第264話何か記念品プリーズ

「ハッ!」


 ガキンッ!


 金属同士の硬質な音が何度となく響き、幾度も打ち合わさり剣戟の音が重なる。


「くっ!」

「ほらハクちゃん視野が狭い。動きを独立させないで常に考えて一つの動作を次に繋げて」


 上段からの唐竹割りをするかに見えたソウの一撃に距離を詰め対応しようとする私。しかしその動きに合わせ膝蹴りが容赦なく腹部に突き刺さる。


 その一撃に堪らず身を引く私に、今度は本当に上段からの一撃が降り注ぐ。その一撃をなんとか刀で受け流そうとするが、振り下ろす力を受け流そうとした瞬間、刀はギャリンッ! と、金属の擦れる音を立てながら弓の弦のように引かれる。


 やば! アレが来る。


 それを認識した瞬間、私は後ろに下がる事は無理だと悟り咄嗟に防御を試みる。


 しかしソウが放つその代名詞とも呼べる三段突きは、私やエレオノが武技として放つ三段突きとはレベルが違った。


 何せ【思考加速】を用いて攻撃を把握している私の目にさえ、ほぼ同時攻撃としか思えない三つの切っ先が見えるのだ。


 私達が使う武技の三段突きは、あくまでも一度当ててから武器を引き再度当てるというもの。決してこんな少しの速度の差しか無い三点同時攻撃では決してない。


 だが、私とてこの一週間ただ単に負けていた訳ではない。私は加速する思考の中自分の動きをもどかしく感じながら、私の居る空間を削り取ろうとするかの如く迫るソウの攻撃を迎え撃つ。


 一撃目は刀の柄で打ち落とす、二撃目は下ろした刀の刃を向かって来る刀に沿わせ受け流す、そして三撃目は頭を思い切り横に傾けなんとか回避する。


 やった!


「流石だね。でも、惜しかったね?」


 その言葉が耳に入った瞬間、傾けた私の額に何かががぶち当たり私を盛大に吹き飛ばた。


 何が起こった? と、思うがそれは吹き飛びながら見たソウの姿で理解する。


 ソウは私が三撃目を回避すると同時にその勢いのまま一歩踏み込み、刀を持つ手を捻り私の額を刀の柄で打ち抜いたのだ。吹き飛びながらそれを確認した私の意識はそこで途切れたのだった。


 ソウと咲葉が来てから一週間、私の訓練は午前中人の居ないこの訓練場所までのランニング、午後からは日が沈む直前までソウとの一対一の模擬戦を繰り返し、最後に技の練習をしていた。


 まあ、大体名前から予想予想出来た事だがソウは私の予想通り沖田総司その人だった。


 そしてその強さも私では手も足も出ないレベルだ。

 なんせこの一週間まともに攻撃を入れられたのはたったの十数回程度、その間私は何度も突かれ、何度も斬られ、何度も吹き飛ばされ、何度も気絶を繰り返し、その度に「オワタ」とか「詰んだ」とか「絶対死ぬ」とか思っていた。

 しかも「ハクちゃん起きて?」と、気絶した私の腹に鞘をグサッ! と突き刺し無理矢理起こすのだ。


 正に鬼の所業。種族としては鬼は私の方だが。


 しかも本人が言っていた通り女神の攻撃は人には通らない。というか詳しく聞いたところによると、女神は世界のシステムに干渉する力を持つ代わりにその世界の人間には干渉出来なくなり、邪神は人間に干渉出来る代わりにシステムには干渉出来ず、その世界の人間に滅ぼされてしまう程格も落ちてしまうらしい。


 そしてテア達のように一度他の世界に渡り戻って来た女神は、システムに介入する事も出来ず今のように訓練するにも、専用の魔法陣の中以外では相手を弾き飛ばす事も出来ないのだそうだ。


 しかも自分に敵意を持つ人間が相手だと吹き飛ばす事すら出来なくなる。


 感覚的に言うとRPGとかのモブキャラ達の歩きを阻害出来ない感じだね。


 そんな訳で傷の残らない訓練をしている訳なのだが痛みはある。と、いうかスゲー痛い。


 突き刺されば傷や血は出ないけど相応の痛みがある。しかも痛いだけで傷とかは無いからずっと戦えてしまう。これもうなんて地獄? ただの無限ループだよね!?


