者ギルドでの事を説明した。


「そうだったんですか? すいません。ウチの父が失礼な事を……」


「そのおかげで、キミをたすけられたからいい」


「あっ、その、ありがとうございます」


「……またそうやって」


 アリシアさんなぜにおこなの?


「でもすごいですね! 失礼ですけど皆若いのに、特に二人共こんなに小さいのに冒険者になろうとするなんて」


 そのあまりにストレートな物言いに「わたしはてんせいしゃだから」と、苦笑しつつ素直に話す。


「ええ!? そうなんですか? 私、転生者の方って初めて会いました」


 存在自体は知ってても、実際に会うことはあんまり無いのかな? 


 あれっ? そう言えばなんであの時あの人。あんな事を言えたんだろう?


「私もエルフですから見た目程若くないですよ?」


「えっ、そうなんですか?」


「ええ、一応エルフの中では子供扱いですけど、50歳ですから」


「エルフの方とも初めて会いましたけど、エルフって凄いですね」


 それは私も思った。特にプロポーションや顔の作りがね。


「私も何時か皆さんみたいに冒険者になって、皆さんと冒険したりしたいな」


 エレオノがそんな風に言うので「いつでもかんげい」と言うと、エレオノは嬉しそうに「本当ですか?」と聞いてきた。


「うん」


 〈マスターもう間もなく着きます〉


「あっ、エルム村だ……」


 エレオノが懐かしみ、万感の思いを込めたように言う。


 さあ取り敢えず冒険者ギルドに行こう!


「「はいっ」」


「ゴブ!」


 ギルドにやって来た私達は依頼の終了を受付に報告に行く。


「いらいおわった」


「貴女はエレオノさん? 何故この方達と一緒に?」


「色々あってそれは後で父に、それよりこの人達の依頼報告を」


「あっ、えっとでは、ソウルテイカーをこちらに置いて下さい」


 エレオノの言葉に受付嬢は慌てて台座のような物を取り出す。


 何これ?


「ハクアさんそれ貸して貰って良いですか?」


 エレオノに言われソウルテイカーを渡す。

 エレオノはそれを受け取ると窪みを上にして台座に設置する。するとソウルテイカーの上に何やら文字と数字が色々出てきた。


 うん。読めん!!


 〈私達が回収した魔石の種族名とレベル、数のようですね〉


 ほう、じゃああの数字が大きいのがゴブリンで、その下がナイトとソルジャーか……。ふむふむ。まぁ、読める気しないよね。


 〈少しは努力して下さい〉


 すいません努力は嫌いです!!


 〈………………〉


 ごめんなさい。黙られると辛いです。


「依頼のゴブリンは三匹だった筈なのに!?」


 受付嬢が驚いている。そりゃまあ、倍近い上に進化個体まで居たからね。


「ええ、お陰で苦労しましたよ」


 アリシアさんが笑顔で言う。


 あれっ? アリシアさん凄く怖いですよ。


「やぁ、君達が居ると言う事は依頼の方は無事終わったようだね」


 受付嬢と話して居るとギルド長のハゲが話し掛けて来る。


「お父さん!」


「エレオノ!? 何故ここに……」


 そんなギルド長に気が付いたエレオノが、感極まって泣きそうな顔で抱き付く。

 今までは角度的に見えなかったのか、エレオノに抱き付かれてギルド長は大いに驚いている。


 何もそこ迄驚かなくても良いんじゃ?


「……エレオノどうしてここに居るんだい?」


 驚きも収まったのかギルド長が穏やかな声で聞く。


「私この人達に助けて貰ったの!」


「助けて貰った?」


「お父さん、私が居なくなった事に気が付かなかったの!?」


「す、済まない。ここ数日はマトモに家に帰れなかったからな、てっきり何時ものようにすれ違いになっているものと」


 最低だなこのハゲ!!


「ううん。お父さんはこの町の為に頑張っているんだし、しょうがないよね……」


 そして、エレオノは良い子だ!!


「済まない。事情は後で家に帰って聞くとしようそれで良いかい?」


「うん。私はちゃんと助けて貰ったから大丈夫」


「娘を助けて貰ったようだねありがとう。それで依頼の方はどうなったんだい?」


「は、はい」


 ハゲの言葉に受付嬢は先程の内容を見せる。


「数が多い──それに進化個体まで」


 その件はもうやったから良いんだけど?


「とりあえずいらいはこなした。しけんはごうかく?」


「あぁ、これは文句の付けようも無いな。それと、依頼に不備があった点は謝罪させてもらう。済まなかった!」


 そう言って頭を下げてくるハゲ。


「べつにいい」


 アリシアさんはまだ激おこみたいだけどね!!


