第394話これがアラクネの才能か……!?
集中する。
集中する。
この世界は何よりもイメージが重要だ。
同じ事をやるにしても、明確なイメージが有るのと無いのとでは、全ての結果に違いが生まれる。
魔法ならば威力、MP効率。
武技ならば身体に掛かる負担すら違ってくる。
そしてそれはスキルも同じ。
ただ漠然と使うだけでは本当の意味で使いこなしているとは言えない。
そう。だからこそ私は今ここで【鋼鉄蜘蛛糸生成】を深く理解する為に、アラクネ師匠に習う必要があるのだ!
アリシアや瑠璃達にちょっと際どい高性能の衣装を作る為に!! 無駄に高性能なら断られまい!
バキッ!
って、ギャァァー!? 痛い、殴られた。
ステータスの差を考えて欲しい。中級レベルの子には小突くだけでもダメージデカいの。
「あっ、はい。真面目にやります。ごめんなさい」
私の師匠になる奴は何故、手が出やすいのだろう。もしかして私、いじめられっ子気質なんだろうか? うんうん。私か弱い鬼っ子だからな。
あっ、すいません。集中集中。
体内で魔力をゆっくりと練り上げる。
ゆっくり、ゆっくり丁寧に、じっくりコトコト煮込んだ魔力。
深く、潜るように集中を高める。
集中を高めれば周りの音は無くなっていく。
イメージはこよりのように、魔力をよりあわせ細く、長く、鋭く、ひたすら紡ぎ伸ばしてゆく。
そこに加えるのは糸の素。
それを加え、更にキメ細やかに糸として生成していく。
アラクネ師匠に習って知ったのは、蜘蛛糸は魔力糸と同じ物だったのだ。
と、言ってもなんのこっちゃと言う感じだろう。実際、澪達もそれを聞いた時は疑問符を浮かべていた。
魔力糸とは人形使いや一部の暗殺者が使う技の事だ。
一般的な使い方としては、自分の魔力を糸にして相手に繋げ、その糸を通して魔力を流し、相手を動かしたりする。
暗殺者などは、トラップや感知用の罠などに使うのが一般的だ。
中には糸の強度を上げまくり、武器として使う暗殺者もいる。
簡単に言えば輪切りですな。
このように様々な用途として使用出来る魔力糸だが、もちろん問題もある。
その問題というのが、体得するのが滅茶苦茶難しいという事だ。
魔力を常に均一に保ち、ずっと消費し続ける。弱過ぎれば効果が無く、強過ぎれば消費が激しい。
更に自分から離れれば離れる程、効果は加速度的に落ちていき、維持する為に使う魔力は反比例して増えていく。
つまり、自分の周囲でしか最大パフォーマンスが発揮出来ず、罠を張っても自分がその場に居なければ、ほとんど効果が無いという……。
それが魔力糸なのだ。
ここで本題に戻るが、蜘蛛糸とは魔力糸に糸の素となる物質を混ぜ、固形化した物の事を言うらしい。
そして正確に言うと【蜘蛛糸生成】は、その糸の素を体内で作り出すスキルなのだそうだ。
うん。どおりで私も蜘蛛糸が作れる訳だよ。
糸を作って出す器官も無いのにどうやってるのかと思ったら、正しくは身体の中から出てるんじゃ無くて、魔力を身体の表面へと出力して、糸として出す時に作り出されているのだそうだ。
よーく見たらその通りだったよ。
だから? と、言う感じではあるが、こういう些細な事がスキルを理解する事に繋がるのだから侮れない。異世界版ウィキペディアをそろそろ実装するべきだと思う。
澪と瑠璃達の姿は今この場には無い。恐らくアベル達の方にでも行ったのだろう。
全く気にしてないからわからんけど。
バキッ!
