第265話永眠しちゃう……

「さてハクちゃんそろそろ起きよっか?」

「グヘッ! 止めて永眠しちゃう……」


 いつものように気絶した私は、これまたいつものように鞘を鳩尾に突き刺され無理矢理起こされる。


 酷いよ! 乙女にあるまじき声が出ましたよ!?


「大丈夫ハクちゃん乙女じゃないし。誰もハクちゃんに乙女は期待してないよ。もう……皆諦めたんだよ」

「人の心読んだ上に酷い事言わないで! てか、え? ……諦められてんの?」


 衝撃の事実がここに……。


「むしろ諦められてないとでも思ってたの?」


 そんな馬鹿な! と考えて即座に自分自身で乙女はないなと切り捨てる。


 うん。乙女ではないよね。


「さて、それじゃあ良い時間だし最後に雷天の練習をしようか?」

「ふぁ~い」


 ソウの言った雷天とは、このところの訓練で私が最後に練習してる型の名前だ。


 これは過去この世界に広まり現在では使う者が少ない流派のもので火天、水天、土天、風天そして雷天と幻の六つからなる流派だ。


 火天は力を主軸とした技を主とする型。


 水天は技の変化を主軸とした技を主とする型。


 土天はカウンターを主軸とした技を主とする型。


 風天は速さを主軸とした技を主とする型。


 そして、この四つを修めた者が使うのが全てを内包した雷天の型、この五つで自然流と言うらしい。


 因みに幻の型は全ての型に通じる歩方の事だ。


 そしてお気付きの人も居るだろうが、私達が使う水転流とはこれのアレンジだったのだ。


 そして私と瑠璃がこの世界で会ってから何度か話し合い、澪とも相談した上でテア達に尋ねた事なのだが、私達の師匠にして瑠璃の祖母 水転流師範 巡 朝霞はこの世界の人間またはこの世界に来た事があるのではないか。という事を尋ねてみた。


 結果としてはやはり私達の予想通り師匠は若い頃に一度この世界に召喚されたらしい。


 召喚された師匠は若くして水転流を極めていた。そんな師匠は当時この世界に根付いていた自然流を学び、システムのお陰もあり魔力や気のコントロールを出来るようになった。


 まあ、師匠の時は魔力と気はいっしょくただったけど基本的には使い方変わらんしね。師匠なら楽勝で出来るか。


 なんやかんやで地球に戻った師匠は水転流に自然流をミックスして新たに作り上げたのだそうだ。


 それと同時に地球人はこの世界にいつ何時呼び出されるかわからない。それを知った師匠は当時一部の者しか知らなかった気の存在を大々的にばらす事で、この世界に呼ばれたり迷い込んだりしても何とか生き残れるように世界に気の存在を広めたり、扱える人間を増やしたりしたのだそうだ。


 まさかそんな壮大なバックストーリーがあったとは驚きだよね。


 因みに師匠に教わった刀については割と自然流の流用が多いそうだ。


 師匠~! あんた自分のオリジナル言ってたやん! 自然流だけに自然にパクるとか上手くないからな!? あの人ならドヤッと言いそうだ。これには師匠を知る皆が同意した。流石ですわ~。


