第346話良いぞ。少しは楽しませろ

 上空への攻撃に対して澪が取った行動は、騎獣を消しての自由落下だった。


「ひっ!? きゃぁぁぁあ!」


 澪の突然の行動にアリシア達の悲鳴が響く。

 だが、澪はそんな事はお構い無しに何事も無かったかのように、全員へと指示を出していく。


「ヘル、アクアは上空を頼む。リコリス、リリーネは上空と地上を戦況に応じて頼む。エルザとミルリルは二人で組め、後は各自の判断に任せる!」


「ぬう。このレベル相手にエルザとミルリル二人だけでは心配じゃ。我とコロでフォローするのじゃ」


「頼む」


「みーちゃん。着きます。バーストゲイル!」


 残り数秒で地面へと激突する直前、瑠璃の放ったバーストゲイルが地面に放たれ、澪達を待ち構えていたモンスターを吹き飛ばすと同時に、上昇気流を生み出し落下速度を劇的に緩めた。

 その結果、全員がなんとか無事に着地する事に成功したが、そこはやはり人生経験の浅い女の子が多いメンバー。相当怖かったのか何人かが泣きそうな程の涙目である。


「……ミオ。何か言う事ありませんか?」


「無いな」


「言い切った!?」


「アリシアもエレオノも良く考えるのじゃ。ミオは主様の親友。常識を問うのが間違いじゃ!」


「おいこら失礼だぞクー。私をアレと一緒にするな。名誉毀損で訴えるぞ」


「「ミオの方が失礼じゃない!?」」


 戦場のど真ん中、モンスターに囲まれているにも拘わらずなんの気負いもなく話を続ける。

 だが、そんないつも通りのやり取りをしつつも、全員が何時襲われても良いように既に臨戦態勢だ。


「もー、後でご主人様も含めて説教ですからね! 説教ですからね!」


「あー、分かった。分かった。──ほら、来るぞ」


「適当に流して。絶対の絶対に説教しますからね!!」


 アリシアの言葉を適当に流した澪が全員に警戒を促すと、地面へと手を付け【氷蝕】を発動する。

 すると、澪の手が触れた場所から徐々に氷が大地を侵食し、今まさに澪達へと飛び掛かろうと包囲していた近くのモンスター達が、一瞬の間に氷の彫像となる。

 更にその後ろでは、全身とは行かなくても首から下や下半身、足首までを凍らされたモンスター達が、後続のモンスターの進路を阻む壁になっていた。


 なんの打ち合わせも無くそれを合図にし、全員がそれぞれにモンスターへと攻撃を仕掛ける為に散って行く。


(上出来だ)


 全員の息を合わせた行動に内心で満足しながら、自身もモンスターの群れの中へと飛び込んだ澪は「【氷柱よ穿て 串刺侯】」と、唱え【氷蝕】で凍らせた広大な範囲の大地から、氷柱を生やしモンスターを下から串刺しにして屠っていく。


 それにより足の止まる──止まってしまうモンスター達。


 そしてそのモンスター達の相手はその隙を見逃してくれる程優しくはない。


 自らが作った氷柱を駆け登り空中へと躍り出ると、その手にはいつの間にか氷で造られた双剣が握られ、周りには宙に何本もの槍が浮かんでいる。


「穿て」


 その一言でモンスターに向かってとてつもない速度で放たれる氷の槍。

 何本もの槍がモンスターを穿ちその命を蹂躙する。


 中には避けた者も居た。


 ──だが、氷の槍は地面へ刺さると、刺さった端から大地を氷らせ、避けた者の足を周りの物も含めて容赦無く凍らせていく。

 そして、その氷に気を取られた隙を突かれ、今度は澪の持つ双剣の攻撃で、落下の速度を利用した斬撃に両断されたのだった。


 ──一瞬。


 一瞬の間に数十体のモンスターを屠った澪は、着地した状態からゆっくりと立ち上がり静かに嗤う。


 そんな澪に恐れを振り払うように襲い掛かるモンスター達。


「良いぞ。少しは楽しませろ」


 口の端を上げ、ハクアと同じように嗤った澪はモンスター達へ踊り掛かった。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 澪の【氷蝕】と同時に空へと飛び立ったヘルとアクアは、空中で互いに別れると、それぞれにモンスターを引き連れて戦場を分けた。


 ヘルを狙い放たれる数々の攻撃。


 火球、鎌鼬、水弾、土塊、羽根や魔力砲、爪や牙の直接攻撃から体当たりまで、様々な物がヘルを大地へ突き落とさんと襲い掛かる。

 だが、そのいずれの攻撃もがヘルには掠る事すら出来ずにいる。


 ハクアすら知らぬ間に改造を施したフリーウイングは、今までの飛行機のスラスターのような物ではなく、鳥の翼のような銀の両翼へと姿を変えていた。

 無数に生える銀の羽根。その一枚一枚が小型のスラスターになっており、加速性、機動性が格段に強化された一品に仕上がっていた。

 そしてその銀翼によるヘルの飛翔は、正に自由の翼フリーウイングという名に相応しい縦横無尽な動きだった。


(アクアの方は──)