「そうかありがとう。それではこのまま冒険者登録をして、その後で報酬の受け取りと、魔石の買い取りをしてお金を受け取ってくれ。私は済まないが失礼するよ」


 私達にそう言ってエレオノの頭を撫でると、ハゲは奥へと消えていった。


「それではこのまま冒険者登録をしたいと思います。先ず登録料の銀貨を一人1枚頂きます。次にこれを──」


 受付嬢はそう言って交響珠を取り出す。


 何故?


 〈冒険者登録はティリス様から証を受け取る事で完了します〉


 なるほど。


「では、交響珠に触れて目を閉じて下さい」


 私は言う通りに目を閉じるすると。


『ハクアさんやりましたね』


 いきなりのハイテンションでティリスが話し掛けて来る。


『あのゴブリンソルジャーを倒した時は凄く格好良かったです。鎌鼬やボルケーノって魔法もハクアさんが作ったんですよね?』


 うんそう、まぁ在り来たりだけど。


『実はそうでもないんですよ。この世界、色んな神が好き勝手に設定増やしたから、火や水なんかの属性から斬や爆なんて効果の属性まであるんで、皆そっちでのエディットでなんとか凄い魔法を作ろうとするけど、二人で協力して魔法を撃つなんて発想が無いみたいなんです』


 でも一人でなら出来るんじゃない?


『そもそも一人でそんな事が出来る人は、そんな面倒な事考えなくても十分な位強いですから』


 さもありなん。


『はい。ですんで今先輩が新しくハクアさん達が作った魔法に合わせて、色々構築してるらしいんで、もう少ししたらステータスに新しい項目とか増える予定みたいですよ』


 なんか女神からのプッシュが凄いな?


『別にハクアさんを特別扱いしているわけでは無いですよ? 色んな人が色々作る度に、世界のシステムをアップデートしてますから』


 だからダメなんじゃないのか!?


『いえ、逆に放置したまま使われると、バグになって世界の方が大変になるんですよ』


 そうなんだ?


『だからこそ先輩が新しくシステムを作ったりして、色々調整してるんですよ。でも自重とかはしなくても良いですよ? 神々は皆楽しんでますから』


 でも幾ら自分達の箱庭だからって、そんなに干渉しまくってて良いの?


『まぁ、そもそも地球にすら割と干渉している神々は多いですからね。この箱庭ならもっとやりたい放題ですよ』


 うわぁ、神って本当にろくでもない。


『では、取り敢えず冒険者登録をしてしまいましょう。と、言ってもこれを渡すだけなんですけどね』


 そう言ってティリスはドッグタグのような物を渡してくる。


『それが冒険者の証です。私の力が込められていますから、死なない限り戻るように念じれば、無くしても手元に戻って来ます』


 更にこれ自体が身分証にもなリ、警備の厳重な都市等に入る際にも役立つらしい。


『後、冒険者のクラスが変わる毎に更新して色等も変わります』


 へぇー、身分証になるのは便利だな色々知られたくないし。


『後の機能は、報酬等で稼いだお金もこの中に入れる事が出来ます。この世界のお金は嵩張りますからね。勿論お金をタグから取り出せるのは自分だけですが、本人が死亡した場合は誰でも取り出せるようになります』


 ふむふむ。死蔵しなくてもする訳だ。


『え~と、後は、ハクアさんがパーティーを他の二人と組む場合は、タグの裏面を合わせる事でパーティーを組み、全体でお金の管理も出来ます』


 お金を持ち歩かなくても良いのはうれしいな。パーティー組むと何かあるの?


『通常の経験値なら一緒に戦えば貰えますが、依頼は受注の段階でパーティーを組まないと、達成しても報告した一人だけの手柄になって仕舞います。なので、ハクアさんが他の二人と一緒にランクを上げていきたいなら、パーティーを組んでおいた方が良いですよ』


