第450話きっと間違えだらけのこの行動

 しかし選択肢とはなんだろう?


 人生なんてものは選択の連続というのは自論ではあるのだが、提示された選択肢が二つあっても、選べるのが一つだとそれは選択肢とは呼ばないのではないだろうか?


 むしろそれは予定調和とか、既定路線とか言うのでは……。


 まあそんな事を言っても絶対に勝てないから言わないけど。


「……本当にそれを鍛える気なのですね」


 そんな私達に掛かる声。その声の主であるアカルフェルは私を蔑みながら一瞥すると、ふんっと鼻で笑っておばあちゃんへと話し掛ける。


「母上。我ら誇り高き龍族の御業を、このような矮小な存在に施すなど、憐れみであってもなりません」


 すげー言われよう。

 全く、元ゴブリンさんを掴まえて矮小とか、その通り過ぎて何も言えないんだよ。

 そもそも私なんてこの里で一番弱いんじゃないの?


『シルフィン:まあ、貴女なら調べればすぐにわかるでしょうから言いますが、確かに貴女は最底辺ですね。非戦闘員を除けば最弱です』


 少しはまともになったというのにまた最弱かぁ。


『シルフィン:非戦闘員でもステータスの平均は一万超えばかりですからね。貴女達を出迎えたリザードマン達ですら、二万に近い者達ばかりです』


 うっわ。龍の里こっわ。龍の里こっわ!


「黙りなさいアカルフェル。私がこの子を育てると決めたのよ。そしてこの子は龍神様が客人と認めた者。貴方如きが異を唱える事ではない」


 んー。おばあちゃんとコイツって仲悪いのか?


 どちらかと言えば仲が悪いというか、おばあちゃんが認めてない感じだが、家族間の問題に人を巻き込まないで欲しいなり。


 言い争いを続ける親子を尻目に、駄女神と話しながら今までわかった相関図を地面に書き込む。

 龍神を頂点に四龍王。その後ろにそれぞれの血筋が並ぶ感じか。


『シルフィン:ドラゴンは血統を重んじますが必ずしもそうとは限りませんよ』


 そうなん?


『テア:勘違いしている者も多いですが、龍族は親から子に必ずしも属性が遺伝する訳ではないんですよ』


 ほう……。って、お前こっちでも干渉できたのか!?


『テア:シルフィンを含めて話すにはこちらのほうが楽なので。それに私はメイドですのでこの程度は可能ですよ』


『シルフィン&ハクア:そこ元女神だからで良くない!?』


『テア:何を言っているのですか二人共。女神如きと崇高なメイド、どちらが上かなど今更語る必要すらないでしょう』


『シルフィン:えぇ〜……』


 諦めろ。あれはマジだ。


『テア:話を戻しますが、四大属性の火、水、風、土は複合的な属性として生まれる確率の方が高く、稀にですが他属性も生まるんですよ』


 でも、ダンジョンとか竜の巣とかは同じ属性ので固まってね?


『シルフィン:モンスターとしてのドラゴン。竜から生まれた子等は比較的遺伝します。しかし龍王クラスの子は一人か二人しか、純粋な四大属性持ちは生まれないんですよ』


 ほう。人間や他の種族だと単体属性持ちなのはデメリットになるけど、ドラゴンはそっちの方が希少なのか。


『シルフィン:ええ、ドラゴンは大出力の攻撃に優れていますから、単一属性の方がそれに長けていますしね』


『テア:だからと言ってドラゴンが細かな魔力操作が苦手と言うわけでもありませんが』


 ドラゴン怖っ。

 しかしそうなると強大な力がイコールで純粋な属性。そしてその純度が高まれば高まるほど希少になるのがドラゴンって事か。


『テア:まあ、概ねそんな感じですね』


 純粋な属性持ちが多くならないのは、なんか世界の制御機構的なもんでも働いてるの?


