第347話ハクアに自慢出来るかな?

 カタカタと骨の擦れる音を響かせながら、無数のスケルトンがエレオノに迫る。

 人型、動物、モンスター様々な種類のスケルトン相手に時に盾で、時に剣で、時に体術を使い倒していく。


(うーん。これ、効いてるのかな?)


 スケルトン祭りの時と違い、砕けた骨も未だに動く気配を見せている為、エレオノは倒せているのかどうかの判断に迷いながらも戦い続けていた。


(そう言えば、スケルトンとかって聖職者の【浄化】とかに弱いんだよね? あれ、これってアクアの方が適任なんじゃ?)


 冒険者のような格好をしたスケルトンの攻撃を避けると、後ろからは大猿のモンスターだったスケルトンの叩き付けるような攻撃が襲ってくる。

 更には冒険者スケルトンも大猿の攻撃に合わせてエレオノを襲う。

 どちらに避けても攻撃を受けてしまうエレオノは、上に飛ぶ事で挟み撃ちの攻撃を避ける。

 しかし、そんなエレオノに向かい、大猿の背を踏み台に襲い掛かる犬型のスケルトン。


「──ッ!」


 間一髪その接近に気が付いたエレオノは、羽を出すと羽ばたき一つで身体を持ち上げ、犬型の上を取り地面へと叩き落とす。


(危なかったー)


 一安心した瞬間、異様な気配を感じその方向へバッ! と振り向くエレオノ。

 そこには他のスケルトンよりも小さいリスの様なスケルトンが居る。そして、その小さな身体の眼窩は確かに異様な赤い光を微かに放っていた。


(アレだ。アイツが核だ……)


 理屈は分からない。

 だけどそれを感覚で理解したエレオノは、上空から一気にリス型へと突撃した。

 しかし、そのエレオノとリス型の間の道を阻むように多数のスケルトンが押し寄せる。


「じゃ、まあぁぁぁ!!」


【闇纏】を全開で発動し、剣にも暗黒魔法を纏ったエレオノの全力の突進。

 その破壊力は意思の無いスケルトン如きが耐えられるものではない。

 道を阻むスケルトンを全て蹴散らし、リス型を捉えた瞬間「ギギィ!」と、リス型が鳴き声を上げる。


「うわっ!?」


 不可視の壁に阻まれたように、何かに激突したエレオノは突進の勢いが全て消える。そこを見計らったように群がるスケルトンを倒しながら、慌てて距離を取るといつの間にかリス型は、更に遠くへと逃げている。


(くっそー。もうちょっとだったんだけどな。でも、あれがあると分かってれば、次は破れそうな感じだった。よし!)


 エレオノが今の攻防を分析して行けそうだ。と判断を下して気合を入れてリス型を見る。


(あれ?)


 エレオノの視線の先、何故かリス型へと群がるスケルトン達。そんなスケルトン達がリス型を中心に、次々に折り重なって山のように積み上がる。

 そして──不意にドクンッ! と、大地そのものを鳴動させるような音が鳴り響く。


「あはは……これって……」


 単発の音だったそれは、周囲のスケルトンや、アリシアの戦っていたアンデッドも飲み込み、段々と速度を増し鼓動のようにドクンッ! ドクンッ! と、速くなる。


「エレオノ!」


 名を呼ぶ声に振り向くと、アリシアが此方に駆け寄りながらスケルトンだった物に魔法を放つ。

 攻撃が当たった瞬間、盛大な音と爆炎を振り撒きながら爆発する──だが、晴れた煙の向こうは全く無傷のようだった。


「これは……効いていませんね」


「うん。手応え無くて不思議だったけど、こういう仕掛けだったみたいだね」


「ですね。こちらも同じでしたけど、随分と意地の悪い仕掛けですね」


 二人の見る先では、倒されていないスケルトンとアンデッドが、今もまだどんどん吸収されて行っている。


「どうやら、道中に居るモンスターを倒せば、最終的なボスが弱くなる仕組みだったようですね。数が多く、そこまで強くなくとも数の多いモンスター。体力、魔力の温存を考えると避けたくなりますからね」


