第263話それは地獄が続くと言うのでは?

 牢屋に入れられた翌朝、自室のベット・・・・・・で目覚めた私は自身の欲求に従い食堂に朝御飯を食べに行く。


「おはよ~」

「って、居た~!! ハクア、貴女今まで何処に居たの!?」


 食堂に入るなりいきなりアイギスに詰め寄られた私は素直に「えっ? 自分の部屋だけど」と答えると、その答えを聞いたアイギスは、ヘナヘナと力無く座り込む。


 怒ったりヘタレたり情緒不安定か?


 そんなアイギスを何故か皆が慰めつつ励ましている。しかも何かこっち見て呆れながら。


 私何かしたか? 覚えが全く無いのだが?


「もぉ~。何なのよ! 昨日の夜は牢屋に送って部屋に帰ったらすぐに、牢番から白い少女の牢に突然巨大な繭が出現しました。とか報告来るし。どうせ中に居ると思って放っておいたのに、朝確認させたら中身は空で、しかも本人はなに食わぬ顔でご飯食べに来るし」


 ああ、そういやそんなイベントもあったね。つまりアイギスがこうなってるのは私のせい?


「で、どうやって出たのよ!? 鍵は掛かってたし何処も壊れてなかったしぃ!」


 アイギスが私の胸ぐらを掴みながら若干涙目で睨んで来るので、私はアイギスに答えるべく昨日の夜用意した、胸に付けた小学生がしているような名札を指で指してアイギスに見せる。


【岩窟王】


 漢字で書かれたそれを見たアイギスの目から涙が引っ込み、おもむろに名札に手を伸ばすとブチッと千切り、そのまま床に思い切り叩き付けヒステリックに踏みつけている。


「ふむ。ストレスか」

「いや、原因お前だからな」


 なんと!?


「小道具まで作っておちょくって! 結局どうやって脱獄したのよ!」

「単純に針金でこう~、ちょちょっと?」

「そんな……」


 あれ? フーリィーはなんでそんな愕然としてるの?


「うちの牢【解錠】スキル持ちの冒険者に監修させたはずなのですが……」

「へ~。大した事無いねそのスキル。地球の鍵に比べれば片手間レベルだったよ? ちゃんと留守中に入られないように鍵掛けたけど全部合わせて五分掛かってないし」


 あっ、完璧に崩れ落ちて床叩いてる。分かる。分かるよその気持ち! 私もこの世界来てからも同じ事何回もやったから。才能の差とか、境遇の差とか、展開のぶっ飛び方に。


「そういえばハーちゃん前に錠前開けにはまって、テアさんと世界中の鍵集めてましたっけ」

「あれはなかなか面白い体験でした。針金一本で開ける技術から、鍵の複製、金庫破りまでありとあらゆる鍵を開けて遊びましたからね」


 うんうん。と頷いて居ると澪がアイギスに「アレに真面目に向かっていくと疲れるぞ」とか言っている。


 失礼な奴め!


「ハクちゃんは異世界だろうがなんだろうがいつも通りだね。安心したよ」

「おわっ! 聡子何処から湧いた!?」


 ガバッと後ろから抱き付かれた私は、驚きの声を上げながら抱き付いて来た人物を見る。


 するとそこに居たのは昨日心が来ると言っていた聡子だった。


「私の事は前みたいにソウでいいよ。クロちゃんとハクちゃんにだけ許してる呼び方なんだから。それに私も咲葉さんもハクちゃんよりも前にここに居たよ」

「あっ、本当だ咲葉も居る」

「久しぶり白亜。その失礼な言い方本当に変わらないわね? でも元気そうで安心した」


 この椅子に座っているライダースーツを着たプロポーション抜群の美女が須賀すが 咲葉さくはだ。


 確か設定は25歳だったよね? まあ、女神らしいから今となっては自称25だろうけど。


 髪は足元まで届く超ロングで角度によって紫色っぽく見える黒髪、切れ長の目に知性を思わせる面差しは如何にも完璧です! な感じの美女だが、その実戦闘と書類仕事以外は壊滅的な残念美女のポンコツである。


 掃除をしては何かを壊し、洗濯しては泡を溢れさせるハイスペックなポンコツ。塵取りでいつまでもゴミが残り後ろに下がり続けるタイプなのだ。


「……今何か失礼な事思わなかった?」

「思ってないよポンコツとしか」

「思ってるじゃないの!?」

「取り敢えず、私が昔、出来る女はライダースーツを着ているものだよ。って、言葉を真に受けてずっと着用しているのはポンコツだと思う」


 まあ、引くほど似合ってるから誰も訂正しないんだけど。


「えっ? 嘘だったの!? だって昔色んな証拠を見せてくれたじゃない」


 あ~。確かに見せたね? 海外映画のイッポッシブル系やらハザード系やらの戦う美女系、それから某怪盗の三世に出て来る美人怪盗とか。


 真実を知りショックを受けている咲葉を放置して私は未だに抱き付いているもう一人の人物を見る。


 地球の女の子が着ている様なパーカーにTシャツ、ミニスカート姿のこの女がおき 聡子さとこ自称20歳だ。


 赤っぽく見える茶髪で長さはセミボブ、人懐っこい感じで笑う小動物っぽい印象の人だ。顔はどちらかといえば童顔で可愛い系である。


 名前に関しては最初私が聡子と言う名前をそうこ。と間違えて読んだ事から私と姉だけがさとこではなくソウと呼んでいた。


 因みに設定上テアは咲葉と同じ25歳、心は3つ下の22歳の設定だった。コイツら一体幾つなのだろう?


