第57話ハクアに似てる!?

 ガシャアァァン!


 何かを破壊する音と共に衝撃が私の体を叩く。そして朦朧とする意識の中……。


(──か?)


 私は確かに頭の中に流れる誰かの声を聞いた。


 ──誰……なの……?


 私は自身の頭の中に流れるその懐かしさを感じさせる声に問い掛ける。


(──……か?)


 しかし、その声は私の問い掛けには答えず何かを語り続ける。


「うっ! つぅ!」

「良かった! 目が醒めたんですね」


 目の前で語り掛けるのは、先程の冒険者と共に駆けつけ私の事を治療してくれていた女の子だった。


 さっきのは夢だったの?


(──す……か?)


 やっぱり聞こえる!


 私は頭の中の声が聞こえ反射的に辺りを見回してしまう。


「い、いきなりどうかしたんですか?」

「貴女には聞こえないの?」

「聞こえないって何がですか?」


 この子には聞こえて無い?


 私は今も流れる声に意識を集中して言葉を聞く。


(……す……たいか?)


 もっと、集中しないと……。


(たすけたいか?)


 聞こえた!


 私は聞こえた声に答える。


 そんなの、助けたいに決まってる!


(それは、……お前が人間を棄ててでもか?)


 どういう事?


(そのままの意味だ。お前が人間を棄てれば力をやる)


 それで……そうすれば勝てるの?


(さあな、ただ今よりも確実に強くは成れる)


 分かった。あなたの力を貸して!


(良いのかそんな簡単に決めて? どこの誰とも知れない声を信じるのか? それになまじその通りでも本当に人間ではなくなるんだぞ)


 良い! 私が人間じゃなくなってもハクア達と同じモンスターになるだけでしょ? それに、どのみちここで負ければ命なんてないだろうし、ハクア達を助ける為なら訳の分からない声も信じるし、人間なんて棄ててやる!


(クッハハハハ! 流石は私の娘だ!)


 えっ! 今なんて?!


(私の娘と言っても、私は本物のカーミラが魔法で記憶と感情を残したコピーだがな)


 えと、何が何だか?


(まぁ良い。聞けエレオノ、今は時間が無い。大事なのは一つだけでシンプルだ。この剣は私が使っていたという事になっているが本当はエレオノ、お前の為に作ったお前の為の武器だ)


 えっ!? そう……なの?


(ああ、お前は半吸血鬼だからな。吸血鬼の力を十全には使えない。だが、この剣を使えばお前は半吸血鬼でありながら、吸血鬼の力を十全に扱えるようになる)


 気になる事は沢山あるけど、それで皆を助けられるの?


(さっきも言ったがそれは分からん。私がこの剣に残したのは私の記憶と感情のみだ。それでお前にこの剣の使い方と吸血鬼の戦い方は教えてやる。それが終わればこの今の私も消えるしな)


 消えるってそんな! やっと……やっと話が出来たのに……。


(元々無理のある魔法だからな。起動の条件はお前が近付いて力を求める事、そして、お前に全てを教えればこの私は消滅する術式だ)


 でも! せっかく会話出来るのに!


(甘えるなよ! お前は仲間を助けたいのだろう? なら、今はそれに集中しろ。それに、今剣の中から話し掛けている私は本物という訳ではない。

 そうだな……愛しい娘に宛てたメッセージだと思えばいい、消えるといっても本物はちゃんと存在するしな。

 もし話がしたいのなら私を探しだせ。ここでのお前との会話は、今の私が消えた後全て本物の私に伝わるようになっているからな。お前なら出来るさ。何せ……、この私の娘だからな)


 ……うん。


(さあ、私を手に取れ)


「あ、あのどうしたんですか? いきなり黙りこんで、まだ、何処か痛いんですか?」

「ううん。大丈夫」


 私は心配する女の子に返事をして立ち上がり、そのままスケルトン祭りの景品である魔剣クリムゾンローズの前まで歩いて行く。


「き、君何をしているんだ! それは優勝者に贈られる物だぞ!」


 ハクアにオークと呼ばれていたギルド長が私に捲し立てる。


 優勝者に贈られるも何も無いでしょこの状況で! ハクアが言ってた通り役に立たないな。お父さんならこんな事無いのに……。


(全くだな。状況がまるで見えてない。まぁ放って置け、それよりも良いか……クリムゾンローズを手に取ったらこう言え……)


 私はオークを無視してクリムゾンローズを手に取る。


(さあ、術式を起動させろ!)


