第221話聞いては居たが……マジか……

「「ウオォォォ!」」


 カークスとジャック。二人がスキル【|咆哮(ハウル)】を使いマハドルを引き付ける。


【咆哮】は騎士の職業を取得した状態で大盾を装備し使用する事で取得出来るスキルだ。

 この効果は絶大で、相手は少しの間使用した人間に敵愾心を抱き積極的に狙って来る様になる。一種の催眠や精神操作の様な効果が在る。


 大勢の部隊で攻撃を交代する時にこれほど便利な技もない。


「アイスエッジ!」


 私はそれに合わせ攻撃部隊と防御部隊がスイッチするのを援護するように【氷の女王】を使い、巨大な氷柱を地面から天へと刺の様に出現させ、今まさに【咆哮】の効果で二人に向かい方向を変えようとしていたマハドルの片足を地面へと縫い付ける。


 方向転換の途中に足を縫い付けられたマハドルはその巨大な体躯をドゴォォォ! と、地面が揺れる様な音を立てながら転倒し四つん這いになる。


「今じゃ放て!」


 クーの号令の元、魔法部隊が火系統の魔法でマハドルを強襲する。数十人規模の単一魔法は途中で混じり合い一つの巨大な火球となってドガァァア! と、実に盛大な爆音を響かせながらマハドルに炸裂した。


「ゴォガァァア!」


 顔面に魔法を食らったマハドルは咆哮上げながら顔を上げ膝立ちになる。


「行け!」


 私のその指示にコロ、メル、フーリィーが中心となり攻撃へと移ったフープの兵と共に武技を放つ。しかし……。


「グオォァォァア!」


 マハドルが咆哮を上げると【結界】が現れ硬質な音共に武技が防がれてしまった。


 クソ! またか!


 そう、今は既に三番手のフープに攻撃役が切り替わった。だが、私が予想していたよりも攻略は遅々として進まない。


 それがこの【結界】と回復の存在だ。


 現れる条件が不明。防げる攻撃も不明なこの【結界】は、今の様に咆哮を上げ出現する時もあれば、何の予備動作も無く私達の攻撃を防ぐ時もある。直ぐに消える時も在れば、中々消えない時も在るのだ。


 更に厄介なのがあの【結界】その時に何が防がれるのかが全く分からない。物理、魔法の両方を防ぐ時も在れば、物理攻撃のみを防ぐ時、魔法攻撃のみの時も在る。

 かと思えば物理攻撃でも通る物と通らない物が在ったり、攻撃を反射させる物まで在ったりと、とにかくデタラメで滅茶苦茶だ。それに加えて回復などされては進まないのは当たり前言える。そんな訳で【結界】を解明しない事には攻略がはかどらない。


 コイツ自身が攻撃に移る時だけは【結界】が無い事が分かっているのでそこを狙っているが、それだけでは攻略出来ないのも確かだ。


 私は内心で舌打ちしながら通常攻撃に移るフープの兵を見る。取り敢えず今は物理攻撃が通っているようだ。


「ミオ、このままじゃダメージ与えてる気がしないけど、防御部隊を減らして攻撃した方が良く無いかな?」

「いや、それはまだだな。今の所奴は大したアクションを起こしていないにも関わらず、兵の疲労は少なくない。今はまだ良いがあの状態でスキルまで使い始めたら一気に瓦解する可能性も在るぞ」

「確かにミオ様の言う通りですね。正直あのランダムな効果の【結界】を何とかしない事には……」


 私達はフープの戦いを見ながら分析を続けるがやはり芳しく無い。


 そんな私達の目の前では今も必死にフープの兵がマハドルの攻撃を避けている。攻撃部隊を遠近攻撃に分けた事でわりと上手く行っている様だ。

 今は防御部隊に回っている両クランも、攻撃部隊の息継ぎのタイミングに合わせ一斉に攻撃を加え合間を埋めているし、盾を持った防御部隊も二つ在る事で良い感じに働いている。


 今も膝立ちになるマハドルの振り下ろす拳の攻撃の余波を盾で防ぐ部隊と、その攻撃で手傷を負った者を救出する人間が、回復部隊の居る所まで運んで居るのが見える。

 アクア達護衛を連れた辻ヒール部隊も良い感じに回って居るようだ。


 しかし、怪我をしては治され前線に送られるのを視ると結構なブラック具合だな。だがそのお陰で今の所死傷者は出ていないのが幸いか。


 その時、私は背筋に冷たい物が走るのを感じ走り出すと同時に上を見上げる。するとそこには口許に黒い球体のエネルギーの様な物を溜めているマハドルが見えた。それはアニメで見た事がある光線やらビームやらのチャージする光景に酷似していた。


