第468話火葬されるところだった

 問題です。


 前にはダンジョンの入口、後ろには優雅に紅茶を嗜むドラゴン達がいます。

 そんな中、たった三コマでダンジョンに突入させられそうになっている私は、どうやってここから逃げ出せば良いでしょう?


 諦める。

 従う。

 観念する。


 おかしい。

 コマンドにどうしても逃げるが出てこない。

 諦めてはいけない。だって諦めたらそこで試合終了らしいから。


 そんな訳でとりあえず交渉に挑む。


「あのー、ダンジョンってソロで潜る所じゃないんだよ?」


「うふふ大丈夫よ。ここの里では普通だから」


「私、ドラゴンじゃないし」


「ハクアちゃんは立派なドラゴンの系譜に連なる者よ。おばあちゃんが保証してあげる」


「えっと、でもね?」


「ハクアちゃん」


「はい?」


「さっさと行きなさい」


「イエスマム!」


 無理でした……。


 おばあちゃんの奥を見ればトリスとテアを除く全員が、私に向かい憐れむ視線を向けている。

 しかし助ける気はないようだ。


 シーナとムニとミコトの三人には、報復として目の前で菓子を食べてやる。渡してなるものか……。


 それでも諦めきれない私は一つだけ気になっていた事を聞く。


「最後に一つ聞きたいのだが、それ誰?」


 そう。私が指さす先には、トリスの横に見覚えのない少年が座っている。

 赤い短髪に生意気そうな顔、恐らくは私よりも年上なのだろうが、その見た目はミコトと同じく中学生ぐらいにしか見えない。

 しかも今は一心不乱にテアの用意したお菓子を食べて、頬袋をパンパンにしている最中だ。


 興味なかったし、たった三コマでここまで連れてこられたから、今までツッコミを入れる暇がなかったが、せめて時間を引き伸ばすためにツッコませていただこう。


「ああ、紹介がまだだったな。この子は妾の弟のレリウスだ。どうだ? 賢そうな顔をしているだろう。実際レリウスは賢いぞ」


 紹介を受けたレリウスは、食べるのを止めて一礼するとまた食べ始めた。

 どうやら私──と、いうよりも元女神、龍王、龍神の娘の三人に対して緊張しているみたいだ。

 今は美味しいお菓子を一心不乱に食べる事で、緊張を悟らせないよう努力している。そんな印象だ。


 まあ、トップ連中だしなぁ。しかしそれよりも──。


「おいなんだその顔は」


「いや別に。お腹ぺっこりキャラの次はブラコンキャラとか、ここに来てからブレブレだな。とか思ってないよ?」


「ああそうか。言っている意味はわからんが馬鹿にされた事はわかった。ダンジョンに挑まずとも消し炭にしてやる」


 やばい本気だ!