「あー。成程、そんな感じなのかぁ」


「……解ってたんじゃないんですか?」


「えっ!? あー、うん。解ってたよ。もちろんそうだと思ってたよ!」


「……」


「えへ?」


「はぁ、──ッ! エレオノ来ます!」


 会話をしながらも、連戦で失った体力回復に努めていた二人は、突然の攻撃にも素早く反応すると同時に避ける。

 そしてその眼前では、スケルトンで骨格と武器を形成し、ゾンビの腐肉で肉体を形作った死霊の巨人が、二人を襲った大剣を片手にのっそりと立ち上がる。


「うわ、おっきぃ……」


「ええ、一筋縄では行かなそうですね……」


 二人は目の前の巨人を見上げながらそんな感想を漏らす。

 見上げる程の身長は十二~三メートル程、腕の太さも足の太さもそれに見合う程に大きい。更には手に持つ大剣も同じ程の大きさがあった。


「今は全員強敵と交戦中です。アレとは私達二人だけで戦うしか無いみたいですね……。エレオノ?」


 戦況を確認したアリシアが呟くようにエレオノに告げる。

 しかし、エレオノはその言葉を聞いていないかのように巨人を見上げている。

 その事を不思議に思ったアリシアが、エレオノに問い掛けるがその目は真っ直ぐに、巨人を見上げるだけだった。

 そしてそんなエレオノがようやく口を開いた。


「ねえ、アリシア。アレを倒せたら……さ。ハクアに自慢出来るかな?」


 その言葉に一瞬驚きながらも、ニコリと笑う彼女にアリシアも笑って答える。


「ええ、そうですね。勝ってご主人様に自慢しましょう」


「うん」


 そう互いに答えた二人は倒すべき敵を見上げそして笑う。


 自分達が目指す目標に近付く為に──。


 そしてその目標の隣に立って戦う為に──。


 英雄としての、強者としての新たな一歩を踏み出す。


「「さあ、来い」」


 重なる二人の声を合図にしたかのように巨人が動き出す。


 振り下ろされる巨大な大剣の一撃が地面を割る。それを同時に左右に別れ、飛びながら回避する。


「我が呼び声に応えその力を我に与えよ! 強きもの! 燃え上がるもの! その真名はセクメト!」


 回避と同時に【精霊融合】を行うアリシアは、羽を使い飛び上がると巨人の頭上目掛けて弓技【流星雨・煉獄】を放つ。

【精霊融合】により、火属性効果の増したアリシアの放つ弓技は、その全てが煉獄の業火となって相手に襲い掛かる。


 放たれた矢は巨人の頭上で幾本にも別れ、その一つ一つの全てが、膨大な熱量を有する煉獄へと姿を変え頭上から降り注ぐ。


「グォァァオ!!」


 苦しげに呻く巨人。だが──。


(装甲が硬い。煉獄の業火でも焼き切れていない)


 アリシアが下した評価の通り巨人の身体は、表面こそ焼き焦げ炭化しているものの、内部までは焼き切れず大したダメージになっていなかった。


 だが、そんな物は想定の範囲内。


 アリシアの攻撃に紛れ低空飛行で接近したエレオノは【血鎧】で軽鎧を造り、【闇纏】を発動して巨人に近付く。


「ハアァァーー!」


 煉獄の雨が止むと同時に斬り込んだエレオノは、巨人の動きを抑えるべく踵の腱を狙う。

 回り込みながらの一撃は成功したかに見えた──。いや、実際に成功したが、その一撃で相手の行動力を削る結果は獲られなかった。


「再生した!? うぐっ!」


 腱は切った。


 だが、切ると同時に再生した足は、何事も無かったかのようにエレオノの事を蹴り飛ばし、アリシアの攻撃で炭化した身体も、炭が剥がれ落ちれば何事も無かったように再生している。


 蹴り飛ばしされる際に、剣を縦に自ら飛ぶ事でダメージを抑えたがそれでもダメージは深い。

 それでもエレオノは、何とか攻撃範囲外まで脱出する事に成功する。


「エレオノ!」


 近寄ってきたアリシアに大丈夫。と伝えると今の攻防を分析する。


「ダメージ……通ってなさそうだね」


「と、言うよりもあの見た目に騙されましたが、元は全て別個体の集合体。今は一つになっていますが、核となったモンスター以外は使い捨てなのかも知れませんね」


「再生って言うよりも、要らない部分を捨てて再構成って事?」


「はい」


「じゃあ、あの核のリス型ごと一気に倒せって事だね」


「そうなりますね」


 だが、事はそう簡単ではない。


 再構成の速さ、あの巨大な身体の質量を存分に使った攻撃力。そして何よりも単純な防御力が相手にはある。

 それらを掻い潜り、身体の奥底にまで入り込んだ、核へと届かせる攻撃力を出すには生半可ではないのだ。


 アリシアがその火力を用意する事は出来る。

 だが、その火力を出せる程の時間を稼ぐ為には、エレオノが一人であの巨人を相手に、足止めをしなければならないのだ。


 それが分かっているからこそアリシアには、どうしたら良いのか判断が出来なかった。


(全てを吹き飛ばす程の火力となると、数分は魔力を溜める必要がどうしても……。けど、あの巨人相手にエレオノ一人で数分なんて──)


「アリシア。大丈夫、信じて、私にもちゃんと勝算があるから」


 そう言ってエレオノは、隣に並びたいと思う誰かハクアのように笑って見せた。

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