 そっか、色々教えてくれてありがと。


『ついでに私の力を多めに入れて、私からの信頼厚い人だって事にしますか? そうすればどんな都市でも人の領域ならほぼフリーパスで入れますよ!!』


 そこまですると面倒に巻き込まれそうだから良いや。


『そ、そう……ですか……』


 気を使ってくれてありがとう。これからもよろしく。


『はっ、はい、それではまた』


 ティリスとの会話を終えて目を開けると、手の平に先程のドッグタグが有った。


「これで貴女は冒険者登録が終わりました。それでは続けてお二人も──」


 受付嬢がそう言って交響珠を渡してくるのでアクア、アリシアの順に登録を済ませる。


「やりましたね。ご主、あっ、ハクアさん!」


「ゴブ」


 アリシアは人前ではなるべく一人称で私を呼ぶらしい。余計なトラブルとかは避けたいからね。


「皆さんおめでとうございます!」


 エレオノが冒険者登録を済ませた私達に祝福の言葉を掛けてくれる。


「ありがと」


「ありがとうございます」


「ゴブ!」


「では続けて依頼達成の報酬をお受け取り下さい。今回の依頼の報酬は銀貨3枚です」


 あれっ? 多くない確か受注時は銅貨50だったような。


「額が多くないですか?」


 アリシアも同じ事を考えたようだ。


「確かに今回の依頼の報酬は銅貨50枚でしたが、こちらの不手際で敵勢力と依頼の難易度が違ったので、適正の報酬額になっています」


 まぁ、確かに数が四倍だもんな。


「それでこちらが魔石の買い取りの値段です。ゴブリン六匹、ゴブリンソルジャー一匹、ゴブリンナイト一匹で銀貨2枚銅貨55枚です」


 ほう。適正なのかな?


 〈大体適正ですね。ギルドは平均の金額で買い取りますから〉


 なるほど、高値で売りたければ自分で販路を確保しなきゃって事か。


「すべて合わせた合計の金額が銀貨5枚、銅貨55枚ですよろしいですか?」


「はい。大丈夫です」


「では報酬をお支払いいたします。タグをこちらへ」


「すこしまって」


 私はタグを渡す前に、全員とパーティー登録を済ませてから受付嬢にタグを渡す。すると受付嬢はタグをまた別の台座の上に乗せ、何やら出てきた数字を操作する──。


「今タグに報酬を入金しましたご確認下さい」


 とか言われても分かんないんだけど。


 〈合ってます〉


「だいじょうぶ」


 ヘルさんのフォローで無事お金を受け取る。


 長かった。と言うか長すぎじゃない!? 普通の異世界物の小説とかだったら二話か三話位でここまでこれるよ!?


 私は世の理不尽を嘆きながら冒険者ギルドを後にした。


「エレオノいっしょにごはんたべよ」


「えっ、良いんですか? でも、私お金が……」


「ハクアさんが言うなら気にしなくても大丈夫ですよ」


「えと、それじゃあお言葉に甘えて、その、ありがとうございます。まだ一人で家に帰るのは怖くて」


 エレオノを誘い私達は宿へと向かう。


「アリシアさんはもうレベル10なんですよね?」


「そうですけど?」


「クラスはなににするのか決めたんですか?」


「う~ん、正直どんなクラスがあるのかも分からなくて、後でハクアさんと考えようと思ってました」


「あっ、そうだったんですか」


「うん。あとでかんがえるからエレオノもてつだってもらっていい?」


「えっ、私なんかが考えて良いんですか?」


「ええ、私からもお願いします」


「はい。わかりました」


 そんな話をしていると宿に辿り着く。


「おかえりなさい。おや? ギルド長の所の娘さんじゃないかい?」


「どうもお久しぶりです」


「おかねはらうから、このこのぶんのしょくじもおねがい」


「あいよ銅貨5枚だよ。大丈夫かい? それと、あんた達に客が来てるよ」


 客? 私は女将さんにお金を払いながら考える。すると──。


「貴女達無事だったのね」


「ミランダ? レイドも?」


 何でこんな所に?

 

「ギルドで貴女達がいきなり依頼を受けたって聞いて心配してたのよ。その後、貴女達が行ったらしい方向から凄く大きな音も聞こえたし」


 あぁ、ボルケーノの音ここまで響いたのか?


「こんな所に迄聞こえていたなんて!?」


「ゴ、ゴブ」


「ちょうどいいや。はい、おかね」


 私はレイド達から借りていたお金を還す。


「無理するな。Gランクの報酬とゴブリン二匹じゃ大した金にならなかったろう?」


 そう言ったレイドに私達は今日の事を話す。


「と、言う訳で返しても銀貨5枚銅貨70枚あります」


 そう言ってアリシアが締め括る。


「そう、貴女も大変だったわね」


 ミランダがエレオノに言う。当初は話すつもりは無かったけど、エレオノが自ら話し始めたので私達は止めなかった。


「いえ、私は皆さんに助けて貰えたので」


「しかし、最近は依頼の難易度が違う事が多いようだな」


「そうなの?」


「ああ俺たちが受けたのもそれのせいでもあるしな。ここに居る冒険者も何度か同じ目にあったようだ」


 なるほど、私達だけでなく他の冒険者も──か。


「はいよ。お待たせ」


 そう言って女将さんが料理を運んで来たので私達は話を中断して料理を食べるのだった。


 うん、豪華ではないけど美味しかったよ。

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