「行ってきマース!」


 目が据わり、オーラを体から立ち昇らせているトリスから逃げるようにダンジョンに突入した私だった。


 因みに、放たれたブレスにより髪が少し焦げました。


 マジ危ねー。ダンジョン入ってすぐに階段がなければ火葬されるところだった。相変わらず冗談の通じないやつめ。


 そんな慌てて降りた私の視界の先には、真っ暗で何も見えない闇が広がっている。

【暗視】のスキルでも見えないとは中々だ。


 うーむ。マンガなら真っ黒な描写で手抜きと怒られそうな光景。


 益体もない事を思いながら一本道を突き進むと、高めの天井に一体のモンスターがぶら下がっている。


 形的にはコウモリっぽいな。


 先手必勝という事で鍾乳石を根元から取り、思いっきり投げ付ける。

 すると投げ付けられたコウモリは、気が付いた時には既に逃げさる事が出来ずに、呆気なく鍾乳石が突き刺さって絶命した。


 あれ? 案外あっさりと。


 近付いた私は灯りを付けて獲物を観察する。因みに灯りはどんなに光量を上げても、1メートルくらい先は闇そのものに光を奪われるようだ。


 見た目はコウモリ。ただしその大きさは人間大の大きさだ。調べてみると名前もありきたりなジャイアントバットという名前だった。

 どうやら暗闇に適応して視力は完全になく、目は退化している。その代わり通常のコウモリよりも耳は大きく進化して、より遠くの音を拾えるようになっているようだ。


 残念なのは私の索敵範囲よりも、聴覚領域が狭い事だろう。

 恐らくは普通のコウモリと同じように、音と気配、そして熱や魔力の反応によって、相手を先に見つけるのが最大の強み。

 それなのに私の方が先に見つけてしまった為に起きた悲劇。


 なんかごめんね。


 サックリとスキルで処理した私は、灯りを消して再び歩く。そんな私の行く先には、大きなホールが待ち構えている。

 気配を探ると同じジャイアントバットが五十体と、ミニバットとでも呼ぶような、小さいコウモリが数えるのも馬鹿らしくほど天井ビッシリと張り付いている。


 さっきの一体は見張り役だったのか。


 あいつが侵入者を見つける事で、奥から更に増援が来る予定だったのだろう。


 多分このフロアは見えない敵への対処が課題なんだろうなぁ。

 私は索敵が得意だから、真っ暗で何も見えなくても大丈夫なんだけど……。


 製作者の意図から外れてるとか文句言われそうだなぁ。なんて事を考えながらホール前の入り口まで来た。

 中に居るコウモリ達の気配は私に気が付いている、このフロアの引き返せない距離、半ばまで行けば一斉に襲ってくる事だろう。


 でも──ちゃんと相手するとか面倒だなぁ。まあしょうがないよね。


 誰に向けた言い訳なのか。そんな事を思いながら入り口に防音結界を張る。


 そして腕だけ中に入れると──


「そーれ。爆音拍手」


 パンッと結界の向こう側で手を叩く。もちろん私に音は聞こえないが、気配から察するに結果は大成功のようだ。


 結界を解除してホールに踏み込み、ホールを満たすように明かりを作る。どうやら頑張って魔力を込めれば広げられるようだ。


 まあ、成果と対価が釣り合ってないから私は真っ暗でいいけど……。


 すると灯りに照らされたホールの中には、見渡す限り一面にコウモリが落ちていた。

 何体かは生きているようだが、そのほとんどは既に死亡している。どうやら小さい方はHPが少なく、大きい方は落ちた衝撃で死んだようだ。


 うむ、完璧。


 私がやったのは風魔法で拍手の音を増幅しただけ。

 しかし、音を頼りにするコウモリ達に、爆音はやはり効き目が抜群だったようだ。


 風魔法で死体を集めるついでに、生き残っている小さいコウモリのHPも削って無事制圧完了。


 スキルを使って処理をすると、牙や羽根の素材、ジャイアントからは肉も確保出来た。

 そして更には【吸血】のスキルもゲット出来た。


【吸血】

 相手の血を吸う事でHPを奪う事が出来る。

 噛み付き系のスキルにHP吸収効果。

 HP吸収効果のあるスキルを更に強化出来る。


 血を吸わないと効果がないと思いきや、噛み付き系のスキルでも効果を発揮し、更にはHP吸収効果を底上げ出来るいいスキルだった。


 効果を確認した私はその足で地下二階へ。


 すると今度はジャングルのような密林が現れた。


 次は密林かぁ……よし、燃やそう。


 水魔法で密林全体から水分を奪う。

 次に大量に油を取り出し適当に中身をぶちまけ、火を付けて、適当に風を吹かせる。すると一気に炎は燃え上がった。

 そして更に風を全体へと行き渡るように調整しながら、じっくりと全体に火を付けていく。


「よし、OKだね。さて、飯でも食って待ってるか」


 一仕事終えた私はさっきの肉を取り出す。


 見た目は少しカエルの肉に似ている。

 筋が多くて筋肉が硬い。これは焼くよりも煮たりした方がいいかもしれない。


 土魔法で手早くかまどを作り、燃え盛る木を適当に切ってかまどに放り込む。

 そして自作の圧力鍋に油を引いて、ブツ切りにした肉を入れ焼くと、予め火を通しておいた野菜を投入、更に香辛料で味を整え赤ワインと水を入れて煮込む。

 素晴らしいのは【解体】のスキルで取った肉は、完全な形で血抜きが出来ている為、アクが出ない事だろう。

 そのまま煮込み続け、良い感じになったところでデミグラスソースとトマトケチャップを入れ、野菜が柔らかくなればビーフシチューモドキの完成である。


 途中何体か火の付いた猪がこっちに来たが、それはステーキにして既に処理済みだ。


 まさか食材が直接来るとは思わなかった。


「さて、頂きます」


 ビーフシチューモドキのコウモリ肉は鶏肉に近い噛みごたえだった。しかし口に入れるとホロホロと崩れる肉はデミグラスソースとの相性が抜群だ。

 元々肉自体の味が薄いのだろう。デミグラスソースに香辛料、更に野菜の味が染み込む事で、肉の食感を感じさせながら野菜を食べている不思議な感覚になる。


 まあ、とりあえず美味しいのでOKって事で。


 こうして、燃え盛る密林を大きなキャンプファイヤー感覚で見ながら、ゆったりと椅子に座り独りキャンプ飯気分で食事を続けるのだった。

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