 攻撃を避けるヘルの視線の先、空中で別れたアクアもまた、進化した事で前よりも大きくなった翼の力を遺憾無く発揮し、襲い来る数々の攻撃を危なげ無く避けながら、戦闘を優位に進めていた。


 その手にはハクアがアリシアへと作って渡した弓と同じ物が収まっている。

 セラフィムボウとハクアによって名付けられたこの弓は、光魔法等の聖属性特化にする事でアクア専用にカスタムされている。

 その為、モンスターや魔族等、特に闇属性を持っている相手には効果が抜群で、アクアの魔法攻撃力でもその威力は、絶大な効果となってモンスターに発揮されていた。


 因みに当初の計画では弓ではなく銃の予定だったが、製作者の強い意向「天使と言ったら銃じゃなくて弓でしょ!!」との事で弓に変わったのだった。


 最近では空中戦も兼ねた弓の戦闘訓練として、ヘルとアクアの二人で訓練を多く積み重ねていた為にヘルは知っていた。

 アクアの弓から放たれる光魔法の矢は、魔力操作によって常時追尾が行われており、逃げる事はほぼ不可能。

 迎撃しても矢を落とすと眩い光となって目を焼き、空中に光の粉となって降るそれは、浄化の力を持っている為にモンスターにとっては、触れれば只では済まない領域へと変化するのだ。


 しかもハクアの作った弓の更に恐ろしい所は、魔法攻撃であるにも拘わらず、弓を使っている為に武技である弓技も扱える所だ。

 今もアクアは鳥や蝙蝠型のモンスターの攻撃を避けると同時に弓技【アローレイン】を放って攻撃している。

 しかし、本来気力によって分裂する弓矢は、更に魔力までも消費して光の矢を光の槍へと変化させ、空中だけでなく地上のモンスターまでも巻き込み襲い掛かっていた。


(あれなら大丈夫そうですね)


 そんなアクアを見て、自分の手助けは取り敢えず必要が無さそうだ。と、判断したヘルは自分へと襲い掛かるガーゴイルの群れを睥睨する。


 そこに居るのはかつてヘルとアクアの二人で掛りで、ようやく倒す事が出来たカーチスカによって強化さたガーゴイル。

 その時の個体に比べれば一回りは小さいが、それでも多少性能が劣る程しか違いの無いガーゴイルが、無数に飛び回りヘルを狙っている。


 ──だが、ヘルもあの時とは違っている。


「行きなさい」


 ヘルの言葉に従って、攻撃を避けるのに十分な量を残した銀の羽根が、無数の銀線を空中に描きながらガーゴイルへと襲い掛かる。


 フリーウイングは強化改造をする際に、ハクアの糸を素材にする事で新たに【破壊強化】というスキルを獲た。

 このスキルは破壊される度に破壊された物はより強化され、強靭になっていくスキルだ。

 そのスキルを獲たヘルは、羽根の制御訓練をしながらひたすらに羽根の強化を行った。


 ──そして今。その強化され強靭になった羽根の一枚一枚が、ヘルの演算領域で並列処理され群れとなってガーゴイルへと襲い掛かる。

 完璧に回避行動までも把握したヘルによる操作は、自ら飛び回り加速までする、鋭利な刃物となってガーゴイルを襲い蹂躙する。

 そしてその鋭利な刃物と化した羽根は、かつてはヘル達の攻撃の尽くを防いだ皮膚を、意図も簡単に切り裂きバラバラに分解する兵器となっていた。


 その悪夢のような斬撃から狙われたガーゴイルも、必死に逃げ回るが羽根一枚のスピードは、ガーゴイルのスピードを上回り切り刻む。


 もちろんその全てがガーゴイルを襲い、倒せた訳ではない。


 運良く逃れる事に成功したガーゴイルも存在したがその瞬間──。


「果てなさい」


 その言葉と共に背後から音も無く現れた銀翼の美しい死神の鎌に掛かり、何が起きたのか理解する暇も無く死んでいく。


 ハクアによって死神の鎌グリムリーパーと名付けられた鎌を振るいながら、羽根から運良く逃れられた──いや、ヘルの元へと誘導・・されたガーゴイルを切って捨てる。


(さて、こちらの方は大丈夫そうですが、他の皆さんも大丈夫でしょうか……)


 ダンジョンから新たに出て来たガーゴイルに、羽根を向かわせながら周囲の状況把握も努め、自身もガーゴイルの群れへ飛び込むヘルだった。

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