 そんなソウは私の顔をジ~と見ながら何故かニンマリしていた。


「他人の顔みてどうしたん?」

「ううん。ただ嬉しかっただけ。私達が女神なんて非常識の塊みたいなものだってバレても、ハクちゃん達の態度が変わらなかったから」

「自分で非常識の塊とか言う!? そもそもソウはソウでしょ? 女神だろうが人だろうが変わんないよ」

「うんうん。そんな事を簡単に言っちゃうのがハクちゃんだよね。それに……さ。ハクちゃんが死んじゃってどうして良いか分からなかったけど、こっちの世界で元気だったのが嬉しくて。それに、ハクちゃんがこうやって大勢の人の前でも普通に話せてるのも凄く嬉しいんだよ?」


 そう言ったソウは私に抱き付きながら周りの私の仲間をぐるッと見て。


「一度死んでしまったけどこうやって沢山の友達や仲間がハクちゃんに出来て、ハクちゃんが昔みたいに自分の主張をハッキリ喋っている。それがとても嬉しいんだよ」

「ソウ。えっと、その……」


 思いがけないソウの思いに言葉を詰まらせながら、私は素直に謝罪と礼を言おうとする。


「うん。本当に嬉しい……あの、家庭菜園荒らされて二度と荒らされないようにトラップやダミーを仕掛けまくって、この地図が無くなったら私ですら脱出出来ないな。なんて言いながら地図を風に飛ばされて、……詰んだ。って、途方にくれて膝抱えながら遠い目をしていたハクちゃんにこんなに友達出来るなんて」

「ちょっとまて! なんでいきなり私の恥部を暴露した!? やめてよねそんなわりと最近のネタ! てか、それ初めから見てたよね絶対! 詳しすぎるもん! 助けろよ! 三時間も放置するなよ!」

「途方にくれたハクちゃんが可愛くて。監視カメラ設置して喫茶店で眺めてたらあんな時間に……。しょうがないよね?」

「しょうがないよね? じゃないですよね!?」


 私が思わぬ暴露にツッコミをいれていると周りからの視線が突き刺さる。


 おふ、皆の視線が痛いよ。


「えっと、ご主人様は前からご主人様なんですね?」


 何その言い方!?


「ハクア、一回死んだくらいじゃ変わらかったんだね」


 やめて! そんな残念な物を見る目で見ないでエレオノ!


「マスターですからしょうがありません」


 酷くないかねヘルさんや! そしてなんで皆で頷くのさ!? 解せん。


「ププー、皆良く分かってるねハクちゃん。ワロス、プギャー」

「この野郎!」

「お前が自重しない結果だろうに」

「失礼な! 対戦車地雷はちょっとやり過ぎかな? とか思って自重したぞ! 折角テアとソウが取り寄せたのに」

「ちょっとじゃないからな!? 家庭菜園荒らしただけの奴にそんな物を使おうとするお前が怖いわ!」

「高かったのに残念です」

「本当だよね仕掛けちゃえば良かったのに」

「あのミオ、もしかして?」

「ああ……、お前が思った通りだと思うぞアリシア。基本的にコイツらは白亜に対して甘い。その上で、咲葉は放置。テアと聡子は乗っかる上に助長させる。心だけは唯一止めるがそれでも止め切れない時がある」

「心は苦労性だからニァ~」

「このメンバーを唯一止める立場の私の苦労を、その一言で済ませないで欲しいな。何度、何度胃に穴が空くと思ったか! 地球で一番愛用した薬は胃薬だったんだぞ!」

「うんうん。頑張れ」

「君が一番の元凶だからな!?」


 解せん。こんなに大人しく生きているのに。


「さあさあ。早く朝御飯食べちゃおうハクちゃん。この後が控えてるんだから」

「あ、後? な、なんか嫌な予感しかせんのだが?」

「ふふん。向こうの世界では私はただの病弱な美少女だったからね」


 自分で言いますかそうですか。確かに見た目美少女だよ。


「ハクちゃんも長く動ける身体じゃなかったしね? でも、こっちの世界なら私もハクちゃんもちゃんと動けるもんね。だからさハクちゃん。今日からは午前に基礎トレしたら午後からは私と死合いだよ。沢山殺ろうね?」


 その瞬間、今まで抑えられていた猛烈な殺気が私に叩き付けられる。


「え~と。今の言葉なんか漢字違わなかった!? ルビですらなく普通に言ったよね!? 試合だよね! ただの試合なんだよね!?」

「そうそう死合いだよ。大丈夫、私も元女神だからこの世界の人は傷付けられないし。例えば刀で刺しても死ぬほど痛いだけで、傷も出来ないし死ななくて済むよ?」


 それは地獄が続くと言うのでは?


「楽しみだねハクちゃん。一度ハクちゃんとは本気で死合ってみたかったんだよね。私も一応過去に天才って呼ばれていたからね。その力でハクちゃんを引き上げてあげる」


 ノォ~。私死ぬかも! いや、死ねないで苦しむ? それなんて拷問?


「頑張れよ白亜」

「テメ、澪! 楽しそうだなこの野郎!」

「ふっ、まあな」


(あの二人本当に同じだよね?)

(ハーちゃんとみーちゃんは基本的に共食いするのが芸風ですから)

(女神様が稽古するなら安全なんですよね!? 大丈夫なんですよねご主人様?)


(((((さあ?)))))


「皆さんは私と心が面倒みますね」

「「「はい!」」」


 くっ! 私もあっちに混ざりたい! 何か危ない匂いしかしないんだよ!


「澪、何を笑ってるか知らないけれど貴女も鍛え直すから安心して良いわ。この世界での戦い方を身体に直接叩き込んで上げる」

「……マジか?」

「さあ。早くご飯食べて食べて、死合う時間が少なくなっちゃう」

「そうね。時間は有限だもの」

「遺書でも書いとくかお互い?」

「ノォ~~」


 その日の朝食はユックリ良く噛んで食べました。まる。

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