痛い。また殴られた。
集中しないと直ぐに攻撃が飛んでくるから大変だ。
集中して、解析して、理解して糸を紡いでは作り出す。
その度にアラクネは糸を手に取り首を横に振って投げ捨てる。
うん。ダメなのは良いけどいちいち捨てなくても良いんじゃないかな? 細い糸なのに下で山のようになってるんだよ?
その後も糸を作り続けた私は、月明かりから太陽に変わる日の出頃、ようやく合格を貰えた。
見事厳しい試験を乗り越えて生成した私の糸は、教わる前と後では見違える程の品質の違い、キメ細やさと強靭さが備わっていた。
満足。
二日目
精神的な疲労から来る睡眠の目覚めはとても衝撃的なものだった。
本当に文字通り叩き起されたんだよ。こうバキッ! とね。
そんな訳で修行二日目突入です。
うん。まだまだ続くんだよ? だってまだ糸の作り方しか教わってないし。糸が作れるだけじゃ布は今までと変わらないんだよ。まあ、試しに作ったら今のよりも性能良かったけど……すげえな。
因みに、私の染色技術を教えたら喜んでいた。
持ちつ持たれつのウィン・ウィンの関係じゃないとね。
さて、二日目の修行は布作りでござる。
アラクネの布の編目は独特だ。
地球で幾つか見た事ある技法を使いながらも、蜘蛛の糸という特殊な素材を使用した、オリジナルの織り方も混ざっている。
これは完全に経験から来るものなのだろう。その技術の細部に試行錯誤の努力の跡が見える気がする。
言葉は無い。
いや、実は一回あったけど……。
叩き起されて直ぐ一番最初に、アラクネは一回織り方を見せる為に布を作った。
その時に。
「ヤレ」
「いやいや、見て出来たら苦労しないんだよ?」
「ヤレ」
「えぇ……(困惑)」
「殺ル」
「えー……(諦め)」
と、こんな会話だけあった。
いや、これは会話では無かったかも知れない。
でもわりと誰でもこんな感じだから会話であってる気もする。あれ? ちょっと目から汁が……。
作る度に捨てられ、目の前で見本を見せられる。それを真似て私がまた作るの繰り返しだ。
私が作ってはアラクネが見て、アラクネが作っては私が観る。
うん。なんか地味に【智慧】さんが勝手に動いてフォローしてくれてる気がするんだけど、この人パッシブスキルじゃなかった筈なんだけどなぁ? なんで勝手に動いちゃってるのかなぁ? 制御出来てるとか出来てないとかって問題じゃないよね? まさか意思があるのでは……まさかねぇ?
それでもフォローしてくれるのならば、まあ良いだろう。良いんだよね? 多分良いと思う。うん。大丈夫かな?
AIが反逆する映画を思い出したけど、なんの関係もないな。うん。
【智慧】さんのフォローも有り、回を増す毎に情報が集積され、私の中でスキルとして集束して、布の完成度は上がっていく。
なるほど……こうなってたのか。
ふむふむ。これとこれを合わせるとこうなるのね。
あー、だから私のはダメだったのか。
これはこうすればもっと簡単に……あっ、ごめんなさい。調子乗りました。えっ? OK? でもなんでサムズアップしてるの? 魔物の中でも同じ意味なの?
どうやらOKらしい。真顔でサムズアップして手元をじっと見て、自分の織り方に速攻で組み込んでいる。
これがアラクネの才能か……!?
その後も様々な技法を教わり、ステッチなんかも教わっていく。
なんで魔物がステッチ出来るんだろう?
でも、装備の性能上げる為の弟子入りだったけど楽しくなってきたんだよ。
【暴喰】の中にある【過食】のスキルのお陰で、食べなくても大丈夫だし私、意外と生産職向きなのかも知れない。
そんな事を考えながら、こうして私は二日目も食事の時間も忘れて布作りに熱中するのだった。
「アイツ……確実にアベル達の事忘れてるだろ」
「多分、もう忘れてますね」
あ……。わ、忘れてなんかないんだからね!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます