第395話むしろ凶悪ってギャー!?

 さて、修行も三日目に突入した。


 三日前から何も食べてないし、恐らくこの森で最強のアラクネさんが居るから、モンスターも寄って来ないしで、中断するタイミングも無くなっていく。やっぱり続行。


 お腹は減ったけど耐えられない程ではないのだ。


 三日目の修行内容は遂に服作りとなった。


 モンスターなのになんで人間用の服とか作れるんだろうね?


 上半身は人間形態だからまだ分かる。けどなんでそんなパンツとかスカートも作れるの?

 なんだと!? 品質を変えてデニムのジーパンだと!? つ、次はサルエルパンツ!? ジャージまで作れる……だと!?


 ふふん。と胸を張ってドヤっているアラクネ師匠。


 師匠……あんたすげーよ。自力でジャージに辿り着くとか天才かよ。

 でもそうかぁ、作れるんだよね。

 この蜘蛛糸のスキルは使いこなせば、性質や品質、糸の成分配合量を変えれば天然繊維と化学繊維両方を作る事が出来る。

 その気になれば綿も麻とかでも作れるのだ。

 実際には違う物だけど、要は成分の配合と繊維の細さなどで限りなく近付けたり超えたりは出来る。


 だから高級品の絹。シルクとかも作れるんだよ。蚕などという虫には私のプライドに賭けて負けない。絶対にだ。

 実際それでクッションとかも作ったし。高く売れましたよ。


 化学繊維に関しても【暗殺術】の中にある薬物系のスキルに、毒系統スキルも合わせれば少し面倒だが出来なくはない。


 だが実際、出来ると分かっていても目の前でこうやって、色々な布として完成され、製品にされると改めて、そうかぁ、こんなのも出来るんだっけか。と、思い知らされる。


 私もまだまだだな。


 その後もチノパン、カーゴ、ショートパンツにバミューダパンツ、カプリにサブリナパンツ、スキニー、テーパード、ワイドパンツ、ガウチョ、バギーと、様々なパンツを作るのを見ながら必死に覚え、作っては駄目だしされるのを繰り返し、精査して製作する。


 スカートはスカートでミニやミディ、ミモレ丈、マキシスカートにロングスカートの丈違いの物から、フレア、ギャザー、プリーツ、ペンシル、コクーン、ペプラム、チュールなんかのデザイン違いのも作っていく。


 ヒダや形がひたすら面倒……。

 でも手を抜くと速攻でバレて叩かれる。理不尽也。


 それが一通り終われば今度は更にトップスだ。

 Tシャツ、ワイシャツ、ブラウス、ポロシャツ、カットソー、チュニック、タンクトップにキャミソール、チューブトップ、スウェット、パーカー。


 もうね。なんでそんな作れるのさ!?

 サルエルパンツっぽいのなら、獣人が履いてるのに似てたから分かるよ。スカートだって丈違いだし、デザインも頑張れば出来るだろう。

 でもさっき作ったジャージとかに関しては、もうこっちの知識無いと駄目だよね!? ワイシャツとかブラウスも絶対作れないよね!?

 もしかして転生者なの? んな訳ないか……って、頷いてる!? マジで転生者なの!?


「えっ、じゃあマジなの?」


「キガツイタラコウナッテタ」


 そこから始まるアラクネ師匠の自分語り。

 それでも製作は止まらない。止めてくれない。

 ガシガシ作って次々に作品を仕上げて行く。

 もちろん駄目出しも体罰っぽくされる。


 現代っ子に体罰は駄目なんだよ? 教育委員会が出て来ちゃうよ。


 異世界だから出て来ないと更に激しくなった。


 何故だ? 解せぬ。教育委員会も異世界召喚して! でもやっぱりうるさそうだからいいや。


 集中して、集中して何気に【智慧】さんもガシガシ働いて、編み方から作り方まで解析している。


 手元の作業が疎かになっても、会話を聴き逃しても、チョップやデコピンやゲンコツが飛んでくる。

 しかも無駄にステータス高いから避けられない。そしてステータスに差があるからかなり痛い。


 理不尽ここに極まれり!! あっ、すいません。真面目に聞きます。真面目にやります。

 しかし同郷なら師匠にとか持ち上げなくても良かったかな。って、すいませんなんでもないです!?

 ところでそれどうやって作ったの!? えっ? 糸を硬質化して固めて作ったハンマー? 中は柔らかい糸を綿状に作ってクッション性もあるから、死ぬ程痛くてもHPはそんなに減らない素敵仕様?

 いや、全然素敵じゃないし。むしろ凶悪ってギャー!?