『シルフィン:いえ、元々魔力が大きければ複合属性の方が当たり前なんですよ。ですがドラゴンは一つの属性に特化する事で力を増加させていったんです』


 世代を経て属性に属性を重ねて純度を上げたって事か。


『シルフィン:はい』


 と、このように龍の里についての情報を聞いていると、随分と協力的に思うかもしれないがそれは違う。

 これはあくまで調べればわかる範囲の事で、なんなら既にテア達に調べて貰えるようにお願いしてあった事なのだ。

 だからどちらかと言えば確認作業に近い。


 その後も情報を擦り合わせながら、相関図を書き上げているとそんな私に声が掛かる。


「羽虫が。貴様はさっきから何をしている! これは厚かましくも貴様が龍の叡智を利用しようとしているからこその諍いなのだ。貴様が自から辞退すればそれで全てが丸く収まる。そうだろう?」


 いや、多分、てか絶対に収まらんだろ。例え私が拒否しても強制的に修行が開始される未来しか見えない。それに何より。


「関係ないね。私は自分から望んで修行をつけてもらうわけじゃない。あくまでそっちが提案してきた事に乗っただけだ。それならまずはお前の母親や龍神から説得するのが筋だろ? それとも母親が怖いからこっちに矛先向けてんのか?」


「なんだと」


 うーん。圧力すっご。


「それこそ決まったら教えろよ。私はそれまで地獄から目を背けておくから」


 いやマジで。二人共すっげー良い顔してたから絶対ロクな修行内容じゃないんだよ。


「あらあら、地獄だなんて」


「ええ、全くですね」


 地獄の住人が笑っている。絶対ツッコまないんだからね!


「生温いわねぇ〜」


「その程度だと思っていたんですね」


 ちょっと待って。地獄でダメなの!? 私生きて帰れるのかそれ!!


 ツッコミこそ入れないが、後ろから聞こえたその言葉に戦々恐々としながらそれでも気丈に振る舞う。


 ふ、震えてなんかないんだからね!


『シルフィン:生まれたての子馬くらいに足震えてますよ』


 うるさいよ!?


「この。黙って聞いていれば、何様のつもりだ貴様! 誇り高き龍族に貴様のような下等生物が対等なつもりか!」


 矮小に羽虫に下等生物とか酷い言われようだな。


 未だに喚いているアカルフェルを無視していた私だが、その言葉に続いて口から吐き出したものはとてもではないが、看過できるものではなかった。


「ふん! 流石はあの面汚しのドラゴンコアを奪っただけの事はある」


「あ゛?」


「ふっ、貴様は知らんだろうが、そのドラゴンコアは龍の里始まって以来の大罪人のものなのだ。魔女に絆され邪竜へと堕ちた愚か者。そのドラゴンコアを奪い、受け継いだ貴様も我々にとっては憎き罪──」


「黙れよ爬虫類」


 私を仇と言ったコイツが、アークの事を面汚しと、大罪人だと言い切った。


 仇


 それはアークの事を思って言ったのではなく、龍族を、自分を貶めた奴を討った人間に対する怒りから来るものだった。


 その事が妙に私を苛立たせた。


「なんだと?」


「聞こえなかったか? 黙れと言ったんだ爬虫類が。偉大だなんだと言っておきながら、くだらない事をペチャクチャと」


 きっとこの行動は下の下だ。

 ここで逆らってもなんの意味もない。本来ならば無駄に敵を作るような真似はするべきではないだろう。

 龍王も龍神も味方という訳ではない。


 むしろこの里は私にとって今はまだ敵地に等しい場所だ。それなのに龍王の子であるこいつに逆らって、敵になってもいい事などある筈がない。


「龍だから偉い? なんだそれ。生まれだけで偉いんだったらその辺で化石か剥製にでもなって黙って飾られとけよ」


 それでもこうやって喧嘩を売るのは、この場にテアやおばあちゃんが居て、最悪は回避出来ると思ったから。

 ここで遺恨を残したままにして一人の時に狙われればそれこそ私は簡単に死ぬ。

 その点、ここで喧嘩を売れば最悪おばあちゃんが間に入ってくれる可能性もある。


「テメェの血筋に誇り持つのも結構だが、頼れるもんがそれしかねぇのか爬虫類。偉大? 尊大の間違いだろ? 親の七光りで偉そうにくっちゃべってんじゃねーよ」


 だが、それよりも、そんな事よりも──


「そんな程度の奴が、私の仲間の事を貶してんじゃねぇぞ」


 何も知らない奴があの二人の事を悪く言う。そんな事が許されていい筈がない。

 世界に翻弄され、そんな中でも強く、真っ直ぐ生きたあの二人を、何も知らない奴が語るなよ。


「ほう。この私にそんな口を利いてただで済むと思うなよ」


「やってみろよクソトカゲ。私の最弱は食い応えあんぞ」


 相手は強い。私はきっとこの勝負で負け、もしかしたら大怪我を負う、いや、死ぬかもしれない。


 きっと間違えだらけのこの行動。


 しかし私に後悔は無く、この戦闘を止める気も無かった。

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