 皆は戦闘訓練以外に魔法の訓練や勉強もしているらしいが私は基礎中の基礎しか教わっていない。


 その理由がまた酷く。下手に私に教えると、知らない間に変な魔法を開発したりイタズラするから。だそうだ。


 何故私にこんなに信用が無いのか? こんなにも清く正しく生きているというのに。解せん。


 まあ、教わっているのは主に魔法というよりも魔力制御に関してらしく、その一点においては何故か私は驚くほど制御出来ているので必要ない。とも言われたが、理由のほとんどが前者だと思うのは私の被害妄想だろうか? 多分違うんだろうなぁ……。


 因みに魔法の基礎とは詠唱についてと魔法陣に付いて、それから魔法の種類についてだ。


 大体は私の予想通りではあったのだが最後の魔法の種類については完全に初耳で、私は本当に何も知らずに魔法を使っていたんだ。と、改めて考えさせられるものだった。


 魔法は基本的な属性として【火、風、水、土、光、闇】の六種類がある。


 その中でも特に光と闇は貴重で使い手が少ないのだそうだ。


 そして普通の人間はこの中の一属性しか使えない者が多いらしく、二つも使えれば魔法使いを目指すべきだ。と、言われる程のレベルらしい。


 アリシアの凄さが改めて分かったよ。


 因みにその他の特殊な魔法は水属性を覚える者は治療系、光属性は浄化と回復等の魔法を覚える事が多く。風属性は援護系、闇属性は特殊な効果の魔法、阻害系や空間魔法、影魔法を覚えたりするそうだ。


 火属性は基本属性以外の魔法と相性があまり良くなく覚える者は少ないらしい。


 しかし転生者には人気らしいのがまたなんとも……。


 そして土属性に適性がある魔法使いは通常の魔法使いに比べ防御力が高く、どんなものであれ防御系の魔法を覚え易いのだとか。


 後は【結界】も得意らしいよ?


 まあ、これくらいしか恩恵無いから土魔法使いはバカにされたりハブられたりする事が多いらしい。


 いつか土属性の地位を向上させてやる。


 そしてその基本属性の熟練度が上がっていくと派生の魔法も覚える。例えば水属性なら氷魔法、土属性なら鉄等を作ったりも出来る。


 更に複数の属性を使えると複合系統の魔法も覚え易くなる。風、火属性だと爆炎魔法とか光、火属性だと雷魔法とかという具合だ。


 ここで分かったと思うが、火属性の基本属性との相性が良いと言うのは正にこれがあるからだ。


 複合系統の魔法は火属性を覚えていると覚え易い事から、パーティーに火力を求める人間達には、土魔法と同じ立場でありながら火属性が求められるのが現状なのだ。


 口惜しい。土魔法の方が良いのに。解せん。もっと頑張れよ転生者! 皆して火力重視の火力馬鹿になりやがって。私は土魔法を盛り上げてやるからな!!


 これが基本の基本とこの世界の考え方らしい。


 でもまあ、ぶっちゃけテア達はまだ何か隠してる気がするのは気のせいだろうか?


 更に魔法には階級というものもあるそうだ。


 初級、中級、上級、王級、王帝級、神魔級となっている。


 火属性で言えば。火、火炎、猛炎、豪炎、極炎、獄炎となっている。王帝級にもなると城一つ落とせるレベルらしいので流石に【無詠唱】は使えないと言っていた。


 既に上級に達しているアリシアさんの才能マジパネェっす。


 因みに、マハドルとの戦いで【精霊融合】した状態のアリシアが出したあの魔法は威力だけなら王帝級らしい。威力だけならというのは王帝級としては効果範囲が狭いのだそうだ。


 あのでかくなったマハドルにアレだけのダメージ与えてたのに、アレで範囲が狭いとか神魔級はどれ程なのか。

 うん。ぜひそんな攻撃してくる相手とは知り合いになりたくないね。仲間になるなら大歓迎だけどな!