「何遊んでるんだ?」


 ちょっとふざけていたら、何も聞く前に澪達が帰ってきた。


 そもそも出掛けてた事に気が付かなかった。と、言うかわりと本気で痛かったのに遊んでるとか失礼な。


 そこからはあらまし、アラクネ師匠が転生者だと伝えると澪達も参加して話を聞く事になった。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 アラクネ師匠の元の世界での名前は水島 縫華ぬいかと言う名前だったらしい。

 趣味はコスプレ、仕事はパタンナーと、正に異世界でアラクネになってもおかしくないポテンシャルの持ち主。


 因みにパタンナーとは、ファッションデザイナーのイメージしたデザイン画を元に、アパレル・ファッション分野の型紙を作る事を専門とする仕事だ。


 パタンナーとしてデザイナーが興したデザイン画を元に、様々な技法、素材、あらゆる組み合わせを調べ、整え、実現し、ファッションショーで見るような奇抜な服から、実用的な普段使いの服まで作り。

 レイヤーとしてアニメや漫画のキャラが着る日常、非日常の様々な衣装、時にはビキニアーマーまで作って来た強者だったのだ。


 転生する前の女神との邂逅はあまり覚えていないらしいが、それはアベルも同じだと言っていた事から、どうやら私の方が特殊らしい。


 この世界に転生した当初、この森で生まれたアラクネ師匠は蜘蛛型のモンスターだったのだそうだ。


 聞けばステータス平均は200程と、私よりもかなり恵まれた境遇だ。


 親となるモンスターは居ない。それどころかモンスターとして生まれたパニックで森をさ迷っている時に、この森の縄張り争いに巻き込まれたのだそうだ。

 弱く、小さい蜘蛛だった師匠は身を隠しなんとか逃げ延びた。

 そして偶然にも最も激しく森の覇権を争う時代に生まれた事で、相打ちになる場面に多く出会した師匠は、幸か不幸かどちらかに流れる筈だった経験値を結果的に横から掠め取り、進化を繰り返していったのだそうだ。


 曰く、この森の覇権は何年かに一度拮抗する種族が生まれ、互いが滅びるまで戦う事があるのだとか。


 つまり、この森に居る筈の無いレベルのモンスターである師匠は、この森の全モンスターの経験値というリソースを、何度かはほぼ全て手中に納めてここまで強くなっているらしい。


 何それ狡い。


 ステータスが安全圏にまで到達してからは、積極的にハグれた個体を狩る事で戦闘経験も確りと積んだそうだ。


 森のモンスターを倒してウン十年、知らない内にレベルマックスにはなってないけど、アラクネですが元は蜘蛛でしたけど何か? とか逆ギレされそうな人生……蜘蛛生だった。


 因みにバイオレンスな訳ではなくて、久々に人と話せたのが嬉しくて、地味にテンション上がってただけらしい。

 そして仕事的にも趣味的にも妥協は許せず、私の飲み込みも予想以上だったから、プライドが刺激され厳しかったんだって。


 いやいや、ゆとりは大事。


「んで、これからもここに居るの?」


「イクトコロハナイ」


「……それがなんとかなるって言ったら?」


「デモ、ワタシハモンスター」


「気にするな。こいつもモンスターだからな」


「そうですね。ハーちゃんもハーちゃんの仲間もモンスター多いですからね」


「イイノ? コンナダケド?」


 アラクネ師匠は自分の今の身体を見回して遠慮がちに言う。


「確かに、この姿となると多少難しいものはあるな」


「でも、それくらいの事ならどうせなんとかなるんですよね?」


「ふっふっふ。その通り。って!? どうせって酷くない!? あっ、はい。続けます。実はガダルのダンジョンでこんな物もGETしてたんだよね」


 アイテム【変化の腕輪】


 種別:腕防具


 性能:スキル【変化】


 効果:MPを消費して姿を変える事が出来る。


 説明:装備した者は姿を変えるスキル【変化】が使えるようになる。


「おお、これはまたベタな装備を……」


「確かに漫画とかではよくありますね」


「ふふん。そうだろそうだろ。私も一瞬テンション上がったんだよね。でも皆人の姿だし使い道無いって思って話にも出さなかったけど、まさかここでフラグを回収するとはね」


「イイノ?」


「条件は二つ。一応私と契約して眷属になる事、そしてこれからも色々と教えてよ」


「ワタシツヨイ。タタカワナクテモイイノ?」


「戦いたいならそれも良い。無闇矢鱈に人とか襲わなければね。でも、戦いたくないならべつに良いよ」


「……」


「まっ、信用しろとは言わないよ。出来れば危ない時とかは助けて欲しいってのが本音だけどね」


「最後まで締まらないなお前は……」


「ハーちゃんらしいですけどね」


「シャラップ親友共! で、どうする?」


「シンヨウ……スル」


「じゃ、契約だ」


 こうして私達は契約を結び縫華が新たな仲間になった。


「コレ、ツケルダケデイイノ?」


「うん。それを着けて人の姿をイメージしながら魔力を流せばオーケー」


「ワカッタ」


 変化の腕輪を私から受け取り身に付けた縫華が意識を集中する。

 すると身体を魔力が包み込み、煙が上がると共にその姿が次第に変わっていく。

 そして、煙が晴れるとその中から人の姿になった縫華が姿を現し「ヨロシク」と、惚れ惚れとする笑顔で言ったのだった。

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