 因みに師匠を知らないメンバーからは似た者師弟と言われた。解せん。


 そんな事を思い出しながらも集中して雷天の型を身体に刻む私。足の運び、呼吸、一つ一つの筋肉や細胞の動きまでつぶさに把握し、自分の理想とするイメージに近付けていく。


 幾つもの型を流れるように淀みなく、なぞるだけではなく、振るうだけでなく、意味を目的を考え、感じ、ただ繰り返す。


「そこまで」


 ソウの言葉に動きを止めれば、まだ高かった筈の太陽はもうすぐ沈みそうだった。


「はぁ、やっと終わった」

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」


 う~い。と、返事をしながら帰り支度を始め私達はフープへと帰っていった。


 戦いが終わった当初、今までの不安を忘れようとするかの如くお祭り騒ぎだった街は、流石にこれ程時間が経てば落ち着きを取り戻していた。


 とはいえ、自画自賛にはなるが私がアリスベル~フープ間の敷設工事を行い道路を作った事で、互いの町の交流は活発になり特に商人は以前の倍以上訪れるようになったらしい。


 その為街の雰囲気は以前よりもかなり活気があるのだ。とアイギスが語っていた。


 フープに辿り着いた私達二人は、城に帰る途中の露店で買い食いしつつ歩いていた。すると前の方から三人の女性グループが私に向かって走ってくる。


「ハクアさ~ん!」

「ん? おう。調子はどう?」

「はい! お陰さまで順調です!」


 私に声を掛けて来た女性達。私に話し掛けて来た赤髪ショートがマト、緑色の髪の眼鏡がパッセ、紫色の髪のロングでお嬢様チックなのがスーナだ。


 この三人は私の作った土魔法建設の社員だ。と、言っても土魔法建設は私を含め四人なのだが。


 この三人、実は以前私の事を襲い返り討ちにあったのだ。しかし私は彼女達の事情を聞き逆にスカウトした。


 まあ、触りを言うと彼女達は全員魔法職で得意属性が土属性という事で色々と苦労したのだそうだ。


 しかも彼女達は見た目が良い。

 そんな訳で嵌められ、貶められ、裏切られ、利用された挙げ句彼女達は借金を背負わさた。そして、追い詰められギルドで高そうな装備を着けているにも拘わらず見た目弱そうだった私を襲ったとの事だ。


 結果は返り討ちだけどね。


 その後、私が彼女達の借金を肩代わりする為ギルドに行くと、彼女達を陥れた冒険者達がニタニタと嗤いながら近付いて戯れ言を吐いてきたので、私の必殺技【ホームのサラリーマンスイング】を炸裂させ新たな性を与えてあげた。


 まあ、その後個人的に襲われたけど最終的には土下座して「どうかこのお金を受け取って下さい」と頼み込んで来たから快く頂いた。


 そこから彼女達には土魔法の特訓を受けて貰いながら、クーのスキルによるスケルトンとの戦闘もこなして貰った。その間、私はというと自身の訓練と彼女達の指導を行いながら土地を用意した。


 この土地は私の私財からお金を出して買っているが、何故かお金を使う時にエルザに相談して許可が出ないと使えなかった。


 何故だろう? 私のお金の筈なのに……。


 しかも最近では一応エルザが奴隷で私が主人の筈なのだが、立場が逆転している気がするのだよ。解せん。


 まあ、そんな感じにある程度目処が立った所で、私は昼間大勢の人がいる前でデモンストレーションとして、買い取った土地に土魔法建設の事務所というか会社を三人で建てさせた。


 結果は上々、目の前で本来ならあり得ないスピードで出来上がっていく建物を街の人間は驚きながら見ていた。特にそれを見ていた商人連中は興味深く観察していた。


 そして出来上がった建物に見物人を招き入れ見学させながら雨漏りや、壁の補修を格安、最速で行うと宣伝した。


 最初から全部作るとなると大変だし今はまだ珍しいだけで信用が足りない。だから取り敢えず最初は簡単な補修から信用を積み上げる事にしたのだ。


 まあ、この街は貴族以外は建物が石造りの四角い感じの建物が多いから構造自体は簡単だし、その内実力が付いてきたら一から造るのも請け負うけど。


 壁の補修にしても雨漏りにしても大体の相場を調べその半分で請け負う事にした。


 オープン記念で半額でという事になっているが、注文が多いからこのままで。と、いう形にするつもりだ。

 今後は修繕だけでなく、増改築や家を建てる事、私が行った敷設工事も国から請け負う予定なので簡単な物は半額程で安く、家を建てる等の事は相場よりも少し安くしつつ、特急料金等も上乗せしていけば良い。


 何せ元手はタダだからね。やればやった分だけ儲かるし。


 そんな訳で今彼女達は大忙しだと嬉しそうに笑って話してくれた。


「ハクアさんに肩代わりして貰った借金もそろそろ返せそうです」

「もう? あんま無理すんなよ。軌道に乗って余裕出てからで良いからね?」

「はい。じゃあ今日はこの辺でまた今度御飯食べましょうね!」

「うん。常に練習は忘れないようにね」


 わかってます。と元気に答えた彼女達は会釈して歩いていった。


 うん。前と違って自然に笑えてるようで良かったよ。


 その後も歩いていると、たまに読み書き計算を教えている生意気なガキがバカにしてきたり、強面の男がビジネスマンのようにお辞儀してきたり、悪どそうな商人がお礼を言ってきたり、出店のおっちゃんに新しい料理の感想を聞かれたりしながら城へと歩いていた。


「ハクちゃん人気者だね」

「そう?」

「うん。心さん達も喜んでたよ。楽しそうだって」


 確かにそうかも知れない。向こうは向こうで楽しかったけどね。


 そんな他愛ない話をしながら城に帰った私達は、互いに口元に付いたソースのせいで間食がばれ、夕飯の前に正座で説教を受けるのだった。


 次はちゃんと口元を確認してから帰ろう。


 〈買い食いを止めるという判断ではないんですね〉

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