 ついでに言えば私のオリジナル蒼爆は上級レベルだそうだ。


 他にも魔法は威力や範囲を上げると消費するMPが上がるが、逆に細かく威力も小さい魔法も相応にMPを消費するらしい。


 この事から魔法は適正の威力大きさが一番魔力効率が良く、上下どちらに振れても効率は途端に悪くなるようだ。


 何故か? と聞いたらそういうものだ。と言われてしまったので勝手に『画用紙に絵や模様を描けと言われれば出来るけど、壁一面や米粒に描くには集中力を使い疲れる』みたいな感じだと理解しておく。


 この言葉は言い得て妙だと思ったがテアと心には頭を抱えられたソウは爆笑してたけど。解せん。


 そして先ほど言った特殊な系統の魔法。


 これは系統外魔法と言うらしい。主に回復系の魔法や援護系、影魔法や空間魔法がここに入る。


 さてそんな中、前にも話したが治癒魔法を使えるアクアはやっぱりかなり凄いようだ。なんでも身体の外傷を治す治療魔法も回復魔法も両方使える人間ですら少ないのだとか。


 そもそもがどちらか一方なら割りと使う事が出来る人間は多くいる。だけどそれが実戦レベルかと言われるとそうでもないのだ。


 治療魔法なら単純な骨折を五分程で、回復魔法なら最も回復出来る魔法で三千はHPを回復出来ないと話にならないのだ。


 確かに病院とかなら骨折を三十分掛けて治すんで良いけど戦闘中だとね。


 骨折を三分、上限回復を五千も出来れば治療魔法使い、回復魔法使いとしては引っ張りだこになる。そんな中我らがアクアは骨折を一分、現在使える最高の回復値はなんと一万、しかも希少な治癒魔法が使えスキルの効果で欠損部位の回復まで行えるのだ。


 そりゃ神の使いとか呼ばれるよね? ファンクラブも出来るわ。

 

 しかも私のスキルで物理攻撃を下げ回復特化にした事で最近では更に回復魔法使いとして腕が上がっていて、テアの魔力コントロール指導で離れた所に居る人間や複数人も一気に回復出来るようになってきたとの事だ。


 アクア様の進化が留まる所を知らない。おかしい。一応姉妹なのに才能の差がでかすぎる。解せん。いつか見下されないかとヒヤヒヤものだ。


 まあ、そんな事を皆は試しながら魔力コントロールを身に付けている最中なのだそうだ。これが出来ない事には次のステップに行けないらしい。


 私の地獄の時間を減らす為、皆はよ!


 因みにこの訓練にはエルザとミルリルも参加している。


 魔法の適性はエルザが火属性と風属性の二つ。ミルリルは土属性と光属性、風属性の三つだとか。


 特にミルリルはこれからの頑張り次第では更に属性も増やせるかも知れないらしく、意外にも三人の中で一番戦闘センスがあるようで、本人の意向もありテアが戦闘メイドとして育てている。


 私としてはそんな危ない事はしなくても良いんだけどね? 本人がやる気ならしょうがない。まあ、自衛手段があるのは良い事だからね。


 その他にも組手も行っていてそっちの方にはミミも参加している。


 三人とも筋は良いらしくミミも自衛を学ぶ為に教わっている。そんなミミは三人の中で一番掃除や料理等普通のメイドとしての技能が高いので、テアとしてもそこを伸ばしているようだ。


 エルザは戦闘も家事も高水準でこなすが、何よりも元商人の娘としての才能は書類仕事や情報整理に向いており、そこを伸ばしつつ筆頭メイドとして育てるとテアは言っていた。


 うん。とある女神のメイド愛が強くて戦闘訓練よりも熱が入ってるよね。これ。いまは心と咲葉も向こうに居るから良いけど。


 逆に言えば咲葉とソウが来て余裕が出来たのも原因なのだからままならん。


 まあ、そんな感じでこの一週間は過ぎていた。


 ついでに私が気絶したのはこの一週間で丁度50回でした。

 何か記念品プリーズ?

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