「防御部隊構えろ!」


 私は叫ぶと同時に地面に手を突き巨大な氷柱を足元に作り出し、私自身を持ち上げ一気に上へと上がっていく。


 しかし私が胸の辺りに近付いた辺りで遂に黒球から、黒い本流となって極太のビームが放たれる。


 私は勢いそのままに更に跳躍する力を加え、口からビームを放つマハドルの下顎に向かい【氷の女王】で作った二振りの【氷魔剣】を使い。双剣技【クロスブレイク】を放つ。


 武技として放たれた私の攻撃は、システムの力に後押しされる形で威力、速度が上がり下顎をかち上げる様に十字の斬激を叩き込む。


 ついでに言えば私の【氷魔剣】は、切った物を凍らせる事も可能だし、温度差を利用した指向性の在る疑似爆発を起こす事も可能だ。今回はこの疑似爆発を叩き込む時に発動して、剣が砕け散ると同時に上に向かって爆発する様に調整した。


 そのかいあってかマハドルの顔は衝撃に耐え兼ね上を向く。下を向きながら射ったビームは私の攻撃で、下から上へと全てを切り裂く様に黒い本流が薙いで行く。


 なっ! 雲が割れただと!? 何て威力だ。


 マハドルのビームは空を切り裂き上空の雲をも切り裂いてようやく収まる。私は落下しながら下の様子をチラリと確認する。そこには消し炭の様になっている者が数人。怪我をしている者を含めれば数十人規模の被害が出ていた。


 それを確認しながらマハドルの腹部に向けて、大きめの氷柱を何本も叩き込むが【結界】に阻まれ届かない。だが、私が着地すると同時にクーの合図で放たれた、風属性の魔法が【結界】をすり抜け、マハドルの腹部で暴風となって突き刺さる。


「グオォオオ!」


 ダメージに吠えているのかと思いきや、何時の間にかマハドルの八本の腕に人間大の黒球が握られていた。私が気が付いた時には既にそれは放たれる所だった。


 クッ! 防御を──。


 私も大技の連発で動くまでにタイムラグが出来る。


 しかしその攻撃は何故か私を狙わずに上を通りすぎる。


 誰を──と、思い振り向くと黒球は治療の為に走り回っているアクア達を狙っていた。手前の方に居た回復役は一緒に付いて回っていた護衛役と近くの防御部隊が数人係で防御するが、何人かは護衛だけでは堪えきれず爆発に飲み込まれる。


 アクア達の回周りには防御部隊が居ない。エレオノはアクアを庇う様に前に出てバックラーを体の前に構える。更にエレオノの前にはアクアが【結界】を張っている。


 そして、その影から飛び出す人間が一人。


 二人の後ろから飛び出した瑠璃は黒球に向かい走り寄り両手を黒球に向ける。そしてそのまま黒球を【結界】で包み込み、その勢いを更に上げる様にその場で回転しながらマハドルに向かって投げ返した。


 聞いては居たが……マジか……。


 瑠璃の投げ返した黒球は圧縮でもされたのか二回り程小さくなっている。更によくよく見れば黒球の中で水の様な物が、物凄い勢いで円を描く様に回転しているようにも見える。


 ドガァアァァア!


 マハドルに当たる黒球の威力は、明らかにマハドルが放った物よりも威力が高い。しかも私の推測通り圧縮だけでは無く、水の属性まで追加していた様で爆発と同時に水滴が吹き飛んで来る。


 これだから天才はで。


 白亜も大概だが、事、戦闘と言う事になれば瑠璃のセンスには私自身嫉妬を覚える程だ。


 デタラメにも程がある。だが、やはりコイツらが居るだけで頼もしい。


 私は目の前で平然と絶技と言える様な業をこなす親友を見ながら、もう一人の親友を思い気持ちを奮い立たせる。


 確かに私の命が掛かっている。だが、それ以上にここで食い止めなければ何人死ぬか分からんからな。


 私は何とかマハドルの足を地面毎凍らせながら次の一手を考えるのだった。

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