「私の血を吸い力を示せ! クリムゾンローズ!」


 私はお母さんに教えられたキーワードを思い切り叫ぶ。

 すると何処から出てきたのか手にした剣から茨が現れ、だんだんと私の手へと延びてくる。


「いっつ!」


 茨は私の手に巻き付き私の肌を傷付け血を溢れさせる。

 溢れ出た血はクリムゾンローズへと垂れてゆき、クリムゾンローズは私の血を吸い次第に私の使いやすい形へと変わっていく。


 ▶称号【ノーブルブラッド高貴なる血】獲得しました。

ノーブルブラッド高貴なる血】の称号によりスキル【真祖変化、新】習得しました。

【再生LV.1新】習得しました。

【霧化、新】習得しました。

【HP吸収LV.1新】習得しました。


「な、なんだこれは? 何が起こったんだ。君、ちゃんと説明を──」


 オークが何か喋っているが頭に入ってこないそんな事よりも。


 何……これ……? 凄い!


 剣から延びていた茨が私の手から離れると私は自分の身体が変わった事を理解した。


 ──凄い力……でも、身体が、ううん、違う、血が……熱い!


(どうだエレオノ? それがノーブルブラッドと呼ばれた。真祖の吸血鬼の力だ)


 私、ずっとこのままなの?


(いや、これは剣に付与してあるお前用の術式だ。戦闘さえ終われば元に戻り、一部のスキルも使えなくなる)


 えっ、でも、さっき人間棄てろって言わなかった?


(ああ、その事か? あれはお前の覚悟を確かめるためだ)


 そっか。


(それと)


 ん?


(ノリだな)


 ぶっ! えっ!? えぇ~!?お母さんってもしかして、ハクアに似てる!?


(ハクア誰だそれは? まぁそんな事より早く移動を始めろ。私も時間が無いからな、その間に吸血鬼の戦い方をレクチャーしてやる)


 あっ、うん。


 私は未だに何か騒いで居るオークを無視して、言われた通りアリシア達の元へと走り始める。


(良いか、先も言ったが時間が無いからちゃんと聞くんだ。まず吸血鬼は物理攻撃に関しては【霧化】を使う事でダメージを無効化する事が出来る)


 えっ!? 凄い! それ無敵なんじゃ!


(いや、その代わり弱点もある。真祖変化することでステータスは上がるが魔法の攻撃に対しては弱くなる。特に炎と光にはかなりな。それと【霧化】状態では同じ物理攻撃でも属性が付与されているとダメージを受ける。それも、普段の二倍だ。これは魔法攻撃を受けた時もだ)


 という事は、真祖変化で魔法に弱くなって【霧化】状態の時のは魔法&属性攻撃は更に二倍ダメージを受けるんだね。


(そうだ。だからスキルを使う時はちゃんと見極めをするんだ。

 後、【再生】は破損部位や傷口が勝手に治るがHPは回復しない。

【HP吸収】は全ての攻撃ダメージの一部がHPに還元される)


 じゃあ怪我は勝手に治って攻撃すればHPも回復するんだね。


(そうだ、それだけ分かればとりあえずは戦えるだろう。ふっ、何とか間に合ったようだな)


 間に合ったってもう消えちゃうの……?


(あぁ、エレオノ。さっきも言ったがもしお前が私に会いたいなら探してみろ。もう一度言うがお前は私の自慢の娘だ。お前が諦めないなら必ず会える)


 分かった。お母さん絶対見付けるから!


(あぁ、会えるのを楽しみにしている)


 その言葉を最後に剣から感じていた懐かしさが消える。その事に一抹の寂しさを覚えながら再会を心に誓う。

 すると、私の視線の先に幾つもの黒い球体を浮かべ、それをアリシアとアクアに向けて放とうとするカーチスカが見える。だが、二人はその黒い球体に向けてユニゾン魔法、インフェルノを放ち黒い球体を迎撃する。


 ドガァァァァァァアアアア!


 遠くに居るはずの私にまで、爆風が届く。


「くっ!」


 凄い衝撃早く二人の所に行かなくちゃ。


 私は再び疾走するも、目の前ではカーチスカが円錐形の尖った岩石を作りアリシアに向けている。


 早く、早く、間に合って!?


 カーチスカの作った岩石が遂に放たれアリシアに迫る。


 ガギイィ! ボゴォ!


 良かった! 間に合った!


 ぎりぎりの所でアリシアに迫る岩石を切り裂く私は、アリシアとカーチスカの間に立ちクリムゾンローズを構える。


「エレ……オノ……何ですか……?」

「そうだけど、えと、そんなに変わってる?」

「あっ、いえ、何となく雰囲気が……、それに瞳の色も……」


 そ、そんなに変わってるんだ? 自分だと全く分からない。


「貴女? それは何?」

「さあ? 答えると思う?」

「くっ! 舐めた口を! 良いわどんなに変わろうと構わない死になさい!」


 クリムゾンローズの力により真祖の力を手に入れた私とカーチスカの戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る